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流れる星は生きている 藤原てい

今年読んだ本のなかで最も感動させられた本である。一人の母親が、幼い3人の子供を連れて満州から引き上げてくる1年あまりの道程をつづったた壮絶な記録だ。同じ辺境の旅でも、先週読んだ「西南シルクロード…」とは、およそ背景も緊迫度も違う。本書は1949年発売当時大反響を巻き起こしたと言われるが当然だろう。同年には早くも映画化されている。
 主人公の母親は、集団で移動するなかで、主人公の子供を見殺しにしようとしたある日本人に対して当然強い敵意を抱くのだが、助かった後に、その日本人のある行動を見て「完全敗北だ」とつぶやく。また長男が罹ったジフテリアの血清を買う1000円が用意できず、ありとあらゆる可能性を探す母親の強さ。個々人のモラルや感情とは別次元の現実を直視し、子供の命を守るために必死になる母親の姿には何度も泣かされた。本書に出てくる次男が、あの「国家の品格」を書いた藤原正彦であることは、「桜庭一樹」のブログを見て読む前から知っていたが、満州で生き別れた著者の夫が作家・新田次郎であることは、読んだ後に著者略歴を見て初めて知った。全くびっくりである。この作品、今またドラマ化するのも、大変意味深い気がする。(流れる星は生きている」藤原てい、中公文庫)
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