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2010年度本屋大賞予想

2010年の本屋大賞の発表が間近なので、大賞作品の予想を今年も試みることにしたい。但し、これまでの3年間は候補作品を全て読んだ上での予想だったが、今年度は候補作品10編中7編しか読んでいない。今回「候補作品全編を読むこと」を放棄した理由だが、転職、長期休暇で読書の時間があまり取れなかったという面もあるにはあるが、最大の理由は別のところにある(候補作品が発表されてからもそれ以外の本をいくつも読んでいた)。最大の理由は、候補作品のなかにまだ完結していない作品があったからだ。これは、小説はできるだけ完結してから読みたいと思っている人間にはややつらい。そもそも完結していない作品を候補作品=評価の対象とするということ自体、私には違和感がある。そういうことで、「どうせ全編を読まないのであれば…」ということで、心の中に「全編を読む」ことへのこだわりがなくなってしまった。全編を読んでいないので、今回は予想というよりも私の中の人に勧めたい順位ということになった。

(予想)

これまでの傾向でいくと有川浩の「植物図鑑」かもしれないが、わたしの好みからすると以下のような順番になる。
①大賞:冲方丁「天地明察」
新しい才能の発見という意味では、個人的には断然冲方丁の「天地明察」が大賞だと思う。既に有名な作家なので「発見」などというと申し訳ない気がするが、ライトノベル出身の作者が書いた初めての「時代小説」がこれほどまでに面白いとは、という感想を多くの人が持ったに違いない。衝撃度は近年のナンバー1だ。ただ、対象の選考者には女性が多いので、そのあたりで実際の大賞受賞は難しいかもしれない。
②次点:吉田修一「横道世之介」
こちらも、前作「悪人」からの変貌に、個人的には、①と同じくらい大きな衝撃を受けた。読んでいる最中の共感度から言うと、こちらが大賞でもおかしくない。
③第3位:川上未映子「ヘヴン」
大変重いが、いろいろな賞を受けるにふさわしい作品だ。昨年の大賞も重い作品だったので、審査では連続してそういう傾向のものになることを避ける気持ちが働くのではないか。
④第4位小川洋子「猫を抱いて象と泳ぐ」
本書を読んだ時は、あまりの素晴らしさに、今年の大賞はこれで決まり、但し、既に受賞したことのある作家なので、そのあたりがどうか、という感じだった。それが①②③を読んで結局4位というところではないかと思う。作者の作品としては「期待通り」ということになる。上記の作品との差は、要するに期待をどれだけ上回ったかということになる。
④第5位:東野圭吾「新参者」
改めて作者の才能に驚かされた。人気作家だけに読みきれないくらいの新作が発行されるなかで、ここまでレベルの高い作品が生まれるとは正直思っていなかった。小さな事件や謎を解明していく短編の連作で、それが最後に1つの大きな謎の解明につながっていくさまが見事だ。それでいて小さな事件の1つ1つが実に味わい深いのが、作者の才能のすごさを見せ付けてくれる。但し、大賞受賞ということになると、「いまさら東野圭吾?」という感じがする。

それ以外では、「神様のカルテ」「神去なあなあ日常」だが、両方とも上記の作品に比べると小品すぎるだろう。

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ヘヴン 川上未映子

「いじめ」を主題とするこの小説が提起している問題は非常に大きい。我々は「いじめは良くないことである」ということを自明のことと思っているが、それは論理的に説明できることのか、それとも倫理の問題なのか。この小説は、「イジメはよくない」という当然の前提に立ちながらも、この根源的なところを問いかけている。文学の文学たる面目躍如であり、この本が読まれることによっていじめが少しでも減るのであればと願わざるを得ない。しかし残念ながらイジメをする側の人間がこのような本を読むことは現実には少ないだろう。小説を読むような感受性のある人間がイジメをするとは考えにくいからである。そう考えると暗澹たる気持ちにさせられる。ちょうどこの本を読み終えつつあるところで、NHKの作者へのインタビュー番組をやっていた。作者自身の「初めから決め付けるのではなくスクェアな立場からスタートした方が最後は強いものになる」という言葉にこの小説の真骨頂があるのだろう。また番組では、小説の最後の「並木道」のシーンに言及していたが、作者の「並木道の写真を眺めながらこの小説を書いた」という発言には心底感銘を受けた。「たちあがれ日本」ではないが、その言葉を聴いて「たちあがれ文学」という言葉が浮かんできた。文学が現実の世界の問題にもっと積極的にコミットするような動きが強まっていくのかもしれない。(「ヘヴン」川上未映子、講談社)
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