この原稿を書いている本日1月14日はプーチンのウクライナ侵略戦争から325日目となり、ウクライナ侵略戦争は既に11か月目に入っており、もうすぐ丸一年を迎えますと、杉浦氏。
ウクライナ侵略戦争の長期化・泥沼化は露.プーチン大統領にとり大きな誤算となりました。
プーチン大統領は2023年1月11日、ウクライナ特別軍事作戦総司令官にV.ゲラーシモフ参謀総長(上級大将)を任命。
S.スロヴィーキン総司令官(上級大将)は3か月で副司令官に降格。戦闘中に総司令官を更迭するのは、戦況が不利に展開している証拠です。
換言すれば、それだけプーチン大統領は追い詰められているとも言えますと、杉浦氏。
今回国防省権限を強化する戦争指導体制を敷いたことは、「民間軍事会社ワーグナー(実態はワーグナー独立愚連隊)」の突出を嫌ったプーチン大統領の意向を反映しているとの見方も出ていますが、正鵠を射た見解と考えますと。
プーチンの末路を予測しておられます。
ロシア軍によるウクライナ全面侵攻とプーチン大統領の近未来を、現在進行形の国際問題なので、あくまでも2023年1月14日現在の暫定総括としながら語っていただいています。
ウクライナへのロシア軍関与は当初、ウクライナ東部2州に親露派政権樹立→その政権から治安部隊の派遣要請を受ける→ロシア治安部隊が平和維持軍として駐留する→国民大多数の賛成により併合されるという筋書きが想定されていたと考えますと、杉浦氏。
この方式で“合法的に”併合したのがバルト3国です。
今回はウクライナ東部2州の親露派が支配する地域の国家承認に始まるウクライナ限定侵攻作戦のはずが、プーチン大統領の妄想によりウクライナ全面侵攻に拡大したと。
ロシア国内では一部に厭戦気分も出ており、世論調査でも戦争に反対する声が大きくなっています。
プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争はプーチン時代の終わりの始まりを意味することになるでしょう。
ウクライナへの軍事侵攻は意味も意義も大義もありません。対ウクライナ全面侵攻に踏み切ったことにより、プーチン大統領はロシアの国益を毀損しました。
今後、プーチン大統領を支えてきた利権集団間の対立が激化・表面化することも予見され、本人の失脚も十分あり得るものと予測しますと、杉浦氏。
ロシア経済は既に弱体化しており、戦費は枯渇しつつあります。
ロシアは戦争している場合ではありません。
油価下落とガス輸出量減少はロシア経済を破綻させるでしょう。ロシア経済再生の道、それは即時停戦・撤退しか有り得ません。
ロシアはプーチン大統領の所有物ではなく、ロシア悠久の歴史の中で彼は一為政者にすぎません。
その一為政者がロシア国家の信用を失墜させ、ロシアの歴史に汚点を残す侵略者になったのです。
換言すれば、ロシアの真の敵はプーチン大統領その人ということになりますと、杉浦氏。
このまま戦争を継続すれば、「国破れて山河在り 城春にして草木深し」となるでしょう。はそうならないことを祈るのみですと。
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ウクライナ侵略戦争の長期化・泥沼化は露.プーチン大統領にとり大きな誤算となりました。
プーチン大統領は2023年1月11日、ウクライナ特別軍事作戦総司令官にV.ゲラーシモフ参謀総長(上級大将)を任命。
S.スロヴィーキン総司令官(上級大将)は3か月で副司令官に降格。戦闘中に総司令官を更迭するのは、戦況が不利に展開している証拠です。
換言すれば、それだけプーチン大統領は追い詰められているとも言えますと、杉浦氏。
今回国防省権限を強化する戦争指導体制を敷いたことは、「民間軍事会社ワーグナー(実態はワーグナー独立愚連隊)」の突出を嫌ったプーチン大統領の意向を反映しているとの見方も出ていますが、正鵠を射た見解と考えますと。
プーチンの末路を予測しておられます。
2023年油価が示すプーチンの末路、“本能寺の変”は必至か 戦時下予算で戦費に回すも、ロシア経済自体が崩壊寸前 | JBpress (ジェイビープレス) 2023.1.16(月) 杉浦 敏広
■プロローグ/マスコミ界を徘徊する神話
「一匹の妖怪がヨーロッパを徘徊している。共産主義という名の妖怪が」
「一つの神話がマスコミ界を徘徊している。石油・ガス収入によりロシアの戦費は問題ないという神話が」
前者は『共産党宣言』(K.マルクス)冒頭の一句、後者は筆者のパロディーです。
筆者は2022年2月24日のロシア軍によるウクライナ全面侵攻開始以来、戦費問題に言及してきました。
しかし、マスコミ界では戦費に言及する報道・解説記事はほぼ皆無で、民間テレビには「ロシアは石油・ガス収入があるので、対露経済制裁措置は効果ない」と解説する経済評論家も登場しました。
ロシア軍は2022年2月24日にウクライナ全面侵攻開始。この原稿を書いている本日1月14日はプーチンのウクライナ侵略戦争から325日目となり、ウクライナ侵略戦争は既に11か月目に入っており、もうすぐ丸一年を迎えます。
本来ならば、ロシア軍の侵攻数日後にはウクライナの首都キエフ(キーウ)は制圧され、ロシア軍は解放軍としてウクライナ国民から歓呼の声で迎えられ、V.ゼレンスキー大統領は追放・拘束され、V.ヤヌコービッチ元大統領を新大統領とする親露派傀儡政権を樹立する予定でした。
その証拠に、露国営RIAノーヴァスチ通信は侵攻2日後、キエフ陥落の予定稿を流すという珍事が発生しています。
ゆえに、ウクライナ侵略戦争の長期化・泥沼化は露.プーチン大統領にとり大きな誤算となりました。
戦況悪化と正比例するかのごとく、ロシア政治に内包されていた矛盾が次々と顕在化・表面化してきました。
祖国防衛戦争を標榜する現在のプーチン大統領の姿は、大東亜共栄圏を標榜する太平洋戦争末期における旧日本軍大本営末期の姿と瓜二つと言えましょう。
プーチン大統領は2023年1月11日、ウクライナ特別軍事作戦総司令官にV.ゲラーシモフ参謀総長(上級大将)を任命。
S.スロヴィーキン総司令官(上級大将)は3か月で副司令官に降格。戦闘中に総司令官を更迭するのは、戦況が不利に展開している証拠です。
換言すれば、それだけプーチン大統領は追い詰められているとも言えます。
今回の人事異動の特徴は、3人の副司令官が任命されたことです。
O.サリューコフ地上軍総司令官(上級大将)とA.キム参謀次長(大将)も副司令官に任命され、国防省として背水の陣を敷いたことになります。
