全世界が新型コロナウイルス禍に翻弄された令和2(2020)年の幕が下りる。私たちはその経験から何を導き出し、新たな年の扉を開くのかをテーマに、日米欧を代表する「知」の3氏はオンライン鼎談(ていだん)で2021年以降の世界の行方を産経新聞が主催し、世界と日本がとるべき針路が語られています。3氏は、民主主義を守るためにも、加速する変革に積極的に対応していく姿勢が必要だと説いておられます。
中国の世紀にはならない 日米欧の知が世界の針路を語る - 産経ニュース
全般にわたり、中国の覇権拡大に関する著書や、論評に接していることが多いせいか、エドワード・ルトワック氏の論に納得することが多いと感じました。
来年はどんな年になるか。
ジャック・アタリ氏 「希望」(の年)になるでしょうと。
新型コロナのワクチンを手に入れ、初夏にはパンデミックの出口への見通しが出てくる可能性がある。そうなれば、経済は大きく成長すると。
一方、「悲劇」が起こるかもしれませんとも。
デジタル技術によって富の集中は驚くほど加速。すべての人々が成長や技術の利益を受けられるわけではなく、テロリズムや貧困格差が生じる可能性があると。
エドワード・ルトワック氏は、世界は今、映画館に座って途中で退場ができずに、ひどい映画をみさせられています。ワクチンが開発、配給されれば、みんな映画館から出てきて普通の生活に戻るでしょうが、いろんな変化が起きていることに気付きますと。
キーワードは「技術の加速」。
富の格差はこの中で拡大していると。例として量子コンピューターの登場により、現在の暗号化システムは生き残れなくなることをあげておられます。
制御が難しい技術の到来という大きな挑戦を迎える歴史的な時期ですが、私たちは技術変革をコントロールする術を理解できていませんと。
地政学的なキーワードは中国。中国は全体主義的な政府がとる手段でウイルスを制御しましたが、これにより中国の脅威はさらに明白になりました。この感染症が深刻でなくなれば、中国に立ち向かわねばなりませんと。
細谷雄一氏は、「新しい世紀」(ア・ニュー・センチュリー)を挙げておられます。
新型コロナの感染拡大でパラダイムが変わり、2021年に新しい世紀が始まります。これは「短い21世紀」といえ、それがどうなるかが、来年や未来の展望になりますと。「短い21世紀」の姿はまだ見えませんが、21年からの10年間で形が決まるでしょうと。
インドは10年後、中国を抜いて人口で世界最大の国になり、米国は依然、経済・軍事大国として非常に強靱でしょう。あとは欧州連合(EU)と日本がどれほど力を取り戻すか次第ですと。
細谷は、「短い21世紀」が「中国の世紀」になるとは思っていません。中国は10年以内に少子化が始まり、とても今の経済成長を支えていけません。前例がない財政危機になり、財政危機がおそらく政治的な正統性、統治の危機にもなりますと。
中国が失敗するのは、経済ではなく、戦略によるものでしょうとルトワック氏。
わずかの間にスウェーデンや豪州と争いを始め、インドと国境をめぐる衝突も始めました。ベトナムの船も沈めました。これは大国がとるべき振る舞いではなく、「何でもできるけど戦略がない国」の典型的な行動です。過去1500年、中国では戦略を実践できた政権がなく、今になってできるようになるとは考えられませんと。
とはいえ、中国は自滅しません。中国に抵抗するにはいくつかのことが必要です。何もしないのはダメ。まずは真剣になることだとも。
中国は今、豪州に敵対的なキャンペーンを行っており、米英とカナダは豪州に最大限の支持を示しています。インドや日本が中国の側につかず、豪州やカナダ、米国の側につくのなら、発言しなくてはなりません。これらの国が同じグループにあることを受け入れる意思がなければ、中国の脅威に対処できません。豪州が屈辱を受け、孤立するのを日本が許せば、次は日本の番になるでしょうと。
また、中国が台湾を侵攻した場合に日本が憲法や歴史、政治的な理由で台湾を助ける手段を持たないなら、台湾は中国に支配されてしまうかもしれません。そうなると日本の安全保障レベルは大きく低下しますと。
尖閣諸島の実効支配を中国がエスカレートさせている理由のひとつに、台湾侵攻時に沖縄の米海兵隊の動きへの備えとしたい意図があるとの声が聴かれることは、諸兄がご承知の通りです。
バイデン政権誕生に伴う日本などいわゆる「ミドルパワー」(準大国)の役割というのは、どこにあるのか。
アタリ氏は、起こりうる「悲劇」としては、国際協調体制の解体もあります。先進7カ国(G7)の存在感は消えました。国連安全保障理事会は冗談のようなものです。もはや何の影響力もなく、世界を管理するという点でいかなる役割も担っていません。だからこそ(国際協調体制の解体を)懸念していますと。
バイデン米前副大統領が政権をとることで、私たちは多国間主義が機能するよう、もっと試みることができる。米国が多国間主義が必要な機関に戻ってくることは喜ばしいことだと。
ルトワック氏は、日本は安倍前政権下で外交政策を持つようになり、積極的で責任を取る政策を始めたのです。それを続けなくてはなりませんと。
どの国にも孤立する選択肢はありません。中国は多くの船を尖閣諸島の周辺に送っています。米国は対応し、豪州の友人たちを含む他の国も対応するでしょう。カナダの太平洋艦隊は太平洋で共同訓練に参加しています。来年は、この非公式ながら事実上の同盟のメンバーが同盟として機能できるかが問われる年ですとも。
欧州勢も、中国の無謀さに重い腰を上げ、空母や艦船をアジアに派遣し中国をけん制し始めていることは諸兄がご承知の通りです。
EUの中国への反発はどのようにして広がったか - 遊爺雑記帳
資本主義は変質するのか。
今の世界は米中印露と日本、EUの6勢力に経済的、軍事的パワーが分散しています。これらの勢力がどう連合を組むのかと細谷氏。
中国が世界で多くの敵をつくったことで、日米印とEUという民主主義体制の4勢力の連合はより強固になっています。パワーバランスを考えると、今後10年間で権威主義体制が世界の中心になることはないでしょう。4勢力が連携を深めていけば、民主主義が世界の中心的な流れであり続けると思いますと。
.ルトワック氏は、民主主義国家はいつも弱くみえますが、歴史的に勝利を収めてきました。それは過ちを正してきたからですと。
戦争の前は独裁国家の方が強くみえますが、結局は民主主義国家が勝ちました。中国が戦略で過ちを犯すのは「帝王」が全ての決定を下し、それを正す人がいないからです。ロシアにも同じことがいえますと。
アフターコロナについて、ルトワック氏は、私たちはパンデミックでいくつかのことを学びました。一つは「COVID-19」(新型コロナウイルス感染症)があるなら「COVID-20」があるかもしれないということだと。
豪州はうまく管理した。テクノロジーが存在することをただ許すことと、テクノロジーを制御することの違いを教えてくれます。これまであまり政治のテーマになりませんでしたが、テクノロジーを理解している政治家が支持を得るべきですと。
観光には依存してはならないことなど、他にも論点はあります。大きな教訓だけではなく、小さくても重要な教訓が多くあると思いますとも。
データ庁を創設する菅政権。
世界各国の成功例、失敗例に学び、新型コロナとの短期、長期の闘いに取り組むことに期待します。
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中国の世紀にはならない 日米欧の知が世界の針路を語る - 産経ニュース
権威主義は世界の中心にならず 「自由 強権 知は語る」オンライン鼎談詳報 - 産経ニュース 2020.12.31
全世界が新型コロナウイルス禍に翻弄された令和2(2020)年の幕が下りる。コロナ禍は現代の社会や経済、政治が抱える歪(ひず)みをあらわにした。私たちはその経験から何を導き出し、新たな年の扉を開くのか。仏経済学者のジャック・アタリ、米歴史学者のエドワード・ルトワック、国際政治学者の細谷雄一の3氏が7日のオンライン鼎談(ていだん)で交わした言葉の一つ一つが、その手掛かりとなる。3氏の議論を詳報する。
コロナ拡大で「短い21世紀に」
■来年はどんな年になるか
