Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

グラン・トリノ

2009-05-02 | 外国映画(か行)
★★★★★ 2008年/アメリカ 監督/クリント・イーストウッド
<TOHOシネマズ二条にて鑑賞>
「継承の美学」

イーストウッド演じるクソじじい。 むかつくけどカッコいい。 間違っているようで、正しい。 キャラクター設定がパーフェクト。 腹が立つと「ぐるるるるぅ~」と犬のように唸ります。 本当に犬のように。そして、何度も道につばを吐き、耳を塞ぎたくなるような差別発言をする。とにかく、演技者としてのイーストウッドが凄い。

「人はどう生きたか」よりも「どう死んでいくのか」だとよく対比される。しかし、この作品から私が感じるのは「人は何を伝えて死んでゆくのか」ということです。ずいぶんな差別発言が散見するけれども、結局ウォルトという男は「自分の信条に基づき、何事かを成す」ということに真っ直ぐな男なのだと思う。

同じ民族ということもあり、タオがギャングの仲間に入れば、おそらく一生抜け出すことはできまい。彼が仲間に入ることを止めさせるためには、これしか方法はなかろう…。終盤、ウォルトの決断をうすうす感じつつも、やはりエンディングでは涙が止まらなかった。常に銃を突き付けてきた人生。しかし、最後の最後で彼は銃を取り出すことはしなかった。暴力による復讐を止めて、彼はその引き替えに我が人生が最も輝いていた頃のシンボルをタオに継がせた。それは、さながらアメリカという国そのものを彼らが継承していくのだ、というメッセージのようにも思える。

戦争のトラウマ、時代に取り残された寂寥感、若者への不満…。 アメリカの老人の話ですけど、 これ日本で戦争体験のある老人に当てはめてもそのまま映画が作れそうじゃないかと映画館を出た後思っていたのですが、はたと気づきました。
これ、篠崎誠監督の「忘れられぬ人々」(三橋達也主演)にそっくりなんですね。 三橋達也は在日朝鮮人の同胞の形見を黒人の少年に手渡し、ある決死の行動に向かう。未見の方はぜひ比べて見ていただきたいです。

それにしても、なぜ本作がアカデミー賞にノミネートされなかったのか不思議でならない。作品賞はもちろんのこと、イーストウッドの完璧な演技は確実に主演男優賞ものだと思う。