これでロシア軍敗退となれば、S.ショイグ国防相(上級大将)は解任必至です。
なお、今回国防省権限を強化する戦争指導体制を敷いたことは、「民間軍事会社ワーグナー(実態はワーグナー独立愚連隊)」の突出を嫌ったプーチン大統領の意向を反映しているとの見方も出ていますが、正鵠を射た見解と考えます。
継戦能力の原動力は経済力と資金力(戦費)です。
ロシア経済の規模は小さく(GDPは日本の4分の1程度)、経済は既に弱体化しており、戦費は枯渇しつつあります。筆者は開戦当初より、カネの切れ目が縁(戦争)の切れ目と主張してきました。
ウクライナの大地では今春、日露戦争の奉天会戦、第2次大戦の欧州戦線におけるクルスク戦車戦のような大規模な会戦が展開し、会戦後に停戦・終戦の姿が垣間見えてくるものと予測します。
本稿の結論を先に書きます。
ロシア経済は油価依存型経済構造です。油価の長期低迷がソ連邦崩壊のトリガーになりました。
油価低迷により露経済は破綻の道を歩み、戦費が枯渇・消滅する結果、早晩プーチン大統領は停戦・終戦を余儀なくされるでしょう。
■第1部:プーチンの夢想
ソ連邦は今から101年前の1922年12月30日に誕生しました。
「強いロシア」を標榜する、旧KGB(ソ連邦国家保安委員会)出身のV.プーチン大統領(70歳)は、2005年4月25日に発表した大統領就任第2期2回目の大統領年次教書の中で、「ソ連邦崩壊は20世紀の地政学的惨事である」と述べました。
本人にとり、偉大なるソ連邦崩壊は20世紀最大の惨事でした。
意味も意義も大義もないウクライナ全面侵攻に踏み切ったプーチン大統領の頭の中には、この偉大なるソ連邦復活の野望が蘇っていたことでしょう。
換言すれば、ウクライナ侵攻は本人の夢想を実現する一つの過程であったのかもしれません。
1917年の「2月革命」(旧暦)で帝政ロシアが崩壊し、ケレンスキー内閣が樹立。その年の「十月革命」でケレンスキー内閣が倒れ、レーニンを首班とするソビエト政権が誕生しました。
その後ロシアは赤軍と白軍に分かれた内戦状態となり、ソビエト連邦は1922年12月30日に成立。
そのソ連邦は1991年12月25日に崩壊し、ロシア共和国は新生ロシア連邦として誕生。
ゆえに2021年はロシア連邦崩壊30周年、昨年2022年はソビエト連邦誕生100周年記念の年になりました。
ロシア軍のウクライナ全面侵攻作戦は2022年2月24日に発動され、原稿執筆時の1月14日は侵攻開始後325日目となりました。
戦争は既に11か月目に入っており、戦闘は長期戦・消耗戦の様相を呈しています。
侵攻開始数日後にはウクライナの首都キエフ(キーウ)を制圧、親露派ヤヌコービッチ元大統領を首班とする傀儡政権が樹立されるはずでした。
しかし、戦争長期化・泥沼化によりプーチン大統領は国内マスコミ統制強化と実質「戦時経済」への移行を余儀なくされ、情報統制された露マスコミ報道にはロシア軍大本営発表があふれることになりました。
プーチン大統領は、戦争でもないのに2022年9月21日には「部分的動員令」を発令。
9月30日にはウクライナ東南部4州を一方的に併合宣言、10月19日にはウクライナ東南部4州に戒厳令を導入。10月22日には、ロシア政府もついに戦争であることを認めました。
これも大誤算で、ロシア軍の苦戦・苦境が透けて見えてきます。
NATO(北大西洋条約機構)東進を阻止すべくウクライナ侵攻開始したのに、逆にフィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請を誘発。
従来は対ノルウェー国境196キロがNATO対峙線でしたが、新たに1272キロのフィンランド国境がNATO対峙線にならんとしています。
これはプーチン大統領の戦略的失敗と言えます。
戦況不利となったプーチン大統領は2022年12月19日、ベラルーシの首都ミンスクを訪問。A.ルカシェンコ大統領に軍事作戦への協力を求めました。
迷走する「プーチンの戦争」は今後どうなるのでしょうか?
来年2024年3月は大統領選挙です。プーチンは再度立候補するのでしょうか?
あるいは、信頼できる部下・側近に後を託すのでしょうか?
この問題を考える上で重要な出来事が1月13日、隣国カザフスタンで発生しました。
旧ソ連邦時代からカザフスタン共和国の独裁者であったN.ナザルバエフ前大統領は、自分の長女ダリガへの権力継承の繋ぎとして、忠実な番犬を大統領に引き立てました。
番犬を繋ぎの暫定大統領に引き上げる条件として一族郎党の不逮捕特権を確認させたのですが、部下が大統領になると逆に残った権力も剝奪され、長女も権力の座から追放されました。
そして1月13日、本人の名誉称号と家族の不逮捕特権も反故にされてしまいました。
すなわち、家族の投獄も今後あり得るということになります。
隣国カザフスタンの政治情勢を見て、プーチンはますます権力の座にしがみ付くことになるでしょう。
■第2部:ウクライナ開戦
2022年2月22日の朝目覚めたら、世界は一変していました。
ロシアのV.プーチン大統領(当時69歳/1952年10月7日生まれ)がウクライナ東部2州の親露派が支配する係争地を国家承認したのです。
これは明らかに2015年の「ミンスク合意②」に違反するもので、筆者は即座に、ロシアは今後欧米側からの大規模経済制裁必至と考えました。
方針大転換の日は現地2月21日深夜。
プーチン大統領はロシア安全保障会議を開催して、ロシア高官全員から形式上の賛意をとりつけた上で、上記2地域の国家承認を行う手続きを開始しました。
2月24日には米露外相会談が予定されていました。
その場で次回米露首脳会談の日程が協議・決定されることになっており、2月21日のタイミングでウクライナ東部2州の係争地を国家承認することは無意味でした。
なぜなら、この2州の係争地は既に実質モスクワの支配下にあったからです。
この東部2州国家承認を受け、2月24日に予定されていた米露外相会談は破綻。
それまでのプーチン大統領の対米外交は上手く進展しており、あと1週間我慢すれば、本人の望み通りのものが手に入らなくとも、多くの外交成果が期待できたはずでした。
象徴的な言い方をすれば、「ミンスク合意②」から7年間待ったゆえ、あと7日間待てば、ロシアの歴史に新しい1頁が拓かれていた可能性も十分あったはずです。
では、なぜあと7日間我慢できなかったのでしょうか?
