Invisible workmanship that reconciles 同化の光陰
第72話 処断act.4-side story「陽はまた昇る」
紫煙くゆらすベンチの視界、ふっと蛍光灯が照らされる。
唇ほろ苦い香を咥えこんだまま文面を読みマーカーする、そのコピー文字が薄闇うかぶ。
もう一日が暮れてゆく、そんな朱色が非常階段の頂に射しこんで指とペンから陰翳を描く。
ファイル綴じこんだ書類も蛍光灯と落陽の明滅に隠れだす、それでも読み終えて英二は微笑んだ。
「…そろそろだな、」
もう来るだろう?そんな予想にドアノブ鳴って非常扉が開きだす。
ふっと気配の吹きこんで顔を上げると浅黒い顔がすこし笑った。
「喫煙しないと集中出来んのか、宮田?」
「書類次第です、黒木さんも煙草ですか?」
ほろ苦い吐息と微笑んだ隣、長身の制服姿が腰下す。
そのまま胸ポケットから煙草一本、慣れた指にとり点火する。
ふっ、綺麗に紫煙を吐きながらシャープな瞳こちらを見、低い声が告げた。
「さっき現場1係から電話が来た、明日の午前、書庫を閲覧したいそうだ、」
警備部警備現場第1係、警備の現場記録を担当する部署になる。
そこが要求するだろう資料を脳裡に選びとると英二は微笑んだ。
「あさま山荘事件の記録ですか?」
「そうだ、」
短く応え紫煙ひとつ吐き、鋭利な瞳が空を仰いだ。
蛍光灯の白いサークルに精悍な貌は考えこみ、それでも言った。
「閲覧のサポート要員がいるらしい、直近で書庫を利用した人間が良いと言ってきた、」
ほら、やっぱりご指名だ?
まだ向うは「誰」か解っていない、けれど名指し同然だ。
その意図が解かるから微笑んだ隣、隠した重低音の声が訊いた。
「宮田、おまえ書庫で何をやったんだ?」
何をやった?
そう訊いてくるなら被疑がある。
その被疑をこそ尋問したくて英二は綺麗に笑いかけた。
「訓練記録をピックアップしてコピーしました、ポイントのチェックは今してるところです、」
答えながら手許の用紙を蛍光灯に照らさせる。
同じ赤ペンでもラインを変えたチェックと付箋、その数を鋭利な瞳が確かめだす。
―俺の時間を計ってるな、チェックの数と精度で、
隣の視線に自分が今チェックされている。
この場所にどれだけ座っていたのか?書庫で何をしていたのか?
それらを仕事量から見定める眼差しは素早く動き、ほっと息吐いて問いかけた。
「ここに座ったのは何時からだ?」
「小隊長と書庫を出てから直ぐです、こちらがチェック済み分になります、」
さらり嘘に微笑んで傍らの書類封筒を取り上げる。
クリップボードごと出して捲らす紙面に一ヶ所、困ったよう英二は微笑んだ。
「黒木さん、俺、また書庫に行かないといけなくなりました、」
笑いかけて用紙一枚だけ抜き取って跡へ付箋を貼る。
そのまま困り顔を黒木へ向けて外した一枚を示した。
「すみませんが、この喫煙場所を教えた黒木さんも共犯になって下さいね?」
示した紙面の一ヶ所、焼焦げ穴ひとつ向こうを透かす。
なぜ穴が開いたのか?明白な理由に溜息ひとつ黒木は笑った。
「ボヤ騒ぎにならず良かったな、でも俺が共犯なのか?」
「はい、教唆犯かもしれません、」
頷いて微笑んだ隣、鋭利な瞳が可笑しそうに笑う。
まだ被疑はある、それでも笑ってしまった同罪者に英二は台詞を微笑んだ。
「黒木さんも吸いながらチェックしてますよね、ここで。でも俺が煙草で書類を焼いたってバレたら、ここも立入禁止になります、」
喫煙しながら紙の書類を見るなど本来は危険、それは常識だろう。
それでも集中する目的故の喫煙癖もある、そのために探したろう場所で黒木は笑った。
