習近平国家主席は2022年10月、前例のない3期目入りを決めた党大会の演説で、締めくくりに中国の若者を激励した。
「目の前にある歴史的チャンスをつかめ」
その時点で16~24歳の若者の失業率はすでに18%に迫っていた。
今や若者の失業率は20%を超え、恐らく今夏さらに上昇するだろう。過去最多の大学新卒者(推定1100万人余り)が不安定な雇用市場に押し寄せるからだと、ナサニエル・タプリン氏。
現在の中国と2009年の米国は全く別の場所だが、著しい類似点がいくつかある。危機後の米国と同じく、中国では不動産ブームが崩壊し、恐らく何年にもわたって経済成長と家計の富を押し下げるだろう。政府は債務増大の圧力にさらされ、景気刺激策を打ち出すのに慎重になっている。この事実は債務水準を抑えるのに有効かもしれないが、経済成長の足かせにもなると、ナサニエル・タプリン氏。
世界の他地域のインフレ高進とは対照的に、中国の物価はほぼ上昇しておらず、製造部門では下落している。これは需要があまりにも弱く、企業の投資や成長を阻害している兆候だと。
主要産業に対する規制強化(危機後の米国では金融、中国ではハイテク・教育)は、それらの業種で働き始める準備を整えた 1世代分の野心的な若者を路頭に迷わせる可能性があるとも。
公式統計が若者の苦境――特に大卒者の苦境――を過小評価していると思われる点があると、ナサニエル・タプリン氏。
求人サイト「智聯招聘(Zhaopin)」が2023年春に行った調査によると、大学卒業予定者のうち、春の終わりまでに就職内定を得た割合は2年連続で50%前後にとどまり、21年の63%、18年の約75%から低下しているのだそうです。
若年失業率の真の水準がどの程度であれ、過去4年間に失業率が大きく上昇したことは明らかなようだと。
中国の厳格なゼロコロナ政策は、サービス部門の痛手となった。同部門は過去10年の大半にわたり雇用の主な原動力となり、特に若者は恩恵を受けてきた。
公式統計によると、20年も21年も雇用が順調に増えた工業部門とは対照的に、サービス部門は21年に62万人の純増にとどまり、2000年代以降で最も低い伸びとなった。また同部門の雇用は22年には減少に転じ、1300万人近い純減となったのだそうです。
オックスフォード・エコノミクスによると、製造業や医療、公共サービスといった新型コロナウイルス流行下で比較的好調だった部門は、若者の占める割合が少ない。逆に若者の占める割合が高いのは小売りやホスピタリティー、ITなどだが、これらは全てコロナ関連の制限または規制当局の取り締まりで特に打撃が大きかったと。
サービス部門の崩壊は、大量の新入生が大学を卒業するまでの時期と重なっている。それは恐らく学生が就職難の時期に職を探すよりも、勉学に励むことを選んだのが一因だろうと、ナサニエル・タプリン氏。
中国では住宅部門が過去20年間の景気回復の多くで主な原動力となっていた。
しかし今、政府が住宅部門への積極的な財政支援を渋っているため、労働市場の回復には時間がかかる可能性があると。
とはいえ驚くような強さの源泉がないわけではない。例えば、中国の急成長する革新的な電気自動車(EV)業界だ。自動車エンジニアや車載電池のスペシャリストという新たな仕事を見つけるかもしれないとも。
世界2位の経済大国である中国にとって、不安で落ち着かない失業中の若者という大集団は、政治的にも経済的にも大きな課題を突きつけていると、ナサニエル・タプリン氏。
第二の天安門事件に発展するかと一時危惧された、「白紙運動」。
今は鎮静化していますが、若者の失業という課題が新たに潜在・拡大しつつあるのですね。
# 冒頭の画像は、中国の大学新卒者
この花の名前は、アマ
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「目の前にある歴史的チャンスをつかめ」
その時点で16~24歳の若者の失業率はすでに18%に迫っていた。
今や若者の失業率は20%を超え、恐らく今夏さらに上昇するだろう。過去最多の大学新卒者(推定1100万人余り)が不安定な雇用市場に押し寄せるからだと、ナサニエル・タプリン氏。
中国「失われた世代」の苦難は続く - WSJ By Nathaniel Taplin 2023年 6月 13日
中国の習近平国家主席は2022年10月、前例のない3期目入りを決めた党大会の演説で、締めくくりに中国の若者を激励した。「目の前にある歴史的チャンスをつかめ」
その時点で16~24歳の若者の失業率はすでに18%に迫っていた。
