Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

クリムト

2009-05-24 | 外国映画(か行)
★★★★☆ 2006年/オーストリア・ドイツ・フランス・イギリス 監督/ラウル・ルイス

「ほろ酔い」

梅毒に冒されたクリムトの脳内を行ったり来たり。夢かうつつか。願望か。繰り出すエピソードたちには、繋がりがあるわけでもなく、クリムトの生涯を時系列に追うわけでもない。しかし、このワケわからない感じが溜まらなく心地いい。大体この手の語り口は「難解」と言う便利な言葉で片付けられてしまうけど、そこまでブラックボックスに陥るようなわからなさでもないですね。その頃合いというか、さじ加減が大変巧い。割れた鏡の破片、そして舞い上がる金箔の煌めきに目が眩み、頭がぼうっとするような甘美な味わい。女性陣の衣装も目に美しく、まるでほろ酔い気分です。

クリムトの生涯についてそれなりの知識があった方が良いのかも知れませんが、少なくとも「接吻」くらいは、多くの方がご存知でしょう。あの絵画の印象を頼りに本作を堪能することは十分可能だと思います。あの代表作から漂うエロス、運命の女、刹那の悦び。それは、いるかどうかもわからぬファム・ファタルを追いかけ、迷宮をさまようクリムトに見事に合致します。どのような理由でレアに翻弄されるのかなどわからなくとも。

ただひとつ。ちょっとしつこくて何度も言うなよって話ですけど「ゴヤ」同様、母国語でやって欲しいってのは、無理な注文なのかしら。だって、オーストリア・ドイツ・フランス・イギリスの合作映画でしょう?ヴィトゲンシュタインも集うウィーンのカフェで英語はないよなと感じてしまう。エロティックを否定するのは英語ではなく、厳格なドイツ語が似合う。クリムトと世間の断絶ぶりがますます浮き上がったと思います。