Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

UNLOVED

2007-11-19 | 日本映画(あ行)
★★★★☆ 2002年/日本 監督/万田邦敏

「価値観の転倒にめまい」


これは非常に奇妙な映画です。見終わった後の何とも言えない感情は今でも覚えているくらい。とにかく「私を愛さないで」と言い続けるんです、主人公が。女として考えられますか?

光子(森口瑤子)は生活に変化をきたすのを心の底から畏れている公務員。偶然仕事ぶりが認められ、青年社長の勝野(仲村トオル)に言い寄られるのだけど、それをことごとくはねつける。
仕事を紹介しても断るし、ドレスも食事も断るし、あなたの愛はいらないと言う。まあ、普通の女なら素直に喜ぶ、プリティ・ウーマン的展開ですよ。光子のその否定ぶりってのが、これまた強烈なんですね。勝野にしてみれば、何で俺の提案を断るのか全くわからん!ってこと。

で、光子は勝野ではなくアパートの階下に超してきた溶接工の下川(松岡俊介)とつきあい始める。光子は下川といる方が自分らしくいられる。まあ、その気持ちもわからなくはないです。でも、ここからの展開がまたすごい。勝野に刺激された下川に上昇志向が生まれる。するとなんと、光子は激高するんですよ。「あんたはそのままでいいのに!」って。

光子には光子なりの価値観があるんですね。冨や名誉なんていらないと言う。しかし、彼女は冨や名誉ではなく、人として男を選択しているのか、というと、これまたそうじゃない。ここが、実に興味深いキャラクター設定でね。光子のかたくなまでの自分の価値観への執着ぶりというのは、見ていてだんだん吐き気がしてくるくらい偏執的なんですよ。自分の価値観を守るだけではなく、相手の価値観の変化も絶対に許さない女。光子にどんな過去があって、このような考えに至ったのかは一切描かれていないので、光子に同情しようもできない。

しかし、非常に印象的な映画であることは間違いありません。この作品は、役者はほぼこの3人だけで、しかもセリフ回しが驚くほど棒読みなんです。間違いなく意図的な演出です。無機質な声色で「いらない」「帰れ」と否定的なワードを言い続ける光子を見ていると、なんだかくらくらしてきます。そして、光子を演じる森口瑤子が実にこの役にぴったりハマっている。

「女はみんな愛されたがっている」と思っている男性諸氏。この映画でその価値観はぶちのめされます。見終わったら今後女性に対してどう接すればいいのか、頭を抱えることマチガイありません。