書評、その他
Future Watch 書評、その他
パラダイス・ガーデンの喪失 若竹七海
葉崎市という架空の町を舞台にした人気作家によるシリーズ作品の最新刊。著者の長編作品の特徴はとにかく登場人物が多くてしかも多種多様ということ。さらに本シリーズは舞台が近所付き合いの濃厚な地方都市という設定なので、この人とこの人の関係は何でとか、誰と誰がどういう知り合いでという人間関係を頭に入れるだけでも大変だ。その辺りは必要に応じてどこかでまた触れられるだろうとタカをくくって流し読みしようと思っても、著者独特の伏線がどこに潜んでいるかわからないのでそれもできない。もう少し何とかならないかなぁと思うこともあるが、このもつれた人間関係こそが、本格ミステリーの密室トリックやアリバイトリックと同じレベルの著者独特の謎とき要素なのだと思う。言い換えれば、最近の著者の作品は人間関係を鍵とする新しいジャンルと言えなくもない気がした。(「パラダイス・ガーデンの喪失」 若竹七海、光文社)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
希望病棟 垣谷美雨
面白いストーリーの中に様々な社会問題を織り込んで読者にその問題について考えるキッカケを与えてくれる著者の一冊。本書も日本に厳然として蔓延る偏見とその根底にある格差社会や世代間ギャップなどを考えさせる内容だ。何気ない行動や発言に潜む無自覚の偏見、そうでないと見える人とあからさまな人の違いが紙一重であるという現実がストーリーの中で畳み掛けるように展開する。今回も前作と同じ荒唐無稽な設定があるが、それがストーリーの本質ではないことは本作も全く同じで、その設定はストーリーをスムーズに進めるための道具に過ぎない。さらに言えば、この設定は最後に明かされる親子二代にわたるサプライズと相俟って本書の内容の重苦しさを緩和させる巧妙な仕掛けだったのだと気付かされた。(「希望病棟」 垣谷美雨、小学館文庫)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
無垢の傷痕 麻見和史
著者の本はこれで2冊目。最初に読んだ作品もそうだったが、著者の作品を読むとTVの一時間ものの刑事ドラマの概略を読んでいるような気がする。もちろん順序が逆で、まず本書のような小説がありそれを原作とするドラマが作られているのだろうが、テンポの良さ、適当な数の登場人物、謎の適度な複雑さなど、ここまでTVドラマ化に向いた小説を読むと、どうしても著者自身がTVドラマ化を意識しているだろうと思ってしまう。小説で読むと20〜30分で短編ひとつ読み終わるので、ある意味TVを一時間観るよりも効率的だし面白いという感じだ。最近刑事もののTVドラマをほとんど見なくなってしまったが、本書を読むと、原作のある刑事ものはやはり原作に限るという気持ちが強くなった気がした。(「無垢の傷痕」 麻見和史、双葉文庫)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
花殺し月の殺人 デイヴィッドグラン
副題は「インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」。今からちょうど100年前の1921年、アメリカオクラホマ州で起きた一人のネイティブアメリカン女性の周辺で多発した殺人事件を追うノンフィクション作品。作品は3部構成で、第1部はその事件の詳細、第2部は一人の司法省捜査局の捜査官が犯人を追い詰めるまでの活躍、そして第3部が著者自身による100年後の調査でたどり着いた本当の真相。ノンフィクションでありながら、読んでいてとにかく驚きの連続だった。第1部では、こんな衝撃的な事件がたった100年前のアメリカで起きていたことを知らなかったという驚きだ。これは、当のアメリカでも教えられることがあまりない事件だそうで、そのこと自体にこの事件の異常性が際立つ。第2部では、第1部で全く混沌としていた事件の全体像が一人の捜査官によって少しずつ暴かれていくのだが、予想もしていなかった犯人とその動機に驚かされるし、さらにこの事件がFBI連邦捜査局の発足に繋がっていくという話にも驚かされた。そして第3部で語られる当時の捜査官でさえたどり着けなかった事件の全貌は、たった100年前のアメリカのこととは信じられないもので、アメリカでもあまり知られていない理由がそこにあるという戦慄の内容だ。この作品はデカプリオ主演で映画化が進行中とのこと。コロナ禍で完成が延びているようだが、作品が本書のようにアメリカの暗い過去という本質を語るものになっているのか、それともこれまで通り捜査官の活躍を語るヒーロー談になってしまっているのか、是非映画を見て確かめてみたいと思った。(「花殺し月の殺人」 デイヴィッドグラン、早川書房)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
i 鏡に消えた殺人者 今邑彩
大好きな作家の作品。あとがきを読むと、この作品は著者の第3作目くらいの作品なのだが、著者本人がその出来栄えの良さから処女作のように思える作品だと述べていたとのこと。確かに読んでいて面白いし最後のどんでん返しにも唖然とさせられた。実は読んでいる途中であとがきを読んでしまい、その中の何気ない一言から真犯人が何となく想像できてしまったのだが、それでもさらに用意されていたもう一つのどんでん返しにはビックリした。本作に登場する刑事の話はシリーズになっているようで、まだどれも未読なので次を楽しみにしたい。(「i 鏡に消えた殺人者」 今邑彩、中公文庫)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
妻は、くノ一 風野真知雄
10年くらい前に友人が面白かったと言うので買っておいた本。ネットで注文した本が届くのが明日になるというので、未読の棚から一晩で読めそうな薄い本を探して本書を読むことにした。著者の他の作風や題名から「くノ一」の妻が陰で夫を助けて活躍する軽い感じのミステリーを想像したが、読んでみるとやや印象と違った。謎解き要素で味付けされた時代小説であることは間違いないが、重苦しくない程度に幕藩体制の危うさとか時代の微妙な移り変わりを感じさせる要素をストーリーに織り込んだ内容で、さらにそれになかなか主人公の夫婦が再開できずにハラハラする「すれ違い物語」という要素も。話はキリのよいところで終わらせるという気が全くない感じで突然次巻へ続く。人気シリーズとは言えかなり昔の本なので第2巻以降を今もちゃんと買えるか少し心配になった。(「妻は、くノ一」 風野真知雄、角川文庫)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
オンライン ミャンマー情勢
オンラインで在日ミャンマー人の定住支援を行なっている横浜のNPOの人の話を視聴。話の内容はミャンマー特有の話ではなく日本の多文化共生についてのもので、在留外国人の国別構成や法整備の現状、定住支援の事例紹介、支援を行う際の心構えなど。知らなかったことも色々あり為になった気がする。講師が強調していた外国人が支援してもらいたいことと日本人が支援したいことのギャップは自分も仕事をしていた時から常々思っていたことなので、やはりどこにでもある誰もが感じる共通の悩みなんだなぁと思いながら聞いた。NPO代表の「日本人が誰も農業や畜産業をやりたがらない状況では日本の原風景を残したいとか日本産の野菜を食べたいというのと多文化共生は同値だ」という言葉が印象的だった。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
次ページ » |