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水鏡推理 松岡圭祐
何となく作者の作品に飽きてしまった感じがしていて、このシリーズは読み始めていなかったのだが、間違って2作目を買ってしまい、慌てて1作目から読むことにした。話は、主人公である文部科学省の女性事務員が、政府の助成金を申請している研究の捏造や改竄をちょっとした推理から見破るという内容だ。最近のそうした事件や震災後の状況等をうまく絡めながら、次から次へと偉そうな研究者を切り捨てていくさまは痛快だが、そこでちょっと待ってという気もしてくる。そういうもやもやした感じになる理由の1つ目は、「こんなことが本当に起きていたら怖いなぁ」というものだ。暴かれる不正の内容が実際の事件にかなり近いだけに、現実との距離感がつかみにくいし、ひょっとしたら同じようなことが現実にも頻発しているのではないかという疑念がもたげるのだ。もう1つのもやもやは、こういう臨場感あふれる描写で書かれると、その現実の事件の方の世間のとらえ方にも微妙な影響を与えてしまうのではないかという懸念だ。本書の最初に取り上げられている事件でも、現実の事件の方はまだ真相が明らかにされたとは言えないと思うのだが、本書を読むと、どうしても現実の方も研究者が一方的に悪いように感じてしまう。話が面白いだけに、ただ面白いというだけでは危険だなぁという気もした。これらはいずれも本書が迫真の内容だからこそだが、最初に書いたように作者の本を手に取るのを少し中断していたが、本書を読んでまた読み進めていこうという気になった。(「水鏡推理」 松岡圭祐、講談社文庫)
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