井口文彦編集局長 2020年は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)という予想もしなかった事象で、それまでの矛盾が世界中であらわになりました。21年はどのような年になりうるのか、まずキーワードとともに展望してもらえますか。
ジャック・アタリ氏 「希望」(の年)になるでしょう。経済は大きく成長する可能性があります。新型コロナのワクチンを手に入れ、初夏にはパンデミックの出口への見通しが出てくる可能性があるからです。気候変動問題に関するよい決定や素晴らしい技術(の開発)など、多くの前向きなこともあるかもしれません。「利他主義」という新たな価値が現れてくるかもしれません。医療や教育といったサービスなどは今後数年、私が「命の経済」(※注1)と呼ぶものの鍵です。これらの部門がデジタル技術を使って発展すると広くみられています。
「悲劇」が起こるかもしれません。テロリズムや貧困、格差。すべての人々が成長や技術の利益を受けているわけではありません。格差は大きくなり、多くの革命の可能性も広がるでしょう。デジタル技術によって富の集中は驚くほど加速し、不満は高まっています。ワクチンが効かなかったり、世界中に行き渡らなかったりしてパンデミックが続くこともあります。
エドワード・ルトワック氏 世界は今、映画館に座って途中で退場ができずに、ひどい映画をみさせられています。ワクチンが開発、配給されれば、みんな映画館から出てきて普通の生活に戻るでしょうが、いろんな変化が起きていることに気付きます。
私のキーワードは「技術の加速」です。テクノロジー(技術)の変革は随分前から起こっていますが、一気に飛躍しています。アタリさんも触れましたが、富の格差はこの中で拡大しています。それが変化の一つです。例えば、これまでのコンピューターをはるかに上回る速度で稼働する量子コンピューター(※注2)は新たな手段となるでしょうが、その結果、グローバル・ビジネスを可能にしている現在の暗号化システムは生き残れません。私たちも大きな変化を求められます。制御が難しい技術の到来という大きな挑戦を迎える歴史的な時期ですが、私たちは技術変革をコントロールする術(すべ)を理解できていません。
地政学的には中国です。中国は全体主義的な政府がとる手段でウイルスを制御しましたが、これにより中国の脅威はさらに明白になりました。この感染症が深刻でなくなれば、中国に立ち向かわねばなりません。量子コンピューターが上海で稼働する日を待っていたら、手遅れになります。
細谷雄一氏 私が挙げたのは「新しい世紀」(ア・ニュー・センチュリー)です。英国の歴史学者のエリック・ホブズボームは(時代概念として提唱した)「短い20世紀」が1914年の第一次世界大戦勃発で始まったと論じました。今は世界戦争が起きていない代わりに新型コロナの感染拡大でパラダイムが変わり、2021年に新しい世紀が始まります。これは「短い21世紀」といえ、それがどうなるかが、来年や未来の展望になります。
第一次世界大戦後、「パクス・アメリカーナ」(米国による平和)という時代があり、多くの人が米国の大衆車「T型フォード」に乗りました。今は中国の華為技術(ファーウェイ)のスマートフォンを世界中の人が使っています。インドは10年後、中国を抜いて人口で世界最大の国になり、米国は依然、経済・軍事大国として非常に強靱(きょうじん)でしょう。あとは欧州連合(EU)と日本がどれほど力を取り戻すか次第です。「短い21世紀」の姿はまだ見えませんが、21年からの10年間で形が決まるでしょう。
アタリ 中国はキーワードの一つです。中国は世界のリーダーになろうとするでしょうが、成功すると思いません。台湾や台湾海峡の支配をめぐって日米と中国が争い、戦争が起きるかもしれません。台湾をのみ込むことが中国の目的ですから。そうなればさらなる「悲劇」です。
日本は(和解した)フランスとドイツのように、中国との付き合い方を見いだす必要があります。何とか中国と合意し、彼らが民主主義に移行するように仕向けるのです。日本は長期的にそういう運命にあり、隣国と合意できないと安定した国になれないでしょう。もちろん「隣国に従属せよ」とは言っていません。フランスもドイツに従属していません。平等なパートナーシップでなければなりません。道のりは長いでしょうが、中国の中産階級は民主主義を求めており、日本は中国の民主主義移行を助ける努力をしなくてはなりません。
細谷 私は「短い21世紀」が「中国の世紀」になるとは思っていません。中国は10年以内に少子化が始まり、とても今の経済成長を支えていけません。前例がない財政危機になり、財政危機がおそらく政治的な正統性、統治の危機にもなります。
アタリさんは日中関係と仏独関係に触れましたが、民主主義国家同士のフランスと(戦後の)西ドイツが和解したのと、日本が中国と和解するのは異なります。フランスは冷戦時代、共産主義体制の東ドイツと和解できませんでした。体制が違うからです。体制が異なり、歴史認識の問題を政治的に利用する中国と、仏独のような形で日本が親密な関係をつくることは簡単ではありません。日本が協力するパートナーは、EUやオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、インドのような民主主義国家です。日本は第二次世界大戦で英仏や豪州、インドとも戦いましたが、価値を共有するこれらの国との和解を実現しています。これは仏独の和解とある程度、重なると思います。
ルトワック 仏独はフランスの軍事力とドイツの経済力で平等たりえますが、中国との平等な関係はありえず、その選択肢は全くあり得ません。中国が大きな経済や人口の問題に直面するとも思いません。中国は経済を管理するという点で問題を抱えておらず、あらゆる経済的な困難を克服すると思います。
中国が失敗するのは、経済ではなく、戦略によるものでしょう。中国は(経済力をみると)何でもできますが、戦略だけはできません。わずかの間にスウェーデンや豪州と争いを始め、インドと国境をめぐる衝突も始めました。ベトナムの船も沈めました。これは大国がとるべき振る舞いではなく、「何でもできるけど戦略がない国」の典型的な行動です。過去1500年、中国では戦略を実践できた政権がなく、今になってできるようになるとは考えられません。
とはいえ、中国は自滅しません。中国に抵抗するにはいくつかのことが必要です。何もしないのはダメ。まずは真剣になることです。中国は今、豪州に敵対的なキャンペーンを行っており、米英とカナダは豪州に最大限の支持を示しています。しかし、インドは沈黙しています。インドや日本が中国の側につかず、豪州やカナダ、米国の側につくのなら、発言しなくてはなりません。これらの国が同じグループにあることを受け入れる意思がなければ、中国の脅威に対処できません。豪州が屈辱を受け、孤立するのを日本が許せば、次は日本の番になるでしょう。私は菅義偉(すが・よしひで)政権が豪州支持の強いメッセージを発信してくれることを期待しています。中国はワインなど豪州からの輸入を止めて(豪州国内で政府に対する)圧力を生もうとしています。井口さんも豪州産ワインを買って豪州を助けることができますよ。
また、中国が台湾を侵攻した場合に日本が憲法や歴史、政治的な理由で台湾を助ける手段を持たないなら、台湾は中国に支配されてしまうかもしれません。そうなると日本の安全保障レベルは大きく低下しますので、日本政府は何か手を講じなければなりません。米中の偶発的な衝突は起こるかもしれませんが、米中ともエスカレートは許容せず、コントロールするでしょう。
※注1=ジャック・アタリ氏が、新型コロナ禍とその後の危機克服に向けて提唱する概念。健康的な暮らしに必要な医療や物流、環境、デジタルなど幅広い分野への投資増大により、経済や社会構造の転換を進めることが重要だとする。同氏の近著「命の経済」に詳しい。
※注2=量子力学に基づいて超高速で計算を行う演算装置。遠く離れた2つの粒子が互いに影響し合う「量子もつれ」といわれる現象を利用する。実用化されれば、新薬開発技術や人工知能(AI)の飛躍的向上につながるほか、従来の暗号技術を無効化することも可能とされる。
米の支援に頼らぬ備えを
■日本などミドルパワーの役割は
