米国の失業率は上昇し、株価は下落し、債券利回りは短期金利を大きく下回っている。いずれもリセッション(景気後退)の兆候だ。
だがよく見ると、米国はそのリスクが高まっているとはいえ、まだ景気後退入りはしていない。
まだ手遅れではなく、景気後退を回避できる可能性がある。全ては米連邦準備制度理事会(FRB)と、投資家や消費者、雇用主の予測不能な気分にかかっていると、 WSJ経済担当チーフコメンテーター グレッグ・イップ。
景気後退はオン・オフのスイッチではなく、プロセスであり、FRBがそのプロセスを阻止する時間はまだある
By WSJ経済担当チーフコメンテーター グレッグ・イップ 2024年8月7日
米国の失業率は上昇し、株価は下落し、債券利回りは短期金利を大きく下回っている。いずれもリセッション(景気後退)の兆候だ。
だがよく見ると、米国はそのリスクが高まっているとはいえ、まだ景気後退入りはしていない。この違いは極めて重要だ。まだ手遅れではなく、景気後退を回避できる可能性があるからだ。全ては米連邦準備制度理事会(FRB)と、投資家や消費者、雇用主の予測不能な気分にかかっている。
景気後退論が浮上したきっかけは二つある。一つは株安で、その誘因は米経済に関するニュースではなく、日銀が7月31日に金融引き締めを決定したことだ。
二つ目はその数日後に発表された米雇用統計だ。7月の失業率が4.3%と、前月の4.1%、前年同月の3.4%を大きく上回った。これを受け、よく知られているある経験則がささやかれるようになった。それによると、米国はすでに景気後退入りしているようだ。
景気後退とは、無作為に入ったり切れたりするスイッチではなく、プロセスだ。消費や雇用、賃金の軟化が自律的に進行するサイクルである。引き金となるのはたいてい、高金利や信用収縮などの金融環境の引き締まりや、原油高や2020年の新型コロナウイルス禍といったショックだ。
経済学者のクローディア・サーム氏が提唱した経験則「サーム・ルール」によると、ここまでの失業率上昇は過去には景気後退期にしか起きていない。だが失業率上昇は景気後退を定義するものではないし、イールドカーブ(利回り曲線)のような景気後退の予兆でもない。むしろ、民間調査機関の全米経済研究所(NBER)が景気後退入りを認定する状況と相関関係がある。ちょうど、広げた傘と気象予報機関による雨の判断との関係に似ている。
雨が降っているかどうかを判断するには、傘を数えるより外に立ってみる方がいい。同様に、景気後退が始まったかどうかを判断するには、サーム・ルールよりNBERが使う指標を見る方がいい。三つの指標――米国の就業者数、鉱工業生産、政府移転収支を除いたインフレ調整後実質所得――は、1990年、2001年、08年のサーム・ルールが当てはまった月までの4カ月間に縮小した。いずれの年も、景気後退はその数カ月前に始まっていた。
今年7月までの4カ月間の就業者数は増加し、6月までの3カ月間の実質所得と鉱工業生産も伸びていた。これで景気後退が始まっていたと言うなら、それはかなり異色の景気後退だ(サーム氏は先週、景気後退が差し迫っているとは考えていないと述べた)。
注意点が二つある。まず、景気後退の前後にデータが速報値から下方修正されることはよくあり、今回もそうなる可能性はある。だがより重要なのは、軌道が何を意味するかだ。労働市場は健全な均衡が取れるほどに落ち着いた。ただ、労働市場を落ち着かせた要因がまだ作用しているとすると、成長鈍化がまぎれもない収縮に至る可能性がある。
そうした要因の一つは、米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げの遅行効果だ。これだけで米国は景気後退入りするだろうか。株式市場も重要な役割を果たす。5日のS&P500種指数の8.4%下落は取りに足りないもので、6日の反発で下落分を一部取り戻した。景気後退の前にはほぼ必ず株安が起きる。ただし、株安になっても景気後退が起きなかったこともある。
市場低迷の原因も見ておく必要がある。過度なレバレッジをかけていた市場参加者が、景気とは無関係の理由で株を手放すこともある。日銀の利上げが急激な円高を引き起こし、円安持続を見越してポジションを積んでいた投資家は円売りを余儀なくされている。
こうしたレバレッジ解消が景気後退につながるかどうかは、2008年のように金融システムにもひびが入り始めるかどうかによる。その兆候は今のところほぼ見られない。5日に米国債利回りはほぼ横ばいで推移した。パニックに陥った投資家が安全資産に逃避すれば、利回りは急低下するものだ。
気になるのは、株価が米企業の利益と売上高の減少を織り込んでいるのかどうかだ。ファストフード大手マクドナルド、半導体大手インテル、デルタ航空といった例外を除くと、企業は減少見通しを示していない。一方ファクトセットによると、7月にアナリストの利益予想平均は低下した。