外交交渉が成立・合意すると困る勢力が、プーチン大統領をして係争2地域を国家承認させたことが考えられます。
あるいは、困る勢力とは、畢竟(ひっきょう)プーチン大統領自身であったのかもしれません。
その後、事態は急速に悪化。
米露外相会談が予定されていたまさにその2月24日、プーチン大統領はウクライナ侵攻作戦を発動。ロシア軍は対ウクライナ国境を越えて、ウクライナに全面侵攻を開始しました。
筆者は当初よりロシア軍のウクライナ侵攻はあり得ない・あってはならないと考えていたのですが、筆者の予測は大外れ。結果として、最悪の事態になりました。
原稿執筆時の2023年1月14日はロシア軍が2022年2月24日にウクライナ全面侵攻開始以来325日目となり、ウクライナ戦争は長期化・泥沼化。プーチン大統領にとり予想外の展開となりました。
1月14日のウクライナ大本営発表によれば、ロシア軍がウクライナに全面侵攻開始した2月24日から1月14日朝までの325日間におけるロシア軍戦死者数は累計11万4660人に達しました。
本来ならば、ロシア軍の侵攻数日後にはウクライナの首都は制圧され、短期電撃作戦のはずが長期戦・消耗戦となり、一番困惑しているのはプーチン大統領その人と筆者は想像します。
現地での戦闘は激化しています。
特に、バフムート周辺とバフムート北側10キロに位置するソレダールでは白兵戦の様相を呈しており、ロシア側傭兵部隊ワーグナー独立愚連隊は1月11日、ソレダール制圧を発表。
続く13日には、ロシア国防省が「ロシア軍、ソレダール制圧」と発表しました。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は戦闘継続を報じていますが、筆者個人的には、ウクライナ側も局地戦に拘泥しないで守備隊を撤退させて勢力温存する方が賢明と考えます。
プーチン新ロシア大統領が2000年5月に誕生した時、彼のスローガンは強いロシアの実現と法の独裁でした。
しかし結果として弱いロシアの実現と大統領個人独裁の道を歩んでおり、プーチン大統領は自らロシアの国益を毀損していることになります。
その結果、対ウクライナ戦争はロシア経済の衰退をもたらし、プーチンの墓標になるでしょう。
■第3部:ウクライナ戦況
ロシア軍の被害状況 (2023年1月14日現在)
ウクライナ侵略戦争は既に11か月目に入り、もうすぐ丸一年になります。
ウクライナ侵略戦争の長期化・泥沼化は露プーチン大統領にとり大きな誤算となり、ウクライナ侵略戦争により、プーチン自身、様々な不都合な真実に直面しています。
ロシア憲法によれば毎年大統領年次教書発表が規定されています。
発表する期間は、大統領就任日からの1年間です。ある民間テレビ報道番組では、「前回の大統領年次教書は2021年4月に発表されたが、22年は未発表です」と解説していました。
しかし、これは不正確です。
2021年4月21日に発表された大統領年次教書は21年度の年次教書ではなく、20年度の教書です。すなわち、21年の大統領年次教書は未発表です。
2022年の大統領年次教書発表も未定です(発表期限は23年5月6日まで)。
毎年中葉に実施されてきた「国民との対話」も2022年は中止となり、毎年年末には恒例の「マスコミ大会見」が開催されてきたのですが、それも中止になりました。
ここで、ウクライナ戦況を概観します。
露軍の自軍被害に関する大本営発表は2022年3月25日に発表した戦死者1351人が最初ですが、ショイグ国防相は9月21日、「露軍戦死者は5937人」と公式発表しました。
この戦死者数自体、もちろんロシア大本営発表の偽情報の類ですが、ここで留意すべきは「ロシア軍戦死者」とはロシア軍正規兵の将兵が対象であり、かつ遺体が戻ってきた数字しか入っていないことです。
ウクライナ軍は毎日、戦況報告を公表しています。もちろん大本営発表ですからそのまま鵜呑みにすることは危険ですが、一つの参考情報としてウクライナ軍発表のロシア軍被害状況は以下の通りです。
なお、露軍戦死者には新たに動員された予備役30万人も含まれているので、総兵力を115万人と仮定すれば、戦死者比率はちょうど1割になります。
戦車は保有数量の4分の1、装甲車は5分の1が撃破されており、ロシア軍の戦闘能力は大きく低下しています。
付言すれば、戦車は4分の3も残っているので、ロシアはまだ十分戦闘能力があるとテレビで語っている軍事評論家がいました。
ロシアは約2万キロの陸路国境線を有し、日本の国土の46倍あり、その国土を5軍管区に分けて防衛しています。
すなわち、戦車総数の中にはサハリン島や千島列島(クリル諸島)、カムチャッカ半島などに配備されている戦車も含まれているのです。
それらの防衛用戦車を算入して、ロシアにはまだ4分の3の戦車が残っているので十分な戦闘能力があると言えるのでしょうか?
もちろん、隣国との国境に配備された戦車隊をガラ空きにして、ウクライナに転用するなら話は別ですが。
■第4部:3油種週次油価推移概観
ここで、2021年1月から23年1月までの3油種(北海ブレント・米WTI・露ウラル原油)週次油価推移を概観します。
油価は2021年初頭より22年2月末までは傾向として上昇基調が続きましたが、ロシア軍のウクライナ侵攻後、ウラル原油は下落。
他油種は乱高下を経て、2022年6月から下落傾向に入りました。
ロシアの代表的油種ウラル原油は、西シベリア産軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)とヴォルガ流域の重質・サワー原油(同1%以上)のブレント原油で、中質・サワー原油です。
ちなみに、日本が輸入している(いた)ロシア産原油は3種類(S-1ソーコル原油/S-2サハリンブレンド/ESPO原油)のみで、すべて軽質・スウィート原油ですが、2022年6~11月は輸入ゼロでした。
今年23年1月3~6日の平均油価は北海ブレント$77.20/bbl(前週比▲$4.63/スポット価格)、米WTI $74.27(同▲$4.96)、ウラル原油(黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)$41.84(同▲$2.91)になりました。
この超安値の露産原油を買い漁っているのが中国とインドです。
ロシアの2021年国家予算案想定油価(ウラル原油FOB)はバレル$45.3、実績は$69.0。2022年の国家予算案想定油価はバレル$62.2、通期実績は$76.1になりました。
上記のグラフをご覧ください。黒色の縦実線は、ロシア軍がウクライナに全面侵攻した2月24日です。
この日を境として、北海ブレントや米WTI油価は急騰。6月に最高値更新後に下落。12月末で北海ブレントと米WTIは$80を割り込んでおり、油価は下落傾向です。
一方、露ウラル原油は、ウクライナ侵攻前は$90でしたが、侵攻後下落開始。11月中旬には2022年国家予算想定油価を割り、12月末には遂に$40台前半まで実に$50も下落。
欧米はロシア産原油に$60(FOB)の上限油価を設定しましたが、現実は既にこの上限設定価格を大きく下回っています。
■第5部:露ウラル原油月次油価推移概観
油価下落による損害
次に、過去4年間の露ウラル原油の月次油価推移を概観します。
