映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ホビットの冒険 上・下」J.R.R.トールキン

2016年08月26日 | 本(SF・ファンタジー)
ゆきてかえりし物語

ホビットの冒険〈上〉 (岩波少年文庫)
J.R.R. Tolkien,瀬田 貞二
岩波書店


ホビットの冒険〈下〉 (岩波少年文庫)
J.R.R. Tolkien,瀬田 貞二
岩波書店



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ひっこみじあんで、気のいいホビット小人のビルボ・バギンズは、
ある日、魔法使いガンダルフと13人のドワーフ小人に誘いだされて、竜に奪われた宝を取り返しに旅立ちます。
北欧の叙事詩を思わせる壮大なファンタジー。(上)

魔法の指輪を手に入れたビルボとその一行は、
やみの森をぬけ、囚われた岩屋からもなんとか脱出に成功。
ビルボたちは、いよいよ恐ろしい竜スマウグに命がけの戦いを挑みます。
『指輪物語』の原点といわれる、雄大な空想物語。(下)


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すでに映画版の「ホビット」三部作は見ているのですが、
この度、原作の方を読んでみました。


私、この本はぜひ子供の頃に読むべきだったなあ・・・とつくづく思いました。
もともと本好きの夢見がち(?)なコドモでしたが、
空想をふくらませるのは、ファンタジーではなくSFの方向へ行ってしまっていたように思います。
映画も悪くはないんですよ。
でも、映画はすべて受動的で、空想の余地が無い。
そういう「楽さ」故に、実のところ私、
本作のあらすじも あまり残っていませんでした。
映画の後に本を読むと、キャラクターとか、それぞれの情景とか、
イメージしやすくていいのですが、
それもしっかり「型」にハメられてしまうような感じ。
なにも予備知識がないところでこれを読んだら、
冒険は自分の胸の中で膨らみ、
さぞかしワクワクドキドキ、夢中でページを繰ったのではないかなあ・・・と思いました。
だから、もしお子さんをお持ちの方がいたら、
先にビデオを見せてしまわないで、本を読むように薦めるといいと思います。
そういうことで読書好きの子どもが誕生します。


というわけであえてストーリーを紹介するまでもないかと思うのですが、
映画を見ただけでは気づかなかったことを幾つか。


主人公にホビットという小人を充てたのは、
小さくてすばしっこいけれど、ちょっぴり意気地なし。
多少そそっかしいところもある。
けれど好奇心旺盛で、結局誘われるまま危険な冒険の旅に出てしまう
・・・という人物像が、子どもが自分自身と重ねあわせやすいということなのかもしれません。


金銀財宝を貯めこみ抱え込んでいた竜のスマウグが倒れて、
めでたしめでたしとなるのかと思えば、
それこそが新たなとんでもない災いの始まりだったというところがやはり凄いです。
著者は2つの世界大戦を生き抜いた後にこの物語を書いたのですね。
ドワーフやエルフ、ゴブリンなどそれぞれの種族間で、財宝をめぐって壮絶な殺し合いをする・・・
というところは、もちろん戦争のことをそのまま投影しているというわけなのでした。
そしてまた、自分自身戦争の悲惨さを知りながら、
まるで透明になってしまったかのようになにもできず、
黙って見ているしかなかった・・・ということが
もしかするとビルボと重なっているのかもしれません。


苦難の旅の末、懐かしい故郷に帰り着いたビルボは、
けれども決して英雄として讃えられたりはしません。
むしろ「変人」として、村人たちからは少し距離をおかれるようになってしまうのです。
しかし、これこそが一人の人間(ホビットですけど)の内面の旅の結末として
ふさわしいのだろうと思いました。
自分の成長は人にひけらかすものでもなんでもない。
それは自分の中にしまっておくだけで良い、ということなのでしょう。


今後もう少し、「ファンタジー」を読んでみようかと思います。

「ホビットの冒険 上・下」J.R.R.トールキン 瀬田貞二訳 岩波少年文庫
満足度★★★★☆