Discordant elements, and makes them move 不和要素、その意義
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第72話 処断act.1-side story「陽はまた昇る」
J'ai enterre un autre nom. 私はもう一つの名前を埋葬した。
私はもう1つの名前を埋葬した、私の拳銃と共に。
けれど、この眠りを妨げようとする者がいることを私は知っている。
その者をこそをSomnusの許へ―永遠の眠りへと送ってしまえたら?
そんな願いに罪を重ねそうな自分がいる。
これが私の本性なのか、血統なのか?
もう1人の過去の私を蘇らせようとする私の学友で戦友の男。
あの男はきっと私の原罪を悦んで、この罪を私の子孫に及ぼそうとしていく。
私の原罪が作りだした鎖、硝煙と血に纏わりつかれる香、死の眠りへと誘う名前。
この束縛を私は断ち切ることが出来るだろうか?
どうか私の血に連なる者よ、この束縛を越えてほしい。
連鎖を絶ち、自分の人生を探し、明るい光に生きる君を私は祈り続けている。
『 La chronique de la maison 』
湯原晉博士が遺した著作で唯一の小説はミステリーに描かれる。
それは創作ではなく「記録」であり伝言、そして告発文として遺された。
この仮定から辿らす過去に拾い集めた事実は今、自分の頭脳に掌に携える。
その最たる証拠をクロゼットの扉向うに見透かしながら英二は小説の扉を開いた。
Pour une infraction et punition, expiation
罪と罰、贖罪の為に。
そんな意味の異国語は印刷文字に刻まれ、仄明るい窓辺に浮ぶ。
三十年前に刷られた言葉たち、そこに告発を刻んだまま晉は殺害された。
祈るような不屈の言葉、それを読んだ者たちは何を感じ何を想い、何を想定するだろう?
そんな問いかけに答えてくれた相手は三人いる、けれど誰もが事実だとは最初に気づけなかった。
「…普通なら思わないよな、立派な人だからこそ、」
独りため息吐いて制服の膝に本を閉じる。
けれど手はまたページを繰り万年筆の単語が現れた。
“Confession”
告解、そう意味する詞が自分を見つめてくる。
この唯一言を晉は妻の従妹に遺した、その想いが自分を呼んだ。
そんなふう想えるほど周太との出逢いは偶然の顔した必然が織りなす。
その始まりは多分、母に進学を妨害された事だろう。
―母さんが邪魔しなければ俺は京大の法科に行って、たぶん検事になってた、
最高検察庁次長検事だった祖父を法曹家として男として、誰より敬愛している。
あの祖父に憧れたから自分は法学部へ進もうと決めて、祖父と父と同じ大学を母校にしたかった。
だから積みあげた努力がある、けれど全てを母の孤独な我儘に否定されて近所の私大へ放り込まれた。
『司法試験はどこの学校を出ていても受験できます、この学校なら筋目の良いコネクションも出来るわ、』
そう言って母は身勝手を正当化した。
あの言葉は二つの無理解があった、それが息子のプライドごと愛情すら砕いたことを母は解かっていない。
将来も夢も気持ちも何もかも、どれだけ母が自分を考えていないのか解って僅かな情も憎悪に冷えた。
あれから抱き続ける冷酷が佇んだ窓でガラス映り、独り英二は微笑んだ。
「浅知恵すぎるよな、ほんと…他じゃ意味ないのに解っていない、なにも、」
最高検察庁、そこで最高位に昇るなら二つの大学しか候補は無い。
歴代総長の母校は東京大学、京都大学、そして異例は私立の中央大学。
いずれかの法学部を卒業していること、それが検察の世界で立場を強くする。
そうした仕組みも何も知らず言葉にした母の浅慮は卑しくて、そのまま侮蔑に冷えた。
“ 母は愚かだ、こんなふうに女は浅知恵で馬鹿が普通かもしれない ”
そんな図式が自分の中に生まれたのは、あの瞬間だった。
あの言葉も態度も自分は赦せない、たぶん生涯を懸けても赦すなんて出来ない。