今や若者の失業率は20%を超え、恐らく今夏さらに上昇するだろう。過去最多の大学新卒者(推定1100万人余り)が不安定な雇用市場に押し寄せるからだ。彼らの多くは条件の良い仕事を見つけるのが難しそうだ。それは2008年の金融危機の後、米国の労働者が陥った苦境に似ている。米国では政治的分断を悪化させる要因となった。
現在の中国と2009年の米国は全く別の場所だが、著しい類似点がいくつかある。危機後の米国と同じく、中国では不動産ブームが崩壊し、恐らく何年にもわたって経済成長と家計の富を押し下げるだろう。政府は債務増大の圧力にさらされ、景気刺激策を打ち出すのに慎重になっている。この事実は債務水準を抑えるのに有効かもしれないが、経済成長の足かせにもなる。
世界の他地域のインフレ高進とは対照的に、中国の物価はほぼ上昇しておらず、製造部門では下落している。これは需要があまりにも弱く、企業の投資や成長を阻害している兆候だ。主要産業に対する規制強化(危機後の米国では金融、中国ではハイテク・教育)はシステミックリスクの抑制には役立つだろうが、それらの業種で働き始める準備を整えた 1世代分の野心的な若者を路頭に迷わせる可能性がある。
中国の本当の若年失業率は恐らく、公式統計が描く悲惨な実態とは重要な点で異なっている。公式発表される中国の失業率には、過去3カ月に求職活動を行ったことのある人が含まれる。中国人民大学の曾湘泉教授は地元経済紙「経済観察網(エコノミック・オブザーバー)」との最近のインタビューでそう指摘した。米国の失業率には、過去4週間に求職活動を行った人のみが含まれている。
曾氏によれば、北京大学が長期的に集計している「中国家族追跡調査」の失業データを基に、国際基準の4週間で算出すると、その結果は、例えば2020年の若年失業率がわずか6.8%になるという。中国国家統計局のデータによると、同年の月平均若年失業率は14%を超えていた。
その一方で、公式統計が若者の苦境――特に大卒者の苦境――を過小評価していると思われる点もある。求人サイト「智聯招聘(Zhaopin)」が2023年春に行った調査によると、大学卒業予定者のうち、春の終わりまでに就職内定を得た割合は2年連続で50%前後にとどまり、21年の63%、18年の約75%から低下している。さらに回答者の25%近くが、給与水準の高いIT(情報技術)・インターネット業界への就職を希望していた。この業界は21年と22年の規制当局による取り締まりで大打撃を受け、アリババやテンセント、滴滴(ディディ)などの主要な雇用主が大幅な人員削減を行った(現在は回復している)。
若年失業率の真の水準がどの程度であれ、過去4年間に失業率が大きく上昇したことは明らかなようだ。これは公式統計からも分かる。
中国の厳格なゼロコロナ政策は、サービス部門の痛手となった。同部門は過去10年の大半にわたり雇用の主な原動力となり、特に若者は恩恵を受けてきた。公式統計によると、20年も21年も雇用が順調に増えた工業部門とは対照的に、サービス部門は21年に62万人の純増にとどまり、2000年代以降で最も低い伸びとなった。また同部門の雇用は22年には減少に転じ、1300万人近い純減となった。
一方、オックスフォード・エコノミクスによると、製造業や医療、公共サービスといった新型コロナウイルス流行下で比較的好調だった部門は、若者の占める割合が少ない。逆に若者の占める割合が高いのは小売りやホスピタリティー、ITなどだが、これらは全てコロナ関連の制限または規制当局の取り締まりで特に打撃が大きかった。
さらに言えば、サービス部門の崩壊は、大量の新入生が大学を卒業するまでの時期と重なっている。それは恐らく学生が就職難の時期に職を探すよりも、勉学に励むことを選んだのが一因だろう。例えば、22年には大学生の年齢にあたる学生のうち大学や専門学校で学位を取得した人の割合が前年より20%近く増加した。過去10年の大半の期間はこの割合が 1桁前半の伸びだった。
これら全てが失望を誘うなら、まさにそうだ。台湾、韓国、シンガポールなど不動産バブルの崩壊が起きていない他のアジア地域でも、サービス部門の雇用回復は、実際の業績回復よりもはるかに時間がかかっている、とオックスフォードは指摘。中国の労働市場は若年層を含めて改善し続けるだろうが、そのプロセスは緩やかになりそうだ。政府が住宅部門への積極的な財政支援を渋っているため、なおさら時間がかかる可能性がある。中国では同部門が過去20年間の景気回復の多くで主な原動力となっていた。
とはいえ驚くような強さの源泉がないわけではない。例えば、中国の急成長する革新的な電気自動車(EV)業界だ。恐らくソフトウエアの第一人者を夢見ていた人々が苦難を味わい、再訓練を受けた末に、自動車エンジニアや車載電池のスペシャリストという新たな仕事を見つけるかもしれない。