「俺が喫煙しながら書類を見るって、なぜ解かる?」
「黒木さんの書類、いつも煙草の匂いがしますから、」
簡単な理由と笑顔を焼けた一通ごと示してみせる。
煙草穴の開いた訓練記録のコピー、その作成年月日を見た瞳は微笑んだ。
「宮田、書類チェックは年代順か?」
「はい、」
微笑んでクリップボードの書類を捲ってみる。
ぱらぱら夕風に赤いラインと付箋が繰られて蛍光灯が照らす、そんな仕草に低い声が訊いた。
「書類チェックはここに座ってから始めたのか?」
「煙草で集中したかったので、」
答えて英二は胸ポケットから携帯灰皿を出した。
開いて今吸い終えた一つ仕舞う、そこに2つ吸殻を見て先輩はすこし笑った。
「1時間で3本か、書庫の穴倉はストレスだったか?」
「窓が無いのは仕方ないです、紙が劣化したら困ります、」
微笑んで答えた隣、シャープな瞳が自分を映す。
もう眼差しに被疑の翳は薄らいだ、そんな容子に笑いかけた先で黒木は微笑んだ。
「ここなら匂いも移りにくい、お蔭で誰にも気づかれていなかったんだが宮田、よく解かったな?」
煙草の匂いを気にせず書類チェックに集中が出来る場所。
それは戸外なら煙が籠らず匂いの付着も少ない、けれど守秘の為に孤独な空間が良い。
そんな条件を満たせる場所は隠れ家に使える、その逆利用の成功に英二は事実で微笑んだ。
「この一年ずっと禁煙してたんです、だから逆に煙草の匂いに敏感になりました、」
「なるほどな、」
頷いて先輩はクリップボードの紙束を受けとり、何げなく捲ってくれる。
咥え煙草くゆらす翳に黄昏あわい、もう暗くなる蛍光灯の許で瞳細めながら低い声が訊いた。
「なぜ禁煙を止めた?」
「後藤さんに付きあう為です、」
正直なまま答えて、偶然の廻りに感謝する。
この一年ずっと禁煙したのは登攀技術を支える肺機能を保つ為だった。
けれど後藤の喫煙につきあいたくて再び2度だけ吸い、黒木とも2度目の今こんなふうに役立っている。
―煙草も偶然も俺は利用してる、なんでもアリバイ工作に遣って、
声なく思案めぐってしまう偶然と善意と努力の交錯、その全てが計略に姿を変える。
こうして与えられる運を逃さなければ全ては自分に味方してゆく、そんな想いに鋭利な目が微笑んだ。
「適わんな、」
一言、けれど信頼も疑念も抱きこんでいる。
そんな言葉と煙草を消すと筋張った指から吸い殻ひとつ差出し、黒木は笑った。
「宮田の携帯灰皿に入れといてくれ、俺も共犯だからな?」
この場所で共に喫煙していた、その証拠を渡してくれる。
こんな言動に相手の意図が見えるようで英二は穏やかに問いかけた。
「黒木さん、箭野さんは昇進されて異動ですよね、ここで祝酒したんですか?」
「いや、」
短い、けれど確実な否定に即答して精悍な瞳が見つめてくれる。
シャープで深い眼差しは蛍光灯を映しこみ真直ぐなまま問いかけた。
「違う世界で生きたいヤツが昇進して、喜ぶと思うか?」
違う世界で生きたい、
その言葉に共通点と法則性が見えてくる。
そして今この質問者が「解かっている」と伝わって英二は微笑んだ。
「俺は山の現場に生きていたいです、でも、目的の為なら現場を離れます、」
目的は、知ること、そして解放すること。
唯ひとり護りたいと願う相手がいる、それは最初の理由は恋愛だけ。
それから知った50年の罪責と連鎖と、そこに連なる血縁に理由は義務と権利になった。
だから今こうして話す間も謎の答えを見つけたい、そのヒントを黒木は無意識にでも知っている。
なぜ箭野と周太が隣室にされていたのか、なぜ同日に異動になり「引継ぎ」始めたのか?