それでも母の身勝手が進路を捻じ曲げたから自分は警察官になり、周太と出逢い今ここに居る。
だから母のお蔭で自分は周太に逢えたのかもしれない、けれど、血縁を知った今は考えてしまう。
「俺きっと、京大に行って検察に入っても周太を見つけたよな…この小説から見つけて、」
独り言こぼれて微笑んだページ“Confession”が見あげてくる。
この通り母が今の自分に謝ったとしても砕かれたプライドは赦さない。
それほどまでに母の言葉は今も鼓動を灼く、その灼熱に自分の本性と「運命」を見てしまう。
「晉さん、あの男を潰すために俺は居るんですか…周太のために俺は生まれたと、信じていいですか?」
独り問いかけながら自分の指はページをめくり異国の単語が瞳を移ろう。
全文がフランス語のページは解かり難い、それでも見慣れた今は幾らか拾い読める。
そんな視界に追いかけ凭れた窓は明るんでゆく、その制服の肩越しに朝陽は一文を射した。
“Le Departement de la Police Métropolitain” 首都警察、日本では警視庁
警視庁、そこが原罪と束縛の鎖綯う棲家なのだと告発する。
その原点を打った存在は今すでに九十を超えているはず、けれど生きている。
生きて、定年退職に隠遁しながらも古巣の権限は掴んだまま今も正義を振りかざす。
そんな権力も安穏も全ては命の代償、四人の生命と一人の青年から尊厳を奪う事で贖った。
「…赦せない」
ぽつり、声になった想いが窓の横顔を微笑ます。
こんなふう微笑む憎悪は「あの男」に向かって、けれど根底は母にある。
母に潰された検察庁の道、そこへ叶えられなかったプライドの憎悪が標的を見つけて笑う。
それは代替行為とも言える心だろう、それでも大義名分の正義を翳す相手には相応しいのかもしれない。
東京大学法学部卒、警察庁入庁、法曹家ではなく警察官を選んだ男。
官僚養成大学と金満私大、キャリアとノンキャリア、けれど同じ警察官である男は自分と似ている。
ただ信条のまま進んで周囲を惹き伸上る手練は同じ、それでも「大義名分」公的正義の盾持つ是と非に分たれる。
国家、社会、組織、そこにある地位と階級と名分。
どれもが男にとって重要な要素、組織集団の役割は男のプライドになる。
このプライドに全て懸ける生き方は男の誉れでストイックだと賛美に適う。
そんな評価に「あの男」は美しい正義だろう、けれど自分の願いと欲望は違う。
この落差に自分は悪だと謂われる、それが誇らしいまま英二はガラス越し朝に微笑んだ。
「悪役な俺で幸せだよ、自由だからな…だから俺はあんたを壊せる、」
最初の弾丸、あの発砲から半世紀を懸ける永い執着ごと全てを自分が壊す。
この願いごと見あげる空は雲間から太陽が今日を告げる、その今日が鼓動を絞めて灼く。
そんな傷み微笑んで小説を閉じ、窓から背を離すと手に本を携えたまま英二は扉を外へ開いた。
今日は10月1日、あの男が創った場所へ大切な人は辿り着いて今、再び50年の束縛は動きだす。
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食堂の窓際、いつもの席に二人が居ない。
それは3週間前も同じで他にも不在者はいた、けれど二人はもう戻らない。
二人が何処に行ったのか?その真相を告げられている者は誰一人いない、それでも気づく。
「箭野さんと湯原、同じ警備部付らしいですね…ふたりとも大学は続けられるらしいけど、」
ぽつん、そんな感じの声に振り向くと一重の眼差しがこちらを見る。
これ以上は言わない、それでも解かる問いかけを低く響く声が遮った。
「らしいな、それで高田は合同訓練の装備計画は詰められてるのか?」
「あ、その相談ちょっとしたいんです、業務前でも黒木さん大丈夫ですか?」
すこし慌てたよう高田は訊きかえして黒木が受けてくれる。
さり気なく話題を逸らしてくれた、その気遣いに信頼また篤くなる。
―黒木さんも確信してるんだ、箭野さんが何処に行ったのか、
銃器対策レンジャー第1小隊に箭野も周太も所属して自分たち山岳救助レンジャーと同じ第七機動隊員だった。
