インナーパワーの自覚をしたスタッフ 2017.5.20
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先々回、音楽で弾けた日 5月5日の事を書いた時、
最後の下りに、私自身にこの日をもって戻ったと書いた。
ちょっと、良い気分になりすぎえていたかもしれない。
翌日から、しっかりと現実の厳しさが待ち構えていた。
翌日、つまり、5月6日のこと、母の体に痛みが表れた。
寝返りを打てず、体を起こすことも困難な痛みだったが、
当初はどこが痛いのかスタッフの人達もよくわからなかった
ようだ。
様子をみてということで、私の所に、その痛みが尋常で
なさそうだと、連絡が入ったのはそれから約1週間たった、
13日土曜日だった。
その1週間の間、異様に痛がるので立ち座りが困難、安静を試みて、
あまり、活動させないようにしていたら、今度は数日間
便秘になり 排泄できなくなった。
連絡を受けすぐ、ホームに向かった。
母に、 セラピーを施して半時間、昼食後とり、幸い、1時間後、
母は、便意を催し、トイレに入った。
ウサギのうんちのような形状で、20分便座に座って、何とか、
数日間の溜まりものは出ていったようだ。
背中の痛みは思ったより少ないような気がした。
母は去年、一昨年と、大腿骨を折り、手術している。
しばらく検査を受けていなかったので、5月15日月曜日午後、
執刀医のいる整形外科病院に行くため、母を迎えにいった。
いつもの通り、家を出るとき、”今から向かうので母を玄関の
ところまでお願いします”とホームに電話を入れる。
電話を受けたスタッフの口調はいつもと様子が異なり、
口ごもっている。
“ちょっと、無理です。ちょっと、事件が・・・。
いえ、また、いらしたら、お話します”
と慌てた様子で、電話を切った。
胸騒ぎを覚えながら、10分後到着、二階の母の部屋に入ると
異様な光景に驚いた。
母は泣きべそをかきながら、青白い顔で”痛い”と言いながら、
横になっていた。
その傍らにスタッフの女性が ”ホーム、滑り込みセーフの”形で
左手だけ伸ばして、 不自然に寝そべっている。
その手の先には、氷で冷やしたタオル。それを母の顔に
押し付けている。
”転んだのですか?”
”はい、顛倒、全身強打で、二人とも身動きできないほど
痛みがあるようです”と先ほど電話口で対応したスタッフが
答える。
冷やしたタオルをまず、外してもらった。
こういう時はかえって、体の気の流れを冷やすことで
滞らせるからだ。
理解できた、。
不自然に寝そべっているスタッフは母の”介助”で横に
なっているのではなく、母を支えたとき、バランスが崩れて、
一緒に横倒しになったのだ。
彼女も母と同様、かなりの痛さがあったのだが、痛いと
言えば、母が心配するので、何事も無いように、”痛いよ”と
声上げている母を むしろ、なだめながら、
母の顔にタオルを当るために、左手を突き出していた。
‘どうですか?’と私は、まず、そのスタッフに声をかけた。
‘救急車を今、呼ぶか話していたのですが、私の背中と腰、
右手足が動かず、動かそうとすると激痛が走るので、
今は動けないから無理と他のスタッフに話したところです。“
と 彼女は、異常のない、左手で腰をさすりながら、いう。
とにかく、手当してみましょう、と私。
有無を言わせず、セラピー体制になった。
人は苦しい時はわらをも掴む というが、拒むことなく、
スタッフはお願いしますといった。
すると、開始後、数分もしないうち、彼女は声を上げた。
“ヤスヨさんの今充てている手!なんて熱い手のぬくもり!、
体の芯に通って、痛い場所を抜けていく”
と驚いたように私を見る。
”電気療法をしたことあるけど、その時の刺激とよく似ている。
気持ち良いです”
それからさらに、半時間後、
“不思議、不思議、ほら、右手が動く、”と言いながら、
様子を見に来たスタッフに 肩から硬直していた右腕と手を
動かして見せる。
そうこうしているうちに、一時間あまり後、彼女は半身を
起き上がらせて、壁にもたれかかることができた。
以前 母と海外に旅したとき、幼かった息子とベッドの上で
ふざけていて、ベッドから転がり落ち、母は、今のような
状況になったことを思い出した。
とても痛がったが、セラピー施術後、何事もないように
いびきをかいて寝てしまった。
10日後 帰国して整形外科に行くと、肋骨が折れていた。
”よく、高齢(すでに70歳超えていた)にかかわらず、
こんな状態で、旅してまわってこれましたね”
と医師は驚いた。
このスタッフさんの場合は、体を起こし、足腰の動きから、
骨は、折れていそうもない。
ホットした、
ここで、初めて母の体に私は向き合った。
手を当てていくと、母の体も見る見るうちに 柔らかく
なっていく。
冷たかった手足が温まる。
母は尿意を覚えたが、当然、トイレにたてないので、
リハビリパンツで用を足した。
かなりの量だったのだろう。シーツが汚れた。
その交換をしたくても、半時間前は体を左右に向くことが
できなかったのが、30分もすると、体を動かし
横をむくことができたので、小ぎれいに身を整えられた。
そうこうしている中、迎えの人が来て、回復を見せたスタッフは
どうにか立ち上がらせてもらい、母のいつも使用している
車いすに彼女は乗って、母が本来行く予定だった、病院へ向かった。
その様子を見ながら、
“お母さん、観てごらん。
さっきまで、お母さんの車いすを引いていてくれた人が今、
それに乗って、部屋を出ていったよ。”
”お笑いコントの一場面のようだね” と、話しかけると、
母は高笑いをした。
“ははは!可笑しい! ほんとうに、滑稽だ!”