井口 米国ではバイデン政権の誕生が確実になり、米国が多国間協調に回帰するという見通しだといわれていますが、本当にそうなるかは見ないと分かりません。そうした中で、日本などいわゆる「ミドルパワー」(準大国)の役割というのは、どこにあるのでしょうか。
アタリ 他に起こりうる「悲劇」としては、国際協調体制の解体もあります。先進7カ国(G7)の存在感は消えました。国連安全保障理事会は冗談のようなものです。もはや何の影響力もなく、世界を管理するという点でいかなる役割も担っていません。だからこそ(国際協調体制の解体を)懸念しています。
バイデン米前副大統領が政権をとることで、私たちは多国間主義が機能するよう、もっと試みることができるでしょう。米国が世界保健機関(WHO)や世界貿易機関(WTO)、国連教育科学文化機関(ユネスコ)など本当に多国間主義が必要な機関に戻ってくることは喜ばしいことです。そうでなければ超大国間の競争の時代に入ってしまいます。それは真のリスクです。ルトワックさんが豪州(と中国の対立)の例を挙げたように、保護主義の大波が災厄になる可能性もあります。保護主義はナショナリズムに、ナショナリズムは戦争へとつながるのです。
日本は今後30年、米国の支援に頼らずに孤独でもいられるよう備えるべきでしょう。米国の支援は永遠ではありません。欧州も、問題があっても米国の支援を得なくていいように備えなければならない。バルト三国やポーランドを支援するために、米国は米兵も核兵器も決して送ってくれないでしょう。
細谷 日本が孤独に耐えないといけないというアタリさんの意見には賛成するところがあります。米国が常に日本を助けてくれるわけではない。今、EUも「戦略的自立」を強調していますが、日本も戦略的自立が今までより必要になってくると思います。
ただ、日本は5年前から安倍晋三前政権下でもう(自立的な動きを)やっていました。オバマ米前政権は(中国が提起した)「新型大国間関係」という形で米中が協力してアジアの問題を解決しようとしました。日本はそれにどう応じたか。米国との同盟をもちろん求めますが、一方で日本はその後、EUと経済連携協定(EPA)(※注3)をつくりました。EUとの間では過去何年かの間に気候変動、データ・ガバナンス(管理・統制)の問題でも協力してきました。
また、トランプ米現政権は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)(※注3)から離脱しましたが、日本はまさに戦略的自立、孤独の中で豪州やカナダなどとTPPをつくりました。カナダのトルドー首相が言った通り、日本のリーダーシップなしにTPPはつくれませんでした。そこに米中は入っていません。米中対立の時代に米中との関係を悪化させないようにしながら、ある程度、独自のイニシアチブをとってきました。孤独に耐えねばならないとの認識は安倍前政権のときからあったのだと思います。
ルトワック オバマ前政権は積極的ではありませんでしたが、中国が尖閣諸島(沖縄県石垣市)を要求してきた際、尖閣諸島は日本の(施政下にある)一部であり、米国が日本を守ることにコミットしていると明確にしました。安倍前政権はそれに基づいて中国と交渉し、要求をかわすことができたのです。日本は孤立していませんでした。日本は安倍前政権下で外交政策を持つようになり、積極的で責任を取る政策を始めたのです。それを続けなくてはなりません。
米国も孤立していられません。どの国にも孤立する選択肢はありません。中国は多くの船を尖閣諸島の周辺に送っています。米国は対応し、豪州の友人たちを含む他の国も対応するでしょう。カナダの太平洋艦隊は太平洋で共同訓練に参加しています。来年は、この非公式ながら事実上の同盟のメンバーが同盟として機能できるかが問われる年です。
バイデン次期政権は、その継続性によってみなさんを驚かせるでしょう。上院では共和党議員が最低でも半数に当たる50人いる事実によって、トランプ政権との大きな違いを出せなくなります。スタイルは違うものになるでしょう。怒鳴ることも、言い争うことも少ないでしょう。ですが、多くの継続性があると思います。
※注3=日本は複数の巨大経済圏が重なる結節点にある。2018年12月には日豪やベトナムなど11カ国からなる環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が、19年2月には日EUの経済連携協定(EPA)が発効。今年11月には、日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)などの15カ国が地域的な包括的経済連携(RCEP)に署名した。いずれの枠組みでも日本が主導的な役割を果たした。
中国の狙いは「黙らせる」こと
■民主主義は衰退に向かうのか
井口 日本にとっては北朝鮮の問題も懸念です。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長はトランプ米大統領と個人的な関係を築きましたが、バイデン次期政権ではどうなっていくでしょう。
細谷 北朝鮮は自分が不利だと、国際社会のいずれかの主要国に接近し、有利な状況をつくろうとします。もともと提携していたロシアが経済的に弱体化すると、中国に接近しました。6カ国協議で米中が協力すると、韓国に近づき、中国が国連安全保障理事会の制裁に賛成すると、米国に韓国を通じて接近しました。その結果が初の米朝首脳会談です。トランプ政権は北朝鮮の戦術にはまったのだと思います。
北朝鮮はこの戦略で国際的な圧力に風穴を開けてきました。バイデン次期政権に対しても韓国経由で動かそうとすると思います。日本は結束の維持を目指し、風穴を開けないようにすることが大事です。
ルトワック バイデン次期政権下で指名された北朝鮮問題担当者ができる最善のことは、即座に休暇をとり、そのまま4年間過ごすことです。私たちは北朝鮮問題に関し、何も決定できません。そもそも私たちは朝鮮半島の統一を望んでいるのでしょうか。統一朝鮮が核兵器を持てば、日本にとって大いに危険です。統一朝鮮が核を持たなければ、中国の植民地になるでしょう。北朝鮮は核兵器の保有で独立を担保していますから。
北朝鮮の核はおそらく十分に管理されていないので常に事故が起こる可能性を考えなくてはなりません。現状はひどいものですが、(核への対処という)非常に厄介な問題を生み出す朝鮮半島統一よりはよいのでしょう。これは北朝鮮問題を解決できない理由でもあります。これまで中国もロシアも米国も、北朝鮮の核開発を止められたのに止めませんでした。私たちが真剣に取り組まない一方、北朝鮮は真剣だったのです。
井口 自由と民主主義を価値とした米国主導の世界秩序が、中露といった権威主義国家の台頭で揺らいでいます。特に新型コロナ対応で強く感じられました。民主主義が衰退に向かう恐れはありますか。
アタリ 民主主義は衰退しないと思います。新型コロナ流行の経緯をみると、中国の対応は悪夢でした。独裁国家ゆえの大失敗です。独裁国家であることの影響はまず、人々が互いに嘘をつき、自分自身にも嘘をつくことです。中国ではまさにそのようなことが起きました。中国の人々は政府にも事実を隠し、パンデミックが広がり、大きなパニックになりました。実際には彼らが言う以上に(感染者などの)数字は大きかったと思います。独裁国家はパンデミックにうまく対処するには非常に悪い制度です。
良い例として韓国を挙げます。韓国は民主主義国家です。かつて感染症の流行を経験し、失敗しました。その後、(対策を一元管理する)疾病管理機関をつくりました。中国で問題があると分かると、国内では最初の症例が見つかる前に準備を整えました。人口約5200万人の国としては死者が少ないです。パンデミック対応のサクセスストーリーは独裁国家ではなく民主主義国家なのです。
ルトワック 民主主義国家はいつも弱くみえますが、歴史的に勝利を収めてきました。それは過ちを正してきたからです。民主主義国家には変化があり、混乱があり、内部では常に議論している。戦争の前は独裁国家の方が強くみえますが、結局は民主主義国家が勝ちました。だから今の私たちがあります。中国が戦略で過ちを犯すのは「帝王」が全ての決定を下し、それを正す人がいないからです。ロシアにも同じことがいえます。