―あの二人を一緒に異動させる意図はあるのか?たとえ偶然だとしても、
たとえ偶然だとしても現実に二人は同時に異動した。
異動先は同じ警備部でも別の部署だと言われている、それも事実だろう。
けれど同じ現場に二人は立つ、そんな未来予測が現実化するとき自分は何が出来る?
「目的の為なら、か、」
ふっと微笑んで筋骨の手がクリップボード返してくれる。
受けとって書類封筒に戻した隣、低い声すこし笑った。
「宮田は出世するだろな、原が言ってた通りだ、」
「どうしてそう想いますか?」
微笑んで体すこし向きあわせた先、鋭利な瞳が見つめ返す。
シャープで深い眼差しはすこし微笑んで応えた。
「煙草の焦げ跡、絶妙だな、」
ほら、自分の意図を気づいている。
気づいていると示しながら、けれど余計な事は何も言わない。
そんな態度は常に誰にも変わらず、こういう男だからナンバー2と自他共に認められる。
―だから箭野さんも周太も信頼するんだ、理解しても黙っていられる器があるから、
あらためて先輩を仰ぎ自分の立場と向かいあう。
次期小隊長候補と目される黒木を自分は超えなくてはいけない。
その実力も人望も未だ自分は何も解っていなかった、そんな自覚あらたまる想い微笑んだ。
「明日の書庫手伝い、ポスター撮影にも遣われるんですか?」
「そうだな、明日は広報も来るんだったな?消防庁も行くのに、」
詰ったスケジュールに首傾げ思案してくれる。
ふたり座った非常階段頂上は薄暮と蛍光灯に染まり、残照はるか消えてゆく。
もう今日の一日も終わってしまう、その刻限に遠い場所で始まらす時間が切ない。
―周太、今、誰と何してる?
今日は周太の異動初日、もう、五十年の連鎖は車輪を廻る。
(to be continued)
【引用詩文:William Wordsworth「The Prelude Book I[Patterdale] 」】
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第72話 処断act.4-side story「陽はまた昇る」
紫煙くゆらすベンチの視界、ふっと蛍光灯が照らされる。
唇ほろ苦い香を咥えこんだまま文面を読みマーカーする、そのコピー文字が薄闇うかぶ。
もう一日が暮れてゆく、そんな朱色が非常階段の頂に射しこんで指とペンから陰翳を描く。
ファイル綴じこんだ書類も蛍光灯と落陽の明滅に隠れだす、それでも読み終えて英二は微笑んだ。
「…そろそろだな、」
もう来るだろう?そんな予想にドアノブ鳴って非常扉が開きだす。
ふっと気配の吹きこんで顔を上げると浅黒い顔がすこし笑った。
「喫煙しないと集中出来んのか、宮田?」
「書類次第です、黒木さんも煙草ですか?」
ほろ苦い吐息と微笑んだ隣、長身の制服姿が腰下す。
そのまま胸ポケットから煙草一本、慣れた指にとり点火する。
ふっ、綺麗に紫煙を吐きながらシャープな瞳こちらを見、低い声が告げた。
「さっき現場1係から電話が来た、明日の午前、書庫を閲覧したいそうだ、」
警備部警備現場第1係、警備の現場記録を担当する部署になる。
そこが要求するだろう資料を脳裡に選びとると英二は微笑んだ。
「あさま山荘事件の記録ですか?」
「そうだ、」
短く応え紫煙ひとつ吐き、鋭利な瞳が空を仰いだ。
蛍光灯の白いサークルに精悍な貌は考えこみ、それでも言った。
「閲覧のサポート要員がいるらしい、直近で書庫を利用した人間が良いと言ってきた、」
ほら、やっぱりご指名だ?
まだ向うは「誰」か解っていない、けれど名指し同然だ。
その意図が解かるから微笑んだ隣、隠した重低音の声が訊いた。
「宮田、おまえ書庫で何をやったんだ?」
何をやった?