下記のグラフより明らかな通り、ロシア軍がウクライナ全面侵攻開始した2022年2月の露ウラル原油の平均油価はバレル$92.2でしたが、以後毎月ウラル原油の油価は下落して、12月度は$50.5になりました。
上記グラフより明らかなごとく、ウクライナ侵攻がなければロシアはバレル$90の油価水準を享受していたことでしょう。
政府想定油価が$62.2ですから、ロシア経済は順風満帆のはずでした。
ロシアの原油生産量は約10mbdです(mbd=百万バレル/日量)。ロシアは半分を原油として輸出、残りの5mbdを国内で精製して石油製品(主に軽油と重油)を生産し、そのうちの半分を輸出しています。
油価は、バレル$90から$50まで$40も下落しました。この油価下落がロシア経済にどのような損害を与えているかは算数の問題です。
原油輸出量は5mbdですから、$40下がると1日の損害は5mbd×$40で2億ドルになります。
石油製品も勘案すれば、1日あたりの損害は約3億ドルになり、年間では1000億ドル以上の輸出金額減になります。
天然ガス事情もロシア国庫財政にとり悲劇的な数字になります。
欧州ガス市場は露ガスプロムにとり金城湯池の主要外貨獲得源であり、PL(パイプライン)ガス輸出関税(FOB金額の30%)は露石油・ガス税収の大黒柱でした。
今年2023年1月からはPLガス輸出関税はFOB金額の50%に増税となり、本来ならばガス輸出税収は大幅増収となるはずでした。
付言すれば、露LNG輸出関税はゼロゆえ、露がいくらLNGを輸出しても関税収入はゼロです。
今年の露天然ガス輸出量は1000億立米減少するとの予測が出ています。露国庫財政の大黒柱たるPLガス輸出税収が今、減少・消滅しつつあります。
これが何を意味するのかと申せば、露戦費主要供給源の一つが減少・消滅するということです。
■第6部:国家予算案概観(2023~25年)
ロシア政府は2022年9月28日、2023~25年国家予算原案を露下院に提出しました。
ロシア国家予算原案は下院にて3回審議・採択後上院に回付され、上院にて承認後、大統領署名をもって発効します。
ロシア政府は2022年9月28日、露下院に2023~25年国家予算原案を提出。
11月24日の下院第三読会にてこの原案は可決・採択され、上院承認後、プーチン大統領は12月5日にこの予算案に署名して政府予算案は発効しました。
ロシア政府が9月28日に提出した国家予算原案の概要は下記の通りにて、想定油価はウラル原油です。
2022年の期首予算案は想定油価$62.2で黒字予算案でしたが、ウクライナ戦争により$80でも大幅赤字となりました。想定油価の見通しは$80でしたが、2022年実績は$76.1になりました。
これが何を意味するのか申せば、2022年の赤字幅はさらに拡大するということであり、実際拡大しました。
昨年(2022)12月27日に発表された政府見通しでは油価$80.0で国庫収支案はGDP比▲2.0%でしたが、今年1月10日に発表された政府速報値は22年油価実績$76.1、国庫収支▲3.3兆ルーブル(GDP比▲2.3%)になりました。
付言すれば、ウラル原油の現行油価水準(FOB)は既に$40程度ゆえ、今年の予算原案想定油価$70.1(赤字2.92兆ルーブル)は既に実現不可能な油価水準になっています。
これが何を意味するのかと申せば、2023年露国家予算案の赤字幅は今後さらに拡大する(=戦費減少・枯渇)ということです。
一方、露会計検査院の22年予算案見通しは以下の通りにて、政府期首予算案では国防費3.5兆ルーブル(約500憶ドル)でしたが、実際には4.7兆ルーブル(約670億ドル)にまで膨れ上がるとの見通しです。
露予算案に占める国防・情報・治安費は3分の1になるので、文字通りロシアは戦時経済と言えます。
■エピローグ/国破れて山河在り
最後に、ロシア軍によるウクライナ全面侵攻とプーチン大統領の近未来を総括したいと思います。ただし、現在進行形の国際問題なので、あくまでも2023年1月14日現在の暫定総括である点を明記しておきます。
筆者の描くウクライナ侵攻を巡る背景とウクライナ戦争の近未来予測の輪郭は以下の通りです。
あくまで推測ですが、ウクライナへのロシア軍関与は当初、ウクライナ東部2州に親露派政権樹立→その政権から治安部隊の派遣要請を受ける→ロシア治安部隊が平和維持軍として駐留する→国民大多数の賛成により併合されるという筋書きが想定されていたと考えます。
これがかつてのソ連邦指導者の思考回路であり、ソ連軍の行動様式にて、この方式で“合法的に”併合したのがバルト3国です。
今回はウクライナ東部2州の親露派が支配する地域の国家承認に始まるウクライナ限定侵攻作戦のはずが、プーチン大統領の妄想によりウクライナ全面侵攻に拡大したと、筆者は考えます。
プーチン大統領によるウクライナ東部2州国家承認と“合法的に”国家併合する期首構想が妄想により膨れ上がり、ロシア軍にとり不利な戦況の中で東南部4州の国家併合・戒厳令まで猪突猛進。
その結果、戦況はますます不利となり、占領地からのロシア軍順次撤退を余儀なくされているのが現実の姿です。
ロシア国内では一部に厭戦気分も出ており、世論調査でも戦争に反対する声が大きくなっています。
国内に戦争反対の機運が醸成され、プーチン大統領の支持率が低下すると、ロシア国内が流動化することも懸念されます。
かつてのロシアの裏庭たる中央アジア諸国でも、ロシア離れが表面化・顕在化してきました。
特にカザフスタンのロシア離れは、既に「The Point of No Return(回帰不能点)」を超えた感じです。
プーチン大統領は従来、外交交渉を重視してきました。
せっかく2022年2月24日に米露外相会談が設定されており、長いトンネルの先に光明が見えてきたまさにそのタイミングで、プーチンはルビコン川を渡ってしまったのです。
プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争はプーチン時代の終わりの始まりを意味することになるでしょう。
ウクライナへの軍事侵攻は意味も意義も大義もありません。対ウクライナ全面侵攻に踏み切ったことにより、プーチン大統領はロシアの国益を毀損しました。
今後、プーチン大統領を支えてきた利権集団間の対立が激化・表面化することも予見され、本人の失脚も十分あり得るものと筆者は予測します。
継戦能力の原動力は経済力と資金力(戦費)です。
ロシア経済は既に弱体化しており、戦費は枯渇しつつあります。プーチン大統領は「戦費使用に制限はない」と豪語しました。
しかし戦費使用枠に制限を設けなくても、戦費そのものがなくなれば、「使用制限を設けない」とする政策も無意味となります。
ロシアは戦争している場合ではありません。
油価下落とガス輸出量減少はロシア経済を破綻させるでしょう。ロシア経済再生の道、それは即時停戦・撤退しか有り得ません。
ロシアはプーチン大統領の所有物ではなく、ロシア悠久の歴史の中で彼は一為政者にすぎません。
その一為政者がロシア国家の信用を失墜させ、ロシアの歴史に汚点を残す侵略者になったのです。
換言すれば、ロシアの真の敵はプーチン大統領その人ということになります。