中国と豪州の間で今起こっているのは「黙らせる」ことです。中国は豪政府に(新型コロナをめぐる)中国の責任についてしゃべってもらいたくない。香港では人々を黙らせられなかったので、直接管理せねばならなくなったのです。共産主義体制が存続するには人々を黙らせる必要があります。米国や日本などのように大きく自由な国があると、存続できません。世界を支配するのは、体制存続の唯一の手段なのです。
細谷 かつてドイツ帝国初代首相のビスマルクは「世界が5つの大国に分かれていたら多数の側につくようにせよ」ということを言いました。今の世界は米中印露と日本、EUの6勢力に経済的、軍事的パワーが分散しています。これらの勢力がどう連合を組むのか。
権威主義体制の中露が組むのは自然なことです。中国は、さらに米国から同盟国を切り離し連合を組みたいので、まず徹底してEUとの経済関係を強化しました。でも、今、関係は悪化しています。インドとも最近の軍事衝突で関係が非常に緊張しています。
米国の強固な同盟国の日本を味方につけるのは難しいので、地域的な包括的経済連携(RCEP)(※注3)など経済的に日本と一層緊密に結び付くことを期待しています。しかし、日本国民の80~90%が中国にネガティブな感情を持っており、なかなか日本との提携はできないでしょう。
中国が世界で多くの敵をつくったことで、日米印とEUという民主主義体制の4勢力の連合はより強固になっています。パワーバランスを考えると、今後10年間で権威主義体制が世界の中心になることはないでしょう。4勢力が連携を深めていけば、民主主義が世界の中心的な流れであり続けると思います。
「命の経済」への転換願う
■資本主義は変質するか
井口 新型コロナの流行は経済に大きな影響を与えましたが、国家と市場の関係など資本主義を変質させる可能性があるのでしょうか。また、国や企業、個人がなすべきことは何か、提案があれば聞かせてください。
アタリ 1世紀前にスペイン風邪が流行した後、人々は以前の行動に戻り、経済危機と第二次世界大戦に至りました。今回も人々が近視眼的で自己中心的な行動に戻り、「命の経済」という大事なもの、つまりクリーンエネルギーや衛生、教育、医療、食料、農業といった分野に着目しない可能性があります。
私たちの国では、これらの分野が国内総生産(GDP)に占める割合は50%でしかありません。こうした分野に投資をすべて集中し、次の脅威に備える。「命の経済」の分野を優先する世界は素晴らしいものであり、それは私の願いです。
細谷 資本主義はいまや大きく変容しています。一番大きな問題は、経済問題では一国単位で解決できる領域が非常に限られ、グローバルなレベルでないと解決できないというギャップです。例えば富を再配分しようと税を上げれば、富裕層や企業が国外に簡単に逃げてしまう。国内政治で貧困層を救済しようとしたときに、経済のグローバル化で財政資源がある意味、規定されているのです。そのギャップが結局、さまざまな不満を生みます。
アダム・スミス(※注4)は他人が苦しんでいるときに共感する感情なしには、資本主義は存続しないと考えました。人々からその感情が失われているのかもしれません。
井口 「GAFA」(※注5)などIT大手は国家と緊張関係にあります。
細谷 GAFAも利益を社会に還元するかというと、そうとは限らない。多くの企業は、少しでも税金が低いところに動きます。企業が合理的判断でより大きな利潤を追求するのは、資本主義の前提ですから。
この問題は新自由主義的な自由主義体制の中だけのものではなく、国家が企業をコントロールする中国でも、アリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏と中国共産党との軋轢(あつれき)になっています。
ルトワック アダム・スミスは資本主義には独占の禁止が必要だとも説明しましたが、巨大な独占企業の出現を許してしまいました。グーグルは独占企業です。バイデン次期政権には独占禁止の問題を真剣にとらえてほしい。
過去においては地理的条件が独占を制限してきました。大阪で一番大きなコメ問屋でも、盛岡のコメ市場をコントロールすることは不可能でした。しかし、電子の世界では可能です。そこには距離というものがないからです。だから各国政府は行動しなくてはなりません。米国がグーグルの独占に行動しなくても、日本政府は独自の権限で動かねばなりません。
そうしなければ、これら独占テクノロジー企業により奇妙な自由の喪失を味わうことになります。実現が近づく量子コンピューターを最初に実用化した民間企業は、翌日にはスーパーパワーとなるでしょう。備えなくてはなりません。
井口 個人データは「21世紀の原油」といわれ、GAFAは自由な市場を活用し、これを莫大(ばくだい)な収益に変えています。一方、中国は個人データを国民監視など国家権力の基盤として使っていますが、世界の主流となるのはどちらですか。
細谷 米国は新自由主義的な市場経済により、中国は市場を管理することにより、巨大な力を得ています。その中で日本とEUは「第三の道」を模索しています。(情報の)自由な流通は必要ですが、個人や企業の主体的な意志による「トラスト」(信頼)に基づき、中国のような国家の管理でもなく、一定のルールをつくっていこうというのが日本とEUの形だと思います。あくまでも世界2大国は米中なので、第三の道は非常に弱い。でも言い換えたら、日本とEUが米中とどこまで提携できるかで流れが決まっていきます。
※注4=18世紀の英国の思想家、経済学者。主著に『国富論』『道徳感情論』など。国家の介入を排することで市場の「見えざる手」が機能し、需給が調整されると論じた。一方で人間には他人への同感能力があり、個人の利己心を制御する正義の感覚が市場の健全性を保つとした。
※注5=米国発祥の巨大IT企業であるグーグル(G)、アップル(A)、フェイスブック(F)、アマゾン・コム(A)の4社を指す。それぞれ検索エンジンやSNS、ネット通販などで圧倒的シェアを持つ。独占状態や膨大な量の個人データの蓄積が問題視され、解体論も浮上している。
ウィズコロナの世界に早く慣れる
■アフターコロナ 何をすべきか
井口 新型コロナの収束後も以前の状態に戻ることはないといわれています。「アフターコロナ」をよりよき未来にするために必要なことは何でしょう。
アタリ 映画館を出てから、映画で学んだことを忘れ、何も変えずに元の生活に戻れると思ってしまう。それは危険です。
コロナは長期的な脅威です。パンデミックの脅威については私も他の人も20年前に書いていたのに、日本も欧州も米国も準備してきませんでした。教訓を一つ挙げるなら、パンデミックや気候変動、地政学的な脅威など今後20年の主な脅威のリストをできるだけ早期に作成する。そのすべてに対し、プランA、プランBをつくり、準備しておくことでしょう。
細谷 コロナ前の時代に戻ろうとする思考を捨てることが重要です。例えばフランス革命では貴族階級たちが王制下の優越した地位を失った後、新しい時代に適合しなくてはなりませんでした。第二次世界大戦で広島、長崎が核兵器を経験し、核のない世界がつくられようとしました。しかしそれは訪れず、人々は人類滅亡の恐怖におびえながらも、ある意味、「ウィズ核兵器」、つまり核抑止の時代の中で、新しい明るい未来を築きました。
コロナの時代も同様に明るく生きられます。人類は過去数千年の歴史で、それを示してきました。失われたものではなく、新しく手に入れたものを数えた方が明るい未来を築けます。アフターコロナ、ウィズコロナの世界に早く慣れた人や国が、これからの世界をリードしていくのでしょう。
ルトワック 私たちはパンデミックでいくつかのことを学びました。一つは「COVID-19」(新型コロナウイルス感染症)があるなら「COVID-20」があるかもしれないということです。韓国がとった措置のように、その対処のための組織を真剣に築かなくてはなりません。
豪州も韓国とはまったく違う方法で(感染拡大を)うまく管理しました。それはテクノロジーが存在することをただ許すことと、テクノロジーを制御することの違いを教えてくれます。これまであまり政治のテーマになりませんでしたが、テクノロジーを理解している政治家が支持を得るべきです。政治家も「私はテクノロジーを理解しているので投票してください」と言うべきです。これはトランプ氏の弱点でした。
