米半導体大手エヌビディアは先頃発表した2-4月期決算の売上高で、目玉が飛び出るような数字を示した。イーロン・マスクは最近、人間レベルの人工知能(AI)が来年には登場すると語った。
AI熱に浮かされた列車は今まさに駅を出発するところで、全員が飛び乗るべきなのは間違いないように見える。
AIがコモディティー化する可能性はあるのか、売上高と特に利益を生む見込みはあるのか、ニューエコノミーが本当に生まれようとしているのかと、WSJハイテク担当コラムニスト・クリストファー・ミムズ氏。
このモデルは膨大な量のテキストを消化することで機能するため、今まで単に投入量を増やして能力向上につなげていた面は否めない。だがこのやり方を続けるのに大きな障害となるのは、企業がAI学習用にすでに多少の差はあれ、全てのインターネット上のデータを利用し、吸収すべき追加データが底を突いていることだ。
エンジニアは次世代AIを訓練するため、他のAIが生成したデータである「合成データ」にも目を向けている。この手法は車の自動運転技術の改善に使おうとしたものの成果が出なかった。大規模言語モデルの場合も同様の結果になる証拠が多々ある、と認知科学者のゲイリー・マーカス氏。
チャットGPTのようなAIは初期の頃は急速に能力が向上したが、過去14カ月半はわずかずつの進歩しか見られないとマーカス氏。
AIの改善鈍化の証拠は、さまざまなAIモデルのパフォーマンスの差が埋まりつつあるという調査結果にも見いだせる。優秀な独自開発のAIモデルが能力テストでほぼ同スコアに収束し、メタ・プラットフォームズや仏ミストラルAIのような無料のオープンソースモデルでさえ追いつき始めていると、WSJ・クリストファー・ミムズ氏。
AIのコモディティー化は、オープンAIやアンスロピックなどのAI新興企業の未来は暗いかもしれないと、アンシュ・シャーマ氏が考える理由の一つだ。同氏は米ビジネスソフトウエア大手セールスフォースの元バイスプレジデントで、現在はデータやAIプライバシーの新興企業スカイフローの最高経営責任者(CEO)を務めている。
マイクロソフトやグーグルのような大企業がAI投資に見合う十分なユーザーを呼び込むことにはシャーマ氏は楽観的だ。しかしそれには長期にわたり巨額の資金をつぎ込む必要があるため、どれだけ資金を調達できるにせよ、AI新興企業は比較的わずかな軍資金しかないため、太刀打ちできないと。
この状況はすでに起きている。AI新興企業の一部はすでに混乱に陥り、例えばインフレクションAIでは共同創業者とその他の従業員らが3月にマイクロソフトに移籍した。
スタビリティーAIのCEOは3月に突然辞任した。他にも多くのAI新興企業が(十分な資金がある企業さえも)身売り話を協議しているもようだと、WSJ・クリストファー・ミムズ氏。
AIブームはバブルなのか。
2023年に業界全体でAI学習のためにエヌビディア製半導体に500億ドルを投じたが、売上高はわずか30億ドルだったという、シリコンバレーのベンチャーキャピタル、セコイアが算出した数字がある。
この差は確かに憂慮すべきだが、業界の長期的な健全性にとって真に重要なのはAIの運用にどのくらいコストがかかるかだと、WSJ・クリストファー・ミムズ氏。
基本的には、生成AIに依存する一般的なサービスの場合、運用コストは涙が出るほど高いAI学習コストをはるかに上回る。
AIは何かを尋ねられるたびに改めて考える必要があり、答えを生成する際にAIが用いるリソースは、例えば従来の検索結果を返すのに必要なリソースよりもはるかに大きいためなのだそうです。
グーグルやマイクロソフトなどは直近の決算報告でクラウドサービスの売上高が伸びているとし、他社のAIに使われていることを一因に挙げた。だがこれを維持できるかは、他の会社や新興企業がAIから十分な価値を引き出し、そうしたシステムの学習と運用に何十億ドルも投じ続けるのを正当化するかどうかにかかっていると、WSJ・クリストファー・ミムズ氏。
そこで気になるのがAI導入の問題。
マイクロソフトとリンクトインが最近実施した調査では、ホワイトカラー労働者の4人に3人が現在、職場でAIを使っている。また企業経費管理企業ランプが行った別の調査では、1種類以上のAIツールに代価を払う企業の割合は、1年前の21%から30%余りに上昇していたのだそうです。
