書評、その他
Future Watch 書評、その他
ブルーネス 伊与原新
個性的な科学者6名がチームになって画期的な津波監視システムの構築に奔走する科学小説。実効性のある津波監視システムの構築には24時間定点観測することの難しさやデータの迅速な授受と解析の困難性など多くの課題があり、加えてチームの活動に対する嫉妬や妨害などもあって、本当にうまくいくのだろうかとハラハラドキドキしながらの読書だった。東日本大震災の時に地震や津波の研究者たちは皆非常に辛い思いをしたという。チームのメンバーもそれを邪魔する人たちもそれぞれが震災の時の苦い経験を背負っており、どのような研究の推進が正しくてどのような研究の推進が正しくないのか、一概には言えない事情が背景にある。簡単に言えば、震災によって地震そのものの予測の困難さが痛感させられた後、それでも諦めずに地震の予測精度の向上につながる研究を続けるのか、それとも地震の予測を一旦諦めて人命救助尊重の観点から津波の早期探知と警報の精度向上に鞍替えするのかといった葛藤だ。一方、津波は地震だけでなく海底火山の爆発や大規模噴火などによっても引き起こされる場合があり、日本列島のあらゆるところでその危険が内在しているという。最近のトンガでの火山爆発の時も津波警報が出されたことを思い出した。最先端の学者によって書かれた巻末の解説を読むと、この小説の内容は科学的に完璧とのことであり、さらに驚いたことにこの主人公たちのチームには実際のモデルが存在するとのこと。著者ならではのすごい小説だ。(「ブルーネス」 伊与原新、文春文庫)
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