ふぶきの部屋

皇室問題を中心に、政治から宝塚まで。
毎日更新しています。

韓国史劇風小説『天皇の母」40(フィクションだって・・)

2012-02-12 08:50:42 | 小説「天皇の母1話ー100話

日本は「経済大国」という言葉に酔いしれていた。

経済摩擦を引き起こしアメリカに不満を言われるので、大人しくしてはいたが

それでも心の中では『勤勉な日本人だからこそいいものを作れる。それのどこが悪い」

と思っていた。

東アジアの中で日本は突出して繁栄を謳歌していた。

敗戦国にも関わらず・・・・それが何となく周辺国の「中華思想」を持つ人々にとっては

不愉快で、でも金を引き出すには好都合とばかり、あれこれ画策。あるいは発展途上の

国々には惜しみなく援助をする国。

それが日本だった。

だが、一方で憂慮も抱えてきた。

多くの国民はわからない事だったかもしれないが、天皇は確実に弱って来ていたのだ。

人々にとって天皇はまさに「国家」そのものだったろう。

いつもそこに変わらず存在し続ける。たとえ、年に数回しかテレビで顔を見る事が

なくても、天皇は天皇。そこにいるだけで日本の「顔」だし国民の「父」だし

ほっとする存在だった。

華やかな皇太子一家にはそこまでのカリスマ性はなかった。

よくよく考えてみると皇太子一家のカリスマを支えているのはミチコ妃ただ一人。

彼女が「より皇族らしい行動を心がける」事によって、誰もがスパーウーマンを

見出し「とても凡人にはあんなこと出来ないわ」と思わせる。

ミチコ妃の「優秀さと記憶力のよさ」これが今の東宮御所を支えていたのだ。

 

しかし、当の本人達はそんな事に気づく筈もなく。

特に次期皇太子になる筈のヒロノミヤはそれこそ「自由」を謳歌していた。

彼がイギリス留学で学んだこと。

それは「自由」だ。日本にいる時のように常におたたさまが目を光らせている事も

ないし、多少のわがままも聞いてくれる。

その一端が、アメリカでブルック・シールズに会いに行った時の事。

イギリスの留学を終えての帰り、アメリカに立ち寄った時、プリンストン大学を

訪問する事が決まった。

その時、「ブルック・シールズに会いたい」と周囲に言って見た。

ブルック・シールズは大きな目をして大柄でグラマラスな美人女優だ。

ヒロノミヤは「エンドレス・ラブ」を見て一気にファンになり、イギリスの寮では

ポスターを貼っていたほど。

何が好きって・・・あのゴージャス感がたまらない。

気が強そうな太い眉と大きな瞳。栗毛の長い髪。高い背丈。それに知性もあって

胸も大きく言う事なし。

こんな人を恋人に出来たら、回りがどれだけ羨ましがるだろうなあ。

きっと二人で歩いていても、視線はこちらに釘付け。

こんな素晴らしい彼女を連れて歩いてるのが日本の皇族だって知ったら尚更

みんなびっくりするだろうなあ。

というわけで、ほぼ強引に頼み込んでブルック・シールズと会わせてもらった。

彼女は言うまでもなく美しかったし、ゴージャスだったし、いい匂いもした。

そんな彼女に気後れする事無くプリンスとして振舞った自分は偉いなと思う。

マスコミはこぞってはやし立てる。

ブルック・シールズがお妃候補?」

「ヒロノミヤ様の好みは目が大きくて派手な美人」

「日本でこんな女性を探せばお妃候補に上げられるかも」

と・・・・

というのも、実際の所、ヒロノミヤの妃候補はどんどん脱落しており、先の見通しが

たっていなかった。

かつて皇太子妃を聖心女子出の民間人に奪われた学習院は、こんどこそはと

総力を結集して「ヒロノミヤの妃」を選定しては送り込んでくる。

学習院の女子同窓会「常磐会」にとって、あの時の屈辱は何としてもらはさねばならぬ。

こんどこそ、旧皇族、旧華族から妃を立てて、皇室の伝統を守り血筋の重要性を

説かなくては・・・・

しかし、ヒロノミヤの両親はそこまでのこだわりを持っていたわけではなかった。

むしろ「嫁」の方が家柄がいいとなれば、後々色々と面倒な事が起きるのではないか

と考えていたのだ。

旧皇族・旧華族連合は正直、現天皇の崩御と同時に「皇室」との付き合いを

辞めてもいいなと考えていた。

天皇には親近感もあるし自分達の事を大事にしてくれる。

しかし皇太子は民間妃を娶った時点で自分達に反旗を翻したようなものだし、

皇太子妃の異常な人気は「皇族として」のものとは到底思えず、何だか皇室自体が

貶められていくような気がする。

「開かれた皇室」と言われて30年。

イギリス王室のようなフレンドリーで親しみやすい皇室を作ろうと皇太子夫妻は

頑張って来たのだが、見る側が違えば「やりすぎ」にも見える。

まして、次代の皇太子がアメリカの女優とデートを楽しむなど・・・・・・

 

そんな事は意に介さずヒロノミヤはブルック・シールズとの逢瀬を楽しんでいた。

あちらは緊張することなく「プリンセスになった気分だわ」と言ってくれた。

それがどんなに嬉しかったか。

ブルック・シールズでさえもお友達に出来るヒロノミヤ」というプライドが腹の

底からわきあがって笑顔がこぼれる。

世間的にはヒロノミヤのお妃は家柄は勿論、学校の成績も優秀でなければいけなかった。

全てが「ミチコ様」を基準に考える為、「美人で学歴優秀、成績優秀」

それが条件となっている。それはヒロノミヤも同じだった。

自分は将来天皇になるのだ。

それゆえに、自分にふさわしいのは誰にも手に入らない素晴らしい女性。

美人で頭が良くて語学堪能・・・誰もが羨ましがる女性。

妄想はどんどん膨らんでいく。

 

学習院大学のキャンパスでは静かに愛が育まれつつあった。

学友達はみな義理堅く、秘密はきっちり守ってくれた。

アヤノミヤはカワシマ教授の娘、キコと真剣に交際をしていたのだ。

勿論、誰も異を唱える人はいない。

なぜなら彼女はおっとりしているけどしっかりもので、気が強いけど優しくて。

美人というより可愛らしくて・・・・小さい頃にオーストリアにいたのでドイツ語と

英語は堪能。マンドリンを弾き手話に興味を持つ、ごく質素な娘。

その質素さがいかにもアヤノミヤの恋人としてふさわしかった。

アーヤは短気な部分もあるから、キコちゃんみたいなおっとりやがちょうどいい

と学友のクロはそう言った。

そうかな・・」アヤノミヤは否定しない。確かに、時々ちょっと爆発するとすぐに

困った顔してこっちを見るキコに自分はぞっこんなのだと思った。

あの「何でそんなに短気なのか・・・」という目でみられると叱られているみたいで。

でもそれが妙に心地よくて。

あいつだって頑固だよ。絶対に曲げない」

知ってる。アーヤと付き合い始めてからキコちゃんは言葉遣いが変わった。

彼女はアーヤの恋人としてふさわしい人間になろうと必死になってるんだ。

あれは相当な覚悟だな。って事はアーヤも相当な覚悟をしないとな」

うん

アヤノミヤはすでに計画を練っていた。

さりげなく東宮御所に招いて妹や両親に会わせる。それを何度かやってから

具体的に結婚の話をする。

でも今の所、兄の結婚が決まってない以上、弟である自分の結婚は言い出せない。

もう、さっさと決めちゃってくれよ・・・

アヤノミヤは一人、そんな事を考えていた。

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韓国史劇風小説「天皇の母」39(フィクションだって)

2012-02-05 09:19:51 | 小説「天皇の母1話ー100話

マサコは何となく自分を取り巻く環境が変わってきた事には気づいていた。

ハーバードに入ったのはいいけど、なかなか友人が出来ず、せっかく優等賞をとっても

誰も喜んでくれない・・・「マサコはブレーンだから」と陰口を叩かれているのは知ってる。

ブレーンって・・要するに融通のきかない頑固者とかそういう意味?

