シェールガスの登場で、逆オイルショックがやってくると、元通産官僚で内閣官房出向経歴もある世界平和研究所主任研究員の藤和彦氏が記事を書いておられます。
逆オイルショックは、70年代の2度の石油危機の後、80年代になって、原子力を主体とする代替えエネルギーの導入が進んだことと、省エネルギーが進んだことで石油の需要が減ったにも関わらず生産調整がなされず、価格が暴落したことを言うのだそうです。
今、100ドル/バレルの原油が、今後5年間で75ドル/バレルに下がる可能性があると、WSJが報じたのだとか。
理由は、需要が減っている事。100ドル/バレルでは、石炭との価格競争力がないこと。シェールガスが登場し、原油の余剰が生じていることだそうです。
更に、前回と異なるのは、原油価格決定が、先物市場主導で行われることとなり変動幅が大きく振れるようになった上に、実需の他に金融情勢にも大きく左右される様になったことをあげておられます。
「逆オイルショック」が再来?シェールオイルがもたらすエネルギー情勢の激変 ;藤 和彦
逆オイルショックが再び起きるかもしれない」
専門家の間で「近い将来石油需要が減少に転じ、石油価格が1980年代半ばのように暴落する可能性がある」との見方が密かに広がっている。
「逆オイルショック」は日本ではあまり知られていないが、86年初頭に1バレル当たり30ドル近い水準にあった石油価格が、その後半年間で5ドルにまで暴落したことを言う。なぜこのようなことが起きたのか。
70年代の2度にわたる石油危機を契機に石油価格が高騰したため、80年代に入ると石油消費国における代替エネルギー(原子力が中心)導入拡大や省エネルギー推進により世界の石油需要が低迷し始め、83年の需要は79年の1割減となった。さらに、中東の大産油地域から締め出された石油メジャーが非OPEC地域の石油生産量を急増させ、低迷する需要をOPEC産原油と奪い合うようになった。
このような事態に直面しても、OPEC諸国は協調して減産を行うことができず、結果的にサウジアラビア一国が減産を引き受けざるを得なかった。80年のサウジアラビアの生産量は日量1000万バレルであったが、85年には200万バレルにまで激減、OPEC石油の世界市場に占めるシェアも30%を割り込んだ。
サウジアラビアは、事ここに至っても減産に協力しない他のOPEC諸国に痺れを切らし、85年12月に「これ以上減産に耐えることはできない。調整弁役を放棄して増産を開始する」と宣言したため、高止まりしていた石油価格は瞬く間に下落した。
<中略>
もはや石油の需要は頭打ち?
むしろ昨今は「石油需要のピークが近い」という説が有力になりつつある。
先進国の石油需要は構造的に減少トレンドに入るとともに、自動車分野での省エネが進んだため途上国の石油需要は爆発的に増加しないことが判明した、というのがその理由である。
石油は他の代替エネルギーがないコアな需要(輸送部門など)を持っているため、いまだ大幅な需要減にまで至っていない。しかし、石井氏は「近年の石油価格の高騰により、いずれ来るとされていた石油需要のピークが既に来てしまっているのではないか」と推測する。
シェールオイル増産でだぶつく石油
一方、供給面に目を転じると、米国のシェールオイルの勢いが止まらない。
<中略>
昨今「西半球で石油がだぶついている」との噂も広まっている。メキシコやベネズエラなどから産出される質が悪いが割安な重質原油をガソリンなどに精製できる施設を有し、価格の高いシェールオイルに手をつけないため、米国内で余ったシェールオイルがカナダに大規模に輸出されるようになっているからだ(米国では原油輸出は原則禁止だが、カナダ向けは例外)。
高価格による需要停滞とシェールオイルの供給拡大により、国際石油市場が需給緩和に向かう転換点が今年後半にも来るのではないだろうか。
金融情勢も石油価格を押し下げる要因に
80年代と異なり、石油価格の形成に主導的な役割を果たしているのは、現物市場に比べて格段に大きくなった先物市場である。
80年代初頭、シェルが「原油生産過剰によりOPEC産油国カルテルは近々崩壊し、今後石油価格は下落する可能性が高い」と警告を発するなど、業界関係者の間で価格下落に対するヘッジ需要が高まっていた。これを受けて83年から84年にかけて、ロンドン国際石油取引所(IPE)に北海ブレント原油の先物市場が、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)にWTI原油の先物市場が作られたが、2000年以降、ゴールドマンサックスがコモディティ・インデックス・ファンドを組成して年金マネーを流入させたために市場規模が飛躍的に拡大した。
急成長した先物市場だが、相変わらずボラティリティは高く、「ひょっとして原油価格が下がるのでは」という憶測が広まるだけで、急激な価格低下が発生する。