けれど今は二人とも警備部付となり第七機動隊舎を去っている、それでも同じ警備部所属である事は変わらない。
この「同じ」に辿れる経路はあるだろう、その端緒を思案めぐらす隣から澄んだテノールがからり笑ってくれた。
「宮田、今日はデータ整理を手伝ってくれる?今までの訓練を参考にしたいからね、」
今日の業務依頼にザイルパートナーの意図は伝わらす。
この依頼は事前に打合せした、そのままに英二はパートナー兼上司へ笑いかけた。
「はい、国村さんのデスクで作業ですか?」
「ちょっと資料も使うからね、別室作業になるよ。黒木、宮田を借りますね?」
さらり呼び捨てに笑いかけた先、落着いた瞳が頷いてくれる。
その間合いが前より親しくなった、そんな空気に微笑んだ向こう同僚が訊いてくれた。
「宮田さんの表彰とポスター撮影、同じ日にするんですよね?表彰されるとこ広報で撮影するって聞いたんですけど、」
「浦部は情報早いね、そんなワケで明日の宮田はモデルやってます。よろしくね、宮田巡査部長殿?」
底抜けに明るい瞳が笑って肩ひとつ敲かれる。
その言葉と階級に幾らか気恥ずかしく英二は微笑んだ。
「はい、任務なら頑張ります、」
本当はモデルなど遠慮したい、けれど意図があるから務める。
そんな全て蓋うよう穏やかに笑った先、浦部が笑ってくれた。
「任務ならって、本当に宮田さんて真面目ですよね、」
「な、本物のモデルかってくらい貌良いのに中身が地味っていうか、」
高田も一緒になって笑ってくれる、その言葉に想定通りが嬉しい。
こんなふう廻らす自分の意図に「今日」を想いながら箸動かす隣、ザイルパートナーが明朗に笑った。
「で、俺もインタビュー立ち会いだから黒木、訓練よろしくね?」
「はい、その打合せは午後一でよろしかったですか?」
生真面目な返事に落着いた眼差しが隣を見る。
その視線を受けとめて光一は大らかに笑んで答えた。
「晩飯の時でイイかね、データ整理に手間取るかもしれないからさ、」
データ整理に手間取る、そんな台詞に真実を籠めた向こう深い瞳は只、秘匿を呑みこんだ。
(to be gcontinued)
【引用詩文:William Wordsworth「The Prelude Book I[Patterdale] 」】
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第72話 処断act.1-side story「陽はまた昇る」
J'ai enterre un autre nom. 私はもう一つの名前を埋葬した。
私はもう1つの名前を埋葬した、私の拳銃と共に。
けれど、この眠りを妨げようとする者がいることを私は知っている。
その者をこそをSomnusの許へ―永遠の眠りへと送ってしまえたら?
そんな願いに罪を重ねそうな自分がいる。
これが私の本性なのか、血統なのか?
もう1人の過去の私を蘇らせようとする私の学友で戦友の男。
あの男はきっと私の原罪を悦んで、この罪を私の子孫に及ぼそうとしていく。
私の原罪が作りだした鎖、硝煙と血に纏わりつかれる香、死の眠りへと誘う名前。
この束縛を私は断ち切ることが出来るだろうか?
どうか私の血に連なる者よ、この束縛を越えてほしい。
連鎖を絶ち、自分の人生を探し、明るい光に生きる君を私は祈り続けている。
『 La chronique de la maison 』
湯原晉博士が遺した著作で唯一の小説はミステリーに描かれる。
それは創作ではなく「記録」であり伝言、そして告発文として遺された。
この仮定から辿らす過去に拾い集めた事実は今、自分の頭脳に掌に携える。
その最たる証拠をクロゼットの扉向うに見透かしながら英二は小説の扉を開いた。
Pour une infraction et punition, expiation
罪と罰、贖罪の為に。
そんな意味の異国語は印刷文字に刻まれ、仄明るい窓辺に浮ぶ。
三十年前に刷られた言葉たち、そこに告発を刻んだまま晉は殺害された。
祈るような不屈の言葉、それを読んだ者たちは何を感じ何を想い、何を想定するだろう?