どうしてそんな風に見られるのか本人的には全くわかっていなかった。

なぜなら、彼女には自分の性格を省みる余裕がなかったからだ。

父の期待に応える為には、とにかく勉強しなければならなかったし、それでも何となく

不満げに見える父の表情を垣間見つつ、どうしたら「マサコは素晴らしい」と言って

くれるのかと、そればかり考えてきたからだ。

母は相変わらず双子にかかりきり。

小学校受験で落ちた経験と、高校までの数々の行状に母はすっかり打つ手なしという

感じで、最近は「とにかく問題を起こさないでくれればね」としか言わない。

妹達の方が扱いやすいと思っているのかしら?

自分を自分として認めてくれる存在が必要だった。

無条件に褒めてくれる、庇ってくれる人が必要だった。

それには恋愛が一番・・・・と思って、何人かと付き合ったが結局、父が気に入る人は

誰もいなかった。

大学の中で人脈を作る事も出来ず、恋もなかなかうまくいかない。

そうはいっても、旅行に誘えばついてくる人くらいはいるわけで。

「宿泊代は持つから」って言えば、ほいほいついてくる。

いつの頃からか「友情」とはそういうものなのじゃないかt思い始めた。

 

そんな彼女に転機が訪れたのは、大学卒業と同時に東大に学士入学が決まり

さらに外交官試験に受かったあたりからである。

「何でアメリカで働かないの?」と聞かれる。

本当は自分がアメリカで通用するような人間ではない事を知っている。

議論とか説明とか・・・コミュニケーションがとても苦手だからだ。

その点、日本ならそんなに喋らなくてもいいし。

でも一応「根なし草になりたくないの」と答えておいた。

「根なし草」っていい言葉だなあと思う。そう、自分は日本人だし日本の為に

仕事する。日本には必要な人間。外国でふらふらする浮き草人生はノーだ。

 

そんな折も折、日本の写真週刊誌から取材の依頼が。

父は受けろという。

ハーバード大出で東大に学士入学に決まっていながら外交官試験もパスした

スーパーキャリアウーマン。しかもお父様も外交官という超ハイソなお家柄の

お嬢さん」というコンセプトだった。

もう嬉しくて仕方がなかった。超ハイソ?キャリアウーマン?

この先、全ての栄光と富が手に入りそうな気がした。

有頂天になって写真に収まる。

こんな風に取り上げられる事自体、人生で初めての経験。

そして父からは「すごいな」と言われた。

(まさか父が画策していたとは思いもよらず)

雑誌にはヒロノミヤの記事も一緒に載っていた。学友らと食事をしたという記事。

それが偶然だったのか故意だったのか自分にはわからないけど。

でもとにかく人生の中で初めて「褒められる」経験をしたのだ。

これからはスーパーキャリアウーマンとして父と同じ職場で働く事が出来る。

マサコは生まれて初めて幸せだと思った。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」38(フィクションです)

2012-01-29 10:54:42 | 小説「天皇の母1話ー100話

世の中は「ヒロノミヤ妃」でワイドショーは連日にぎわっていた。

普段皇室に関心がない人ですら、しつこく名前と顔が画面に出るものだから

自然と覚えてしまう。

古い人たちは「誰がなったってミチコ妃に叶う人はない」と思った。

「あの方こそ皇室に入るべくして生まれてきたのだから」と。

若い世代は何となく「ダイアナ妃みたいな人がいたらいいなあ」と思った。

若くて美人で頭はよくないかもしれないけど一途で・・すぐに赤ちゃんを産んでくれる人。

イギリスのダイアナ妃はまさに大英帝国象徴として君臨し、世界中の人気を独り占め

していた。

センスのいいドレス、短く切った髪、背が高くてスタイル場抜群で気さくで優しくて・・・

妄想はどこまでも広がっていくが、要するに「血筋はいいけど気取ってない」お妃が

いいと考えていたのである。

 

アーヤ、何か楽しそうだね。大学に入っていい事でもあったの?」

天皇の研究室は狭くて古めかしかったけれど、アヤノミヤにとっては未知の世界

そのものだった。

学習院に生物学を研究できる科はないから仕方なく法学部に入ったけれど

いつか留学して本格的に学んでいきたい・・そんな風に考えていたのだった。

でも、今は目の前のヒオウギアヤメの分類が先。

実は・・・」

アヤノミヤはちょっと言葉を切った。内緒にしてくれるかしら?

そんな秘密めいた表情を見て天皇は微笑んだ。

なんだい?」

おじいさまとおばあさまのご結婚はお見合いだったんですよね」

何を今更当たり前の事を・・・と聞いた自分が恥ずかしい。

天皇皇后の結婚のいきさつは数々の本や雑誌にいやという程書いてあるし。

ナガミヤとは一度会っただけで

その時、おばあさまをどうお思いになったのですか?」

どうって・・ああ、この人かと」

この人か・・・たとえばピーンとくるとか。ドキッとするとか」

「ピーンと来たのかい?」

逆に訪ねられてアヤノミヤは言葉に詰まった。

どんな風にピーンときたんだい?」

答えないわけにはいかない。

大学の生協に行って教科書を何冊か買ったんです。その時、先にレジに

並んでいた女子がいて。すれ違ったんです。店主が「カワシマ教授のお嬢さんです」

と聞きもしないのに教えてくれて。今思えば何で教えてくれたんだろう」

大学教授の娘さんか。しっかりしていそうだね。どんな感じ?」

懐かしい雰囲気の子でした。ちゃらちゃらしてないっていうか。服装も地味だし。

でも可愛いんです。目が大きくて笑うと・・・」

ははは。アーヤは一目ぼれしたのだね」

・・・別にそんなんじゃ。僕、サークルで自然史研究会を立ち上げたでしょう?

学友を何人も誘って。それで彼女をそこに誘いました」

入ってくれたかい?」

はい。快く。でも、その後はどうしようかと思って」

その後というのは結婚を考えているんだね?」

はい。そうでないとお付き合いできません。でも断られるかも。なにせ彼女は

可愛いし人気者なんです。皇室なんか嫌だと言われたらどうしよう。他にとられるかも

しれないし」

アーヤらしくないね。そんなに気弱になるとは。私はそんな経験がないからだけど。

でも誠実にあたれば何とかなるものではないのかね」

そうでしょうか」

ああ。それとアーヤの結婚は日本中に祝福されなければいけないよ。だから

両親にもきちんと見て貰って正しい判断をしないとね」

そこが問題ですよね・・・いきなり連れて行ったりしたらびっくりするだろうし。

何と言ってもお兄様の結婚話で色々あるし」

さりげなく・・・な。さりげなく」

天皇は相好を崩して言った。孫とこんな会話が出来るようになるとは思って

いなかったのだ。自分が小さかった時、祖父といえば明治天皇で、ひたすら

怖かったイメージしかないし。

アヤノミヤは人懐こくてこちらの壁をやすやすと崩してくるから。

僕、あたって砕けてみます。もしうまくいったら・・・このヒオウギアヤメをおしるしに

頂いてもいいでしょう?」

天皇はにっこり笑った。

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韓国史劇風小説「天皇の母」37(フィクションだわ)