そう訊いてくるなら被疑がある。
その被疑をこそ尋問したくて英二は綺麗に笑いかけた。
「訓練記録をピックアップしてコピーしました、ポイントのチェックは今してるところです、」
答えながら手許の用紙を蛍光灯に照らさせる。
同じ赤ペンでもラインを変えたチェックと付箋、その数を鋭利な瞳が確かめだす。
―俺の時間を計ってるな、チェックの数と精度で、
隣の視線に自分が今チェックされている。
この場所にどれだけ座っていたのか?書庫で何をしていたのか?
それらを仕事量から見定める眼差しは素早く動き、ほっと息吐いて問いかけた。
「ここに座ったのは何時からだ?」
「小隊長と書庫を出てから直ぐです、こちらがチェック済み分になります、」
さらり嘘に微笑んで傍らの書類封筒を取り上げる。
クリップボードごと出して捲らす紙面に一ヶ所、困ったよう英二は微笑んだ。
「黒木さん、俺、また書庫に行かないといけなくなりました、」
笑いかけて用紙一枚だけ抜き取って跡へ付箋を貼る。
そのまま困り顔を黒木へ向けて外した一枚を示した。
「すみませんが、この喫煙場所を教えた黒木さんも共犯になって下さいね?」
示した紙面の一ヶ所、焼焦げ穴ひとつ向こうを透かす。
なぜ穴が開いたのか?明白な理由に溜息ひとつ黒木は笑った。
「ボヤ騒ぎにならず良かったな、でも俺が共犯なのか?」
「はい、教唆犯かもしれません、」
頷いて微笑んだ隣、鋭利な瞳が可笑しそうに笑う。
まだ被疑はある、それでも笑ってしまった同罪者に英二は台詞を微笑んだ。
「黒木さんも吸いながらチェックしてますよね、ここで。でも俺が煙草で書類を焼いたってバレたら、ここも立入禁止になります、」
喫煙しながら紙の書類を見るなど本来は危険、それは常識だろう。
それでも集中する目的故の喫煙癖もある、そのために探したろう場所で黒木は笑った。
「俺が喫煙しながら書類を見るって、なぜ解かる?」
「黒木さんの書類、いつも煙草の匂いがしますから、」
簡単な理由と笑顔を焼けた一通ごと示してみせる。
煙草穴の開いた訓練記録のコピー、その作成年月日を見た瞳は微笑んだ。
「宮田、書類チェックは年代順か?」
「はい、」
微笑んでクリップボードの書類を捲ってみる。
ぱらぱら夕風に赤いラインと付箋が繰られて蛍光灯が照らす、そんな仕草に低い声が訊いた。
「書類チェックはここに座ってから始めたのか?」
「煙草で集中したかったので、」
答えて英二は胸ポケットから携帯灰皿を出した。
開いて今吸い終えた一つ仕舞う、そこに2つ吸殻を見て先輩はすこし笑った。
「1時間で3本か、書庫の穴倉はストレスだったか?」
「窓が無いのは仕方ないです、紙が劣化したら困ります、」
微笑んで答えた隣、シャープな瞳が自分を映す。
もう眼差しに被疑の翳は薄らいだ、そんな容子に笑いかけた先で黒木は微笑んだ。
「ここなら匂いも移りにくい、お蔭で誰にも気づかれていなかったんだが宮田、よく解かったな?」
煙草の匂いを気にせず書類チェックに集中が出来る場所。
それは戸外なら煙が籠らず匂いの付着も少ない、けれど守秘の為に孤独な空間が良い。
そんな条件を満たせる場所は隠れ家に使える、その逆利用の成功に英二は事実で微笑んだ。
「この一年ずっと禁煙してたんです、だから逆に煙草の匂いに敏感になりました、」
「なるほどな、」
頷いて先輩はクリップボードの紙束を受けとり、何げなく捲ってくれる。
咥え煙草くゆらす翳に黄昏あわい、もう暗くなる蛍光灯の許で瞳細めながら低い声が訊いた。
「なぜ禁煙を止めた?」
「後藤さんに付きあう為です、」
正直なまま答えて、偶然の廻りに感謝する。
この一年ずっと禁煙したのは登攀技術を支える肺機能を保つ為だった。
