映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

いしぶみ

2016年08月17日 | 映画(あ行)
ひとりひとりの生活に寄り添えば



* * * * * * * * * *

1969年に広島テレビが制作した原爆ドキュメンタリー「碑」という番組があり、
2015年に同局が戦後70周年特別番組として「碑」を蘇らせ、
「いしぶみ 忘れない。あなたたちのことを」を制作。
本作はそれを劇場用に再編集したものです。



昭和20年8月6日。
広島の中心部、本川の土手で建物の解体作業にあたっていた
旧制広島ニ中の1年生321人。
その朝、そこから500m先に原子爆弾が投下されました。
ほとんど爆心地のその場所で、3/1ほどの生徒はその場で命を失い、
また、かろうじて命を取り留め、
救護所に運ばれた者や、なんとか自力で自宅まで帰り着いた者も、
数日のうちに亡くなってしまっています。
遺族の手記に残された生徒たちのその時のことを、
広島出身の綾瀬はるかさんが、切々と読み上げます。


朝、美味しそうに水を飲んで出かけて行ってそのまま帰らなかった息子のこと。
ようやく探し当てた我が子が、顔が火傷でパンパンに腫れ上がり、
胸の名札でしか判別ができなかったこととか・・・。



8月6日は本来なら夏休みの時期ですが、
戦時中で、中学生も駆りだされて作業に当たらなければならなかったのですね。
家にいれば助かったかもしれないのに・・・。
映像は殆ど綾瀬はるかさんが朗読している姿を映し出すのみなのですが、
時おり、亡くなった子供たちの写真も映しだされます。
まだあどけなさの残る少年たちの顔を見ると、
この理不尽な死が一層いたましく感じられます。
原爆で亡くなった人は何名・・・などと聞かされても、
それは大変なことだとは思うのですが、なかなか実感が伴いません。
けれどもこうして、ひとりひとりの生活に寄り添って話を聞くと、
その重みが胸に迫ってきます。


私たちの当たり前の日常が、一瞬にして崩れ落ちてしまう。
そういう出来事なのでした。
また、本作中にはジャーナリスト池上彰さんの、
少年たちの遺族や関係者へのインタビューも挿入されています。
中でも、たまたま体調が悪かったり電車に乗り遅れたりして、作業に行けず、
そのために助かり、存命している方が、
何か罪悪感のようなものに囚われているということが印象的でした。
どうして自分だけが生き残ったのか・・・、と。
生きてさえも、苦しみを抱え続けなければならないという
残酷な出来事なのですね。



私は数年前に広島の平和公園を訪れたのですが、
この少年たちの「碑」には、気付きませんでした。
もしまた訪れることがあれば、必ず手を合わせて来たいと思います。

「いしぶみ」
2016年/日本/85分
監督:是枝裕和
出演:綾瀬はるか、池上彰

歴史発掘度★★★★★
メッセージ性★★★★★