このまま戦争を継続すれば、「国破れて山河在り 城春にして草木深し」となるでしょう。筆者はそうならないことを祈るのみです。
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杉浦 敏広のプロフィール
Toshihiro Sugiura (公財)環日本海経済研究所共同研究員
1973年3月 大阪外国語大学ドイツ語学科卒
1973年4月 伊藤忠商事入社。 輸出鉄鋼部輸出鋼管課配属。ソ連邦向け大径鋼管輸出業務担当。 海外ロシア語研修受講後、モスクワ・サハリン・バクー駐在。 ソデコ(サハリン石油ガス開発)出向、サハリン事務所計7年間勤務。伊藤忠商事/アゼルバイジャン共和国バクー事務所6年8カ月勤務。
2011年4月 バクーより帰任。
2011年5月 (財)日本エネルギー経済研究所出向、研究主幹。2015年3月伊藤忠商事退職。現在、(公財)環日本海経済研究所共同研究員
■プロローグ/マスコミ界を徘徊する神話
「一匹の妖怪がヨーロッパを徘徊している。共産主義という名の妖怪が」
「一つの神話がマスコミ界を徘徊している。石油・ガス収入によりロシアの戦費は問題ないという神話が」
前者は『共産党宣言』(K.マルクス)冒頭の一句、後者は筆者のパロディーです。
筆者は2022年2月24日のロシア軍によるウクライナ全面侵攻開始以来、戦費問題に言及してきました。
しかし、マスコミ界では戦費に言及する報道・解説記事はほぼ皆無で、民間テレビには「ロシアは石油・ガス収入があるので、対露経済制裁措置は効果ない」と解説する経済評論家も登場しました。
ロシア軍は2022年2月24日にウクライナ全面侵攻開始。この原稿を書いている本日1月14日はプーチンのウクライナ侵略戦争から325日目となり、ウクライナ侵略戦争は既に11か月目に入っており、もうすぐ丸一年を迎えます。
本来ならば、ロシア軍の侵攻数日後にはウクライナの首都キエフ(キーウ)は制圧され、ロシア軍は解放軍としてウクライナ国民から歓呼の声で迎えられ、V.ゼレンスキー大統領は追放・拘束され、V.ヤヌコービッチ元大統領を新大統領とする親露派傀儡政権を樹立する予定でした。
その証拠に、露国営RIAノーヴァスチ通信は侵攻2日後、キエフ陥落の予定稿を流すという珍事が発生しています。
ゆえに、ウクライナ侵略戦争の長期化・泥沼化は露.プーチン大統領にとり大きな誤算となりました。
戦況悪化と正比例するかのごとく、ロシア政治に内包されていた矛盾が次々と顕在化・表面化してきました。
祖国防衛戦争を標榜する現在のプーチン大統領の姿は、大東亜共栄圏を標榜する太平洋戦争末期における旧日本軍大本営末期の姿と瓜二つと言えましょう。
プーチン大統領は2023年1月11日、ウクライナ特別軍事作戦総司令官にV.ゲラーシモフ参謀総長(上級大将)を任命。
S.スロヴィーキン総司令官(上級大将)は3か月で副司令官に降格。戦闘中に総司令官を更迭するのは、戦況が不利に展開している証拠です。
換言すれば、それだけプーチン大統領は追い詰められているとも言えます。
今回の人事異動の特徴は、3人の副司令官が任命されたことです。
O.サリューコフ地上軍総司令官(上級大将)とA.キム参謀次長(大将)も副司令官に任命され、国防省として背水の陣を敷いたことになります。
これでロシア軍敗退となれば、S.ショイグ国防相(上級大将)は解任必至です。
なお、今回国防省権限を強化する戦争指導体制を敷いたことは、「民間軍事会社ワーグナー(実態はワーグナー独立愚連隊)」の突出を嫌ったプーチン大統領の意向を反映しているとの見方も出ていますが、正鵠を射た見解と考えます。
継戦能力の原動力は経済力と資金力(戦費)です。
ロシア経済の規模は小さく(GDPは日本の4分の1程度)、経済は既に弱体化しており、戦費は枯渇しつつあります。筆者は開戦当初より、カネの切れ目が縁(戦争)の切れ目と主張してきました。
ウクライナの大地では今春、日露戦争の奉天会戦、第2次大戦の欧州戦線におけるクルスク戦車戦のような大規模な会戦が展開し、会戦後に停戦・終戦の姿が垣間見えてくるものと予測します。
本稿の結論を先に書きます。
ロシア経済は油価依存型経済構造です。油価の長期低迷がソ連邦崩壊のトリガーになりました。
油価低迷により露経済は破綻の道を歩み、戦費が枯渇・消滅する結果、早晩プーチン大統領は停戦・終戦を余儀なくされるでしょう。
■第1部:プーチンの夢想
ソ連邦は今から101年前の1922年12月30日に誕生しました。
「強いロシア」を標榜する、旧KGB(ソ連邦国家保安委員会)出身のV.プーチン大統領(70歳)は、2005年4月25日に発表した大統領就任第2期2回目の大統領年次教書の中で、「ソ連邦崩壊は20世紀の地政学的惨事である」と述べました。
本人にとり、偉大なるソ連邦崩壊は20世紀最大の惨事でした。
意味も意義も大義もないウクライナ全面侵攻に踏み切ったプーチン大統領の頭の中には、この偉大なるソ連邦復活の野望が蘇っていたことでしょう。
換言すれば、ウクライナ侵攻は本人の夢想を実現する一つの過程であったのかもしれません。
1917年の「2月革命」(旧暦)で帝政ロシアが崩壊し、ケレンスキー内閣が樹立。その年の「十月革命」でケレンスキー内閣が倒れ、レーニンを首班とするソビエト政権が誕生しました。
その後ロシアは赤軍と白軍に分かれた内戦状態となり、ソビエト連邦は1922年12月30日に成立。
そのソ連邦は1991年12月25日に崩壊し、ロシア共和国は新生ロシア連邦として誕生。
ゆえに2021年はロシア連邦崩壊30周年、昨年2022年はソビエト連邦誕生100周年記念の年になりました。
ロシア軍のウクライナ全面侵攻作戦は2022年2月24日に発動され、原稿執筆時の1月14日は侵攻開始後325日目となりました。
戦争は既に11か月目に入っており、戦闘は長期戦・消耗戦の様相を呈しています。
侵攻開始数日後にはウクライナの首都キエフ(キーウ)を制圧、親露派ヤヌコービッチ元大統領を首班とする傀儡政権が樹立されるはずでした。
しかし、戦争長期化・泥沼化によりプーチン大統領は国内マスコミ統制強化と実質「戦時経済」への移行を余儀なくされ、情報統制された露マスコミ報道にはロシア軍大本営発表があふれることになりました。
プーチン大統領は、戦争でもないのに2022年9月21日には「部分的動員令」を発令。
9月30日にはウクライナ東南部4州を一方的に併合宣言、10月19日にはウクライナ東南部4州に戒厳令を導入。10月22日には、ロシア政府もついに戦争であることを認めました。
これも大誤算で、ロシア軍の苦戦・苦境が透けて見えてきます。
NATO(北大西洋条約機構)東進を阻止すべくウクライナ侵攻開始したのに、逆にフィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請を誘発。
従来は対ノルウェー国境196キロがNATO対峙線でしたが、新たに1272キロのフィンランド国境がNATO対峙線にならんとしています。
これはプーチン大統領の戦略的失敗と言えます。
戦況不利となったプーチン大統領は2022年12月19日、ベラルーシの首都ミンスクを訪問。A.ルカシェンコ大統領に軍事作戦への協力を求めました。
迷走する「プーチンの戦争」は今後どうなるのでしょうか?