そんな問いかけに答えてくれた相手は三人いる、けれど誰もが事実だとは最初に気づけなかった。
「…普通なら思わないよな、立派な人だからこそ、」
独りため息吐いて制服の膝に本を閉じる。
けれど手はまたページを繰り万年筆の単語が現れた。
“Confession”
告解、そう意味する詞が自分を見つめてくる。
この唯一言を晉は妻の従妹に遺した、その想いが自分を呼んだ。
そんなふう想えるほど周太との出逢いは偶然の顔した必然が織りなす。
その始まりは多分、母に進学を妨害された事だろう。
―母さんが邪魔しなければ俺は京大の法科に行って、たぶん検事になってた、
最高検察庁次長検事だった祖父を法曹家として男として、誰より敬愛している。
あの祖父に憧れたから自分は法学部へ進もうと決めて、祖父と父と同じ大学を母校にしたかった。
だから積みあげた努力がある、けれど全てを母の孤独な我儘に否定されて近所の私大へ放り込まれた。
『司法試験はどこの学校を出ていても受験できます、この学校なら筋目の良いコネクションも出来るわ、』
そう言って母は身勝手を正当化した。
あの言葉は二つの無理解があった、それが息子のプライドごと愛情すら砕いたことを母は解かっていない。
将来も夢も気持ちも何もかも、どれだけ母が自分を考えていないのか解って僅かな情も憎悪に冷えた。
あれから抱き続ける冷酷が佇んだ窓でガラス映り、独り英二は微笑んだ。
「浅知恵すぎるよな、ほんと…他じゃ意味ないのに解っていない、なにも、」
最高検察庁、そこで最高位に昇るなら二つの大学しか候補は無い。
歴代総長の母校は東京大学、京都大学、そして異例は私立の中央大学。
いずれかの法学部を卒業していること、それが検察の世界で立場を強くする。
そうした仕組みも何も知らず言葉にした母の浅慮は卑しくて、そのまま侮蔑に冷えた。
“ 母は愚かだ、こんなふうに女は浅知恵で馬鹿が普通かもしれない ”
そんな図式が自分の中に生まれたのは、あの瞬間だった。
あの言葉も態度も自分は赦せない、たぶん生涯を懸けても赦すなんて出来ない。
それでも母の身勝手が進路を捻じ曲げたから自分は警察官になり、周太と出逢い今ここに居る。
だから母のお蔭で自分は周太に逢えたのかもしれない、けれど、血縁を知った今は考えてしまう。
「俺きっと、京大に行って検察に入っても周太を見つけたよな…この小説から見つけて、」
独り言こぼれて微笑んだページ“Confession”が見あげてくる。
この通り母が今の自分に謝ったとしても砕かれたプライドは赦さない。
それほどまでに母の言葉は今も鼓動を灼く、その灼熱に自分の本性と「運命」を見てしまう。
「晉さん、あの男を潰すために俺は居るんですか…周太のために俺は生まれたと、信じていいですか?」
独り問いかけながら自分の指はページをめくり異国の単語が瞳を移ろう。
全文がフランス語のページは解かり難い、それでも見慣れた今は幾らか拾い読める。
そんな視界に追いかけ凭れた窓は明るんでゆく、その制服の肩越しに朝陽は一文を射した。
“Le Departement de la Police Métropolitain” 首都警察、日本では警視庁
警視庁、そこが原罪と束縛の鎖綯う棲家なのだと告発する。
その原点を打った存在は今すでに九十を超えているはず、けれど生きている。
生きて、定年退職に隠遁しながらも古巣の権限は掴んだまま今も正義を振りかざす。
そんな権力も安穏も全ては命の代償、四人の生命と一人の青年から尊厳を奪う事で贖った。
「…赦せない」
ぽつり、声になった想いが窓の横顔を微笑ます。
こんなふう微笑む憎悪は「あの男」に向かって、けれど根底は母にある。
母に潰された検察庁の道、そこへ叶えられなかったプライドの憎悪が標的を見つけて笑う。
それは代替行為とも言える心だろう、それでも大義名分の正義を翳す相手には相応しいのかもしれない。
東京大学法学部卒、警察庁入庁、法曹家ではなく警察官を選んだ男。
官僚養成大学と金満私大、キャリアとノンキャリア、けれど同じ警察官である男は自分と似ている。
ただ信条のまま進んで周囲を惹き伸上る手練は同じ、それでも「大義名分」公的正義の盾持つ是と非に分たれる。
国家、社会、組織、そこにある地位と階級と名分。