観光には依存してはならないことなど、他にも論点はあります。大きな教訓だけではなく、小さくても重要な教訓が多くあると思います。来年開かれる予定の東京五輪については、日本が観客を迎えることを願っています。私自身は五輪の前か後、多分、前に訪ねたいと思います。
全世界が新型コロナウイルス禍に翻弄された令和2(2020)年の幕が下りる。コロナ禍は現代の社会や経済、政治が抱える歪(ひず)みをあらわにした。私たちはその経験から何を導き出し、新たな年の扉を開くのか。仏経済学者のジャック・アタリ、米歴史学者のエドワード・ルトワック、国際政治学者の細谷雄一の3氏が7日のオンライン鼎談(ていだん)で交わした言葉の一つ一つが、その手掛かりとなる。3氏の議論を詳報する。
コロナ拡大で「短い21世紀に」
■来年はどんな年になるか
井口文彦編集局長 2020年は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)という予想もしなかった事象で、それまでの矛盾が世界中であらわになりました。21年はどのような年になりうるのか、まずキーワードとともに展望してもらえますか。
ジャック・アタリ氏 「希望」(の年)になるでしょう。経済は大きく成長する可能性があります。新型コロナのワクチンを手に入れ、初夏にはパンデミックの出口への見通しが出てくる可能性があるからです。気候変動問題に関するよい決定や素晴らしい技術(の開発)など、多くの前向きなこともあるかもしれません。「利他主義」という新たな価値が現れてくるかもしれません。医療や教育といったサービスなどは今後数年、私が「命の経済」(※注1)と呼ぶものの鍵です。これらの部門がデジタル技術を使って発展すると広くみられています。
「悲劇」が起こるかもしれません。テロリズムや貧困、格差。すべての人々が成長や技術の利益を受けているわけではありません。格差は大きくなり、多くの革命の可能性も広がるでしょう。デジタル技術によって富の集中は驚くほど加速し、不満は高まっています。ワクチンが効かなかったり、世界中に行き渡らなかったりしてパンデミックが続くこともあります。
エドワード・ルトワック氏 世界は今、映画館に座って途中で退場ができずに、ひどい映画をみさせられています。ワクチンが開発、配給されれば、みんな映画館から出てきて普通の生活に戻るでしょうが、いろんな変化が起きていることに気付きます。
私のキーワードは「技術の加速」です。テクノロジー(技術)の変革は随分前から起こっていますが、一気に飛躍しています。アタリさんも触れましたが、富の格差はこの中で拡大しています。それが変化の一つです。例えば、これまでのコンピューターをはるかに上回る速度で稼働する量子コンピューター(※注2)は新たな手段となるでしょうが、その結果、グローバル・ビジネスを可能にしている現在の暗号化システムは生き残れません。私たちも大きな変化を求められます。制御が難しい技術の到来という大きな挑戦を迎える歴史的な時期ですが、私たちは技術変革をコントロールする術(すべ)を理解できていません。
地政学的には中国です。中国は全体主義的な政府がとる手段でウイルスを制御しましたが、これにより中国の脅威はさらに明白になりました。この感染症が深刻でなくなれば、中国に立ち向かわねばなりません。量子コンピューターが上海で稼働する日を待っていたら、手遅れになります。
細谷雄一氏 私が挙げたのは「新しい世紀」(ア・ニュー・センチュリー)です。英国の歴史学者のエリック・ホブズボームは(時代概念として提唱した)「短い20世紀」が1914年の第一次世界大戦勃発で始まったと論じました。今は世界戦争が起きていない代わりに新型コロナの感染拡大でパラダイムが変わり、2021年に新しい世紀が始まります。これは「短い21世紀」といえ、それがどうなるかが、来年や未来の展望になります。
第一次世界大戦後、「パクス・アメリカーナ」(米国による平和)という時代があり、多くの人が米国の大衆車「T型フォード」に乗りました。今は中国の華為技術(ファーウェイ)のスマートフォンを世界中の人が使っています。インドは10年後、中国を抜いて人口で世界最大の国になり、米国は依然、経済・軍事大国として非常に強靱(きょうじん)でしょう。あとは欧州連合(EU)と日本がどれほど力を取り戻すか次第です。「短い21世紀」の姿はまだ見えませんが、21年からの10年間で形が決まるでしょう。
アタリ 中国はキーワードの一つです。中国は世界のリーダーになろうとするでしょうが、成功すると思いません。台湾や台湾海峡の支配をめぐって日米と中国が争い、戦争が起きるかもしれません。台湾をのみ込むことが中国の目的ですから。そうなればさらなる「悲劇」です。
日本は(和解した)フランスとドイツのように、中国との付き合い方を見いだす必要があります。何とか中国と合意し、彼らが民主主義に移行するように仕向けるのです。日本は長期的にそういう運命にあり、隣国と合意できないと安定した国になれないでしょう。もちろん「隣国に従属せよ」とは言っていません。フランスもドイツに従属していません。平等なパートナーシップでなければなりません。道のりは長いでしょうが、中国の中産階級は民主主義を求めており、日本は中国の民主主義移行を助ける努力をしなくてはなりません。
細谷 私は「短い21世紀」が「中国の世紀」になるとは思っていません。中国は10年以内に少子化が始まり、とても今の経済成長を支えていけません。前例がない財政危機になり、財政危機がおそらく政治的な正統性、統治の危機にもなります。
アタリさんは日中関係と仏独関係に触れましたが、民主主義国家同士のフランスと(戦後の)西ドイツが和解したのと、日本が中国と和解するのは異なります。フランスは冷戦時代、共産主義体制の東ドイツと和解できませんでした。体制が違うからです。体制が異なり、歴史認識の問題を政治的に利用する中国と、仏独のような形で日本が親密な関係をつくることは簡単ではありません。日本が協力するパートナーは、EUやオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、インドのような民主主義国家です。日本は第二次世界大戦で英仏や豪州、インドとも戦いましたが、価値を共有するこれらの国との和解を実現しています。これは仏独の和解とある程度、重なると思います。
ルトワック 仏独はフランスの軍事力とドイツの経済力で平等たりえますが、中国との平等な関係はありえず、その選択肢は全くあり得ません。中国が大きな経済や人口の問題に直面するとも思いません。中国は経済を管理するという点で問題を抱えておらず、あらゆる経済的な困難を克服すると思います。
中国が失敗するのは、経済ではなく、戦略によるものでしょう。中国は(経済力をみると)何でもできますが、戦略だけはできません。わずかの間にスウェーデンや豪州と争いを始め、インドと国境をめぐる衝突も始めました。ベトナムの船も沈めました。これは大国がとるべき振る舞いではなく、「何でもできるけど戦略がない国」の典型的な行動です。過去1500年、中国では戦略を実践できた政権がなく、今になってできるようになるとは考えられません。
とはいえ、中国は自滅しません。中国に抵抗するにはいくつかのことが必要です。何もしないのはダメ。まずは真剣になることです。中国は今、豪州に敵対的なキャンペーンを行っており、米英とカナダは豪州に最大限の支持を示しています。しかし、インドは沈黙しています。インドや日本が中国の側につかず、豪州やカナダ、米国の側につくのなら、発言しなくてはなりません。これらの国が同じグループにあることを受け入れる意思がなければ、中国の脅威に対処できません。豪州が屈辱を受け、孤立するのを日本が許せば、次は日本の番になるでしょう。私は菅義偉(すが・よしひで)政権が豪州支持の強いメッセージを発信してくれることを期待しています。中国はワインなど豪州からの輸入を止めて(豪州国内で政府に対する)圧力を生もうとしています。井口さんも豪州産ワインを買って豪州を助けることができますよ。