来年2024年3月は大統領選挙です。プーチンは再度立候補するのでしょうか?
あるいは、信頼できる部下・側近に後を託すのでしょうか?
この問題を考える上で重要な出来事が1月13日、隣国カザフスタンで発生しました。
旧ソ連邦時代からカザフスタン共和国の独裁者であったN.ナザルバエフ前大統領は、自分の長女ダリガへの権力継承の繋ぎとして、忠実な番犬を大統領に引き立てました。
番犬を繋ぎの暫定大統領に引き上げる条件として一族郎党の不逮捕特権を確認させたのですが、部下が大統領になると逆に残った権力も剝奪され、長女も権力の座から追放されました。
そして1月13日、本人の名誉称号と家族の不逮捕特権も反故にされてしまいました。
すなわち、家族の投獄も今後あり得るということになります。
隣国カザフスタンの政治情勢を見て、プーチンはますます権力の座にしがみ付くことになるでしょう。
■第2部:ウクライナ開戦
2022年2月22日の朝目覚めたら、世界は一変していました。
ロシアのV.プーチン大統領(当時69歳/1952年10月7日生まれ)がウクライナ東部2州の親露派が支配する係争地を国家承認したのです。
これは明らかに2015年の「ミンスク合意②」に違反するもので、筆者は即座に、ロシアは今後欧米側からの大規模経済制裁必至と考えました。
方針大転換の日は現地2月21日深夜。
プーチン大統領はロシア安全保障会議を開催して、ロシア高官全員から形式上の賛意をとりつけた上で、上記2地域の国家承認を行う手続きを開始しました。
2月24日には米露外相会談が予定されていました。
その場で次回米露首脳会談の日程が協議・決定されることになっており、2月21日のタイミングでウクライナ東部2州の係争地を国家承認することは無意味でした。
なぜなら、この2州の係争地は既に実質モスクワの支配下にあったからです。
この東部2州国家承認を受け、2月24日に予定されていた米露外相会談は破綻。
それまでのプーチン大統領の対米外交は上手く進展しており、あと1週間我慢すれば、本人の望み通りのものが手に入らなくとも、多くの外交成果が期待できたはずでした。
象徴的な言い方をすれば、「ミンスク合意②」から7年間待ったゆえ、あと7日間待てば、ロシアの歴史に新しい1頁が拓かれていた可能性も十分あったはずです。
では、なぜあと7日間我慢できなかったのでしょうか?
外交交渉が成立・合意すると困る勢力が、プーチン大統領をして係争2地域を国家承認させたことが考えられます。
あるいは、困る勢力とは、畢竟(ひっきょう)プーチン大統領自身であったのかもしれません。
その後、事態は急速に悪化。
米露外相会談が予定されていたまさにその2月24日、プーチン大統領はウクライナ侵攻作戦を発動。ロシア軍は対ウクライナ国境を越えて、ウクライナに全面侵攻を開始しました。
筆者は当初よりロシア軍のウクライナ侵攻はあり得ない・あってはならないと考えていたのですが、筆者の予測は大外れ。結果として、最悪の事態になりました。
原稿執筆時の2023年1月14日はロシア軍が2022年2月24日にウクライナ全面侵攻開始以来325日目となり、ウクライナ戦争は長期化・泥沼化。プーチン大統領にとり予想外の展開となりました。
1月14日のウクライナ大本営発表によれば、ロシア軍がウクライナに全面侵攻開始した2月24日から1月14日朝までの325日間におけるロシア軍戦死者数は累計11万4660人に達しました。
本来ならば、ロシア軍の侵攻数日後にはウクライナの首都は制圧され、短期電撃作戦のはずが長期戦・消耗戦となり、一番困惑しているのはプーチン大統領その人と筆者は想像します。
現地での戦闘は激化しています。
特に、バフムート周辺とバフムート北側10キロに位置するソレダールでは白兵戦の様相を呈しており、ロシア側傭兵部隊ワーグナー独立愚連隊は1月11日、ソレダール制圧を発表。
続く13日には、ロシア国防省が「ロシア軍、ソレダール制圧」と発表しました。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は戦闘継続を報じていますが、筆者個人的には、ウクライナ側も局地戦に拘泥しないで守備隊を撤退させて勢力温存する方が賢明と考えます。
プーチン新ロシア大統領が2000年5月に誕生した時、彼のスローガンは強いロシアの実現と法の独裁でした。
しかし結果として弱いロシアの実現と大統領個人独裁の道を歩んでおり、プーチン大統領は自らロシアの国益を毀損していることになります。
その結果、対ウクライナ戦争はロシア経済の衰退をもたらし、プーチンの墓標になるでしょう。
■第3部:ウクライナ戦況
ロシア軍の被害状況 (2023年1月14日現在)
ウクライナ侵略戦争は既に11か月目に入り、もうすぐ丸一年になります。
ウクライナ侵略戦争の長期化・泥沼化は露プーチン大統領にとり大きな誤算となり、ウクライナ侵略戦争により、プーチン自身、様々な不都合な真実に直面しています。
ロシア憲法によれば毎年大統領年次教書発表が規定されています。
発表する期間は、大統領就任日からの1年間です。ある民間テレビ報道番組では、「前回の大統領年次教書は2021年4月に発表されたが、22年は未発表です」と解説していました。
しかし、これは不正確です。
2021年4月21日に発表された大統領年次教書は21年度の年次教書ではなく、20年度の教書です。すなわち、21年の大統領年次教書は未発表です。
2022年の大統領年次教書発表も未定です(発表期限は23年5月6日まで)。
毎年中葉に実施されてきた「国民との対話」も2022年は中止となり、毎年年末には恒例の「マスコミ大会見」が開催されてきたのですが、それも中止になりました。
ここで、ウクライナ戦況を概観します。
露軍の自軍被害に関する大本営発表は2022年3月25日に発表した戦死者1351人が最初ですが、ショイグ国防相は9月21日、「露軍戦死者は5937人」と公式発表しました。
この戦死者数自体、もちろんロシア大本営発表の偽情報の類ですが、ここで留意すべきは「ロシア軍戦死者」とはロシア軍正規兵の将兵が対象であり、かつ遺体が戻ってきた数字しか入っていないことです。
ウクライナ軍は毎日、戦況報告を公表しています。もちろん大本営発表ですからそのまま鵜呑みにすることは危険ですが、一つの参考情報としてウクライナ軍発表のロシア軍被害状況は以下の通りです。
なお、露軍戦死者には新たに動員された予備役30万人も含まれているので、総兵力を115万人と仮定すれば、戦死者比率はちょうど1割になります。
戦車は保有数量の4分の1、装甲車は5分の1が撃破されており、ロシア軍の戦闘能力は大きく低下しています。
付言すれば、戦車は4分の3も残っているので、ロシアはまだ十分戦闘能力があるとテレビで語っている軍事評論家がいました。
ロシアは約2万キロの陸路国境線を有し、日本の国土の46倍あり、その国土を5軍管区に分けて防衛しています。
すなわち、戦車総数の中にはサハリン島や千島列島(クリル諸島)、カムチャッカ半島などに配備されている戦車も含まれているのです。
それらの防衛用戦車を算入して、ロシアにはまだ4分の3の戦車が残っているので十分な戦闘能力があると言えるのでしょうか?