どれもが男にとって重要な要素、組織集団の役割は男のプライドになる。
このプライドに全て懸ける生き方は男の誉れでストイックだと賛美に適う。
そんな評価に「あの男」は美しい正義だろう、けれど自分の願いと欲望は違う。
この落差に自分は悪だと謂われる、それが誇らしいまま英二はガラス越し朝に微笑んだ。
「悪役な俺で幸せだよ、自由だからな…だから俺はあんたを壊せる、」
最初の弾丸、あの発砲から半世紀を懸ける永い執着ごと全てを自分が壊す。
この願いごと見あげる空は雲間から太陽が今日を告げる、その今日が鼓動を絞めて灼く。
そんな傷み微笑んで小説を閉じ、窓から背を離すと手に本を携えたまま英二は扉を外へ開いた。
今日は10月1日、あの男が創った場所へ大切な人は辿り着いて今、再び50年の束縛は動きだす。
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食堂の窓際、いつもの席に二人が居ない。
それは3週間前も同じで他にも不在者はいた、けれど二人はもう戻らない。
二人が何処に行ったのか?その真相を告げられている者は誰一人いない、それでも気づく。
「箭野さんと湯原、同じ警備部付らしいですね…ふたりとも大学は続けられるらしいけど、」
ぽつん、そんな感じの声に振り向くと一重の眼差しがこちらを見る。
これ以上は言わない、それでも解かる問いかけを低く響く声が遮った。
「らしいな、それで高田は合同訓練の装備計画は詰められてるのか?」
「あ、その相談ちょっとしたいんです、業務前でも黒木さん大丈夫ですか?」
すこし慌てたよう高田は訊きかえして黒木が受けてくれる。
さり気なく話題を逸らしてくれた、その気遣いに信頼また篤くなる。
―黒木さんも確信してるんだ、箭野さんが何処に行ったのか、
銃器対策レンジャー第1小隊に箭野も周太も所属して自分たち山岳救助レンジャーと同じ第七機動隊員だった。
けれど今は二人とも警備部付となり第七機動隊舎を去っている、それでも同じ警備部所属である事は変わらない。
この「同じ」に辿れる経路はあるだろう、その端緒を思案めぐらす隣から澄んだテノールがからり笑ってくれた。
「宮田、今日はデータ整理を手伝ってくれる?今までの訓練を参考にしたいからね、」
今日の業務依頼にザイルパートナーの意図は伝わらす。
この依頼は事前に打合せした、そのままに英二はパートナー兼上司へ笑いかけた。
「はい、国村さんのデスクで作業ですか?」
「ちょっと資料も使うからね、別室作業になるよ。黒木、宮田を借りますね?」
さらり呼び捨てに笑いかけた先、落着いた瞳が頷いてくれる。
その間合いが前より親しくなった、そんな空気に微笑んだ向こう同僚が訊いてくれた。
「宮田さんの表彰とポスター撮影、同じ日にするんですよね?表彰されるとこ広報で撮影するって聞いたんですけど、」
「浦部は情報早いね、そんなワケで明日の宮田はモデルやってます。よろしくね、宮田巡査部長殿?」
底抜けに明るい瞳が笑って肩ひとつ敲かれる。
その言葉と階級に幾らか気恥ずかしく英二は微笑んだ。
「はい、任務なら頑張ります、」
本当はモデルなど遠慮したい、けれど意図があるから務める。
そんな全て蓋うよう穏やかに笑った先、浦部が笑ってくれた。
「任務ならって、本当に宮田さんて真面目ですよね、」
「な、本物のモデルかってくらい貌良いのに中身が地味っていうか、」
高田も一緒になって笑ってくれる、その言葉に想定通りが嬉しい。
こんなふう廻らす自分の意図に「今日」を想いながら箸動かす隣、ザイルパートナーが明朗に笑った。
「で、俺もインタビュー立ち会いだから黒木、訓練よろしくね?」
「はい、その打合せは午後一でよろしかったですか?」
生真面目な返事に落着いた眼差しが隣を見る。
その視線を受けとめて光一は大らかに笑んで答えた。
「晩飯の時でイイかね、データ整理に手間取るかもしれないからさ、」
データ整理に手間取る、そんな台詞に真実を籠めた向こう深い瞳は只、秘匿を呑みこんだ。
(to be gcontinued)
【引用詩文:William Wordsworth「The Prelude Book I[Patterdale] 」】
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