リーマン・ショック後の暴落が示すように、石油価格はマクロな金融情勢にも大きく左右される。ウクライナを巡る欧米とロシアの対立の先鋭化がドイツ経済に予想以上の悪影響を及ぼしており、さらなる欧州経済の悪化が避けられない状況になりつつある。また、中国不動産のバブル終焉が現実のものになり始め、米国の利上げが市場予想よりも前倒しされ、資産バブルが再び破裂するのではとの懸念が強まるなど、世界全体に石油価格の押し下げ効果をもたらす「地雷」が埋まっていると言っても過言ではない(9月18日に実施されるスコットランド独立の是非を問う住民投票で独立が決まった場合、英国が通貨危機に見舞われるリスクがあるとの懸念が急浮上している)。
2014年4月1日付「ウォールストリート・ジャーナル」は、シェールオイルの増産などを理由に「原油価格は今後5年間で1バレル100ドルから75ドルに下落する可能性がある」との記事を掲載した。
攪乱要因であるシェールオイルの生産コストの上限が約70ドルなので「価格が下落しても70ドル近辺で下げ止まる」との観測だが、市場価格がトータルの生産コストを下回っても、操業変動費を回収しようと操業を続けようとすれば、供給過剰が解消されず、生産コストによる歯止めがかからなくなる。
サウジアラビアの生産コストは3ドルであるため、原油価格が暴落してもこれまで安泰だとされてきたが、「サウジアラビアの財政は石油価格が100ドル/バレルでないと耐えられないのではないか」と石井氏は警戒感を露わにする。
確かに石油の生産コストは低いが、サウジアラビアは巨額の石油レント(余剰利潤)を国民に大盤振る舞いすることで、地球最後の王政の1つと言われる現在の政治体制を保持している。近年の「人口爆発(80年には980万人だった人口が2012年には2920万人に増加)」により財政需要がますます拡大しているが、石油等鉱物資源の輸出が9割を占めるというモノカルチャー経済は変わっていない。
初代アブドラアジズ国王の建国以来、36人の息子が順番に国王の位置を占めてきたが、支配層であるサウド王家は世代交代の時期に直面しつつある。アラブの春が示したように、イスラム社会の中にも「民主化」を求める若い世代が急増しており、サウジアラビア国内でもテロが発生している。世代交代という敏感な時期に石油価格が暴落して、支配者たちが一般国民を満足させる財源を失ったら、これまでの不満が一気に爆発する可能性も否定できない。
日本に求められる「脱中東石油」の政策
石油価格の暴落は湾岸地域全体を不安定化させる可能性が高いが、米国が今後も中東地域の政治的安定を図り、シーレーン防衛に積極的に関与し続ける保証はあるのだろうか。
米国の中東政策は、国内の石油価格に大きな影響を与える中東原油の世界市場への安定的な供給の流れを確保しながら、ワシントンで大きな政治力を有するイスラエル・ロビーの意向に沿うという微妙なバランスを保ってきた。
しかし、国内の石油消費に占めるサウジアラビア石油のシェアが5%を割り込んだ状況下で、「今後多額の費用をかけてまで中東湾岸地域へ介入する必要はない。介入するとしてもイスラエルの国益を中心に考えるべし」とする安全保障専門家や政治家が増えつつある。
このような方針転換がなされれば、中東地域の不安定化をもたらすだけで、日本にとっては「百害あって一利なし」である。
7月1日、安倍内閣は集団的自衛権行使に関する憲法解釈を変更する閣議決定を行ったが、事例の1つとして、ホルムズ海峡が機雷により封鎖された場合の機雷除去作業を挙げた。機雷によるホルムズ海峡封鎖による供給途絶の可能性を認識しているのであれば、「脱中東石油」という日本のエネルギー安全保障の最重要課題への処方箋をただちに策定すべきではないだろうか。
逆オイルショックが再び起きるかもしれない」
専門家の間で「近い将来石油需要が減少に転じ、石油価格が1980年代半ばのように暴落する可能性がある」との見方が密かに広がっている。
「逆オイルショック」は日本ではあまり知られていないが、86年初頭に1バレル当たり30ドル近い水準にあった石油価格が、その後半年間で5ドルにまで暴落したことを言う。なぜこのようなことが起きたのか。
70年代の2度にわたる石油危機を契機に石油価格が高騰したため、80年代に入ると石油消費国における代替エネルギー(原子力が中心)導入拡大や省エネルギー推進により世界の石油需要が低迷し始め、83年の需要は79年の1割減となった。さらに、中東の大産油地域から締め出された石油メジャーが非OPEC地域の石油生産量を急増させ、低迷する需要をOPEC産原油と奪い合うようになった。
このような事態に直面しても、OPEC諸国は協調して減産を行うことができず、結果的にサウジアラビア一国が減産を引き受けざるを得なかった。80年のサウジアラビアの生産量は日量1000万バレルであったが、85年には200万バレルにまで激減、OPEC石油の世界市場に占めるシェアも30%を割り込んだ。
サウジアラビアは、事ここに至っても減産に協力しない他のOPEC諸国に痺れを切らし、85年12月に「これ以上減産に耐えることはできない。調整弁役を放棄して増産を開始する」と宣言したため、高止まりしていた石油価格は瞬く間に下落した。
<中略>
もはや石油の需要は頭打ち?