もちろん、隣国との国境に配備された戦車隊をガラ空きにして、ウクライナに転用するなら話は別ですが。
■第4部:3油種週次油価推移概観
ここで、2021年1月から23年1月までの3油種(北海ブレント・米WTI・露ウラル原油)週次油価推移を概観します。
油価は2021年初頭より22年2月末までは傾向として上昇基調が続きましたが、ロシア軍のウクライナ侵攻後、ウラル原油は下落。
他油種は乱高下を経て、2022年6月から下落傾向に入りました。
ロシアの代表的油種ウラル原油は、西シベリア産軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)とヴォルガ流域の重質・サワー原油(同1%以上)のブレント原油で、中質・サワー原油です。
ちなみに、日本が輸入している(いた)ロシア産原油は3種類(S-1ソーコル原油/S-2サハリンブレンド/ESPO原油)のみで、すべて軽質・スウィート原油ですが、2022年6~11月は輸入ゼロでした。
今年23年1月3~6日の平均油価は北海ブレント$77.20/bbl(前週比▲$4.63/スポット価格)、米WTI $74.27(同▲$4.96)、ウラル原油(黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)$41.84(同▲$2.91)になりました。
この超安値の露産原油を買い漁っているのが中国とインドです。
ロシアの2021年国家予算案想定油価(ウラル原油FOB)はバレル$45.3、実績は$69.0。2022年の国家予算案想定油価はバレル$62.2、通期実績は$76.1になりました。
上記のグラフをご覧ください。黒色の縦実線は、ロシア軍がウクライナに全面侵攻した2月24日です。
この日を境として、北海ブレントや米WTI油価は急騰。6月に最高値更新後に下落。12月末で北海ブレントと米WTIは$80を割り込んでおり、油価は下落傾向です。
一方、露ウラル原油は、ウクライナ侵攻前は$90でしたが、侵攻後下落開始。11月中旬には2022年国家予算想定油価を割り、12月末には遂に$40台前半まで実に$50も下落。
欧米はロシア産原油に$60(FOB)の上限油価を設定しましたが、現実は既にこの上限設定価格を大きく下回っています。
■第5部:露ウラル原油月次油価推移概観
油価下落による損害
次に、過去4年間の露ウラル原油の月次油価推移を概観します。
下記のグラフより明らかな通り、ロシア軍がウクライナ全面侵攻開始した2022年2月の露ウラル原油の平均油価はバレル$92.2でしたが、以後毎月ウラル原油の油価は下落して、12月度は$50.5になりました。
上記グラフより明らかなごとく、ウクライナ侵攻がなければロシアはバレル$90の油価水準を享受していたことでしょう。
政府想定油価が$62.2ですから、ロシア経済は順風満帆のはずでした。
ロシアの原油生産量は約10mbdです(mbd=百万バレル/日量)。ロシアは半分を原油として輸出、残りの5mbdを国内で精製して石油製品(主に軽油と重油)を生産し、そのうちの半分を輸出しています。
油価は、バレル$90から$50まで$40も下落しました。この油価下落がロシア経済にどのような損害を与えているかは算数の問題です。
原油輸出量は5mbdですから、$40下がると1日の損害は5mbd×$40で2億ドルになります。
石油製品も勘案すれば、1日あたりの損害は約3億ドルになり、年間では1000億ドル以上の輸出金額減になります。
天然ガス事情もロシア国庫財政にとり悲劇的な数字になります。
欧州ガス市場は露ガスプロムにとり金城湯池の主要外貨獲得源であり、PL(パイプライン)ガス輸出関税(FOB金額の30%)は露石油・ガス税収の大黒柱でした。
今年2023年1月からはPLガス輸出関税はFOB金額の50%に増税となり、本来ならばガス輸出税収は大幅増収となるはずでした。
付言すれば、露LNG輸出関税はゼロゆえ、露がいくらLNGを輸出しても関税収入はゼロです。
今年の露天然ガス輸出量は1000億立米減少するとの予測が出ています。露国庫財政の大黒柱たるPLガス輸出税収が今、減少・消滅しつつあります。
これが何を意味するのかと申せば、露戦費主要供給源の一つが減少・消滅するということです。
■第6部:国家予算案概観(2023~25年)
ロシア政府は2022年9月28日、2023~25年国家予算原案を露下院に提出しました。
ロシア国家予算原案は下院にて3回審議・採択後上院に回付され、上院にて承認後、大統領署名をもって発効します。
ロシア政府は2022年9月28日、露下院に2023~25年国家予算原案を提出。
11月24日の下院第三読会にてこの原案は可決・採択され、上院承認後、プーチン大統領は12月5日にこの予算案に署名して政府予算案は発効しました。
ロシア政府が9月28日に提出した国家予算原案の概要は下記の通りにて、想定油価はウラル原油です。
2022年の期首予算案は想定油価$62.2で黒字予算案でしたが、ウクライナ戦争により$80でも大幅赤字となりました。想定油価の見通しは$80でしたが、2022年実績は$76.1になりました。
これが何を意味するのか申せば、2022年の赤字幅はさらに拡大するということであり、実際拡大しました。
昨年(2022)12月27日に発表された政府見通しでは油価$80.0で国庫収支案はGDP比▲2.0%でしたが、今年1月10日に発表された政府速報値は22年油価実績$76.1、国庫収支▲3.3兆ルーブル(GDP比▲2.3%)になりました。
付言すれば、ウラル原油の現行油価水準(FOB)は既に$40程度ゆえ、今年の予算原案想定油価$70.1(赤字2.92兆ルーブル)は既に実現不可能な油価水準になっています。
これが何を意味するのかと申せば、2023年露国家予算案の赤字幅は今後さらに拡大する(=戦費減少・枯渇)ということです。
一方、露会計検査院の22年予算案見通しは以下の通りにて、政府期首予算案では国防費3.5兆ルーブル(約500憶ドル)でしたが、実際には4.7兆ルーブル(約670億ドル)にまで膨れ上がるとの見通しです。
露予算案に占める国防・情報・治安費は3分の1になるので、文字通りロシアは戦時経済と言えます。
■エピローグ/国破れて山河在り
最後に、ロシア軍によるウクライナ全面侵攻とプーチン大統領の近未来を総括したいと思います。ただし、現在進行形の国際問題なので、あくまでも2023年1月14日現在の暫定総括である点を明記しておきます。
