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天地明察 冲方丁

本書を読んで、こういう時代小説があったのか、と改めて思い知らされた。題材は、江戸時代に行われた「改暦」について、物語はその改暦という大事業に挑んだ若き「安井算哲」である。本書を読むと、当時の人々にとって「暦」がいかに大切なものであり、「改暦」という事業が宗教・政治・経済・文化に与える影響がいかに大きなものだったかが判る。江戸時代の話だが、私たちの生活と暦とのつながりは、宗教色こそ薄れているとはいえ、いまだに強いものだということが再認識される。
 物語としては、さまざまな方面に大きな影響を与える「改暦」に挑む主人公の内面の姿が丁寧に描かれているが、主人公の内面と出来事の絡み合いを中心に描くその展開にはスピード感すら感じる。全く知らなかった世界だけに、本当に面白い読書体験だった。なお、著者の略歴をみると、ライトノベル出身、時代小説は初めてということのようだが、こうした傑作を突然書いてしまう著者の才能には心底驚かされると同時に、ライトノベルという形態が文学における才能発掘に果たす役割の大きさというものを強く感じる。(「天地明察」冲方丁、角川書店)
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