AIはこれまで宣伝されてきたように生産性を高めるものではないことをうかがわせる証拠がある。ペンシルベニア大学ウォートン・スクールのピーター・カッペリ教授(経営学)はそう指摘する。
一部の人間が仕事をする助けにはなっても、実際に取って代わることはできない。すなわちAIが企業の従業員削減に役立つ可能性は低いということだ。カッペリ氏はこれに似た例として、自動運転トラックがなかなか普及しないのは、トラックの運転はドライバーの仕事の一部に過ぎないという事実が理由の一つだと。
さらにAIを仕事に活用するための課題が無数にあると、WSJ・クリストファー・ミムズ氏。
例えば、AIは相変わらず虚偽情報を作り出すため、それを使いこなす知識のある人間が必要だ。またオープンエンドのチャットボット(自動会話プログラム)を最大限生かすには、直感に頼るのではなく、労働者がそれに適応するための相当な訓練と時間を要する。
人々の思考や習慣を変えることは、AIの急速な導入を阻むとりわけ大きな障壁になる。それはどのような新技術が普及する際にも見られる驚くほど一貫したパターンだと。
だからといって現在のAIに、長い目で見てあらゆる種類の仕事や産業を変革する力がないと言っているわけではない。問題は、AIが猛スピードで大幅に向上し、われわれの生活や経済に与える影響を理解する間もないほど急速に導入されるという考えを前提にしているらしいことだ。
それが事実ではないことを示す証拠が積み上がっていると、WSJ・クリストファー・ミムズ氏。
# 冒頭の画像は、カリフォルニア州サンタクララにあるエヌビディア本社
この花の名前は、 カンパニュラ アルペンブルー ホシギキョウ
↓よろしかったら、お願いします。
遊爺さんの写真素材 - PIXTA
AI熱に浮かされた列車は今まさに駅を出発するところで、全員が飛び乗るべきなのは間違いないように見える。
AIがコモディティー化する可能性はあるのか、売上高と特に利益を生む見込みはあるのか、ニューエコノミーが本当に生まれようとしているのかと、WSJハイテク担当コラムニスト・クリストファー・ミムズ氏。
AI革命、すでに失速している - WSJ
技術革新ペースは鈍化し、有用性は限定的 運用コストは依然として非常に高い
WSJハイテク担当コラムニスト クリストファー・ミムズ
米半導体大手エヌビディアは先頃発表した2-4月期決算の売上高で、目玉が飛び出るような数字を示した。イーロン・マスクは最近、人間レベルの人工知能(AI)が来年には登場すると語った。巨大テック企業はAI向け半導体を欲しいだけ買えないようだ。AI熱に浮かされた列車は今まさに駅を出発するところで、全員が飛び乗るべきなのは間違いないように見える。
だがAIには何ができるかという点でも、投資家にどれだけリターンをもたらすかという点でも、大きな失望が待ち受けている可能性がある。
AIの改善ペースは鈍化しており、最も能力が高いものでさえ当初想像されたよりも使い道は少ないようだ。AIの構築と運用には膨大なコストがかかる。競合するAIモデルは次から次へと登場するが、多くの人々の実際の働き方に意義ある影響を及ぼすまでには長い時間を要する。
AIがコモディティー化する可能性はあるのか、売上高と特に利益を生む見込みはあるのか、ニューエコノミーが本当に生まれようとしているのかに関して、こうした要因は疑問を投げかけている。また直近では1990年代終盤の光ファイバーブームで経験したように、AI投資が先走りしていることも示唆する。当時のブームは最初のドットコム・バブルによる株価大暴落につながった。
AIの改善ペースは鈍化
米新興企業オープンAIの「チャットGPT」や米グーグルの「Gemin(ジェミニ)」といった今ある大規模言語モデルAIの測定可能かつ質的な改善(文章作成能力や分析能力など)の多くは、結局のところ、投入データをこれまで以上に増やすということだ。
このモデルは膨大な量のテキストを消化することで機能するため、今まで単に投入量を増やして能力向上につなげていた面は否めない。だがこのやり方を続けるのに大きな障害となるのは、企業がAI学習用にすでに多少の差はあれ、全てのインターネット上のデータを利用し、吸収すべき追加データが底を突いていることだ。人間が生成したもので現在のAIが取り入れるべきコンテンツは、あとインターネット10個分ほども存在しない。