もう一つ。株価が下落すると、家計資産が目減りして支出を直接圧迫する可能性がある。心理的な影響もある。すでに雇用にブレーキをかけている企業は、人員削減に踏み切るかもしれない。これが株価や金融環境に跳ね返り、自律的なサイクルが進行する可能性がある。
FRBが利下げすれば、住宅や自動車など金利の影響を受けやすい消費が活発になり、企業の設備投資を促し、株の妙味が高まるため、そうしたサイクルの進行を止められるかもしれない。FRBは7月の連邦公開市場委員会(FOMC)で秋の利下げに前向きな姿勢を示し、これを受けて債券利回りが低下した。目先の景気の追い風になるとみられる。
ただ債券利回りは、金融政策の影響を受ける短期金利を下回っている。このような長短利回りの逆転(逆イールド)は通常、景気後退の前に見られる。
要するに市場は、FRBが景気後退リスクに対処するために迅速かつ大幅な利下げに踏み切ることを期待しているのだ。しかしFRBは、今後数カ月間インフレ率が低水準にとどまった場合にのみ利下げする意向を示唆している。インフレが根強い場合はどうなるのだろう。賃金の伸び鈍化や失業率上昇、原油価格の下落を踏まえると、インフレが高止まりする可能性は低い。だがもしFRBがそのような予想に懐疑的なら、対応を先送りして、景気後退を容認するのかもしれない。
景気後退論が浮上したきっかけは二つある。一つは株安で、その誘因は米経済に関するニュースではなく、日銀が7月31日に金融引き締めを決定したことだと、グレッグ・イップ。
二つ目はその数日後に発表された米雇用統計だ。7月の失業率が4.3%と、前月の4.1%、前年同月の3.4%を大きく上回った。
経済学者のクローディア・サーム氏が提唱した経験則「サーム・ルール」によると、ここまでの失業率上昇は過去には景気後退期にしか起きていない。
雨が降っているかどうかを判断するには、傘を数えるより外に立ってみる方がいい。同様に、景気後退が始まったかどうかを判断するには、サーム・ルールよりNBERが使う指標を見る方がいい。三つの指標――米国の就業者数、鉱工業生産、政府移転収支を除いたインフレ調整後実質所得――は、1990年、2001年、08年のサーム・ルールが当てはまった月までの4カ月間に縮小した。いずれの年も、景気後退はその数カ月前に始まっていたと、グレッグ・イップ。
注意点が二つある。まず、景気後退の前後にデータが速報値から下方修正されることはよくあり、今回もそうなる可能性はある。だがより重要なのは、軌道が何を意味するかだ。労働市場は健全な均衡が取れるほどに落ち着いた。ただ、労働市場を落ち着かせた要因がまだ作用しているとすると、成長鈍化がまぎれもない収縮に至る可能性があると。
そうした要因の一つは、米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げの遅行効果。
株式市場も重要な役割を果たす。5日のS&P500種指数の8.4%下落は取りに足りないもので、6日の反発で下落分を一部取り戻した。景気後退の前にはほぼ必ず株安が起きる。ただし、株安になっても景気後退が起きなかったこともあると、グレッグ・イップ。
市場低迷の原因も見ておく必要がある。日銀の利上げが急激な円高を引き起こし、円安持続を見越してポジションを積んでいた投資家は円売りを余儀なくされている。
気になるのは、株価が米企業の利益と売上高の減少を織り込んでいるのかどうかだと、グレッグ・イップ。
企業は減少見通しを示していない。一方ファクトセットによると、7月にアナリストの利益予想平均は低下したと。
もう一つ。株価が下落すると、家計資産が目減りして支出を直接圧迫する可能性がある。心理的な影響もある。すでに雇用にブレーキをかけている企業は、人員削減に踏み切るかもしれない。これが株価や金融環境に跳ね返り、自律的なサイクルが進行する可能性があると、グレッグ・イップ。
FRBが利下げすれば、住宅や自動車など金利の影響を受けやすい消費が活発になり、企業の設備投資を促し、株の妙味が高まるため、そうしたサイクルの進行を止められるかもしれない。FRBは7月の連邦公開市場委員会(FOMC)で秋の利下げに前向きな姿勢を示し、これを受けて債券利回りが低下したのだそうです。
要するに市場は、FRBが景気後退リスクに対処するために迅速かつ大幅な利下げに踏み切ることを期待している。
しかしFRBは、今後数カ月間インフレ率が低水準にとどまった場合にのみ利下げする意向を示唆している。
インフレが根強い場合はどうなるのだろう。
もしFRBがそのような予想に懐疑的なら、対応を先送りして、景気後退を容認するのかもしれないと、グレッグ・イップ。
株価の乱高下は暫く続くのでしょうか。
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