また、中国が台湾を侵攻した場合に日本が憲法や歴史、政治的な理由で台湾を助ける手段を持たないなら、台湾は中国に支配されてしまうかもしれません。そうなると日本の安全保障レベルは大きく低下しますので、日本政府は何か手を講じなければなりません。米中の偶発的な衝突は起こるかもしれませんが、米中ともエスカレートは許容せず、コントロールするでしょう。
※注1=ジャック・アタリ氏が、新型コロナ禍とその後の危機克服に向けて提唱する概念。健康的な暮らしに必要な医療や物流、環境、デジタルなど幅広い分野への投資増大により、経済や社会構造の転換を進めることが重要だとする。同氏の近著「命の経済」に詳しい。
※注2=量子力学に基づいて超高速で計算を行う演算装置。遠く離れた2つの粒子が互いに影響し合う「量子もつれ」といわれる現象を利用する。実用化されれば、新薬開発技術や人工知能(AI)の飛躍的向上につながるほか、従来の暗号技術を無効化することも可能とされる。
米の支援に頼らぬ備えを
■日本などミドルパワーの役割は
井口 米国ではバイデン政権の誕生が確実になり、米国が多国間協調に回帰するという見通しだといわれていますが、本当にそうなるかは見ないと分かりません。そうした中で、日本などいわゆる「ミドルパワー」(準大国)の役割というのは、どこにあるのでしょうか。
アタリ 他に起こりうる「悲劇」としては、国際協調体制の解体もあります。先進7カ国(G7)の存在感は消えました。国連安全保障理事会は冗談のようなものです。もはや何の影響力もなく、世界を管理するという点でいかなる役割も担っていません。だからこそ(国際協調体制の解体を)懸念しています。
バイデン米前副大統領が政権をとることで、私たちは多国間主義が機能するよう、もっと試みることができるでしょう。米国が世界保健機関(WHO)や世界貿易機関(WTO)、国連教育科学文化機関(ユネスコ)など本当に多国間主義が必要な機関に戻ってくることは喜ばしいことです。そうでなければ超大国間の競争の時代に入ってしまいます。それは真のリスクです。ルトワックさんが豪州(と中国の対立)の例を挙げたように、保護主義の大波が災厄になる可能性もあります。保護主義はナショナリズムに、ナショナリズムは戦争へとつながるのです。
日本は今後30年、米国の支援に頼らずに孤独でもいられるよう備えるべきでしょう。米国の支援は永遠ではありません。欧州も、問題があっても米国の支援を得なくていいように備えなければならない。バルト三国やポーランドを支援するために、米国は米兵も核兵器も決して送ってくれないでしょう。
細谷 日本が孤独に耐えないといけないというアタリさんの意見には賛成するところがあります。米国が常に日本を助けてくれるわけではない。今、EUも「戦略的自立」を強調していますが、日本も戦略的自立が今までより必要になってくると思います。
ただ、日本は5年前から安倍晋三前政権下でもう(自立的な動きを)やっていました。オバマ米前政権は(中国が提起した)「新型大国間関係」という形で米中が協力してアジアの問題を解決しようとしました。日本はそれにどう応じたか。米国との同盟をもちろん求めますが、一方で日本はその後、EUと経済連携協定(EPA)(※注3)をつくりました。EUとの間では過去何年かの間に気候変動、データ・ガバナンス(管理・統制)の問題でも協力してきました。
また、トランプ米現政権は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)(※注3)から離脱しましたが、日本はまさに戦略的自立、孤独の中で豪州やカナダなどとTPPをつくりました。カナダのトルドー首相が言った通り、日本のリーダーシップなしにTPPはつくれませんでした。そこに米中は入っていません。米中対立の時代に米中との関係を悪化させないようにしながら、ある程度、独自のイニシアチブをとってきました。孤独に耐えねばならないとの認識は安倍前政権のときからあったのだと思います。
ルトワック オバマ前政権は積極的ではありませんでしたが、中国が尖閣諸島(沖縄県石垣市)を要求してきた際、尖閣諸島は日本の(施政下にある)一部であり、米国が日本を守ることにコミットしていると明確にしました。安倍前政権はそれに基づいて中国と交渉し、要求をかわすことができたのです。日本は孤立していませんでした。日本は安倍前政権下で外交政策を持つようになり、積極的で責任を取る政策を始めたのです。それを続けなくてはなりません。
米国も孤立していられません。どの国にも孤立する選択肢はありません。中国は多くの船を尖閣諸島の周辺に送っています。米国は対応し、豪州の友人たちを含む他の国も対応するでしょう。カナダの太平洋艦隊は太平洋で共同訓練に参加しています。来年は、この非公式ながら事実上の同盟のメンバーが同盟として機能できるかが問われる年です。
バイデン次期政権は、その継続性によってみなさんを驚かせるでしょう。上院では共和党議員が最低でも半数に当たる50人いる事実によって、トランプ政権との大きな違いを出せなくなります。スタイルは違うものになるでしょう。怒鳴ることも、言い争うことも少ないでしょう。ですが、多くの継続性があると思います。
※注3=日本は複数の巨大経済圏が重なる結節点にある。2018年12月には日豪やベトナムなど11カ国からなる環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が、19年2月には日EUの経済連携協定(EPA)が発効。今年11月には、日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)などの15カ国が地域的な包括的経済連携(RCEP)に署名した。いずれの枠組みでも日本が主導的な役割を果たした。
中国の狙いは「黙らせる」こと
■民主主義は衰退に向かうのか
井口 日本にとっては北朝鮮の問題も懸念です。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長はトランプ米大統領と個人的な関係を築きましたが、バイデン次期政権ではどうなっていくでしょう。
細谷 北朝鮮は自分が不利だと、国際社会のいずれかの主要国に接近し、有利な状況をつくろうとします。もともと提携していたロシアが経済的に弱体化すると、中国に接近しました。6カ国協議で米中が協力すると、韓国に近づき、中国が国連安全保障理事会の制裁に賛成すると、米国に韓国を通じて接近しました。その結果が初の米朝首脳会談です。トランプ政権は北朝鮮の戦術にはまったのだと思います。
北朝鮮はこの戦略で国際的な圧力に風穴を開けてきました。バイデン次期政権に対しても韓国経由で動かそうとすると思います。日本は結束の維持を目指し、風穴を開けないようにすることが大事です。
ルトワック バイデン次期政権下で指名された北朝鮮問題担当者ができる最善のことは、即座に休暇をとり、そのまま4年間過ごすことです。私たちは北朝鮮問題に関し、何も決定できません。そもそも私たちは朝鮮半島の統一を望んでいるのでしょうか。統一朝鮮が核兵器を持てば、日本にとって大いに危険です。統一朝鮮が核を持たなければ、中国の植民地になるでしょう。北朝鮮は核兵器の保有で独立を担保していますから。
北朝鮮の核はおそらく十分に管理されていないので常に事故が起こる可能性を考えなくてはなりません。現状はひどいものですが、(核への対処という)非常に厄介な問題を生み出す朝鮮半島統一よりはよいのでしょう。これは北朝鮮問題を解決できない理由でもあります。これまで中国もロシアも米国も、北朝鮮の核開発を止められたのに止めませんでした。私たちが真剣に取り組まない一方、北朝鮮は真剣だったのです。
井口 自由と民主主義を価値とした米国主導の世界秩序が、中露といった権威主義国家の台頭で揺らいでいます。特に新型コロナ対応で強く感じられました。民主主義が衰退に向かう恐れはありますか。
アタリ 民主主義は衰退しないと思います。新型コロナ流行の経緯をみると、中国の対応は悪夢でした。独裁国家ゆえの大失敗です。独裁国家であることの影響はまず、人々が互いに嘘をつき、自分自身にも嘘をつくことです。中国ではまさにそのようなことが起きました。中国の人々は政府にも事実を隠し、パンデミックが広がり、大きなパニックになりました。実際には彼らが言う以上に(感染者などの)数字は大きかったと思います。独裁国家はパンデミックにうまく対処するには非常に悪い制度です。
