Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

プルートで朝食を

2007-11-01 | 外国映画(は行)
★★★★☆ 2006年/アイルランド・イギリス 監督/ニール・ジョーダン

「内と外、相異なるベクトルの見事な融合」


「トランスアメリカ」と連続で見たもので、同じような設定に危惧したんだけど、いやいやとても良かったです。

そもそもゲイなどジェンダーに関係する作品というのは、とても内的な作品が多い。「私が、私が」って物語になっちゃうんですね。どんどん自分を見つめていっちゃう、という。個人的にはそういったテーマの映画って好きなんですけど、やっぱそればかりでも面白い作品にはならない。

ところがこの「プルートで朝食を」という作品には「アイルランドの独立問題」という極めて政治的な問題が大きな役割を担っている。政治問題というのは、とても「外的」な要素で、母を探しに行くという「内に向かう」展開と、国と国との対立という「外に向かう」展開が非常にうまく融合されていて、独自の物語性を創り出しています。

アイルランド問題は、監督のニール・ジョーダンが常に扱っているテーマなので、当然の展開なのですが、それでも「トランスアメリカ」の際も感じたように、ゲイの人が自分のルーツを探しに出る、というお話がたいへん多い昨今としては、出色の出来映えだったです。主人公のパトリック自身も爆弾テロに間違えられて拘束されるシーンもあり、パトリックの母親探しが軸でありながらも、暴力による制圧を断固として批判する姿勢が随所に現れていました。パトリックが恋人の銃を取り上げ、湖に捨ててしまうシーンは、そのものです。

そして、主人公パトリックを演じるキリアン・マーフィがすごく艶のあるゲイで魅力的なんですよ。次々と身にまとうオシャレファッションがめちゃめちゃ決まっててステキ。でね、やっぱりイギリスの映画は音楽がいい!ブリティッシュロックのシンプルさとメッセージ力ってのは、こういう批判精神が盛り込まれた映画にもの凄くしっくり来る。ロック以外の音楽も入ってますけど、一つひとつのシーンと音楽がぴったり重なる。ホント、イギリス人は音楽の使い方がうまいです。

ひとりのゲイの青年の母を訪ねる旅は、いろんな人々を巻き込み、自分自身も傷つき、揉まれながら進みます。36章という細かい割り方によるテンポの良さが、時に暗くなってしまうストーリーを軽やかに見せてくれる。主人公の魅力、全体のリズム感、そしてメッセージ力と全てがパーフェクト!ニール・ジョーダンってすごく硬派なイメージがあるんだけど、こういう軽やかな作品もうまいんですねえ。もちろん、言うことはきっちり言ってるところが、またすばらしい。