むしろ昨今は「石油需要のピークが近い」という説が有力になりつつある。
先進国の石油需要は構造的に減少トレンドに入るとともに、自動車分野での省エネが進んだため途上国の石油需要は爆発的に増加しないことが判明した、というのがその理由である。
石油は他の代替エネルギーがないコアな需要(輸送部門など)を持っているため、いまだ大幅な需要減にまで至っていない。しかし、石井氏は「近年の石油価格の高騰により、いずれ来るとされていた石油需要のピークが既に来てしまっているのではないか」と推測する。
シェールオイル増産でだぶつく石油
一方、供給面に目を転じると、米国のシェールオイルの勢いが止まらない。
<中略>
昨今「西半球で石油がだぶついている」との噂も広まっている。メキシコやベネズエラなどから産出される質が悪いが割安な重質原油をガソリンなどに精製できる施設を有し、価格の高いシェールオイルに手をつけないため、米国内で余ったシェールオイルがカナダに大規模に輸出されるようになっているからだ(米国では原油輸出は原則禁止だが、カナダ向けは例外)。
高価格による需要停滞とシェールオイルの供給拡大により、国際石油市場が需給緩和に向かう転換点が今年後半にも来るのではないだろうか。
金融情勢も石油価格を押し下げる要因に
80年代と異なり、石油価格の形成に主導的な役割を果たしているのは、現物市場に比べて格段に大きくなった先物市場である。
80年代初頭、シェルが「原油生産過剰によりOPEC産油国カルテルは近々崩壊し、今後石油価格は下落する可能性が高い」と警告を発するなど、業界関係者の間で価格下落に対するヘッジ需要が高まっていた。これを受けて83年から84年にかけて、ロンドン国際石油取引所(IPE)に北海ブレント原油の先物市場が、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)にWTI原油の先物市場が作られたが、2000年以降、ゴールドマンサックスがコモディティ・インデックス・ファンドを組成して年金マネーを流入させたために市場規模が飛躍的に拡大した。
急成長した先物市場だが、相変わらずボラティリティは高く、「ひょっとして原油価格が下がるのでは」という憶測が広まるだけで、急激な価格低下が発生する。
リーマン・ショック後の暴落が示すように、石油価格はマクロな金融情勢にも大きく左右される。ウクライナを巡る欧米とロシアの対立の先鋭化がドイツ経済に予想以上の悪影響を及ぼしており、さらなる欧州経済の悪化が避けられない状況になりつつある。また、中国不動産のバブル終焉が現実のものになり始め、米国の利上げが市場予想よりも前倒しされ、資産バブルが再び破裂するのではとの懸念が強まるなど、世界全体に石油価格の押し下げ効果をもたらす「地雷」が埋まっていると言っても過言ではない(9月18日に実施されるスコットランド独立の是非を問う住民投票で独立が決まった場合、英国が通貨危機に見舞われるリスクがあるとの懸念が急浮上している)。
2014年4月1日付「ウォールストリート・ジャーナル」は、シェールオイルの増産などを理由に「原油価格は今後5年間で1バレル100ドルから75ドルに下落する可能性がある」との記事を掲載した。
攪乱要因であるシェールオイルの生産コストの上限が約70ドルなので「価格が下落しても70ドル近辺で下げ止まる」との観測だが、市場価格がトータルの生産コストを下回っても、操業変動費を回収しようと操業を続けようとすれば、供給過剰が解消されず、生産コストによる歯止めがかからなくなる。
サウジアラビアの生産コストは3ドルであるため、原油価格が暴落してもこれまで安泰だとされてきたが、「サウジアラビアの財政は石油価格が100ドル/バレルでないと耐えられないのではないか」と石井氏は警戒感を露わにする。