2012-01-15 11:23:23 | 小説「天皇の母1話ー100話

ヒサシは少し追い詰められていた。

外務省における機密費流用の捜査が入りそうな気配だからだ。

これは自分ひとりでやった事ではない。

それぞれの思惑が重なり合って行って来た事だと思っている。

けれど、その一角が崩れた時、こちらにも相当な打撃があるのは間違いない。

かつて母が「こんなに貧しく生まれ、育った事に対する恨をはらしておくれ」と言った。

自分達の先祖が貧しかった理由・・・迫害された理由・・・それはほかならぬ日本にある。

日本は差別したのだ。大和民族と朝鮮民族を。

自分達の土地を搾取し、蹂躙しておいて何食わぬ顔で戦後を生きている日本人。

だからこそ自分は東大を出て外務省に入り、あちらこちらに気を遣いつつ

ここまでやってきたのだ。全ては母の「恨」を晴らす為に。

日本には自分と同じような思想を持っている人達が多々いるという事にも気づいた。

日本が過去に犯した過ちは絶対に消える事はない。ゆえに日本は永遠に

謝罪し続け、補償を行わなければならない。それが人間としての道だ」

全くその通りである。罪は100年経っても消える事ではないのだ。

そんな論文を出したら「日本ハンディキャップ論」と言われてバッシングされた。

反日の徒だとも言われた。それでもいい。間違った愛国心などない方がいい。

しかし・・・機密費流用問題が表ざたになれば・・・

 

オワダ君

呼び止められて振り返ると、フクダラスオがにこやかな顔でこちらを見ていた。

彼の父親の秘書として活動した過去があり、ヒサシとヤスオは仲が良かった。

年下のくせに「オワダ君」などと呼ぶ、生意気な奴であるが仕方ない。

何でしょう

あなたの所、娘さんが3人いたよね」

突然何の話だろうか?

一番上の・・・」

マサコですか?」

「ああそう。今、どうしているの?」

アメリカにおります。ハーバードに」

おお、それはご優秀な事だ。さすがにオワダ君の娘だね。ところで、そのマサコさん、

誰か決まった人はいるの?」

・・・え?」

恋人とか婚約者とかいう話だろうか。

ヒサシはちょっと言葉に詰まった。

マサコ・・・本当にこの娘は・・・・

トラブルばかり起こすので日本の高校を中退させてアメリカに呼んだのはいいが

なかなか英語を覚えない。元々社交的な性格ではないし自己主張するような娘では

ないが、それではアメリカ社会ではやっていけない。

当然、孤立しがちになる。

それでも何とかハーバードに押し込んだ。自分がハーバードの教授をしている

コネを最大限に使ってラドクリフから編入させたのだ。

どんな入り方をしても卒業さえしてしまえば「ハーバード大卒」だ。

あの娘には学歴くらいしか誇れるものがない。

しかし、大学へ入っても聞こえてくる話はどこまでもネガティブ。

ボート部に入ったのに一度も練習に出ない。理由は「風邪を引いているから

湖の上にいたら熱を出す」

パーティに出れば壁の花。それだけならまだしも、結局その場にいる事が出来ずに

帰ってしまう。

成績も必ずしもいいとはいえない。そのくせ男遊びの方はかなりお盛んだ。

先日も「結婚したい人がいる」とかいい、男を連れてきたばかりだ。

卒業もしていないのに一体何を考えているのか。

無論、男とはその場で別れさせた。こちらが強気に出れば逆らう娘ではない。

だが、最終的にこの娘は一体何がとりえで何がいいのかさっぱりわからない。

出るところ出る所、何かと問題ばかり。

フクダはそんな状況は知るまい。

 

決まった人はいないと思いますが」

そう」

フクダハニヤリと笑った。何となく不気味である。

「マサコさんに絶好の縁談があるんだけど」

「え?」

娘さんを皇太子妃にする気はないかい?」

皇太子妃?あの・・皇太子妃は」

いや、勿論次代の皇太子妃だよ」

という事はヒロノミヤの?まさか。とんでもない。いくらなんでも無謀です。

皇室に嫁ぐ為には家庭の調査が入りますし、3代前までさかのぼれる家系で

ないといけません」

そんなものはどうにでもなる。どうやら天皇もあと数年の命と見ている。次は

民主主義始まって以来初の天皇の即位。皇室を変えるならその時しかない。

言う意味わかる?」

それはつまり、皇室を廃止に持っていくということなんだろうか?

マサコさんが皇室に嫁げば機密費流用で糾弾されることはないよ。どうだい?」

それは・・・ありがたいお話ですね」

なら、観測気球を飛ばしてみるか」

うちのマサコが皇太子妃?後の皇后になる?夢ではないだろうか。

しかし、それから暫くして、マサコは本当に「お妃候補」に上がってしまった。

こうなったらもう引き返すことは出来ない。

戦い続けるのみだ。ヒサシは腹を決めた。

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」36(フィクションです!)

2011-12-25 09:20:45 | 小説「天皇の母1話ー100話

陛下、そろそろおでましを

侍従が呼びに来た時、天皇は振り返って微笑んだ。

ナガミヤはやっぱり無理だったね」

側に皇后がいない寂しさをちょっと口に出してしまった。

骨折以来、皇后はどんどん歩けなくなり記憶もうすれて、今年の新年祝賀の儀

以来、表に顔を出さなくなった。

そして「在位60周年記念」式典にも。

60年・・・・そのうち20年は戦争をしていて、平和な時代が40年続いた。

この40年、天皇にとっては「復興」への道のりに他ならなかった。

大元帥陛下と持ち上げられようと、望んで戦争を始めたわけではない。

あの時は・・・・あの時なりの事情があった。

それを「戦争責任」と呼ぶのだと。

みな、一生懸命やった結果だった。しかしそれは敗北となり、日本は大きな

犠牲を払い、その後遺症は今も続いている。

戦場で空襲で死んでいった人たちは今もって自分を恨んでいるだろうか。

多分、恨んでいるだろう。詫びても詫びても気がすまぬ。

戦後40年。表面上は穏やかに過ごしてきたはずであったが、心の中はいつも

重かった。

ただただ死んだ人々への思いが高じて、ともすれば部屋に引きこもりたくなる程に。

しかし、天皇にはそれが許されない。

「私」がないから天皇だ。

この生き方を貫くしか、彼らへの鎮魂にはならないだろう。

 

一般参賀には多くの人たちが集まっていた。

自分の為にこんなにも多くの国民が祝福をしてくれる事に素直に感動した。

しかし、それでも気がはれない。

 

沖縄へ行きたいねえ」

夕食の席で思わずそう呟いてしまった。

すると皇太子が「はい」と答えた。

何とか行けないものかね」

はい。そういたしましょう

毎年繰り返される言葉。皇太子夫妻は沖縄でテロに合い、危なかった。

その時以来、天皇の沖縄訪問は白紙に戻ったまま・・・・

それほどにと思いつつもそれでも行かなくてはならないのだという思いもある。

戦後の総決算をしてやらなくては次代に譲れない。

そうそう、ヒロノミヤのお妃選びはどうなってるの?」

あまり暗い話題ではどうかと思い、今話題のヒロノミヤの結婚話をしてみる

事にした。

ヒロノミヤは留学から帰って学習院の修士課程を卒業した。

その後は青年皇族として公務に励んでいる。アヤノミヤも去年、成年式を迎えた。

背が高いアーヤの衣冠束帯姿は光源氏のようだった。

可愛いノリノミヤもすくすく育っているし。

実は・・・

皇太子が言葉を濁す。

どうしたの?何か悪い事でも?」

いや・・ヒロノミヤは好きな女性が出来たようなのです」

それはいいね。誰?どこのお嬢さん?」

それが・・・外務省の外交官の娘なのですが」

外交官の娘?」

はい。しかしその娘の母方がチッソの社長でして」

チッソ・・・・あの水俣病を引き起こした。

戦後最大の公害病と言われる水俣病。その会社社長の孫娘?