エンジニアは次世代AIを訓練するため、他のAIが生成したデータである「合成データ」にも目を向けている。この手法は車の自動運転技術の改善に使おうとしたものの成果が出なかった。大規模言語モデルの場合も同様の結果になる証拠が多々ある、と認知科学者のゲイリー・マーカス氏は言う。同氏は2016年にAI新興企業を米配車大手ウーバー・テクノロジーズに売却した。
チャットGPTのようなAIは初期の頃は急速に能力が向上したが、過去14カ月半はわずかずつの進歩しか見られないとマーカス氏は言う。「システムの中核となる能力は頭打ちになったか、少なくとも改善が鈍化しているのが実情だ」と同氏は述べた。
AIの改善鈍化の証拠は、さまざまなAIモデルのパフォーマンスの差が埋まりつつあるという調査結果にも見いだせる。優秀な独自開発のAIモデルが能力テストでほぼ同スコアに収束し、メタ・プラットフォームズや仏ミストラルAIのような無料のオープンソースモデルでさえ追いつき始めている。
AIはコモディティー化するのか
成熟した技術とは、誰もがその作り方を知っている技術だ。本格的なブレークスルーがない限り(それは極めてまれになっている)、誰もパフォーマンスでは優位に立てない。それと同時に企業は効率性を追求するため、勝者は先頭を突っ走る者から、徹底的にコストを削減できる者へとシフトする。直近でこのようなことが起きた主要技術は電気自動車(EV)だ。今度はAIでそれが起きつつあるようだ。
AIのコモディティー化は、オープンAIやアンスロピックなどのAI新興企業の未来は暗いかもしれないと、アンシュ・シャーマ氏が考える理由の一つだ。同氏は米ビジネスソフトウエア大手セールスフォースの元バイスプレジデントで、現在はデータやAIプライバシーの新興企業スカイフローの最高経営責任者(CEO)を務めている。マイクロソフトやグーグルのような大企業がAI投資に見合う十分なユーザーを呼び込むことにはシャーマ氏は楽観的だ。しかしそれには長期にわたり巨額の資金をつぎ込む必要があるため、どれだけ資金を調達できるにせよ、AI新興企業は比較的わずかな軍資金しかないため、太刀打ちできないという。
この状況はすでに起きている。AI新興企業の一部はすでに混乱に陥り、例えばインフレクションAIでは共同創業者とその他の従業員らが3月にマイクロソフトに移籍した。人気の高い画像生成AIツール「Stable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)」を開発したスタビリティーAIのCEOは3月に突然辞任した。他にも多くのAI新興企業が(十分な資金がある企業さえも)身売り話を協議しているもようだ。
現在のAIは運用コストが高すぎる
われわれがAIバブルのただ中にいるという主張でよく持ち出される数字に、2023年に業界全体でAI学習のためにエヌビディア製半導体に500億ドルを投じたが、売上高はわずか30億ドルだったという、シリコンバレーのベンチャーキャピタル、セコイアが算出したものがある。
この差は確かに憂慮すべきだが、業界の長期的な健全性にとって真に重要なのはAIの運用にどのくらいコストがかかるかだ。
データを入手するのはほぼ不可能で推定額もまちまちだが、基本的には、生成AIに依存する一般的なサービスの場合、運用コストは涙が出るほど高いAI学習コストをはるかに上回る。AIは何かを尋ねられるたびに改めて考える必要があり、答えを生成する際にAIが用いるリソースは、例えば従来の検索結果を返すのに必要なリソースよりもはるかに大きいためだ。ほぼ完全に広告収入に支えられているグーグルのような企業にとって(同社は現在、何十億件もの検索結果にAIが生成する要約を提供している)、これらの検索にAIの答えを提供することは、同社の利益率をむしばむだろうとアナリストはみている。
グーグルやマイクロソフトなどは直近の決算報告でクラウドサービスの売上高が伸びているとし、他社のAIに使われていることを一因に挙げた。だがこれを維持できるかは、他の会社や新興企業がAIから十分な価値を引き出し、そうしたシステムの学習と運用に何十億ドルも投じ続けるのを正当化するかどうかにかかっている。そこで気になるのがAI導入の問題だ。
用途が狭まり、導入ペース鈍化