その一方で、世界2位の経済大国である中国にとって、不安で落ち着かない失業中の若者という大集団は、政治的にも経済的にも大きな課題を突きつけている。
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Nathaniel Taplin ナサニエル・タプリン
ウォールストリートジャーナルの経済および金融解説セクションであるハードオンザストリートの中国経済および政治経済の主要なコラムニストです。
中国の習近平国家主席は2022年10月、前例のない3期目入りを決めた党大会の演説で、締めくくりに中国の若者を激励した。「目の前にある歴史的チャンスをつかめ」
その時点で16~24歳の若者の失業率はすでに18%に迫っていた。
今や若者の失業率は20%を超え、恐らく今夏さらに上昇するだろう。過去最多の大学新卒者(推定1100万人余り)が不安定な雇用市場に押し寄せるからだ。彼らの多くは条件の良い仕事を見つけるのが難しそうだ。それは2008年の金融危機の後、米国の労働者が陥った苦境に似ている。米国では政治的分断を悪化させる要因となった。
現在の中国と2009年の米国は全く別の場所だが、著しい類似点がいくつかある。危機後の米国と同じく、中国では不動産ブームが崩壊し、恐らく何年にもわたって経済成長と家計の富を押し下げるだろう。政府は債務増大の圧力にさらされ、景気刺激策を打ち出すのに慎重になっている。この事実は債務水準を抑えるのに有効かもしれないが、経済成長の足かせにもなる。
世界の他地域のインフレ高進とは対照的に、中国の物価はほぼ上昇しておらず、製造部門では下落している。これは需要があまりにも弱く、企業の投資や成長を阻害している兆候だ。主要産業に対する規制強化(危機後の米国では金融、中国ではハイテク・教育)はシステミックリスクの抑制には役立つだろうが、それらの業種で働き始める準備を整えた 1世代分の野心的な若者を路頭に迷わせる可能性がある。
中国の本当の若年失業率は恐らく、公式統計が描く悲惨な実態とは重要な点で異なっている。公式発表される中国の失業率には、過去3カ月に求職活動を行ったことのある人が含まれる。中国人民大学の曾湘泉教授は地元経済紙「経済観察網(エコノミック・オブザーバー)」との最近のインタビューでそう指摘した。米国の失業率には、過去4週間に求職活動を行った人のみが含まれている。
曾氏によれば、北京大学が長期的に集計している「中国家族追跡調査」の失業データを基に、国際基準の4週間で算出すると、その結果は、例えば2020年の若年失業率がわずか6.8%になるという。中国国家統計局のデータによると、同年の月平均若年失業率は14%を超えていた。
その一方で、公式統計が若者の苦境――特に大卒者の苦境――を過小評価していると思われる点もある。求人サイト「智聯招聘(Zhaopin)」が2023年春に行った調査によると、大学卒業予定者のうち、春の終わりまでに就職内定を得た割合は2年連続で50%前後にとどまり、21年の63%、18年の約75%から低下している。さらに回答者の25%近くが、給与水準の高いIT(情報技術)・インターネット業界への就職を希望していた。この業界は21年と22年の規制当局による取り締まりで大打撃を受け、アリババやテンセント、滴滴(ディディ)などの主要な雇用主が大幅な人員削減を行った(現在は回復している)。
若年失業率の真の水準がどの程度であれ、過去4年間に失業率が大きく上昇したことは明らかなようだ。これは公式統計からも分かる。
中国の厳格なゼロコロナ政策は、サービス部門の痛手となった。同部門は過去10年の大半にわたり雇用の主な原動力となり、特に若者は恩恵を受けてきた。公式統計によると、20年も21年も雇用が順調に増えた工業部門とは対照的に、サービス部門は21年に62万人の純増にとどまり、2000年代以降で最も低い伸びとなった。また同部門の雇用は22年には減少に転じ、1300万人近い純減となった。
一方、オックスフォード・エコノミクスによると、製造業や医療、公共サービスといった新型コロナウイルス流行下で比較的好調だった部門は、若者の占める割合が少ない。逆に若者の占める割合が高いのは小売りやホスピタリティー、ITなどだが、これらは全てコロナ関連の制限または規制当局の取り締まりで特に打撃が大きかった。
さらに言えば、サービス部門の崩壊は、大量の新入生が大学を卒業するまでの時期と重なっている。それは恐らく学生が就職難の時期に職を探すよりも、勉学に励むことを選んだのが一因だろう。例えば、22年には大学生の年齢にあたる学生のうち大学や専門学校で学位を取得した人の割合が前年より20%近く増加した。過去10年の大半の期間はこの割合が 1桁前半の伸びだった。