チッソは今も係争中ですし、その社長の暴言などがあり、評判もよくありません。

しかしヒロノミヤは」

結婚は、国民に祝福してもらうようなのがいいね。瑕があるとそれだけ本人も

苦しむことになるし。チッソはダメだね。外交官というのもどうか。政治にかかわりの

ある家から妃を迎える事はよくない」

天皇ははっきりとそういった。

でも何ゆえにヒロノミヤはそんな女性を好きになった?

どれ程の美女なのか?言われてあきらめる様なタイプだったろうか。

一度、話をしたいから参内させなさい

天皇はそういった。まだ先のこととはいうえ、ヒロノミヤは将来天皇になる身分だ。

自分の好き嫌いだけで結婚は出来ない。

そのことはきちんと話をしなくては。

ああ、それとアーヤには分類を手伝ってもらってるからね。アヤメの」

アヤメ?」

「うん。那須にヒオウギアヤメというのがあってね。それがいくつかに分かれて

いるんだけどなぜそうなったか・・・それを知りたいんだよ。アーヤは熱心に手伝って

くれるから助かるね。あれは植物より動物の方が好きなの?」

はい。学習院にはそういう科がありませんから法学部を選びましたが、いずれ

留学して動物学をおさめたいようです」

そう。それはいいね。では日本にいる間にせいぜい那須に呼ばなくてはね」

天皇はにっこり笑った。

孫達は順調に育っている。もう何も言うことはないのだが・・・・

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」35(フィクションよね)

2011-12-25 09:19:43 | 小説「天皇の母1話ー100話

イリエさん。皇后陛下が・・・女官長さんが困ってます

部下からの報告にイリエは重い腰を上げた。

皇后さん・・・ボケてしまわれたんやろか・・多分そうやろうなあ」

彼はぼんやりと考えた。

その原因を「腰椎骨折の時に外科手術をしなかったせい」と言われたのは知っている。

その責任を自分に追及されていることも。

外科手術させなかった張本人は自分なのだから。

(しかたないやないか。皇后さんは皇族や、神聖なお体なんや。なのにメスを入れる

なんてそんな事あってはならん。どうしてもダメや)

イリエの私室がノックされて、車椅子姿の皇后が入ってきた。

相変わらずふくよかで可愛らしい。不敬ながらも可愛らしさは昔と同じや。

こんなに可愛らしくあれるのは穢れがないから。童女のように清らかだから。

イリエ

皇后は自分の名前は覚えているみたいだった。

はい。陛下」

女官長が私の服装を注意するの。古い宮廷服は着ないでって。でも仕方ない。

今は非常時なんだもの。贅沢を言ってる時代じゃないわね」

「・・・・・・」

どうやら皇后の意識は戦時中へ飛んでいるようだ。

陛下、今は平和ですよ。戦後40年ですからね。40年も日本は戦争をせずに

頑張ってきたのです。それもこれもみなお上のご威光でございましょう」

そうね。きっと。そういえばお上はどこ?お上の所に連れて行ってね」

車椅子は静かに部屋を出て行った。

 

戦後40年・・・・・民主主義の下、「人間宣言」した天皇は40年も君臨出来たのだ。

戦争が終わった直後、天皇は「大元帥陛下」でも「現人神」でもない「人間」に

なった瞬間、皇室は終わったと思った。

11宮家が臣籍降下し、華族制度がなくなった時、今度こそもうだめかもと思った。

でも戦後の皇室は「戦後」という世相に合わせて努力して変わってきた。

その最大たる功績が民間から皇太子妃を迎えたことだろう。

あの時の皇后様達の反対っぷりと言ったら・・・・でも、あんな元気な頃が懐かしい。

民間出身の皇太子妃の評判は上々というかそれ以上。

ゆえに旧華族・皇族らからは憎まれ、結果的に皇太子夫妻と彼らとの絆を断ち切った

結果になった。

ミチコの悪口を言うあの人たちは一体何者だというんだろう。考えが古すぎる。

いずれミチコの方が位が上になるというのに」

皇太子はそう呟いた。新しい時代の申し子である皇太子は「開かれた皇室」の

実践には積極的で、また「国民と共に歩む」というスローガンを掲げ、次から次へと

公務を増やしており、またそれは非常に好評だ。

天皇はそんな皇太子に「東宮ちゃんがいるから大丈夫」と太鼓判を押した。

まあ、「大元帥陛下」だった天皇にはそこまでやるか?という思いも多分にある。

けれど、「今は時代が違うのだから」と口を挟まない。

天皇自身、「自分は古い人間だしね」とおっしゃる。

けれど・・・とイリエは思う。

皇室に古いも新しいもあるか」と。

古代より皇室は万世一系として脈々と受け継がれてきた。戦、内乱、不正、闘争が

あっても皇室は男系で繋がって着た。その歴史は2000年にもなる。

世界一の血筋と歴史を持つ皇室の長にいるのが陛下で、次世代は皇太子。

無論、時代によって皇室の役割も様々に変わってきた。

でも、ただ一つ「神聖」という意味では絶対に変わっていないと思う。

皇室は神道の総帥であり、神がやどる場所である。

本当に存在を脅かすような者が現れたら自浄作用が働き、排除されてきた。

かの、光明皇后・・・あれもまた藤原の娘として初めて皇后になりそれまでの慣例を

打ち破った。

いわば藤原氏と時の天皇の思惑が一致したのだ。

さらに、その血筋を天皇の座につけんと、阿部内親王を無理やり皇太子に立てて

二度も天皇の座につけた。

しかし・・・結果的に女系になる事はなかった。藤原4兄弟の野望は家柄といい血筋

といい聖武天皇よりずっとよかった長屋王の死によって濯がれた。

家康の孫が無理無理後水尾天皇に嫁いだ時もそうだった。

間に生まれた女一ノ宮は早々に皇位についただ結局はそれ1代に終わった。

皇室とはそういう場所なのだ。

 

しかし・・・そのことを皇太子はわかっているだろうか。

民間出身の皇后が産んだ男子の血が今後とも脈々と続いていくかどうか。

それは神のみぞ知るだ。

11宮家の中でも断絶した家は多い。けれど降下するときの

もし一朝事があった時にはいつでも皇籍に復帰できるように身を慎むこと」

という天皇の言葉を守り、今もって清い生活をして男系をつないでいる家もある。

それらをいっしょくたに「何者か」というのは、皇太子のあさはかな考えではない

だろうか。確かに皇太子には2人の男系男子がいる。

しかし、二人とも結婚し子供が出来る保証はどこにもない。

天皇の弟は3人いたけど、子供が生まれたのは末っ子のミカサノミヤケのみ。

ミカサノミヤケには男子が3人生まれたが、長男のトモヒトはガン。次男も病気がちで

しかもいまだに独身。三男のタカマドノミヤには3人の娘しかいない。

ヒタチノミヤは元々子種がない。

何よりも皇太子は自分がどのようにして生まれてきたかを自覚すべきだ。

要するに先細り。いずれ旧皇族に復帰を願って男系をつながなくてはならない時代が

やってくるのではないだろうか。

確率的には二人の兄と弟に男子が生まれる可能性は低い。

ゆえに・・・・と、イリエは思う。

やっぱり東宮さんはもう少し旧皇族・華族連合とは仲良くしなくてはならない。

皇室には藩屏が必要だ。これがなければ自浄作用は働かない。

もしかして知らず知らずのうちに禍々しいものが入り込んでしまったら・・・・・

 

何だか疲れた。

お上はわかっていらっしゃらない。皇室の危機だという事を。

今こそ、「皇統」に関してお上の考えを表に出すべきなのに。

重い足取りで帰路につく。宮内庁の庁舎を振り返り、宮内庁病院を振り返った。

何もかもむなしいなあ・・・・

二重橋。かつて華やかな馬車の音が鳴り響いた・・・・馬こそがふさわしい二重橋。

でも、馬は馬糞を出すから使わないらしい。

馬糞ごとき掃除をすればいいじゃないかと思うが、それすら困難な世の中。

一体戦後の繁栄とはなんだったのだ?