マイクロソフトとリンクトインが最近実施した調査では、ホワイトカラー労働者の4人に3人が現在、職場でAIを使っている。また企業経費管理企業ランプが行った別の調査では、1種類以上のAIツールに代価を払う企業の割合は、1年前の21%から30%余りに上昇していた。
このことはAIをただいじるだけの労働者数と、AIに依存し、その費用を支払う層の間に大きな開きがあることを示す。例えば、マイクロソフトのAIアシスタント「Copilot(コパイロット)」は月額料金が30ドルだ。
オープンAIは年間売上高を公表していないが、英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は昨年12月、年間売上高は少なくとも20億ドルで、同社は2025年までに倍増させる考えだと報じた。
それでもオープンAIの現在900億ドル近い評価額を正当化するのに必要な売上高とはかけ離れている。分析会社アップフィギュアズによると、オープンAIが最近、音声機能のデモを行ったところ、携帯向け定額利用サービスの契約数が1日で22%跳ね上がった。これは同社が関心を呼び、注目を集めるのが得意なことを示すが、どれほどの人が長期的ユーザーになるのかは不明だ。
AIはこれまで宣伝されてきたように生産性を高めるものではないことをうかがわせる証拠がある。ペンシルベニア大学ウォートン・スクールのピーター・カッペリ教授(経営学)はそう指摘する。これらのシステムは一部の人間が仕事をする助けにはなっても、実際に取って代わることはできない。すなわちAIが企業の従業員削減に役立つ可能性は低いということだ。カッペリ氏はこれに似た例として、自動運転トラックがなかなか普及しないのは、トラックの運転はドライバーの仕事の一部に過ぎないという事実が理由の一つだと述べた。
さらにAIを仕事に活用するための課題が無数にある。例えば、AIは相変わらず虚偽情報を作り出すため、それを使いこなす知識のある人間が必要だ。またオープンエンドのチャットボット(自動会話プログラム)を最大限生かすには、直感に頼るのではなく、労働者がそれに適応するための相当な訓練と時間を要するだろう。
人々の思考や習慣を変えることは、AIの急速な導入を阻むとりわけ大きな障壁になる。それはどのような新技術が普及する際にも見られる驚くほど一貫したパターンだ。
だからといって現在のAIに、長い目で見てあらゆる種類の仕事や産業を変革する力がないと言っているわけではない。問題は、現在の投資水準が――新興企業か大企業かを問わず――、AIが猛スピードで大幅に向上し、われわれの生活や経済に与える影響を理解する間もないほど急速に導入されるという考えを前提にしているらしいことだ。
それが事実ではないことを示す証拠が積み上がっている。
技術革新ペースは鈍化し、有用性は限定的 運用コストは依然として非常に高い
WSJハイテク担当コラムニスト クリストファー・ミムズ
米半導体大手エヌビディアは先頃発表した2-4月期決算の売上高で、目玉が飛び出るような数字を示した。イーロン・マスクは最近、人間レベルの人工知能(AI)が来年には登場すると語った。巨大テック企業はAI向け半導体を欲しいだけ買えないようだ。AI熱に浮かされた列車は今まさに駅を出発するところで、全員が飛び乗るべきなのは間違いないように見える。
だがAIには何ができるかという点でも、投資家にどれだけリターンをもたらすかという点でも、大きな失望が待ち受けている可能性がある。
AIの改善ペースは鈍化しており、最も能力が高いものでさえ当初想像されたよりも使い道は少ないようだ。AIの構築と運用には膨大なコストがかかる。競合するAIモデルは次から次へと登場するが、多くの人々の実際の働き方に意義ある影響を及ぼすまでには長い時間を要する。
AIがコモディティー化する可能性はあるのか、売上高と特に利益を生む見込みはあるのか、ニューエコノミーが本当に生まれようとしているのかに関して、こうした要因は疑問を投げかけている。また直近では1990年代終盤の光ファイバーブームで経験したように、AI投資が先走りしていることも示唆する。当時のブームは最初のドットコム・バブルによる株価大暴落につながった。
AIの改善ペースは鈍化
米新興企業オープンAIの「チャットGPT」や米グーグルの「Gemin(ジェミニ)」といった今ある大規模言語モデルAIの測定可能かつ質的な改善(文章作成能力や分析能力など)の多くは、結局のところ、投入データをこれまで以上に増やすということだ。