良い例として韓国を挙げます。韓国は民主主義国家です。かつて感染症の流行を経験し、失敗しました。その後、(対策を一元管理する)疾病管理機関をつくりました。中国で問題があると分かると、国内では最初の症例が見つかる前に準備を整えました。人口約5200万人の国としては死者が少ないです。パンデミック対応のサクセスストーリーは独裁国家ではなく民主主義国家なのです。
ルトワック 民主主義国家はいつも弱くみえますが、歴史的に勝利を収めてきました。それは過ちを正してきたからです。民主主義国家には変化があり、混乱があり、内部では常に議論している。戦争の前は独裁国家の方が強くみえますが、結局は民主主義国家が勝ちました。だから今の私たちがあります。中国が戦略で過ちを犯すのは「帝王」が全ての決定を下し、それを正す人がいないからです。ロシアにも同じことがいえます。
中国と豪州の間で今起こっているのは「黙らせる」ことです。中国は豪政府に(新型コロナをめぐる)中国の責任についてしゃべってもらいたくない。香港では人々を黙らせられなかったので、直接管理せねばならなくなったのです。共産主義体制が存続するには人々を黙らせる必要があります。米国や日本などのように大きく自由な国があると、存続できません。世界を支配するのは、体制存続の唯一の手段なのです。
細谷 かつてドイツ帝国初代首相のビスマルクは「世界が5つの大国に分かれていたら多数の側につくようにせよ」ということを言いました。今の世界は米中印露と日本、EUの6勢力に経済的、軍事的パワーが分散しています。これらの勢力がどう連合を組むのか。
権威主義体制の中露が組むのは自然なことです。中国は、さらに米国から同盟国を切り離し連合を組みたいので、まず徹底してEUとの経済関係を強化しました。でも、今、関係は悪化しています。インドとも最近の軍事衝突で関係が非常に緊張しています。
米国の強固な同盟国の日本を味方につけるのは難しいので、地域的な包括的経済連携(RCEP)(※注3)など経済的に日本と一層緊密に結び付くことを期待しています。しかし、日本国民の80~90%が中国にネガティブな感情を持っており、なかなか日本との提携はできないでしょう。
中国が世界で多くの敵をつくったことで、日米印とEUという民主主義体制の4勢力の連合はより強固になっています。パワーバランスを考えると、今後10年間で権威主義体制が世界の中心になることはないでしょう。4勢力が連携を深めていけば、民主主義が世界の中心的な流れであり続けると思います。
「命の経済」への転換願う
■資本主義は変質するか
井口 新型コロナの流行は経済に大きな影響を与えましたが、国家と市場の関係など資本主義を変質させる可能性があるのでしょうか。また、国や企業、個人がなすべきことは何か、提案があれば聞かせてください。
アタリ 1世紀前にスペイン風邪が流行した後、人々は以前の行動に戻り、経済危機と第二次世界大戦に至りました。今回も人々が近視眼的で自己中心的な行動に戻り、「命の経済」という大事なもの、つまりクリーンエネルギーや衛生、教育、医療、食料、農業といった分野に着目しない可能性があります。
私たちの国では、これらの分野が国内総生産(GDP)に占める割合は50%でしかありません。こうした分野に投資をすべて集中し、次の脅威に備える。「命の経済」の分野を優先する世界は素晴らしいものであり、それは私の願いです。
細谷 資本主義はいまや大きく変容しています。一番大きな問題は、経済問題では一国単位で解決できる領域が非常に限られ、グローバルなレベルでないと解決できないというギャップです。例えば富を再配分しようと税を上げれば、富裕層や企業が国外に簡単に逃げてしまう。国内政治で貧困層を救済しようとしたときに、経済のグローバル化で財政資源がある意味、規定されているのです。そのギャップが結局、さまざまな不満を生みます。
アダム・スミス(※注4)は他人が苦しんでいるときに共感する感情なしには、資本主義は存続しないと考えました。人々からその感情が失われているのかもしれません。
井口 「GAFA」(※注5)などIT大手は国家と緊張関係にあります。
細谷 GAFAも利益を社会に還元するかというと、そうとは限らない。多くの企業は、少しでも税金が低いところに動きます。企業が合理的判断でより大きな利潤を追求するのは、資本主義の前提ですから。
この問題は新自由主義的な自由主義体制の中だけのものではなく、国家が企業をコントロールする中国でも、アリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏と中国共産党との軋轢(あつれき)になっています。
ルトワック アダム・スミスは資本主義には独占の禁止が必要だとも説明しましたが、巨大な独占企業の出現を許してしまいました。グーグルは独占企業です。バイデン次期政権には独占禁止の問題を真剣にとらえてほしい。
過去においては地理的条件が独占を制限してきました。大阪で一番大きなコメ問屋でも、盛岡のコメ市場をコントロールすることは不可能でした。しかし、電子の世界では可能です。そこには距離というものがないからです。だから各国政府は行動しなくてはなりません。米国がグーグルの独占に行動しなくても、日本政府は独自の権限で動かねばなりません。
そうしなければ、これら独占テクノロジー企業により奇妙な自由の喪失を味わうことになります。実現が近づく量子コンピューターを最初に実用化した民間企業は、翌日にはスーパーパワーとなるでしょう。備えなくてはなりません。
井口 個人データは「21世紀の原油」といわれ、GAFAは自由な市場を活用し、これを莫大(ばくだい)な収益に変えています。一方、中国は個人データを国民監視など国家権力の基盤として使っていますが、世界の主流となるのはどちらですか。
細谷 米国は新自由主義的な市場経済により、中国は市場を管理することにより、巨大な力を得ています。その中で日本とEUは「第三の道」を模索しています。(情報の)自由な流通は必要ですが、個人や企業の主体的な意志による「トラスト」(信頼)に基づき、中国のような国家の管理でもなく、一定のルールをつくっていこうというのが日本とEUの形だと思います。あくまでも世界2大国は米中なので、第三の道は非常に弱い。でも言い換えたら、日本とEUが米中とどこまで提携できるかで流れが決まっていきます。
※注4=18世紀の英国の思想家、経済学者。主著に『国富論』『道徳感情論』など。国家の介入を排することで市場の「見えざる手」が機能し、需給が調整されると論じた。一方で人間には他人への同感能力があり、個人の利己心を制御する正義の感覚が市場の健全性を保つとした。
※注5=米国発祥の巨大IT企業であるグーグル(G)、アップル(A)、フェイスブック(F)、アマゾン・コム(A)の4社を指す。それぞれ検索エンジンやSNS、ネット通販などで圧倒的シェアを持つ。独占状態や膨大な量の個人データの蓄積が問題視され、解体論も浮上している。
ウィズコロナの世界に早く慣れる
■アフターコロナ 何をすべきか
井口 新型コロナの収束後も以前の状態に戻ることはないといわれています。「アフターコロナ」をよりよき未来にするために必要なことは何でしょう。
アタリ 映画館を出てから、映画で学んだことを忘れ、何も変えずに元の生活に戻れると思ってしまう。それは危険です。
コロナは長期的な脅威です。パンデミックの脅威については私も他の人も20年前に書いていたのに、日本も欧州も米国も準備してきませんでした。教訓を一つ挙げるなら、パンデミックや気候変動、地政学的な脅威など今後20年の主な脅威のリストをできるだけ早期に作成する。そのすべてに対し、プランA、プランBをつくり、準備しておくことでしょう。
細谷 コロナ前の時代に戻ろうとする思考を捨てることが重要です。例えばフランス革命では貴族階級たちが王制下の優越した地位を失った後、新しい時代に適合しなくてはなりませんでした。第二次世界大戦で広島、長崎が核兵器を経験し、核のない世界がつくられようとしました。しかしそれは訪れず、人々は人類滅亡の恐怖におびえながらも、ある意味、「ウィズ核兵器」、つまり核抑止の時代の中で、新しい明るい未来を築きました。