 

イリエは自宅へ帰り、眠りについた。永遠の。

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」34(フィクションだわ)

2011-12-13 17:24:13 | 小説「天皇の母1話ー100話

ねえ、ミーヤ」

もうすぐ中学生になろうという時期の6年生は何となくあわただしい。

とはいえ、そこは学習院。初等科から中等科に上がるだけなのだが。

しかし、中学へいけば「女子」と「男子」に分かれる。

女の子達だけの学年ってどんな感じなのかしら?

ミーヤは皇族だから、将来結婚するのは王子様?」

聞いてきたのは同じクラスの子だ。

ミーヤというのはノリノミヤの愛称。「宮」だから「ミーヤ」とは単純。

どうやら最近、ヒロノミヤのお兄様の「お妃」候補問題がテレビに出るようになったので

話題になっているらしい。

さあ。私はよくわからないけど・・・」

きっとどこかの国の王子様がプロポーズしてくるんじゃない?いいなあ」

王子様ってどこの?少なくとも日本で王子様といえば二人の兄だけだし。

日本の皇族が外国人と結婚できるのかどうか・・・それすらわからない。

ダイアナ妃って本当に綺麗だったし結婚式のドレスもふんわりしてて素敵だったわ。

なんたってガラスの馬車がシンデレラに出てくるみたいで憧れちゃった。あんな人が

お姉さまだったらいいと思わない?」

そうねえ。ダイアナ妃は目がさめるくらい綺麗だったんですって」

皇太子夫妻はチャールズ・ダイアナの結婚式に行ったのだった。

大英帝国の栄華よ再び・・・という壮大な結婚式の模様は衛星中継された。

夜遅かったので見せて貰えなかったけど、次の日から毎日のように報道されていた。

ダイアナ妃はもうすぐ20歳で金髪で青い目の可愛い人だなと思った。

ボリュームたっぷりのウエディングドレスと裾が長いベール。まさに少女マンガから

抜け出たような。

日本はウエディングドレスじゃないの?」

皇族の学友をやっていながらこの程度の知識しかないのは仕方ないのかも。

ミーヤの時代では皇族そのものが意味不明の部分もあるから。

十二単よ」

母の紅色の十二単は毎年の皇室特番の目玉だ。飽きる程見ている。

唐衣もかつらもとても重かったのよ。特に髪の毛がびんつけ油で固まって

しまってね」

とよく聞かされた覚えが。

ダイアナ妃がお姉さまだったら嬉しくない?」

そうねえ。綺麗だものね」

まぶしすぎて会う度に気後れしてしまうかも。母の美しさにも気後れしてしまうのに。

つくづく母に似なかった事が悔やまれる・・・とみんな思っているのかも。

そんな空気は何となくわかるのだ。

私、結婚するなら三浦友和がいいわ。百恵さんみたいに教会で結婚式するの」

まあ・・教会で」

そうよ。ミーヤは?理想の旦那様はどんな人?」

と聞かれてノリノミヤは答えに窮した。

そんな事、考えた事もない・・・けど、頭にすぐ浮かぶ顔。それは兄・アヤノミヤ。

アーヤお兄様みたいに背が高くてハンサムで・・でもお兄様はすぐに私を

からかって泣かせるし)

ノリノミヤにとって一番身近な男性は兄二人だった。

特に歳の近いアヤノミヤとは仲良しだったけど、ことあるごとにノリノミヤにちょっかい

を出しては泣かせて母に叱られている。

「ごめんね」って謝られると「よろしくてよ」って答えてしまうのだが、数分後には

また・・・それで東宮御所はいつもにぎやかだと言われていた。

ねえ、ミーヤ。理想の芸能人とかいないの?」

あ・・里見浩太郎

え?」

学友が一気にひいたような気がした。

ルパン三世でもいいわ」

そうだった・・・ミーヤは時代劇とアニメが好きなんだったわね。でも里見浩太郎は

おじさんよ。長七郎様が理想なの?」

助さんも好きよ。他にも一杯いるけど」

わかったわかった・・・それでルパンはなぜ?架空の人物じゃない」

あら、ルパンのよさがわからないなんて信じられないわ。「カリオストロの城」を

見た?素敵な「おじさま」だったのよ。クラリスがね・・」

はいはい」

もう聞いてくれなかった。ルパン三世はアニメ界の不朽の名作だと思ってる。

特に宮崎駿の「カリオストロの城」は本当に素敵だったもの・・・うまく言葉では

表現できないけれど、心の中でおおむね、そんな事を考えていたのだ。

いつかクラリスのドレスを着たいわね)

漠然とだがノリノミヤの心に憧れが登場した。

(お兄様と結婚なさる方は優しい方がいいわ。一緒におしゃべりしたりケーキを

焼いたり出来るような。だって私、お姉さまが欲しかったんだもの。お姉さまと二人で

アニメや時代劇の話をするの。それからおそろいの服を着たりして)

妄想が膨らんでいく・・・・自分勝手な「兄嫁」の妄想ではあったがノリノミヤには

それが精一杯だった。

女子中等科にいる帰国子女がすっごく可愛いんだって」

男子中等科のクラスは3学期なのにのんびりしていた。

アヤノミヤの学友はみんな持ち上がりで高等部に行くから受験の心配がない。

世の中受験戦争まっさかりだというのに、全く別の空気がここには流れていた。

帰国子女?」

アヤノミヤはちらりと反応した。

帰国子女・・・という言葉は最近の流行語だ。

生まれも育ちも外国で日本語が不自由だったり、自分の感情をストレートにぶつける

性格が災いして学校に馴染めずいじめられたりしているという。

一方で「帰国子女」といえば「秀才」の代名詞にもなっている。

英語が堪能で発音がネイティブ。それが日本の学校社会の中では

羨望と嫉妬を生み出すのだ。

「人と同じように」としつけられる日本人と違って、帰国子女は

「何でも言葉できちんと説明できるように」教育される。弁が立つし、相手に対しても

ものおじしない。でもそういうありかたが日本では嫌われてしまう。

帰国子女っていう事は英語が得意なのか?」

ドイツ語も話せるんだって。1年前にアメリカから帰国したらしいけど

最初は日本語が下手だったみたいだけど、今はぺらぺらだってよ」

殿下のお妃は帰国子女がいいんじゃないの?最先端な感じで」

アヤノミヤは学友の言葉を無視して本をめくっていた。

きっと兄宮はそういう人をみつけるかも」

そうだな。僕は気楽な次男坊だから

話がずれた。ほら、女子部の帰国子女の話。なんかとってもおっとりして

いるんだって。テンポが人と違うって」

どう?」

わからないよ。女子部に忍び込むわけにはいかないだろ?でも帰国子女って

何でも口に出してズケズケいうイメージないかい?でも彼女はそうじゃなくて

妙におっとりしててこちらが・・・あららーーってなるらしい」

今時そんな女の子がいるならぜひ付き合いたい」

と誰かが言った。

そういう子はきっとおしとやかで三つ編みなんかしちゃってさ。

朝、校門の前で手作りの弁当なんかを持って待っててくれたら。いやーー最高!」

アヤノミヤは知らん振りして本めくる。女は新珠美千代以外は認めない。

なんたってあの人こそ理想の女性だ。でもそんな事を口にすれば「マザコン」と

言われそうなので我慢している。

その女子中等科の帰国子女がどんなに可愛らしくても、新珠美千代に匹敵

するはずがない。

ところでさっきから何を熱心に読んでるんだい?植物学の本?」

ああ・・おじじさまに手伝わされてる分類

おじじさまって・・・天皇陛下・・・」

そう。御所に上がるたびに質問されるから答えられるようにしとかないと。

昔はこういう事は全部おばばさまの仕事だったんだけど、お加減を悪くしてからは

それは僕の役割になったんだ。僕は動物の方が好きなんだけど」

相手は陛下だもんんあ。すごいおじいちゃんを持つと大変だよなあ」

そうそう。だから早く兄には結婚してもらわないと。せいぜい植物学好きな

あるいは父のハゼに興味がある人がいいかなあ。で」

帰国子女」

どっちでもいいけど日本が好きな人」

アヤノミヤは笑って答えた。

ところで、その子の名前は?」

何ていったかなあ・・・自転車の車輪みたいな名前で・・・」

違うよ。ガラスをひっかく音だよ」

なんだい?そりゃあ」

キコ・・たしかキコっていってた」

アヤノミヤは別段興味を持たなかった。

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韓国史劇風小説「天皇の母」33(フィクション!!)

