TPPは、21世紀の新たな多国間経済協定の国際標準となるものですが、単なる経済協定に留まらない、覇権主義の中国を牽制する多国間経済協定でもあることは諸兄がご承知のことですし、前回触れていました。
その中国のTPP対応策については、太平洋とは逆方向に覇権拡大させる「新シルクロード(一帯一路)構想」がそれであると言うのが、中沢克二日経編集委員の記事。
日本がTPP参加を表明した時、中国も参加を検討したのだそうですが、断念したのだそうです。自由主義経済国ではないベトナムが参加していますが、ネックになった国有企業の扱いが原因とされていますね。
この花の名前は、エキナセア"ホットパパイヤ"
↓よろしかったら、お願いします。
その中国のTPP対応策については、太平洋とは逆方向に覇権拡大させる「新シルクロード(一帯一路)構想」がそれであると言うのが、中沢克二日経編集委員の記事。
日本がTPP参加を表明した時、中国も参加を検討したのだそうですが、断念したのだそうです。自由主義経済国ではないベトナムが参加していますが、ネックになった国有企業の扱いが原因とされていますね。
阻まれた「太平洋分け合い」 西進でTPPけん制 編集委員 中沢克二 :日本経済新聞
「妥結した環太平洋経済連携協定(TPP)、中国の『新シルクロード経済圏構想』、空母と弾道ミサイル『東風』。皆、今後の対米外交を左右するキーワードだ」
国際情勢が専門の中国人学者の指摘が面白い。中国が意識する東の太平洋、西のシルクロード、弾道ミサイルがにらむ南シナ海まで視野に入れた地政学が、中国の命運を決めると言う。
まず太平洋。これは対米関係を意味する。2013年6月、トップ就任後、初訪米した国家主席の習近平は、砂漠に囲まれた灼熱(しゃくねつ)のカリフォルニア州パームスプリングスにいた。
「広大な太平洋には米中両国を受け入れる十分な空間がある」
冒頭、記者団に公開された米大統領、オバマとの会談で習が最も強調した言葉の一つだ。習は軍事・経済的に強大になった中国は広大な太平洋を勢力圏にする権利を持つ、とやんわり主張した形だ。
爪を隠さない外交・安全保障政策に転じた習の“ジャブ”だった。それは「新しい形の大国関係」とセットで、米国に中国の実力を認めるよう迫っていた。
■中国を動かした安倍首相の決断
13年前半、中国の太平洋を巡る経済安全保障の環境に大変化があった。安倍晋三政権がTPP交渉参加を表明したのだ。
「日米主導で太平洋の経済・貿易の果実の分け方が決まってしまう。米国、日本の最大の貿易相手国、中国を無視した協議など無効だ」。当時、中国の経済官僚が口にした心象風景である。焦った中国は、TPP参加を秘密裏に研究した。だが、当然、断念せざるをえなかった。
強い危機感の下、習はオバマに軍事、経済両面の安全保障を念頭に置く「太平洋の米中分け合い」を暗示した。それが13年6月以来の「広大な太平洋」発言だ。
もう一つ伏線があった。米太平洋軍司令官だったキーティングの議会証言である。07年、中国軍幹部は、訪中したキーティングに「中国が空母を持ったら、米国がハワイから東を管理し、中国軍が西を管理することで合意できないか」と持ちかけたという。
その後、実際に中国は空母を保有し、有力な「飛び道具」も手にした。米空母キラーと呼ばれる弾道ミサイル「東風21D」、射程5000キロ以上で南シナ海全域やグアムの米軍基地を狙えるとされる「東風26」だ。これらは先の軍事パレードに初登場した。
<中略>
ところが今回の訪米は違った。9月25日のホワイトハウスでの共同記者会見で、習はキーワードに言及しなかった。米中首脳会談の中国側の成果と題した文書にもこの言葉はない。
<中略>
「首脳会談の結果を見れば、形の上では米国への挑戦色を薄めた。この数年、習主席は一歩踏み込んだが、今は半歩退くかに見せる現実的な策だ。米国が本気で怒れば危うい」。中国人識者の声だ。
3時間の米中首脳の意見交換で、習は「中国が提起した『一帯一路』(陸と海で中国から欧州までつなぐ新シルクロード経済圏構想)、アジアインフラ投資銀行(AIIB)は、全て開放的で透明だ」とも説明した。これは当面の中国外交の重点を意味する。
■太平洋では半歩退き時間稼ぎ
