定演二部の脚本は残念ながらお蔵入りしてしまったが、ある日の打ち合わせで「主人公の成長はどこですか?」とせきい君からだめだしが入ったことがある。
「そこが弱いのはたしかなんだよなあ、どうしよう」と改良していたとこだった。
品川ヒロシ監督の「漫才ギャング」もそこが弱い。
成長前の主人公の描き方があまいのだ。
ちょっとした回想シーンやエピソードはあるのだが、よわい。
そんなんじゃ、芸人として売れないのわかるよなあとお客さんに納得させてから成長させるべきなのだ。
「おれは以前へんなプライドがあったし、おまえを傷つけてばかりいた」と主人公が語るのは、それは説明であって描写ではない。
へんなプライドが成功の妨げになっていることを表現したいときは、「へんなプライドがじゃまをした」とか誰にも言わせていけない。
お客さんが自然にそう思ってしまうシーンをつくらないと。
ああ、うちの部員たちに脚本のダメだしをさせてあげたかった。
しかし、この作品は楽しめた。
成長前の主人公の描き方が甘くなっている原因の一つには、佐藤隆太が根本的にヤなやつには見えなさすぎる点がある。
そういう意味で、佐藤隆太くんは、今後芸の域をひろげていった方がいいと思うし、滑舌ももう少しがんばって練習した方がいいと思う。
佐藤くんよりも、上地雄輔くんの方がちゃんとした役者さんに見えた。
また宮川大輔はじめ、本職がお笑いの方々の演技は、実に安定した仕事ぶりだ。
それだけお笑いの世界に才能が集まっているということなのだろう。
監督もふくめて。
脚本も、あらをさがせばいくらでもみつかるけど、ベタな展開を、芸達者の方々の力で無理くり佳作にしてしまった。
主役の二人が出会う前を描く冒頭部。
舞台に立つ佐藤隆太と、ケンカにあけくれる上地雄輔の姿が交互にでてきてシンクロしていく様子のリズム感は、大御所然としてたいした作品をとれない他の監督さんに学んでほしいと思ったくらいだ。
品川ヒロシという人物は、器用というより才能があふれている。
ずいぶん前に品川庄司を文化祭によんだ川越東高校の教員もえらい。
そのとき一緒によんだのは、まだ「欧米か!」でブレイク前のタカトシであった。