このモデルは膨大な量のテキストを消化することで機能するため、今まで単に投入量を増やして能力向上につなげていた面は否めない。だがこのやり方を続けるのに大きな障害となるのは、企業がAI学習用にすでに多少の差はあれ、全てのインターネット上のデータを利用し、吸収すべき追加データが底を突いていることだ。人間が生成したもので現在のAIが取り入れるべきコンテンツは、あとインターネット10個分ほども存在しない。
エンジニアは次世代AIを訓練するため、他のAIが生成したデータである「合成データ」にも目を向けている。この手法は車の自動運転技術の改善に使おうとしたものの成果が出なかった。大規模言語モデルの場合も同様の結果になる証拠が多々ある、と認知科学者のゲイリー・マーカス氏は言う。同氏は2016年にAI新興企業を米配車大手ウーバー・テクノロジーズに売却した。
チャットGPTのようなAIは初期の頃は急速に能力が向上したが、過去14カ月半はわずかずつの進歩しか見られないとマーカス氏は言う。「システムの中核となる能力は頭打ちになったか、少なくとも改善が鈍化しているのが実情だ」と同氏は述べた。
AIの改善鈍化の証拠は、さまざまなAIモデルのパフォーマンスの差が埋まりつつあるという調査結果にも見いだせる。優秀な独自開発のAIモデルが能力テストでほぼ同スコアに収束し、メタ・プラットフォームズや仏ミストラルAIのような無料のオープンソースモデルでさえ追いつき始めている。
AIはコモディティー化するのか
成熟した技術とは、誰もがその作り方を知っている技術だ。本格的なブレークスルーがない限り(それは極めてまれになっている)、誰もパフォーマンスでは優位に立てない。それと同時に企業は効率性を追求するため、勝者は先頭を突っ走る者から、徹底的にコストを削減できる者へとシフトする。直近でこのようなことが起きた主要技術は電気自動車(EV)だ。今度はAIでそれが起きつつあるようだ。
AIのコモディティー化は、オープンAIやアンスロピックなどのAI新興企業の未来は暗いかもしれないと、アンシュ・シャーマ氏が考える理由の一つだ。同氏は米ビジネスソフトウエア大手セールスフォースの元バイスプレジデントで、現在はデータやAIプライバシーの新興企業スカイフローの最高経営責任者(CEO)を務めている。マイクロソフトやグーグルのような大企業がAI投資に見合う十分なユーザーを呼び込むことにはシャーマ氏は楽観的だ。しかしそれには長期にわたり巨額の資金をつぎ込む必要があるため、どれだけ資金を調達できるにせよ、AI新興企業は比較的わずかな軍資金しかないため、太刀打ちできないという。
この状況はすでに起きている。AI新興企業の一部はすでに混乱に陥り、例えばインフレクションAIでは共同創業者とその他の従業員らが3月にマイクロソフトに移籍した。人気の高い画像生成AIツール「Stable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)」を開発したスタビリティーAIのCEOは3月に突然辞任した。他にも多くのAI新興企業が(十分な資金がある企業さえも)身売り話を協議しているもようだ。
現在のAIは運用コストが高すぎる
われわれがAIバブルのただ中にいるという主張でよく持ち出される数字に、2023年に業界全体でAI学習のためにエヌビディア製半導体に500億ドルを投じたが、売上高はわずか30億ドルだったという、シリコンバレーのベンチャーキャピタル、セコイアが算出したものがある。
この差は確かに憂慮すべきだが、業界の長期的な健全性にとって真に重要なのはAIの運用にどのくらいコストがかかるかだ。
データを入手するのはほぼ不可能で推定額もまちまちだが、基本的には、生成AIに依存する一般的なサービスの場合、運用コストは涙が出るほど高いAI学習コストをはるかに上回る。AIは何かを尋ねられるたびに改めて考える必要があり、答えを生成する際にAIが用いるリソースは、例えば従来の検索結果を返すのに必要なリソースよりもはるかに大きいためだ。ほぼ完全に広告収入に支えられているグーグルのような企業にとって(同社は現在、何十億件もの検索結果にAIが生成する要約を提供している)、これらの検索にAIの答えを提供することは、同社の利益率をむしばむだろうとアナリストはみている。
