Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

ヒトラー ~最期の12日間~

2007-11-06 | 外国映画(は行)
★★★★☆ 2005年/ドイツ 監督/オリヴァー・ヒルシュビーゲル

「私は絶対にマグダにはならない」


この映画はドイツ軍が降伏するまでの最後の12日間を描いている。ベルリン市内にロシア軍が侵入し、どうあがいたって勝ち目はない。それでも、全面降伏は許さないとヒトラーは叫ぶ。その1日、1日延びていくごとに、ロシア軍に攻め込まれた大勢の市民が毎日毎日ただ無意味に死んでいく。今日降伏すれば、明日は助かった命が、何千、何万とある。そのむなしさたるや。

その原因は、ヒトラーという独裁者がだだっ子のように降伏しないと叫んでいるからに他ならないのだけど、やっぱりこの期に及んでヒトラー信奉者がまだ存在しているということにも愕然とする。この地球で何よりも恐ろしいもの、それは人間の心だ、ということを我々に見せつける。「信じること」は、人に計り知れないパワーを与えてくれるかも知れないけど、その逆の事態になった時にこれほどやっかいなものはない。だから、私は信仰に懐疑的なんである。

その極端な例が、ゲッペルス夫人、マグダの取った行動だ。わざわざヒトラーのいる地下要塞に6人もの我が子を連れてきて、「ナチスの信念の元に子供を育てられないのなら死んだ方がまし」と言い放つ。また、このゲッペルス夫人をコリンナ・ハルフォーフという女優が演じているのだけど、彼女の演技が非常にうまい。まるで鉄の女である。これが絶対に正しいと言う強い意志の元に6人の子供たちを次々と死なせるその様子は、同じ女性としていたたまれない。しかし、これが戦争を生み出す狂信の姿なのだ。

この映画を見て、私は先の大戦についてほとんど何も知らないのだな、とつくづく思い知った。日本とドイツは連合国だったわけだから、ドイツの第二次世界大戦時の戦況を知ることは、すなわち日本を知ることなのだ。あまりにも当たり前なのに、今まで認識していなくて愕然としたことがある。それは、ドイツの降伏は5月7日であったということ。日本の終戦日が8月15日であるから、この約3ヶ月弱、日本はたった1カ国でアメリカを中心とした連合国を相手に戦争を続けたわけだ。

これはまさに、この映画の「最後の12日間」に相当する行為だったのではないだろうか。戦争がいったん起きれば、どの国にでも「最後の12日間」は存在するのだ。

ヒトラーをひとりの人間として描くことすら否定的な感情がうずまくドイツにおいて、ドイツの人々がヒトラーを描いた。それは、やはり、先の過ちを見つめ直し次世代に向かうときの禊ぎであり通過儀礼である。それと同じことを日本はすべきなのに、アメリカ人のクリント・イーストウッドにやられてしまった。戦艦大和もいいけれど、戦争の事実と責任を極めて客観的に描いた映画を日本人の手で作ることは不可能なんだろうか。