Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

LOFT

2007-11-28 | 日本映画(や・ら・わ行)
★★★★ 2006年/日本 監督/黒沢清

「ミイラが恋のキューピット」


これは黒沢清監督が初の「ラブストーリー」にチャレンジした作品なんでしょう。まともにラブストーリーなんて描けないので、ちょっとミイラの力をお借りしました、と言う。で、何しろミイラがキューピットなわけだから、ホラー風味のラブストーリーになるのは当然。そして、取り巻く人物も黒沢清だから、一筋縄じゃいかない奴らばっかし、ということで。

例のごとく、そうであると仮定して、ずんずん感想は進む(笑)。

恋愛を持ち込んだことで、いつものざわざわするような恐ろしさはかなり軽減されている今作。物語よりも、主要な俳優陣の個性が黒沢節によって引き出されたことが強く印象に残る。まず、主演の中谷美紀。彼女が元々持っているエキセントリックな美しさというのは黒沢作品には非常によく似合う。また、ミイラを守る教授、吉岡役の豊川悦司。監督のファンサービスなのでしょうか?常に「白いシャツ、第2ボタン外し」という、彼が最も似合う衣装で出ずっぱり。中谷美紀同様、何を考えているか分からないミステリアスな雰囲気は、なぜ今まで黒沢作品に出ていなかったの?と思われるほどしっくり来ていました。

しかし、最も際だっていたのは、安達祐実。とても美しかったです。彼女は、影のある役をもっとどんどんするべきなのでは?「大奥」の和宮も非常にいい演技だったし、これから化けていきそうな気がします。あっ、映画の中ではホントに化けてましたが(笑)。「叫」の葉月里緒奈といい、黒沢作品で幽霊をやれば女優としてひと皮むける、なんて話が出たりして。「叫」の幽霊は赤いワンピース、今作の幽霊は黒いワンピース。ゆえに「LOFT」と「叫」は、対を成すものがあるのかも知れません。

話が横道にそれましたが、ミイラに愛という呪いをかけられた礼子の恋愛話と編集者木島に殺された亜矢の話をどうリンクさせればいいのか。
で、勝手に推測。結局、亜矢にとどめを指したのは、木島ではなく、吉岡だった。ミイラに導かれて吉岡を愛するようになった礼子だったが、一方その吉岡はミイラの導きによって人を殺し報いを受けた。つまり、もともと手に入らない恋人を愛する運命を背負うような呪いを礼子はミイラにかけられてしまった。
とまあ、こんなところでしょうか。よく考えれば「吉岡」という名前なんですから、黒沢作品をよく見る人にとっては、彼が破滅するのは自明の理なんですね。

なんて、解釈話をレビューしても、黒沢清の面白さって全然伝えられない。やはり、彼の作品の面白さは、独特の映像の作り方にあるんだもの。鏡を見つめる礼子、一瞬にして幽霊が消えて手形だけが残る窓、まるで壁に同化するようにぼんやり浮かび上がる幽霊などなど。これらの不穏さと恋愛話が、今作ではどうも融合せずに消化不良となってしまった。しかし、毎回実験作の黒沢作品なのだから、それをとやかく言うことはしまい。黒沢作品にはめったにないキスシーンを仰せつかったのは、我が愛しの豊川悦司であった。その選択は、誠に正しい、ということでしめくくっておきましょう。