これら全てが失望を誘うなら、まさにそうだ。台湾、韓国、シンガポールなど不動産バブルの崩壊が起きていない他のアジア地域でも、サービス部門の雇用回復は、実際の業績回復よりもはるかに時間がかかっている、とオックスフォードは指摘。中国の労働市場は若年層を含めて改善し続けるだろうが、そのプロセスは緩やかになりそうだ。政府が住宅部門への積極的な財政支援を渋っているため、なおさら時間がかかる可能性がある。中国では同部門が過去20年間の景気回復の多くで主な原動力となっていた。
とはいえ驚くような強さの源泉がないわけではない。例えば、中国の急成長する革新的な電気自動車(EV)業界だ。恐らくソフトウエアの第一人者を夢見ていた人々が苦難を味わい、再訓練を受けた末に、自動車エンジニアや車載電池のスペシャリストという新たな仕事を見つけるかもしれない。
その一方で、世界2位の経済大国である中国にとって、不安で落ち着かない失業中の若者という大集団は、政治的にも経済的にも大きな課題を突きつけている。
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Nathaniel Taplin ナサニエル・タプリン
ウォールストリートジャーナルの経済および金融解説セクションであるハードオンザストリートの中国経済および政治経済の主要なコラムニストです。
現在の中国と2009年の米国は全く別の場所だが、著しい類似点がいくつかある。危機後の米国と同じく、中国では不動産ブームが崩壊し、恐らく何年にもわたって経済成長と家計の富を押し下げるだろう。政府は債務増大の圧力にさらされ、景気刺激策を打ち出すのに慎重になっている。この事実は債務水準を抑えるのに有効かもしれないが、経済成長の足かせにもなると、ナサニエル・タプリン氏。
世界の他地域のインフレ高進とは対照的に、中国の物価はほぼ上昇しておらず、製造部門では下落している。これは需要があまりにも弱く、企業の投資や成長を阻害している兆候だと。
主要産業に対する規制強化(危機後の米国では金融、中国ではハイテク・教育)は、それらの業種で働き始める準備を整えた 1世代分の野心的な若者を路頭に迷わせる可能性があるとも。
公式統計が若者の苦境――特に大卒者の苦境――を過小評価していると思われる点があると、ナサニエル・タプリン氏。
求人サイト「智聯招聘(Zhaopin)」が2023年春に行った調査によると、大学卒業予定者のうち、春の終わりまでに就職内定を得た割合は2年連続で50%前後にとどまり、21年の63%、18年の約75%から低下しているのだそうです。
若年失業率の真の水準がどの程度であれ、過去4年間に失業率が大きく上昇したことは明らかなようだと。
中国の厳格なゼロコロナ政策は、サービス部門の痛手となった。同部門は過去10年の大半にわたり雇用の主な原動力となり、特に若者は恩恵を受けてきた。
公式統計によると、20年も21年も雇用が順調に増えた工業部門とは対照的に、サービス部門は21年に62万人の純増にとどまり、2000年代以降で最も低い伸びとなった。また同部門の雇用は22年には減少に転じ、1300万人近い純減となったのだそうです。
オックスフォード・エコノミクスによると、製造業や医療、公共サービスといった新型コロナウイルス流行下で比較的好調だった部門は、若者の占める割合が少ない。逆に若者の占める割合が高いのは小売りやホスピタリティー、ITなどだが、これらは全てコロナ関連の制限または規制当局の取り締まりで特に打撃が大きかったと。
サービス部門の崩壊は、大量の新入生が大学を卒業するまでの時期と重なっている。それは恐らく学生が就職難の時期に職を探すよりも、勉学に励むことを選んだのが一因だろうと、ナサニエル・タプリン氏。
中国では住宅部門が過去20年間の景気回復の多くで主な原動力となっていた。
しかし今、政府が住宅部門への積極的な財政支援を渋っているため、労働市場の回復には時間がかかる可能性があると。
とはいえ驚くような強さの源泉がないわけではない。例えば、中国の急成長する革新的な電気自動車(EV)業界だ。自動車エンジニアや車載電池のスペシャリストという新たな仕事を見つけるかもしれないとも。
世界2位の経済大国である中国にとって、不安で落ち着かない失業中の若者という大集団は、政治的にも経済的にも大きな課題を突きつけていると、ナサニエル・タプリン氏。
第二の天安門事件に発展するかと一時危惧された、「白紙運動」。
今は鎮静化していますが、若者の失業という課題が新たに潜在・拡大しつつあるのですね。
# 冒頭の画像は、中国の大学新卒者
この花の名前は、アマ
↓よろしかったら、お願いします。