筆者の描くウクライナ侵攻を巡る背景とウクライナ戦争の近未来予測の輪郭は以下の通りです。
あくまで推測ですが、ウクライナへのロシア軍関与は当初、ウクライナ東部2州に親露派政権樹立→その政権から治安部隊の派遣要請を受ける→ロシア治安部隊が平和維持軍として駐留する→国民大多数の賛成により併合されるという筋書きが想定されていたと考えます。
これがかつてのソ連邦指導者の思考回路であり、ソ連軍の行動様式にて、この方式で“合法的に”併合したのがバルト3国です。
今回はウクライナ東部2州の親露派が支配する地域の国家承認に始まるウクライナ限定侵攻作戦のはずが、プーチン大統領の妄想によりウクライナ全面侵攻に拡大したと、筆者は考えます。
プーチン大統領によるウクライナ東部2州国家承認と“合法的に”国家併合する期首構想が妄想により膨れ上がり、ロシア軍にとり不利な戦況の中で東南部4州の国家併合・戒厳令まで猪突猛進。
その結果、戦況はますます不利となり、占領地からのロシア軍順次撤退を余儀なくされているのが現実の姿です。
ロシア国内では一部に厭戦気分も出ており、世論調査でも戦争に反対する声が大きくなっています。
国内に戦争反対の機運が醸成され、プーチン大統領の支持率が低下すると、ロシア国内が流動化することも懸念されます。
かつてのロシアの裏庭たる中央アジア諸国でも、ロシア離れが表面化・顕在化してきました。
特にカザフスタンのロシア離れは、既に「The Point of No Return(回帰不能点)」を超えた感じです。
プーチン大統領は従来、外交交渉を重視してきました。
せっかく2022年2月24日に米露外相会談が設定されており、長いトンネルの先に光明が見えてきたまさにそのタイミングで、プーチンはルビコン川を渡ってしまったのです。
プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争はプーチン時代の終わりの始まりを意味することになるでしょう。
ウクライナへの軍事侵攻は意味も意義も大義もありません。対ウクライナ全面侵攻に踏み切ったことにより、プーチン大統領はロシアの国益を毀損しました。
今後、プーチン大統領を支えてきた利権集団間の対立が激化・表面化することも予見され、本人の失脚も十分あり得るものと筆者は予測します。
継戦能力の原動力は経済力と資金力(戦費)です。
ロシア経済は既に弱体化しており、戦費は枯渇しつつあります。プーチン大統領は「戦費使用に制限はない」と豪語しました。
しかし戦費使用枠に制限を設けなくても、戦費そのものがなくなれば、「使用制限を設けない」とする政策も無意味となります。
ロシアは戦争している場合ではありません。
油価下落とガス輸出量減少はロシア経済を破綻させるでしょう。ロシア経済再生の道、それは即時停戦・撤退しか有り得ません。
ロシアはプーチン大統領の所有物ではなく、ロシア悠久の歴史の中で彼は一為政者にすぎません。
その一為政者がロシア国家の信用を失墜させ、ロシアの歴史に汚点を残す侵略者になったのです。
換言すれば、ロシアの真の敵はプーチン大統領その人ということになります。
このまま戦争を継続すれば、「国破れて山河在り 城春にして草木深し」となるでしょう。筆者はそうならないことを祈るのみです。
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杉浦 敏広のプロフィール
Toshihiro Sugiura (公財)環日本海経済研究所共同研究員
1973年3月 大阪外国語大学ドイツ語学科卒
1973年4月 伊藤忠商事入社。 輸出鉄鋼部輸出鋼管課配属。ソ連邦向け大径鋼管輸出業務担当。 海外ロシア語研修受講後、モスクワ・サハリン・バクー駐在。 ソデコ(サハリン石油ガス開発)出向、サハリン事務所計7年間勤務。伊藤忠商事/アゼルバイジャン共和国バクー事務所6年8カ月勤務。
2011年4月 バクーより帰任。
2011年5月 (財)日本エネルギー経済研究所出向、研究主幹。2015年3月伊藤忠商事退職。現在、(公財)環日本海経済研究所共同研究員
ロシア軍によるウクライナ全面侵攻とプーチン大統領の近未来を、現在進行形の国際問題なので、あくまでも2023年1月14日現在の暫定総括としながら語っていただいています。
ウクライナへのロシア軍関与は当初、ウクライナ東部2州に親露派政権樹立→その政権から治安部隊の派遣要請を受ける→ロシア治安部隊が平和維持軍として駐留する→国民大多数の賛成により併合されるという筋書きが想定されていたと考えますと、杉浦氏。
この方式で“合法的に”併合したのがバルト3国です。
今回はウクライナ東部2州の親露派が支配する地域の国家承認に始まるウクライナ限定侵攻作戦のはずが、プーチン大統領の妄想によりウクライナ全面侵攻に拡大したと。
ロシア国内では一部に厭戦気分も出ており、世論調査でも戦争に反対する声が大きくなっています。
プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争はプーチン時代の終わりの始まりを意味することになるでしょう。
ウクライナへの軍事侵攻は意味も意義も大義もありません。対ウクライナ全面侵攻に踏み切ったことにより、プーチン大統領はロシアの国益を毀損しました。
今後、プーチン大統領を支えてきた利権集団間の対立が激化・表面化することも予見され、本人の失脚も十分あり得るものと予測しますと、杉浦氏。
ロシア経済は既に弱体化しており、戦費は枯渇しつつあります。
ロシアは戦争している場合ではありません。
油価下落とガス輸出量減少はロシア経済を破綻させるでしょう。ロシア経済再生の道、それは即時停戦・撤退しか有り得ません。
ロシアはプーチン大統領の所有物ではなく、ロシア悠久の歴史の中で彼は一為政者にすぎません。
その一為政者がロシア国家の信用を失墜させ、ロシアの歴史に汚点を残す侵略者になったのです。
換言すれば、ロシアの真の敵はプーチン大統領その人ということになりますと、杉浦氏。
このまま戦争を継続すれば、「国破れて山河在り 城春にして草木深し」となるでしょう。はそうならないことを祈るのみですと。
# 冒頭の画像は、モスクワ
この花の名前は、リュウキュウツツジ 藤万葉
2月 7日は、北方領土の日
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