2011-12-04 12:10:05 | 小説「天皇の母1話ー100話

開かれた皇室」という言葉は、皇太子夫妻のキャッチフレーズだった。

戦前の「大元帥陛下」のイメージを持つ天皇と対照的に、好意的に受け取られた。

なぜなら世の中は、戦前の全てを否定しようという動きに染まっていたから。

子供は音楽の授業で「君が代」を習うが、堂々と「国歌」と言ってはいけないムードが

そこにあり、日の丸も天皇という言葉も何となくタブーだった。

左による右の圧迫が強かったのである。

例えば「日の丸が好き」なんぞと言ってしまうと「右翼なの?」と言われるように・・・・・

そうした「戦争をイメージさせる君が代、日の丸、天皇廃絶運動」の中で

開かれた皇室」「ミチコ妃殿下」という言葉だけは明るいイメージと共に容認された。

この二つの言葉がなかったら「皇室」はもっともっと国民からかけ離れた存在に

なってしまったかもしれない。

開かれた皇室とは何なのか。

・ 皇族のプライバシーを公開する

・ 皇室の活動を公開する

・ 庶民と変わりない皇族の生活を公開する

という事に他ならない。

国民はヒロノミヤが庶民と同じようにアニメを見て喜べば「ああ、同じなのね」と

安心し、ミチコ妃の華麗なファッションに胸をときめかせ、夏の軽井沢のテニスコート

の一家静養風景が一種の憧れとなった。

 

無論、皇太子夫妻はそれだけが「開かれた皇室」とは思っていなかった。

天皇が全国を行脚したように、自分達もまた全国を行脚し施設を回り、老人や

障害者に心を寄せ、この事によって日の当たらない人々に関心が向くようにと

しむけた。

また、天皇以上に祭祀を重要視する事で「皇室のあり方」を体現しようとした。

皇太子夫妻の「公務」は生真面目すぎる程に生真面目で、まるで自転車操業

する工場のように仕事が増え続けていく。

また、外国の王室との付き合いも重要な仕事の一つで、訪問する、される立場に

よって何もかも完璧な「思いやり」を自分達に課す。

例えば、妃が身につける服の色や柄やブローチ一つにも相手国への気遣いを

感じさせる何かを入れるとか・・言葉一つとっても慎重に考え抜かれたもので

なければいけないとか。

天皇・皇后がゆったりと自然体でそこに存在しているのに、皇太子夫妻はそうでは

なかった。

立ち居振る舞いの一つ一つに意味があり、会話の一つ一つに形がある。

あ、そう」が天皇の口癖で「今日は・・・よく来てくれて」が園遊会での定番台詞。

でも皇太子夫妻にかかれば「よく来て下さいましたね。ありがとう」というしゃちこばった

響きになった。

天皇が柔道の選手に「骨がおれるだろうね」と発言し、相手が「はい、骨折しました」と

答えて大笑いしたような出来事は皇太子夫妻には起こらない。

むしろ「このお二人は、こんな自分の事をどこまでもよくご存知でいらっしゃる」という

驚きの方が先に立つ。

〇年前のどこそこに訪問した時、〇した事を全部覚えていて下さって

が大方の感想になる。それは外国でも同じで、たとえそれが10年前の出来事だろうと

20年前の出来事であろうと、皇太子夫妻は絶対に覚えていて、会話の中に

織り込むので、相手方も絶対に気が抜けない。

そのような「完璧」な皇太子夫妻に疑問を挟む人など一人もいなかった。

 

皇太子妃は年に1度、ノリノミヤを連れて私的な旅行にでかけたが、それすら

「母と娘の楽しい旅行」では終わらせない。

いつか庶民になる娘が困らないように世間の常識を教え込む」

「皇族としてどう振舞うべきか教え込む」という意義がそこにあった。

素直に育った娘は、母以上に「自己犠牲」が強く育ってしまい、年頃になっても

服装は地味でおしゃれの一つもせず、唯一の趣味が時代劇とアニメオタクで

贅沢が学友とこっそり行ったディズニーランド・・・という、いわゆる遠慮を地で行く

生活を送っていた。

そんな妹宮を可愛がったのは兄のアヤノミヤで、忙しい両親に代わって妹の

運動会で「頑張れ」と声援を送り、ちょこちょこちょっかいを出しては怒ったり

笑ったり・・・いつしか妹の理想は兄になり、兄は常に頭の片隅に妹の行く末を

見ていた。

 

ヒロノミヤにとって大学生活と留学は、人生の中で最も華やかで幸せな時代と

なった。

世間は大学生になった途端に「お妃候補」と騒ぎ始め、成年式を迎える頃には

さらに盛り上がり、数々の令嬢の名前が挙がっては消えていく・・・

自分も結構モテるんじゃないかと思ったのも事実。

18の頃に覚えた酒の味は格別で、弟に「ザルです」と発言されてもかまわなかった。

ヒロノミヤは世間では

成績がよくしっかり者の長男で、誰に対しても平等な態度を取る帝王学を

身に着けた王子で、その癖、柏原芳恵のファンで留学先の部屋には

ブルック・シールズのポスターを貼る・・ごく一般的な青年像を持っている」

一方、アヤノミヤは「やんちゃな次男坊」で定着していた。

兄に比べると落ち着きがなく、学校の成績も悪く言葉遣いもあまりに普通。

変におしゃれでブレスレットをしたりサングラスをかけたりと「皇族らしくない」少年。

弟は何の引き立て役でしかないと誰もが信じていた。

ヒロノミヤはそういう世間のイメージが、誰によって操作されたものか全くわかって

いなかった。ただ、自分が結構国民に愛されていること。普通の感覚を持っている

事が好意的に受け取られていること。そして誰が自分の妻になるか興味深々で

見守っている事に優越感と喜びを感じていた。

 

実際、彼ほど恵まれた青年はいなかったろう。

祖父は偉大なる天皇。祖母も皇族出身。母は日本一美しく上品な憧れの女性。

常に侍従にかしずかれ弟や妹とは別格の待遇が約束されている。

イギリスへ留学すれば女王みずからがお茶を入れて迎えてくれる。

それもこれも自分が「皇位継承者第2位」の立場にいるからだ。

いずれ天皇になれば堅苦しい生活を送らねばならないと同情もされ、大方の

事は大目に見てくれる。

学友とどんちゃん騒ぎをやろうとも、ロンドンのパブにドレスコードを無視して

入ろうとした事も、寮の洗濯機から泡が吹き出ようとも、全ては「愛すべきヒロノミヤ」

ですまされた。

彼には学問として追求する事がなかった。

一応、留学もするし学位もとるから「テムズの流れと共に」という本を書いたけど

心からテムズ川を研究しようと思ったわけではないし、弟のように動物に夢中に

なったり妹のようにアニメに夢中になったり・・・というものがない。

趣味と言えば「登山」で、それも高い山を極めようというのではなく、景色のいい

山をただ歩く事が好きなだけだ。

テニスも一応得意だったけれど、弟のように代表になるわけじゃないし、ビオラの

演奏は続けていたけど、特別好きだったわけではない。ただ何となく・・・

そうヒロノミヤのキーワードは「なんとなく」なのだ。

それは学者である祖父や父には絶対に理解されないだろうし、そもそも理系の

祖父や父とは完璧に話が合わない。

植物やハゼの分類の何が楽しいのだろう?アヤノミヤはしょっちゅう天皇の下に通って

手伝いをしているし、自らもそっちの方向に進みたいと思っているようだ。

でも、自分jは小さい頃から生物、動物は触るのも嫌だし・・・仕方ないから

「自分は文系」と位置づけて、「音楽に親しみ歴史が好きな」というイメージを

作ってきただけなのだ。

 