中国は、米国との直接衝突は避けつつ、南シナ海での主権は死守したい。それだけでも難しいのに今、太平洋にまで戦線を拡大すれば危うい。そう見た。習が「半歩退く」という選択肢を視野に入れたのは、今年5月下旬以降だ。ケリー訪中の後だった。米側はかなりの圧力をかけた。
中国は14年に米が主導する多国間の環太平洋軍事演習「リムパック」参加に踏み切った。16年の参加も首脳会談の成果に盛った。アフガニスタン復興でも協力する。衝突だけは避ける手段である。
米中首脳会談の前から中国は動き出していた。インドネシアの高速鉄道の受注競争で信じがたい好条件を示し、日本を出し抜いた。インドネシアは、中国が打ち出した「海上シルクロード」構想の有力中継地で、AIIBでも拠点づくりのターゲットだった。中国はなんとしても受注したかった。
中国は当面、年内に発足するAIIBの準備と、新シルクロード経済圏構想に没頭する。習は10月20日から訪英する。欧州勢が雪崩を打ってAIIB入りする契機となったのが、意表を突いた英国の参加表明だった。経済面で対中傾斜を強める英国への訪問は、新シルクロード経済圏構想の一環だ。
太平洋で半歩退いた習の狙いは、時間稼ぎにある。中国が今、保有する空母は旧ソ連製を改修した「遼寧」だけだ。だが、大連で建造中とされる国産空母も遠くない将来、完成する。中国の空母機動部隊が太平洋に進出する日は、いずれやってくる。
しかも、米空母キラー「東風21D」が控える以上、米軍は気軽に中国近海に空母を展開できない。軍事面では、米国に太平洋でのプレゼンスを強く主張できる環境が整っていく。そう読んでいる。
米国に対抗するには経済力も重要となる。その核が中国主導の新シルクロード経済圏づくり。日米主導のTPPをけん制する手段でもある。とはいえ成否を左右するのは、厳しさを増す中国の国内経済の動向だろう。内が崩れるなら、外に打って出るのは危険だ。真の敵は身近にある。(敬称略)
「妥結した環太平洋経済連携協定(TPP)、中国の『新シルクロード経済圏構想』、空母と弾道ミサイル『東風』。皆、今後の対米外交を左右するキーワードだ」
国際情勢が専門の中国人学者の指摘が面白い。中国が意識する東の太平洋、西のシルクロード、弾道ミサイルがにらむ南シナ海まで視野に入れた地政学が、中国の命運を決めると言う。
まず太平洋。これは対米関係を意味する。2013年6月、トップ就任後、初訪米した国家主席の習近平は、砂漠に囲まれた灼熱(しゃくねつ)のカリフォルニア州パームスプリングスにいた。
「広大な太平洋には米中両国を受け入れる十分な空間がある」
冒頭、記者団に公開された米大統領、オバマとの会談で習が最も強調した言葉の一つだ。習は軍事・経済的に強大になった中国は広大な太平洋を勢力圏にする権利を持つ、とやんわり主張した形だ。
爪を隠さない外交・安全保障政策に転じた習の“ジャブ”だった。それは「新しい形の大国関係」とセットで、米国に中国の実力を認めるよう迫っていた。
■中国を動かした安倍首相の決断
13年前半、中国の太平洋を巡る経済安全保障の環境に大変化があった。安倍晋三政権がTPP交渉参加を表明したのだ。
「日米主導で太平洋の経済・貿易の果実の分け方が決まってしまう。米国、日本の最大の貿易相手国、中国を無視した協議など無効だ」。当時、中国の経済官僚が口にした心象風景である。焦った中国は、TPP参加を秘密裏に研究した。だが、当然、断念せざるをえなかった。
強い危機感の下、習はオバマに軍事、経済両面の安全保障を念頭に置く「太平洋の米中分け合い」を暗示した。それが13年6月以来の「広大な太平洋」発言だ。
もう一つ伏線があった。米太平洋軍司令官だったキーティングの議会証言である。07年、中国軍幹部は、訪中したキーティングに「中国が空母を持ったら、米国がハワイから東を管理し、中国軍が西を管理することで合意できないか」と持ちかけたという。
その後、実際に中国は空母を保有し、有力な「飛び道具」も手にした。米空母キラーと呼ばれる弾道ミサイル「東風21D」、射程5000キロ以上で南シナ海全域やグアムの米軍基地を狙えるとされる「東風26」だ。これらは先の軍事パレードに初登場した。
<中略>
