我が家の玄関先に、この季節になると咲き乱れる可憐な花たち
10年ほど前だっけか5,6個の球根を植えたら手入れもしないのに年々増えて、元々あったつつじの植え込みを凌駕するようになってしまった。
そしてこの花が咲くと
「おっ 何これ?なんていう花?」と聞くのはオット
5,6年前からこの花の量が増えて、気づくようになってから必ず聞く。
そして忘れてまた翌年も必ず聞く。
ちなみにレンギョウと雪柳もこの季節 毎年名前を聞く。
聞くはいいけど覚える気はないらしい。
仕事関連のことで休日に職場から連絡があれば、それに関する人の名前や関わっている数値なんかはこちらが驚くほど記憶しているというのに、「ムスカリ」という名前は覚えられないらしい。
それを指摘すると
「まあ覚える気のないもんは覚えられないな」とのこと
だったら聞くなって~の。
もう一つ、今度はワタシの花の記憶
先代犬Pちゃんのお散歩をし始めた頃に知り合ったJ子さん。
知り合った頃は60代前半だっただろうか? 小さくて細いおばさんだった。
自分の家では飼っていなかったが、犬が大好きとのことで犬の散歩の時間にいつも自分も散歩していた。
気さくで誰にでも話しかけて、犬を撫ぜまわして、時々気難しい柴犬なんかに手を噛まれたりもしていた。
すごく痩せてて髪もザンバラ、聞けばずいぶん前からの糖尿病で目も腎臓もそろそろヤバいとのこと。
しかし、毎日半ダースの発泡酒はやめられないしタバコも吸うと、あんまり感心はできない生活を送っていた。
ワタシも面と向かって「これからスーパーのお惣菜が半額になるから買ってくるのよ、発泡酒も特売だからまとめ買いするんだよ」と言われれば、「たまには飲まない日も作った方がいいんじゃない?」とは言ってみたが、
「そうだね~」とは言うもののまるで改める気がないので、そう親身になるほどの仲でもないし、それ以上は踏み込まなかった。
大部屋の俳優さんの旦那さんと二人暮らしで子供もいないし身よりも少なそうだった。
そして四年ほど前、
「あたしは肺がんになったのよ」と屈託もなく告げたJ子さん
新宿の大学病院で手術したけど、他の臓器にも転移して、何度か抗がん剤治療と放射線治療を重ねたらしいが、髪も抜けて帽子をかぶるようになり、細い身体ももっと細くなり、いつも決まった時間に必ずしていた散歩も時間が短くなり、そのうちぱたりと姿を見せなくなった。
J子さんがいなくなって桜の季節が三回目
犬と花が好きで、花の名前を聞くと得意気になんでも教えてくれたJ子さん
いつも同じ話しかしないし、そう共通の話題もなかったので、J子さんと歩く時は花の話をしていた。
どの花も好きと言っていたJ子さんだったけど、特別に
「可愛いねえ あたしはこういう咲き方するさくらが一番好きだよ」と言っていたのが
木の幹から咲くさくら
枝にはまだ堅そうな蕾がほころんでいないうちにいち早く咲くこの花が 健気で可愛いと言っていた。
犬散歩仲間の中にはなんとなくJ子さんを疎んじたり、バカにして話しかけられてもさっさと行ってしまう人たちもいた。
彼女が癌と知って「あたりまえよ あんな生活だもの」と切って捨てる人もいた。
J子さんに冷たくする人たちって他の人の悪口なんかも結構好きでマウンティングしがちという特徴が表れていた。
そういう意味ではJ子さんはリトマス試験紙みたいな人だったような気がする。
幹に咲く花を見ると
「可愛いねえ」というJ子さんの酒枯れ、タバコ枯れした声と、皺だらけだったけど、子供みたいな笑顔を思い出す。
いい季節を迎える頃に可憐なもので連想されて、良かったよねえJ子さん。