その違和感は誰も知らないうちに彼の心の中に大きな「影」を作っていた。

家族の中で自分一人が「何にも秀でるものがない」というのは、結構なコンプレックス

だ。和歌に秀で、文学に通じる母でもなく、成績がよく何にでも一定の理解を示す妹でも

なく、動物オタクの弟でもない。

「平等な性格」と言われているが、本当は誰とも深い付き合いをする事が出来ない

だけだった。本当は話す事が苦手で気の効いた会話が出来ない。

専門的な話になると途端に腰がひけていまうし、そうかといって、学友達のように

世間に通じているわけでもないし。

イギリスに留学し、修士論文を書いていたころは何となく、それでも生きていけたが

帰国して一層「お妃」の話をされるようになると、その事が重ったるくて仕方なかった。

一体、周りは自分に何を求めているのだろうか。

母以上の妃を持たないといけない?

祖父と父以上の学問をおさめろと?

チャールズやアンドリューのようにしゃれっ気がありユーモアにとんで、女性とも

ラフな付き合いをするような生活をすればいいのだろうか?

でも、ここは日本でイギリスのような自由な世界ではない。どこへ行くにも侍従が

ついてくるし、ロンドンのパブのように気軽に酒場に入るわけにもいかない。

女性との付き合いに至っては、そんな社交場はないんだもの。

ああ、なんて日本の皇室は旧弊で不自由なんだろう。青春を送る自分に自由に

出歩ける場所すら確保してくれないのだから。

日本の警備は厳しすぎると思います」

帰国後、これを言ったら大きくマスコミに取り上げられて大好評だった。

そう、自分の考えは間違っていない。もっと自由にならなくちゃ。

もう少し遊んでもいい筈だし、外を歩いてもいい筈だ。

調子に乗って「お妃の理想は?」と聞かれて

自分と価値観の会う人。ティファニーであれやこれや買う人では困る」と言ったら

母に「固有名詞を出したら失礼でしょう?」と叱られ、そのフォローに母は

わざわざティファニーで宝石を買った。

でも何が失礼だったのか、自分にはわからなかった・・・・

 

そいて「お妃選び」が進展しない事も理解できなかったのだった。

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韓国史劇風小説「天皇の母」32(フィクションだから)

2011-11-27 10:59:43 | 小説「天皇の母1話ー100話

マサコさんの進学を受け入れる事は出来ないそうです」

田園調布フタバの中等部の一室でそう宣言されたユミコは「もしや」とは思って

いたが本当にそう宣言されるとは思っていなかった。

この学校には下の双子も通っているし、寄付金だって弾んでいる筈。

何でうちのまーちゃんだけがダメなのか?

成績は悪くない筈で高等部進学は問題ないはずですが」

成績ではありません

教師はため息をついた。

素行に問題があるのです

素行?何か問題を起こしたかしら?確かにまーちゃんはハイになるとやりすぎる事が

あるけど、でもそれって普通の女の子なら誰でもあることで。

お嬢様は非常に・・・何といいますか・・・正直、我が校の校風に合わないと

申しますか、ある意味容赦ない方でいらっしゃる」

容赦ないって・・・どういう事?

小学校の時から担任の教師らからそういう報告は受けておりますが、最近になって

さらに拍車がかかっているように思います」

お話の意味がよくわかりません」

お母様はご存じないのですか?」

と、教師は呆れた顔をした。こんな顔をされるとは心外だった。

夫は外交官で私はエガシラ家の娘よ。学歴だってお金だって一般人とは比べ物に

ならないのに。何でそんな侮辱を?

例えば・・・小学校時代でしたか。ドッジボールで相手を容赦なく叩きのめし

泣かせた事件が多々ございます。そこまでしなくてもと思うのに執拗に追廻し

もはやゲームの域を超えていました。でもその当時はたかが小学生のやる事だしと

誰もが冷静に受け止めていたのです」

ああ・・とユミコは思い当たる節があった。

それはねずみの話。生物部に入っていたまーちゃんが、ハツカネズミを3匹持ち帰り

漬物樽に入れていたらそれが増えに増えて50匹以上になり、それがある日

樽を破って逃げたので保健所を呼ぶ大騒ぎになった事件。

でもそれってあの子が観察好きで研究家肌である証拠よね。

へんてこなイモの根を拾って庭に植えたら、知らないうちに庭中に根を張って

大変な事になった・・あれだってあの子の個性だわ。

でも中学に入り、よくないお仲間が出来たのでしょうか?学校では禁止している

のに野球選手のおっかけ等をやり始めてあやうく補導される所でしたわね」

あああれ・・・でもあれはまーちゃんが好きだった巨人の選手が悪いのよ。

中学生がおっかけしているなら「帰りなさい」って言えばいいのに、一緒に写真まで

撮っちゃって・・・

ソフトボール部でのお振る舞いもあるまじきことでした」

だってあれは部長のまーちゃんの言う事をきかない部員が悪かったのよ。

反抗されたら誰だって合宿所を抜け出したくなるじゃない。でもあれは私がアイスクリーム

を持って一件一件回ってお詫びして済んだ事じゃないの?

国語の時間に「体育に変更になりました」と黒板に書いて、生徒全員をベランダに

隠して授業妨害した事もありましたっけね。

録音機を使ってサイレンを鳴らし、「火事だ」と叫んで大騒ぎになった事もありました。

修学旅行では「急病人が出た」と言って旅行会社の方を呼び出して

部屋に閉じ込めた事もございましたし、夜中に缶詰やらマヨネーズを持ち込んで

宴会を開いたとの証言もございます。

そうそう、我が校は敬虔なるカトリック校ですが、よりにもよって

祭壇のホスチアを盗み食いいた事件もございましたっけ」

次から次へと列挙される事をユミコはほとんど覚えていなかった。

多分、担任から連絡がきていた筈だったが、ユミコとしては一貫して

まーちゃんだけが悪いわけじゃないから」と事を重要視してこなかったのである。

我が校は私立の名門として一定の品格を保っておりますが、お嬢様のお振る舞いは

常軌を逸しています。公立校なら受け入れる事柄でも私立では許されない事が

多々あるのです。というわけで、高等部としてはお嬢様を受け入れるわけには

いかないとの判断がございました。今から外部を受験された方がよろしいかと」

ちょっと待ってください。うちの娘がした事はそんなに大げさな事なのですか?

スポーツ選手を好きになったり、いたずらをするというような事はあの年頃なら

誰でも一度は経験する事じゃないのでしょうか?

なぜうちの娘だけがそんな扱いを受けなくてはならないのですか」

危険性を感じるからです」

危険性?」

お母様としてはお嬢様のお振る舞いをよくある事として認識されているようですが

私達は児童心理学や精神分析学等をもとにして判断しております。

お嬢様は精神的に不安定な部分がおありになるのでは?周囲の注目を集めたい

誰かに気にして貰いたいなどの不安が行動を起こさせているような・・・という

分析結果もございます。心当たりはございますか?」

「いいえ、全く。うちは普通の家庭ですもの」

そうですか。では単に性格的な問題だとするとさらに校風に合わないという事です。

エスカレートして本当に大事になれば我が校の名誉に関わりますから」

 

何とも厳しすぎる教師の言葉にユミコは屈辱的な思いで帰宅した。

母親のお前がしっかり管理していないからそういう事になるんだ」

夫には責められた。

何でそういう話に?私はちゃんとやってるわよ。あなたこそ無関心だったじゃない。

確かにまーちゃんはちょっと変わってるかもしれないけどそれって個性でしょ?

