Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

おとし穴

2009-01-19 | 日本映画(あ行)
★★★★ 1962年/日本 勅使河原宏
「シミーズの時代」

オリジナルは安部公房の『煉獄』。ATG初の邦画作品なんですね。これは知らなかった。舞台は不況に追い込まれた北九州炭鉱地帯。ある貧しい炭鉱夫(井川比左志)が殺されるのですが、幽霊となって現場に戻るとなぜか自分とそっくりの男がいて…というお話。

炭坑町をめぐる人間関係。特に組合同士の悶着なんてのが、現代人の私には悲しいかな、なかなかピンと来ないのですね。日雇いとしてぼろぼろになって働く彼らの心情と時代背景がもっとしっかりわかっていたら、理由もなく殺された男の悲しみがもっと共有できたのかも知れません。何せ次作の「砂の女」が傑作なものですから、比較すると印象的なショットに乏しく、それも興味を引きつけられない一因。

ただ、駄菓子屋の女、佐々木すみ江がすごくいい味を出してます。やっぱりこの時代の女はスリップではなくシミーズ姿。ぼさぼさの頭で畳の上をはいずり回るシミーズ姿の女のお尻や腰をとらえたカメラは大変エロティックであります。

「殺し屋×」。このネーミングは大変ステキなんですけど、演じているのが田中邦衛でこちらは迫力不足。何の目的で殺人を行うのか、その不可解さがもっと出ていれば良かった。

そして、不協和音のピアノが流れる印象的な音楽。なんと音楽監督が武満徹で、高橋悠治も参加。こりゃすごいメンツですね。だから、昔のATGを見るのは楽しいんであります。