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ぼくには数字が風景に見える ダニエルタメット

共感覚という特殊な能力を持つ著者の自伝。サヴァン症候群、アスペルガー症候群、同性愛者でもあるという著者の半生には色々な面で驚かされたり考えさせられたりした。まず人間の知覚とは何なのか。自分が見ているものが他の人にも同じように見えているのかどうか疑問に思うことが時々あるが、本書を読むと人の知覚と認識は想像以上に多様なのかも知れないと思えてくる。違うように見えているのにそれを言葉にして伝える段階で同じになってしまうだけかも知れない。そう考えると、著者のすごいところは何が一般的で自分のどこが特殊なのかを適切に把握していることだろう。自分に関するエピソードを書く際、どの経験が書くに値するかを選別できなければ本書は書けなかったはずだ。人と違う感性については、自分にも似た経験がある。小学校の図工の時間に絵を描く時、何故か黒と茶色しか使いたくなくて、白黒の絵ばかりを描いて先生に注意された記憶がある。どうしても他の色を使いたくなくて改めなかったら親が学校に呼び出された。いつの間にか他の色も使えるようになったが、本書を読んでその時のことを思い出した。また本書を読んで、病気とは何だろうと考えてしまった。サヴァン症候群とかアスペルガー症候群は病気ではなく個性だと思うが、あまりにも個性が強烈すぎるとやはり治療すべきもの、病気ということになるのだろうか、そしてその線引きはどこなのか。治療したいと本人が思うかどうかが境界だとすると病気とは主観的なものになってしまうし、病気とは「寿命を縮めるもの」と考えても線引きの問題は残るし、認知症などは寿命を縮めるのだろうか、など疑問が次々に湧いてくる。どれも結論の出そうにない疑問だが、本書はそうしたことを考えるキッカケを与えてくれた。(「ぼくには数字が風景に見える」 ダニエルタメット、講談社文庫)
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