確かに石油の生産コストは低いが、サウジアラビアは巨額の石油レント(余剰利潤)を国民に大盤振る舞いすることで、地球最後の王政の1つと言われる現在の政治体制を保持している。近年の「人口爆発(80年には980万人だった人口が2012年には2920万人に増加)」により財政需要がますます拡大しているが、石油等鉱物資源の輸出が9割を占めるというモノカルチャー経済は変わっていない。
初代アブドラアジズ国王の建国以来、36人の息子が順番に国王の位置を占めてきたが、支配層であるサウド王家は世代交代の時期に直面しつつある。アラブの春が示したように、イスラム社会の中にも「民主化」を求める若い世代が急増しており、サウジアラビア国内でもテロが発生している。世代交代という敏感な時期に石油価格が暴落して、支配者たちが一般国民を満足させる財源を失ったら、これまでの不満が一気に爆発する可能性も否定できない。
日本に求められる「脱中東石油」の政策
石油価格の暴落は湾岸地域全体を不安定化させる可能性が高いが、米国が今後も中東地域の政治的安定を図り、シーレーン防衛に積極的に関与し続ける保証はあるのだろうか。
米国の中東政策は、国内の石油価格に大きな影響を与える中東原油の世界市場への安定的な供給の流れを確保しながら、ワシントンで大きな政治力を有するイスラエル・ロビーの意向に沿うという微妙なバランスを保ってきた。
しかし、国内の石油消費に占めるサウジアラビア石油のシェアが5%を割り込んだ状況下で、「今後多額の費用をかけてまで中東湾岸地域へ介入する必要はない。介入するとしてもイスラエルの国益を中心に考えるべし」とする安全保障専門家や政治家が増えつつある。
このような方針転換がなされれば、中東地域の不安定化をもたらすだけで、日本にとっては「百害あって一利なし」である。
7月1日、安倍内閣は集団的自衛権行使に関する憲法解釈を変更する閣議決定を行ったが、事例の1つとして、ホルムズ海峡が機雷により封鎖された場合の機雷除去作業を挙げた。機雷によるホルムズ海峡封鎖による供給途絶の可能性を認識しているのであれば、「脱中東石油」という日本のエネルギー安全保障の最重要課題への処方箋をただちに策定すべきではないだろうか。
自動車の省エネが進んだ上に、ガソリン価格が上昇して需要減に拍車がかかり、廃業するガソリンスタンドが増えていることは諸兄がご承知の通りです。
火力発電も、新規設備は、天然ガスや石炭が検討され、シェールガスの登場が更に大きな原油需要減圧力となっているのですね。
逆オイルショックが発生するとどんな影響があるのか。
原油輸出に国家経済を依存する中東の国々の情勢が不安定になる。中東依存率の下がっている米国は、以前のように中東に関与しなくなり、不安は混迷を続けるということだそうです。
中東の混迷は既に進行中です。
藤和彦氏は、『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』と言う著書があるのだそうです。
著書は拝読していませんので題名だけで内容を推察するのは間違いかもしれませんが、日本の対策としては、集団的自衛権を考えるより、「「脱中東石油」という日本のエネルギー安全保障の最重要課題への処方箋をただちに策定すべき」と指摘されているのは、ロシアの天然ガスを安く買い叩けと言っておられるのかと邪推してしまいます。
中国が侵略を進め、安全確保が危ぶまれるシーレーンに依存する中東からのエネルギー源への依存度を減らすことには賛成ですが、ロシアのエネルギーは、欧州各国が依存度を下げる傾向に見られるように、中東以上に不安全です。
米国、カナダのシェールガスの輸入や、オーストラリアからの天然ガス輸入、日本近海のメタンハイドレード開発に注力すべきです。
逆オイルショックの発生には、想定外とならないよう、可能性のある話として、政府や関連業界の方々に対策検討をすすめて頂きたいものですね。
# 冒頭の画像は、海上自衛隊初のFRP製掃海艇「えのしま」
この花の名前は、ノースボール
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