けれど後藤の喫煙につきあいたくて再び2度だけ吸い、黒木とも2度目の今こんなふうに役立っている。
―煙草も偶然も俺は利用してる、なんでもアリバイ工作に遣って、
声なく思案めぐってしまう偶然と善意と努力の交錯、その全てが計略に姿を変える。
こうして与えられる運を逃さなければ全ては自分に味方してゆく、そんな想いに鋭利な目が微笑んだ。
「適わんな、」
一言、けれど信頼も疑念も抱きこんでいる。
そんな言葉と煙草を消すと筋張った指から吸い殻ひとつ差出し、黒木は笑った。
「宮田の携帯灰皿に入れといてくれ、俺も共犯だからな?」
この場所で共に喫煙していた、その証拠を渡してくれる。
こんな言動に相手の意図が見えるようで英二は穏やかに問いかけた。
「黒木さん、箭野さんは昇進されて異動ですよね、ここで祝酒したんですか?」
「いや、」
短い、けれど確実な否定に即答して精悍な瞳が見つめてくれる。
シャープで深い眼差しは蛍光灯を映しこみ真直ぐなまま問いかけた。
「違う世界で生きたいヤツが昇進して、喜ぶと思うか?」
違う世界で生きたい、
その言葉に共通点と法則性が見えてくる。
そして今この質問者が「解かっている」と伝わって英二は微笑んだ。
「俺は山の現場に生きていたいです、でも、目的の為なら現場を離れます、」
目的は、知ること、そして解放すること。
唯ひとり護りたいと願う相手がいる、それは最初の理由は恋愛だけ。
それから知った50年の罪責と連鎖と、そこに連なる血縁に理由は義務と権利になった。
だから今こうして話す間も謎の答えを見つけたい、そのヒントを黒木は無意識にでも知っている。
なぜ箭野と周太が隣室にされていたのか、なぜ同日に異動になり「引継ぎ」始めたのか?
―あの二人を一緒に異動させる意図はあるのか?たとえ偶然だとしても、
たとえ偶然だとしても現実に二人は同時に異動した。
異動先は同じ警備部でも別の部署だと言われている、それも事実だろう。
けれど同じ現場に二人は立つ、そんな未来予測が現実化するとき自分は何が出来る?
「目的の為なら、か、」
ふっと微笑んで筋骨の手がクリップボード返してくれる。
受けとって書類封筒に戻した隣、低い声すこし笑った。
「宮田は出世するだろな、原が言ってた通りだ、」
「どうしてそう想いますか?」
微笑んで体すこし向きあわせた先、鋭利な瞳が見つめ返す。
シャープで深い眼差しはすこし微笑んで応えた。
「煙草の焦げ跡、絶妙だな、」
ほら、自分の意図を気づいている。
気づいていると示しながら、けれど余計な事は何も言わない。
そんな態度は常に誰にも変わらず、こういう男だからナンバー2と自他共に認められる。
―だから箭野さんも周太も信頼するんだ、理解しても黙っていられる器があるから、
あらためて先輩を仰ぎ自分の立場と向かいあう。
次期小隊長候補と目される黒木を自分は超えなくてはいけない。
その実力も人望も未だ自分は何も解っていなかった、そんな自覚あらたまる想い微笑んだ。
「明日の書庫手伝い、ポスター撮影にも遣われるんですか?」
「そうだな、明日は広報も来るんだったな?消防庁も行くのに、」
詰ったスケジュールに首傾げ思案してくれる。
ふたり座った非常階段頂上は薄暮と蛍光灯に染まり、残照はるか消えてゆく。
もう今日の一日も終わってしまう、その刻限に遠い場所で始まらす時間が切ない。
―周太、今、誰と何してる?
今日は周太の異動初日、もう、五十年の連鎖は車輪を廻る。
(to be continued)
【引用詩文:William Wordsworth「The Prelude Book I[Patterdale] 」】
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