コロナの時代も同様に明るく生きられます。人類は過去数千年の歴史で、それを示してきました。失われたものではなく、新しく手に入れたものを数えた方が明るい未来を築けます。アフターコロナ、ウィズコロナの世界に早く慣れた人や国が、これからの世界をリードしていくのでしょう。
ルトワック 私たちはパンデミックでいくつかのことを学びました。一つは「COVID-19」(新型コロナウイルス感染症)があるなら「COVID-20」があるかもしれないということです。韓国がとった措置のように、その対処のための組織を真剣に築かなくてはなりません。
豪州も韓国とはまったく違う方法で(感染拡大を)うまく管理しました。それはテクノロジーが存在することをただ許すことと、テクノロジーを制御することの違いを教えてくれます。これまであまり政治のテーマになりませんでしたが、テクノロジーを理解している政治家が支持を得るべきです。政治家も「私はテクノロジーを理解しているので投票してください」と言うべきです。これはトランプ氏の弱点でした。
観光には依存してはならないことなど、他にも論点はあります。大きな教訓だけではなく、小さくても重要な教訓が多くあると思います。来年開かれる予定の東京五輪については、日本が観客を迎えることを願っています。私自身は五輪の前か後、多分、前に訪ねたいと思います。
全般にわたり、中国の覇権拡大に関する著書や、論評に接していることが多いせいか、エドワード・ルトワック氏の論に納得することが多いと感じました。
来年はどんな年になるか。
ジャック・アタリ氏 「希望」(の年)になるでしょうと。
新型コロナのワクチンを手に入れ、初夏にはパンデミックの出口への見通しが出てくる可能性がある。そうなれば、経済は大きく成長すると。
一方、「悲劇」が起こるかもしれませんとも。
デジタル技術によって富の集中は驚くほど加速。すべての人々が成長や技術の利益を受けられるわけではなく、テロリズムや貧困格差が生じる可能性があると。
エドワード・ルトワック氏は、世界は今、映画館に座って途中で退場ができずに、ひどい映画をみさせられています。ワクチンが開発、配給されれば、みんな映画館から出てきて普通の生活に戻るでしょうが、いろんな変化が起きていることに気付きますと。
キーワードは「技術の加速」。
富の格差はこの中で拡大していると。例として量子コンピューターの登場により、現在の暗号化システムは生き残れなくなることをあげておられます。
制御が難しい技術の到来という大きな挑戦を迎える歴史的な時期ですが、私たちは技術変革をコントロールする術を理解できていませんと。
地政学的なキーワードは中国。中国は全体主義的な政府がとる手段でウイルスを制御しましたが、これにより中国の脅威はさらに明白になりました。この感染症が深刻でなくなれば、中国に立ち向かわねばなりませんと。
細谷雄一氏は、「新しい世紀」(ア・ニュー・センチュリー)を挙げておられます。
新型コロナの感染拡大でパラダイムが変わり、2021年に新しい世紀が始まります。これは「短い21世紀」といえ、それがどうなるかが、来年や未来の展望になりますと。「短い21世紀」の姿はまだ見えませんが、21年からの10年間で形が決まるでしょうと。
インドは10年後、中国を抜いて人口で世界最大の国になり、米国は依然、経済・軍事大国として非常に強靱でしょう。あとは欧州連合(EU)と日本がどれほど力を取り戻すか次第ですと。
細谷は、「短い21世紀」が「中国の世紀」になるとは思っていません。中国は10年以内に少子化が始まり、とても今の経済成長を支えていけません。前例がない財政危機になり、財政危機がおそらく政治的な正統性、統治の危機にもなりますと。
中国が失敗するのは、経済ではなく、戦略によるものでしょうとルトワック氏。
わずかの間にスウェーデンや豪州と争いを始め、インドと国境をめぐる衝突も始めました。ベトナムの船も沈めました。これは大国がとるべき振る舞いではなく、「何でもできるけど戦略がない国」の典型的な行動です。過去1500年、中国では戦略を実践できた政権がなく、今になってできるようになるとは考えられませんと。
とはいえ、中国は自滅しません。中国に抵抗するにはいくつかのことが必要です。何もしないのはダメ。まずは真剣になることだとも。
中国は今、豪州に敵対的なキャンペーンを行っており、米英とカナダは豪州に最大限の支持を示しています。インドや日本が中国の側につかず、豪州やカナダ、米国の側につくのなら、発言しなくてはなりません。これらの国が同じグループにあることを受け入れる意思がなければ、中国の脅威に対処できません。豪州が屈辱を受け、孤立するのを日本が許せば、次は日本の番になるでしょうと。
また、中国が台湾を侵攻した場合に日本が憲法や歴史、政治的な理由で台湾を助ける手段を持たないなら、台湾は中国に支配されてしまうかもしれません。そうなると日本の安全保障レベルは大きく低下しますと。
尖閣諸島の実効支配を中国がエスカレートさせている理由のひとつに、台湾侵攻時に沖縄の米海兵隊の動きへの備えとしたい意図があるとの声が聴かれることは、諸兄がご承知の通りです。
バイデン政権誕生に伴う日本などいわゆる「ミドルパワー」(準大国)の役割というのは、どこにあるのか。
アタリ氏は、起こりうる「悲劇」としては、国際協調体制の解体もあります。先進7カ国(G7)の存在感は消えました。国連安全保障理事会は冗談のようなものです。もはや何の影響力もなく、世界を管理するという点でいかなる役割も担っていません。だからこそ(国際協調体制の解体を)懸念していますと。
バイデン米前副大統領が政権をとることで、私たちは多国間主義が機能するよう、もっと試みることができる。米国が多国間主義が必要な機関に戻ってくることは喜ばしいことだと。
ルトワック氏は、日本は安倍前政権下で外交政策を持つようになり、積極的で責任を取る政策を始めたのです。それを続けなくてはなりませんと。
どの国にも孤立する選択肢はありません。中国は多くの船を尖閣諸島の周辺に送っています。米国は対応し、豪州の友人たちを含む他の国も対応するでしょう。カナダの太平洋艦隊は太平洋で共同訓練に参加しています。来年は、この非公式ながら事実上の同盟のメンバーが同盟として機能できるかが問われる年ですとも。
欧州勢も、中国の無謀さに重い腰を上げ、空母や艦船をアジアに派遣し中国をけん制し始めていることは諸兄がご承知の通りです。
EUの中国への反発はどのようにして広がったか - 遊爺雑記帳
資本主義は変質するのか。
今の世界は米中印露と日本、EUの6勢力に経済的、軍事的パワーが分散しています。これらの勢力がどう連合を組むのかと細谷氏。
中国が世界で多くの敵をつくったことで、日米印とEUという民主主義体制の4勢力の連合はより強固になっています。パワーバランスを考えると、今後10年間で権威主義体制が世界の中心になることはないでしょう。4勢力が連携を深めていけば、民主主義が世界の中心的な流れであり続けると思いますと。
.ルトワック氏は、民主主義国家はいつも弱くみえますが、歴史的に勝利を収めてきました。それは過ちを正してきたからですと。
戦争の前は独裁国家の方が強くみえますが、結局は民主主義国家が勝ちました。中国が戦略で過ちを犯すのは「帝王」が全ての決定を下し、それを正す人がいないからです。ロシアにも同じことがいえますと。
アフターコロナについて、ルトワック氏は、私たちはパンデミックでいくつかのことを学びました。一つは「COVID-19」(新型コロナウイルス感染症)があるなら「COVID-20」があるかもしれないということだと。
豪州はうまく管理した。テクノロジーが存在することをただ許すことと、テクノロジーを制御することの違いを教えてくれます。これまであまり政治のテーマになりませんでしたが、テクノロジーを理解している政治家が支持を得るべきですと。
観光には依存してはならないことなど、他にも論点はあります。大きな教訓だけではなく、小さくても重要な教訓が多くあると思いますとも。
データ庁を創設する菅政権。
世界各国の成功例、失敗例に学び、新型コロナとの短期、長期の闘いに取り組むことに期待します。
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