ところが今回の訪米は違った。9月25日のホワイトハウスでの共同記者会見で、習はキーワードに言及しなかった。米中首脳会談の中国側の成果と題した文書にもこの言葉はない。
<中略>
「首脳会談の結果を見れば、形の上では米国への挑戦色を薄めた。この数年、習主席は一歩踏み込んだが、今は半歩退くかに見せる現実的な策だ。米国が本気で怒れば危うい」。中国人識者の声だ。
3時間の米中首脳の意見交換で、習は「中国が提起した『一帯一路』(陸と海で中国から欧州までつなぐ新シルクロード経済圏構想)、アジアインフラ投資銀行(AIIB)は、全て開放的で透明だ」とも説明した。これは当面の中国外交の重点を意味する。
■太平洋では半歩退き時間稼ぎ
中国は、米国との直接衝突は避けつつ、南シナ海での主権は死守したい。それだけでも難しいのに今、太平洋にまで戦線を拡大すれば危うい。そう見た。習が「半歩退く」という選択肢を視野に入れたのは、今年5月下旬以降だ。ケリー訪中の後だった。米側はかなりの圧力をかけた。
中国は14年に米が主導する多国間の環太平洋軍事演習「リムパック」参加に踏み切った。16年の参加も首脳会談の成果に盛った。アフガニスタン復興でも協力する。衝突だけは避ける手段である。
米中首脳会談の前から中国は動き出していた。インドネシアの高速鉄道の受注競争で信じがたい好条件を示し、日本を出し抜いた。インドネシアは、中国が打ち出した「海上シルクロード」構想の有力中継地で、AIIBでも拠点づくりのターゲットだった。中国はなんとしても受注したかった。
中国は当面、年内に発足するAIIBの準備と、新シルクロード経済圏構想に没頭する。習は10月20日から訪英する。欧州勢が雪崩を打ってAIIB入りする契機となったのが、意表を突いた英国の参加表明だった。経済面で対中傾斜を強める英国への訪問は、新シルクロード経済圏構想の一環だ。
太平洋で半歩退いた習の狙いは、時間稼ぎにある。中国が今、保有する空母は旧ソ連製を改修した「遼寧」だけだ。だが、大連で建造中とされる国産空母も遠くない将来、完成する。中国の空母機動部隊が太平洋に進出する日は、いずれやってくる。
しかも、米空母キラー「東風21D」が控える以上、米軍は気軽に中国近海に空母を展開できない。軍事面では、米国に太平洋でのプレゼンスを強く主張できる環境が整っていく。そう読んでいる。
米国に対抗するには経済力も重要となる。その核が中国主導の新シルクロード経済圏づくり。日米主導のTPPをけん制する手段でもある。とはいえ成否を左右するのは、厳しさを増す中国の国内経済の動向だろう。内が崩れるなら、外に打って出るのは危険だ。真の敵は身近にある。(敬称略)
「韜光養晦」(とうこうようかい)との小平の戒めを解きはらい、力による現状変更を推進する習近平。半歩後退は、次の一歩、二歩前進の備えです。
「新シルクロード(一帯一路)構想」とその資金集めのAIIB。余剰生産力を抱え停滞する中国経済の打開策でもあります。
財政赤字となりながらも、景気の下支えの財政出動、官制株価バブル破たんへの財政出動、為替管理への財政出動が重なり、外貨準備を大幅に取り崩しています。
記事で指摘される通り、苦しい経済の立て直しに苦慮する中で、インドネシアでの高速鉄道建設受注はなりふり構わぬ、受注優先の行動を起こしています。「損して得獲れ」とは、浪速商法で言われることですが、中国でも通用するのでしょうか。大きなリスクも抱えています。
中国の軍拡も、高度成長による財政の余力があればこそのもの。軍事費よりも大きいと言われる治安維持費も、社会の安定が保てないから増えるのですね。
すべては、中期的経済動向に左右されます。
TPP稼働による日米の、21世紀の新たな多国間経済協定の国際標準。苦境に入っている中国経済に、新たな圧力がかかりました。
独自の覇権拡大を続けるのか、国際標準を受け入れて、経済安定化を期すのか。習近平政権の命運にかかわってくる判断を、TPPが迫ってきています。
勿論、TPP参加各国も、国内の批准という関門を潜り抜ける工程が残されていますが。。
# 冒頭の画像は、会談後笑顔が消えた会見のオバマ、習近平両氏
この花の名前は、エキナセア"ホットパパイヤ"
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