さっきまで笑わせようとすると、
”笑わせないで!体中痛いから、やめて”
としかめ面でこぼしていた母が、今は、声を出して、
笑い転げている。
まるで、女学生が笑いツボにはまって、何を見てもおかしい
ような、そんな気分になったようだ。
”これから自分はどうやって、家に帰るか?
体が痛くて動かないのに、どうしたらよいか?”
と困惑していたと 施術中、スタッフは私に語った。
同時に母を気遣って、明るい雰囲気を保つよう渾身の努力をした。
“お母さん(と母を呼ぶ)、可笑しいね。
二人して、床に倒れていて、通りすがりの入居者さんが見ていくよ。
同じ姿勢で一体何やっているのかしらってね・・・”
と母に、面白そうに語り掛けていた。
私も思わず、もらい笑いする。
”ほんと。なんかこの光景、なかなかないものねえ“、
母は、”肩が痛い、左手も曲がらない、右手がしびれている、
イタイイタイ、”と言いながら、
”やめてよ、笑わせないでよ、痛いよ、笑えないよ“ と
半べそで愚痴る。
”泣くより、痛くても、こういう時は笑った方が 早くよく
なるよ“ と私。
2時間の間に、いつの間にか、自然と、母の部屋は笑い声に
満たされていった。
母が痛いのはかわいそうだったが、正直、母のこうした
本来の母の持つ、明るさのツボに触れて、一緒に笑いあえる
ことは嬉しかった。
母にとっても、笑い声をあげたことは、久しぶりだったろう
と感じた。
とにかく、施設のスタッフさんたちは、秒読みで忙しい。
部屋の外から声が聞こえる。
あ、トイレ、待って、今行くから。
あ、~さん、どこへ行くの、
そこは、押し入れだから、開けたら・・・
あ、危ないですよ、、、
ほらほら、いろんなものが落ちてくるでしょう。
触らないで、もっていかないで・・
ピンポーン。。。はい、誰かしら、電話だれか出てください・・・
~さん、今、濡れたのを脱ぎましょうね。
着替えますから、待っていてください。
忙しいから、当然、余裕のある時にこそ、できるであろう
いわゆる、無駄話的な語り掛けは 入所者の方たちとなくなる。
入居者の皆さんたちはといえば、学校のクラスのおとなしい
生徒たちのように、大きな楕円形のテーブルを囲んで
じっと黙りこんで座っている。
そういえば、二階に上がって、“こんにちは”と私が
通りすがりに声かけても、皆さん、自分に言われていると
いう意識がないかのように、表情も変えなかったなあ。
母の高らかな笑い声を聴きながら、心の交流、の意味と
意義を実感した。
なぜって、心の交流 は エネルギーの交換だから。
その中で、良くなろう、頑張ろう という”心意気”がわく。
心の交流はエネルギーの流れの場、生命はエネルギーだから、
それに触発される。
立ちたい、歩きたい、食べたい、観たい、これしたい、
あれしたい という 意欲 が湧く。
良くなって、~へ行きたい、食べたい、会いたい~こうした
欲(願い)が 次の行動につながる。
行動したら? と想像すれば、フレッシュな希望につながる。
希望を持つと楽しくなる、
また、意欲がわく。 好循環だ。
今回の”事件”は意義深い。
スタッフの方にアートマセラピーの体験をしていただいたこと、
もその一つだ。
私にとっては、今後、母の身心の安定を維持するための処置を
するにあたり、とても有意義に思えた。
そのスタッフは 代替え治療行為などは、ほとんど認めたことが
無かったと話した。
家族に医療関係者が多いので、迷信ぐらいにしか思って
いなかったという。
にもかかわらず、自らが、癒されていくプロセスを体験し、
流れる電流のような気の暖かさを実感で、キャッチして、
痛みの軽減や、神経や筋肉の硬直が緩まる体験をした。
車いすに乗って運ばれていく直前まで、 温湿布をまだ
充てられているように、体が暖かいのが不思議だと話していた。
彼女は それを、“inner power” (内に潜むパワー)
=インナーパワー と表現した。 (彼女は、本来、英語圏の人である)
その通りだと思う。
因みに付け加えると、翌日、整形外科に行き、母は背骨12番
を圧迫骨折していたことが判明した。
母の手術を担当してくださった、病院副委員長K医師は、
顔なじみである。
前回の、入院当時も自然治癒力などのことを話した記憶がある。
なので、今回も
”では、3週間ほど、痛いと思いますが、自然治癒力で
骨の回復を待ちましょう”と
有難い結論をいただいた。
結果報告ですが、おかげ様で3週間後に母の骨折部分は
自然治癒で、通常状況にもどることができました。
暖かいご声援ありがとうございました。(2017.6月15日)