学年だより「文理選択」
「理系にいった方が就職がいい」という時にイメージされている「理系」は、そんなに簡単なレベルではない。私大でいうなら本当に限られた上位数校に限られるだろう。
むしろ地方の国立大学の方が、都会の有名私大と比べても研究の環境に恵まれている。
近年のノーベル賞受賞者が地方国立大学出身であることも、たまたまではなく裾野がしっかりしていることを表している。難関私大か国立大学に進み、さらに大学院で学んではじめて理系としての就職が考えられるというぐらいに思うべきだろう。
ただし、それほど難しくない私大に進んだ後にしっかり勉強して、大学院に進むことができれば違ってくる。中堅私大から、東大や東工大に院に進学する学生もかなり存在する。
以上のような条件でないならば、就職状況は文系と変わらない。
なんとなく就職がよさそうだからという情報に惑わされて「無理に」理系に進むくらいなら、文系で同じ努力を積んで難関私大に進んだ方が、就職状況はよくなる場合が多いだろう。
もちろん、数年後どうなっているかはわからない。国立大学における文系学部の教育内容を見直すことを文科省が指示したのは、ごく最近の話だ。卒業後に、就職した現場ですぐに役立つような教育活動を大学で行うようにという主旨だった。
大学で何を身につけたかが大きな比重を占める時代がくるのかもしれない。
しかし現時点では、何学部で学んだか、専門分野は何かであるより、何大学に入学したかが第一に問われるのが、就職の重要条件であることは皆さんも知っているのではないだろうか。
とすれば、文系理系を選択する際に考えなければならないことは何か。
少しでも偏差値的に難しいとされる大学に入るために、自分にあっているのはどちらかということだ。つまり、教科との相性が最優先ということになる。
理系に興味があり、そういう方面の仕事につきたい、しかし数学や物理は苦手だ――、というような、今やっている程度の理系科目で苦労している状態では、理系に進むのは間違いと言わざるを得ない。文系学部から、自分の興味ある分野にアプローチした方が得策だ。
実際、仕事の現場では、特殊な分野を除いて、文系・理系の垣根はどんどん低くなっている。
それにしても、高校に入ったらすぐ大学の話になり、大学に入ったら今度は就職を考えないといけないなんて、人生はなかなか大変だと思うだろうか。
でも、そんなことを悩んでいられることがどれだけ幸せかと発想してみることも必要だと思う。
恵まれた環境にいるのだから、それをどう生かそうかと考えられるようになるのが成長だ。
~ 『21世紀の資本』の著者、トマ・ピケティが来日して、東京大学で講演したとき、「質の高い教育を受けられる僕たちのような者は、何をすべきでしょうか」という学生の質問に、こう答えていました。「親は選べないから、金持ちの家に生まれたことを卑下する必要はない」と会場の苦笑を誘ってから、「君たちは高いレベルの教育を受けることができたのだから、それを社会のために役立てることを考えてください」と。
質の高い教育を自分のためでなく社会のために役立てるのが、本当のエリートの姿勢だと訴えたのです。 (池上彰・佐藤優『大世界史』文春新書) ~