goo

西南シルクロードは密林に消える 高野秀行

本書は、大昔に存在したという中国からビルマを経てインドに抜ける「西南」シルクロードを踏破する旅行記。「シルクロード」という言葉には、何か歴史のロマンのような郷愁を感じるが、著者が体験するその道程の厳しさは、ロマンどころの騒ぎではない。また、旅の過酷さや衛生状態の悪さ等も尋常ではないが、旅の大半が密入国状態というのもすごい。「自然の過酷さと人為的な過酷さの両方がなければ冒険とはいえない」、そんな作者の矜持のようなものが感じられる。自然の過酷さと人為的な過酷さのどちらが厳しいのか、どちらのプレッシャーが大きいのか、そんな実験をしているようにさえ感じる。
 それにしても、作者は、どうしてこんなつらい旅を毎度自ら買って出るのか? 稀代の楽天家なので「行けばなんとかなる」と思ってしまうのかもしれないが、普通の楽天家は「行かなくても何とかなる」と考えるような気もするし、いくら楽天家でも「懲りる」ということは知っているだろう。懲りずに困難に立ち向かっていく姿には本当に感動する。本書のなかで、旅の途中、自分が旅に同行している「ゲリラ」兵士よりも危ない立場にいることに思い至り、その不条理さを嘆く場面がある。著者が自分の行動の不条理さを理解していることが判って何だかホッとしてしまった。文章を書く人は何らかのリスクを背負っている。そのリスクの大きさが文章としての素晴らしさに関係があるとすれば、本書は間違いなく歴史的な名作だと思う。
 本書を読んでいると、その道程の過酷さもあり、途中で「昔の人はこんな過酷な道をわざわざ通っていたのだろうか?」「西南シルクロードなんて本当にあったのか?」という疑問が沸いてくる。著者がその道を完全制覇した後に、その疑問に対して出した結論は、どんな推論よりも説得力がある。(「西南シルクロードは密林に消える」高野秀行、講談社文庫)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )