コンクール抽選会に行ってきました。
8月4日(A部門一日目)9番 13:15に演奏します!
星野高校さんの次の次です。
25 すると、老婆は、見開いていた目を、いっそう大きくして、じっとその下人の顔を見守った。まぶたの赤くなった、肉食鳥のような、鋭い目で見たのである。それから、しわで、ほとんど、鼻と一つになった唇を、何か物でもかんでいるように、動かした。細いのどで、とがったのどぼとけの動いているのが見える。そのとき、そののどから、からすの鳴くような声が、あえぎあえぎ、下人の耳へ伝わってきた。
26 「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、かつらにしょうと思うたのじゃ。」
27 下人は、老婆の答えが存外、平凡なのに失望した。そうして失望すると同時に、また前の憎悪が、冷ややかな侮蔑といっしょに、心の中へ入ってきた。すると、その気色が、先方へも通じたのであろう。老婆は、片手に、まだ死骸の頭から奪った長い抜け毛を持ったなり、蟇のつぶやくような声で、口ごもりながら、こんなことを言った。
Q26 14段落「檜皮色の着物を着た、背の低い、やせた、白髪頭の、猿のような老婆である」という描写は、どのような役割を果たしていたと考えられるか。70字以内で説明せよ。
A26 死骸の中にうずくまる という行為と相まって
、老婆の不気味さを印 象づけ、下人が衝動的
に抱いた悪を憎む心を 、読者に違和感なく受
け入れさせる役割。(69字)
下人が老婆をはじめて見た瞬間の描写は、下人の視点で語られていますが、私達は、いつのまにか下人視点で物語世界を見るように仕向けられているので、そのままおどろおどろしい老婆をイメージします。もし、かりにここのいたのが女子高生だったら、場面のイメージも変わると思いませんか。たとえば、
「 下人の目は、そのとき、初めて、その死骸の中にうずくまっている人間を見た。紺のブレザーを身にまとい、髪はショートボブに切りそろえた小柄な女子高生である。少しグレージュに染めているかもしれないが、この楼の明るさでは判別できない。スカートから長く伸びた足の白さだけが不自然に浮き上がって見えた。下人に気づき飛び上がるように振り返った彼女の目に涙があふれんばかりにたたえられているのを、下人は見逃さなかった。 」
という様子だったら、下人は「六分の恐怖と四分の好奇心」を抱いたでしょうか。死骸から髪を抜く行動を「許すべからざる悪」と瞬間的に断じたでしょうか。
わたしたちは、作者の巧妙な単語の積み重ねによって、一定のイメージ造型を誘導させられているのです。
Q27「肉食鳥のような」、「からすの鳴くような」、「蟇のつぶやくような」という描写について
(a)どのような表現効果があるのか。
(b)その結果、読者をどう導くことになるか。
A27(a)繰り返し動物の比喩を用ることで、老婆を本能のままに生きる非人間的存在と印象づける。
(b)下人の失望感に、自然に感情移入させることができる。
Q28 「下人は、老婆の答えが存外、平凡なのに失望した」とあるが、なぜ「失望した」のか。60字以内で記せ。
A28 想像を絶するほどの恐 ろしい悪の告白を予期
していたにもかかわら ず、老婆が語ったのは
思いのほか平凡な悪事 だったから。
Q29 「その気色」とはどのような気色(様子)か。20字程度で記せ。
A29 下人の心に憎悪や侮蔑の念が生じている様子。