この時期、掘り上げの季節だ。ったって都会の人間にゃピンとこないだろうな。田んぼを巡り道路の側溝をつたう水路、ここに1年たっぷりたまった泥や枯れ葉を取り除く作業だ。農業用水であるとともに、家庭の排水もここに流される。万一火事とか起ころうものなら、この水路を堰き止めて放水に使うことになる。だから、地域住民総出の作業となる。出られない場合は、金で片を付けるなんて、ちょっとおっかない申し合わせもあるけどな。
都会なら、そんなもん、町でやれよ、そのために税金払ってんだろが!って文句が出ること必定だ。が、この広い山間地帯、町の予算なんかじゃ焼け石に水、洪水に土嚢1個、無理、無理、無理ぃぃぃ!ってことはみんな知ってる。だから、自分たちでやる。もう何年、何十年とやっていると、自ずと水路の分担も決まってきて、おいらの割り当ては、U字溝の埋まっていない自然水路ってことになっている。見るだけのことなら長閑な春の小川だろうが、放っておけば、両側から植物たちが逞しい勢いで浸食し、水路は狭まり、いざ豪雨ともなれば、洪水の元凶ともなりかねない。
1年分岸辺の植物が広げた生育領域を掘り返し、削り取りして、一定の水路幅を確保していく。けっこうきつい仕事だ。今回はご近所さんの若い人が出てくれたので、大助かり、いつもなら2時間近くかかる作業がわずか1時間で終わった。さすが、若さの勝利!
掘り上げ終われば、堰利用組合の総会。今年は、大きな議題が二つもあった。どちらも先々の水路の管理に関する事柄。
これまで、町や大きなダム管理組合から出ていた側溝の敷設補助が打ち切りとなり、その分、新たに環境保全の取り組みを行って予算を確保する必要が出てきた。要するに、金はやるが何から何まで自分たちでやれ、ってことだ。しかも、申請面積は5年間責任をもって環境整備し、それに要した労賃や工事費用の事務処理は厳格にって条件付き。これが農家には大いに負担なんだ。どうする?申請するのか?
も一つは、災害対策がらみ。隣りの堰管理組合から、権利放棄するからため池を使ってくれ、その代り管理はお願いだって申し出、これまた受けるかどうか?このため池、町からも県からも、決壊の恐れありとハザードマップに指摘されたもの。こちらも受けないとすれば、ため池は取り壊し、水路になる。せっかくの貴重な水源つぶしていいのか?でも、周囲の管理は誰がする?ため池として残した場合、町や県や国は、その危険個所を補修してくれるのか?などなど、高齢化と脱農家が進む山間地水利組合には頭の痛い問題だった。重苦しい話し合いが続き、
結局、どちらに対しても逃げずに取り組むって方向で決まった。決定の決め手となったのは、次の世代に水資源を渡さんなねべ!この先安心して暮らせる地域を残さんなねべ!って発言だった。ちょっと感動じゃないか。
なっ、こうやって、年寄り中心でも地域の農業守ろうと老体に鞭打とうとしてるんだぜ。地域の自然環境を守ろうと頑張っているんだぜ。ちっぼけで生産性低いからって、外国に売りを渡していいわけないだろう。考えろよ、政治担当上級国民!