グーグルやマイクロソフトなどは直近の決算報告でクラウドサービスの売上高が伸びているとし、他社のAIに使われていることを一因に挙げた。だがこれを維持できるかは、他の会社や新興企業がAIから十分な価値を引き出し、そうしたシステムの学習と運用に何十億ドルも投じ続けるのを正当化するかどうかにかかっている。そこで気になるのがAI導入の問題だ。
用途が狭まり、導入ペース鈍化
マイクロソフトとリンクトインが最近実施した調査では、ホワイトカラー労働者の4人に3人が現在、職場でAIを使っている。また企業経費管理企業ランプが行った別の調査では、1種類以上のAIツールに代価を払う企業の割合は、1年前の21%から30%余りに上昇していた。
このことはAIをただいじるだけの労働者数と、AIに依存し、その費用を支払う層の間に大きな開きがあることを示す。例えば、マイクロソフトのAIアシスタント「Copilot(コパイロット)」は月額料金が30ドルだ。
オープンAIは年間売上高を公表していないが、英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は昨年12月、年間売上高は少なくとも20億ドルで、同社は2025年までに倍増させる考えだと報じた。
それでもオープンAIの現在900億ドル近い評価額を正当化するのに必要な売上高とはかけ離れている。分析会社アップフィギュアズによると、オープンAIが最近、音声機能のデモを行ったところ、携帯向け定額利用サービスの契約数が1日で22%跳ね上がった。これは同社が関心を呼び、注目を集めるのが得意なことを示すが、どれほどの人が長期的ユーザーになるのかは不明だ。
AIはこれまで宣伝されてきたように生産性を高めるものではないことをうかがわせる証拠がある。ペンシルベニア大学ウォートン・スクールのピーター・カッペリ教授(経営学)はそう指摘する。これらのシステムは一部の人間が仕事をする助けにはなっても、実際に取って代わることはできない。すなわちAIが企業の従業員削減に役立つ可能性は低いということだ。カッペリ氏はこれに似た例として、自動運転トラックがなかなか普及しないのは、トラックの運転はドライバーの仕事の一部に過ぎないという事実が理由の一つだと述べた。
さらにAIを仕事に活用するための課題が無数にある。例えば、AIは相変わらず虚偽情報を作り出すため、それを使いこなす知識のある人間が必要だ。またオープンエンドのチャットボット(自動会話プログラム)を最大限生かすには、直感に頼るのではなく、労働者がそれに適応するための相当な訓練と時間を要するだろう。
人々の思考や習慣を変えることは、AIの急速な導入を阻むとりわけ大きな障壁になる。それはどのような新技術が普及する際にも見られる驚くほど一貫したパターンだ。
だからといって現在のAIに、長い目で見てあらゆる種類の仕事や産業を変革する力がないと言っているわけではない。問題は、現在の投資水準が――新興企業か大企業かを問わず――、AIが猛スピードで大幅に向上し、われわれの生活や経済に与える影響を理解する間もないほど急速に導入されるという考えを前提にしているらしいことだ。
それが事実ではないことを示す証拠が積み上がっている。
このモデルは膨大な量のテキストを消化することで機能するため、今まで単に投入量を増やして能力向上につなげていた面は否めない。だがこのやり方を続けるのに大きな障害となるのは、企業がAI学習用にすでに多少の差はあれ、全てのインターネット上のデータを利用し、吸収すべき追加データが底を突いていることだ。
エンジニアは次世代AIを訓練するため、他のAIが生成したデータである「合成データ」にも目を向けている。この手法は車の自動運転技術の改善に使おうとしたものの成果が出なかった。大規模言語モデルの場合も同様の結果になる証拠が多々ある、と認知科学者のゲイリー・マーカス氏。
チャットGPTのようなAIは初期の頃は急速に能力が向上したが、過去14カ月半はわずかずつの進歩しか見られないとマーカス氏。
AIの改善鈍化の証拠は、さまざまなAIモデルのパフォーマンスの差が埋まりつつあるという調査結果にも見いだせる。優秀な独自開発のAIモデルが能力テストでほぼ同スコアに収束し、メタ・プラットフォームズや仏ミストラルAIのような無料のオープンソースモデルでさえ追いつき始めていると、WSJ・クリストファー・ミムズ氏。