それを認めない回りが悪いのよ。これは差別だわ。きっとあの子がチッソの孫

だと吹聴した人間がいるのよ。名誉毀損よ。訴えてやるわ」

馬鹿な。そんな事をしたらレイコとセツコはどうなるんだ?全くお前は。

仮に差別なら後から十二分に仕返しをしてやればいいさ。あんな学校よりも

ずっと上の学校へ通わせればいい」

どういう事?」

あと1年程で海外勤務になる。そしたらマサコを留学させればいい。

それまでは高等部で面倒を見てもらえ。転校を前提にすれば誰も文句は言うまい」

 

ごたごたの末にマサコは高等部への進学が許されたが、このときの屈辱感は

親としては消化しがたいものだった。

外務省勤務の外交官の家柄なんて重要視されないという事か?

もっと権力を持たなくては。

何をやっても文句をつけられることのないように。たとえ出来損ないの娘でも

全てがひれふすような環境を作り上げてやる。

一方ユミコは「この人はまだ男の子を産めなかった私を責めている」と思っていた。

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」31

2011-11-13 17:18:36 | 小説「天皇の母1話ー100話

1978年、ヒロノミヤは無事に学習院高等科を卒業、アヤノミヤは初等科を卒業

した。

ハマオは感慨深い面持ちで「お二人の卒業を祝う会」を見守っていた。

音楽が流れる中、皇太子夫妻も出席し、これまでの二人の宮が関わった人達が

多数招待されて華やかに宴席は続く。

アヤノミヤは日頃のやんちゃ坊主の姿はどこへやら、ちょっとしっかりした顔つきで

恩師に挨拶をしたり、時々は面白い事を言って周囲を笑わせている。

そんなアヤノミヤを見るにつけ、ハマオの心に一抹の不安がよぎる。

(アヤノミヤ様は利発すぎるのだ)

それが何だかわからないが不愉快でしょうがない。

かつてイリエが「ご優秀なヒロノミヤさん、やんちゃなアヤノミヤさんの印象を植え付けない

とヒロノミヤの地位が危ない」と語った事がある。

イリエの考えは的を得ている筈だ。

なんと言っても天皇の側近中の側近。

天皇がヒロノミヤよりもアヤノミヤを心から可愛がっている事はウラでは

公然の秘密である。

アヤノミヤは生物好き。小さい頃から動物も爬虫類も昆虫も、ありとあらゆる

生き物に興味を持って実際に飼ってみたり、手にとってみたり、いわゆる

「研究者の真似事」が大好きだ。

それは父、皇太子も祖父、天皇も好ましく思い、ついついアヤノミヤに会うと

自分の研究の段階がどの程度なのか専門的な話をしてしまう。

それをまた興味津々の顔でよく聞くから、一層可愛く思える・・・らしい。

アヤノミヤはまた書道の腕もたいしたものだった。

タカマツノミヤ妃から直々に有栖川流を伝授され、

その上達の速さを妃が気に入っているという話。

キク君は皇后やセツ君らと共に皇太子妃排除に動いた妃の一人だったが

アヤノミヤと、またその下のノリノミヤを非常に可愛がり、特にノリノミヤは

「実の娘のように」扱われているという話。

数々の確執も、アヤノミヤ、ノリノミヤ二人の存在で和らいで来ているのは事実。

そうなると、ヒロノミヤは?

 

ヒロノミヤの誕生は四面楚歌の皇太子妃にとって唯一の救いだった。

もしあの時、生まれたのが内親王だったらどれ程妃は苦労しただろう。

そういう思いもあったし、皇太子誕生までの長い年月を苦労した天皇にとって

結婚1年目での皇孫誕生は心から暗雲を吹き消す慶事だった。

だからこそ、自分のようなものが側について厳しくも優しく仕えて来たのではないか。

しかし・・・・

元々ヒロノミヤは感情表現に乏しい面があり、「利発」とは程遠い子供だった。

万博にアヤノミヤと二人だけで見学した時は「一度だけ」の約束だった乗り物に

もう一度乗りたいと言い出し、きかなかったので許したが、おかげで大勢の客に

迷惑をかける結果になり、それをその後皇太子夫妻に叱られた。

父宮に叱られても「なぜか」とは考えず、その場をやりすごす事を先に考える。

高等科の時は教師に「窓を少しあけて」と言われたら全開し、「閉めて」と言ったら

全部閉めた・・・というのは有名な話になりつつあるし、

他にも給食でみかんが出てきたら皮がむかれてないので、そのまま持ち帰ったとか

高等科の第二外国語のフランス語を早々に放棄してしまった話など・・・

なんと言うか「ご優秀」には程遠いエピソードだらけである。

しかし、それらは今の所「人間らしいヒロノミヤ様」という仮面に守られて

国民にもそこそこ人気である。

このまま大学にすすめばすぐに「お妃」候補の話が出てくるだろう。

ハマオはため息をついた。

どんな女性が宮のお妃になるのやら・・・・とにかくしっかりしたお妃を貰って

くれないと自分達が一生懸命に固めたメッキがはがれてしまう。

 

津軽海峡冬景色を歌います」

と、ヒロノミヤが大声で言い、回りは一瞬「ギョッ」となった。

祝宴で演歌?それも「津軽海峡冬景色」?

(殿下・・・歌うならもう少し明るくてポピュラーな歌を・・・・)

もう遅い。ヒロノミヤは歌いだしてしまった。

それも延々と二番まで。

周りはどんな顔をしたらいいのかわからず、ひたすらにこにことしているしか

なかった。皇太子夫妻も笑って拍手している。

微妙な空気が流れた。

それを破ったのはアヤノミヤだった。

僕、ピアノを弾きますね」

すぐに軽快なテンポの曲が流れる。決して難しい曲ではなかったが、その場の

雰囲気を変えるには十分すぎた。

わかっている・・・ヒロノミヤは思いやりのつもりで歌ったのだ。

今日いる恩師の中に石川さゆりのファンがいたのだ。ヒロノミヤはそれを

知って喜ばせようとしただけだ。

それにしても・・・・殿下は自分の感情に正直すぎる。

感情が回りにどういう影響を及ぼすかを計算出来ない性質なのだ。

おまけに臨機応変に対応するのが苦手ときている。

それをさりげなくフォローするアヤノミヤ・・・まだ12歳だ。

恐ろしい。

 

「オーちゃん、ほら飲んで」

ヒロノミヤが楽しそうにワインをついでくれた。

殿下、大学にお入りになるのですから朝は早起きしてご両親殿下と

ご一緒にお食事を召し上がるようになさらないといけません。

大学では人の目が多いのですから、決して隙を見せないようにして・・・」

わかったわかった。オーちゃん、何もこんな席で言わなくても。ただでさえ

内舎人がうるさいのに。僕、今度生まれてくるときは内舎人にするよ。だって

始終怒ってばかりいればいいんだもの」

そんな。それはそれは全部殿下の為を思えばこそ」

にいさま、僕も内舎人になるね」

いつの間にかアヤノミヤが来て一緒に笑っていた。二人は無邪気に

よーし、生まれ変わったら内舎人になるぞ」と言い合っている。

(頭痛が・・・・・)

ハマオは頭を抱えた。12歳にフォローされる18歳。

自分が施した教育の何かが間違っていたのかもしれない・・・・

でもそれが何だったのかわかららないまま、ハマオは酒をあおった。

 

 

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