Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

百万円と苦虫女

2009-05-27 | 日本映画(は行)
★★★★☆ 2008年/日本 監督/タナダ・ユキ
「愛しきBAD LUCK GIRL」

本作を見て面白いと思った方は「赤い文化住宅の初子」を、これから見ようと言う方は「赤い~」を併せてご覧になることをお勧めします。両作共にツイてない女の子が主人公。貧乏だったり、騙されたり、警察につかまったり。それを我々はすぐに「不幸だ」と判断してしまうけど、果たして「幸か不幸か」なんて他人の尺度で語れねえぜ。なんて気持ちになったりしてね。だって、見知らぬ土地でささやかに生きているつもりでも、いろんな人が鈴子を気にかけてくれる。見守ってくれる。愛してくれる。それって、すごいハッピーことじゃない。BAD LUCKしょい込んでても、GOOD LUCKはそこいらにごろごろ転がってる。なかなかそれに気づけない鈴子だったりするけど、きっとそれは私たちも同じなんだ。

海編、山編、地方都市編。まるで、子供の絵本のごとき、わかりやすい転々ぶり。しかし、その凡庸に見える設定の中で人間同士の温かい繋がりがキラキラと輝いている。「かき氷をつくる才能」。そんなことで、誰しも前向きになれる。見知らぬ土地から来た若い娘を桃娘と持ち上げてしまう山編は、田舎暮らしな私にはグサグサ来ちゃったなあ。すきあらば懐に入り込んでくる田舎の人たち。それは、手と手を取り合いたい願望の裏返しもあるんだからね。そして、どこへ行こうと「ラブ」がついて回る鈴子の旅。揺れ動く乙女心にドキドキしつつ、時折挿入される弟のいじめのエピソードを見ては、鈴子アンタが励まさないでどーする、と苛立ちもして。まあ、うまい塩梅に観客の心を揺り動かす脚本が秀逸。

何はともあれ蒼井優な作品だけど、ピエール瀧が大健闘。鈴子が去った後、きっとあの息子も変わっていくに違いない。そんな余韻を感じさせてくれる演技でした。森山未來 の恋バナは、何とも切ない。そして、あのエンデイング。いやいや追いかけてくるさ、きっと。と、再び「赤い文化住宅の初子」と同様の思いに胸膨らみました。それだけ、タナダ監督の作風は観客に希望を与えてくれるものなのでしょう。すばらしい個性だと思います。