AIのコモディティー化は、オープンAIやアンスロピックなどのAI新興企業の未来は暗いかもしれないと、アンシュ・シャーマ氏が考える理由の一つだ。同氏は米ビジネスソフトウエア大手セールスフォースの元バイスプレジデントで、現在はデータやAIプライバシーの新興企業スカイフローの最高経営責任者(CEO)を務めている。
マイクロソフトやグーグルのような大企業がAI投資に見合う十分なユーザーを呼び込むことにはシャーマ氏は楽観的だ。しかしそれには長期にわたり巨額の資金をつぎ込む必要があるため、どれだけ資金を調達できるにせよ、AI新興企業は比較的わずかな軍資金しかないため、太刀打ちできないと。
この状況はすでに起きている。AI新興企業の一部はすでに混乱に陥り、例えばインフレクションAIでは共同創業者とその他の従業員らが3月にマイクロソフトに移籍した。
スタビリティーAIのCEOは3月に突然辞任した。他にも多くのAI新興企業が(十分な資金がある企業さえも)身売り話を協議しているもようだと、WSJ・クリストファー・ミムズ氏。
AIブームはバブルなのか。
2023年に業界全体でAI学習のためにエヌビディア製半導体に500億ドルを投じたが、売上高はわずか30億ドルだったという、シリコンバレーのベンチャーキャピタル、セコイアが算出した数字がある。
この差は確かに憂慮すべきだが、業界の長期的な健全性にとって真に重要なのはAIの運用にどのくらいコストがかかるかだと、WSJ・クリストファー・ミムズ氏。
基本的には、生成AIに依存する一般的なサービスの場合、運用コストは涙が出るほど高いAI学習コストをはるかに上回る。
AIは何かを尋ねられるたびに改めて考える必要があり、答えを生成する際にAIが用いるリソースは、例えば従来の検索結果を返すのに必要なリソースよりもはるかに大きいためなのだそうです。
グーグルやマイクロソフトなどは直近の決算報告でクラウドサービスの売上高が伸びているとし、他社のAIに使われていることを一因に挙げた。だがこれを維持できるかは、他の会社や新興企業がAIから十分な価値を引き出し、そうしたシステムの学習と運用に何十億ドルも投じ続けるのを正当化するかどうかにかかっていると、WSJ・クリストファー・ミムズ氏。
そこで気になるのがAI導入の問題。
マイクロソフトとリンクトインが最近実施した調査では、ホワイトカラー労働者の4人に3人が現在、職場でAIを使っている。また企業経費管理企業ランプが行った別の調査では、1種類以上のAIツールに代価を払う企業の割合は、1年前の21%から30%余りに上昇していたのだそうです。
AIはこれまで宣伝されてきたように生産性を高めるものではないことをうかがわせる証拠がある。ペンシルベニア大学ウォートン・スクールのピーター・カッペリ教授(経営学)はそう指摘する。
一部の人間が仕事をする助けにはなっても、実際に取って代わることはできない。すなわちAIが企業の従業員削減に役立つ可能性は低いということだ。カッペリ氏はこれに似た例として、自動運転トラックがなかなか普及しないのは、トラックの運転はドライバーの仕事の一部に過ぎないという事実が理由の一つだと。
さらにAIを仕事に活用するための課題が無数にあると、WSJ・クリストファー・ミムズ氏。
例えば、AIは相変わらず虚偽情報を作り出すため、それを使いこなす知識のある人間が必要だ。またオープンエンドのチャットボット(自動会話プログラム)を最大限生かすには、直感に頼るのではなく、労働者がそれに適応するための相当な訓練と時間を要する。
人々の思考や習慣を変えることは、AIの急速な導入を阻むとりわけ大きな障壁になる。それはどのような新技術が普及する際にも見られる驚くほど一貫したパターンだと。
だからといって現在のAIに、長い目で見てあらゆる種類の仕事や産業を変革する力がないと言っているわけではない。問題は、AIが猛スピードで大幅に向上し、われわれの生活や経済に与える影響を理解する間もないほど急速に導入されるという考えを前提にしているらしいことだ。
それが事実ではないことを示す証拠が積み上がっていると、WSJ・クリストファー・ミムズ氏。
# 冒頭の画像は、カリフォルニア州サンタクララにあるエヌビディア本社
この花の名前は、 カンパニュラ アルペンブルー ホシギキョウ
↓よろしかったら、お願いします。
遊爺さんの写真素材 - PIXTA