Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

寝ずの番

2009-05-19 | 日本映画(な行)
★★★★ 2005年/日本 監督/マキノ雅彦

「生きた証に下ネタを残そう」


そりゃまあ、下品な言葉のオンパレードで、ところどころ耳をふさぎたくなるような脱線ぶりもあるんだけれど、見終わって思うのは、私も死んだらこうやってドンチャン騒ぎして欲しいなあってことなの。お通夜で死んだ人間の話を酒の肴に祝宴をするってのは、この上ない供養やなあとしみじみ思うわけです。まあ、その話が100%下ネタなんですけどね。

その100%の徹底ぶりというのは、なかなか見上げたもんで、下ネタ以外で故人を偲ぶシーンはほとんど出てこない。それでも、最終的には「あの人はええ人やった」となるんですね。人を称えるのに、高尚な話なんか必要あらへん。ちょっとおもろい下ネタ話の一つや二つあったらええ。あんまりまじめに生きてたら、見送る人もネタ話がない。結局人間、生きてるうちにどんだけアホできるか言うことです。

それに死体の横たわった空間でこれだけ下品な話をするってのも、なかなかシュールなことでね。結局人間のすることを突き詰めたら、セックスすることと、排泄すること、この二つだということでしょう。それが死体を目の前にして死を実感できる場においては、最もふさわしい話題にすら思えてくる。一方セックスと排泄の話をこれでもかとすることで、見送る人間は生を実感している。「死んだ人間」と「生きてる人間」が共に集う空間だからこそできる、どこまでも下品な宴なんでしょう。

今思い出すに、人間とは突き詰めれば「セックス」と「排泄」というような考えは、原作者の中島らもちゃんもよく言っていたことのように思えます。生前のらもちゃんと津川雅彦氏に繋がりがあったかどうかは知らないけど、実にこのらもワールドを了解した上での作品という感じがします。

さて、本作は、テレビでは流せない放送禁止用語が連発で、かなりどぎつい言葉も出てきます。しかし、これが許せるのも、ここが「お通夜の席」やから、というのがポイントです。こんな会話、居酒屋でしてたらつまみ出されます。本当に故人と親しいものだけが集う閉ざされた空間だからこそできる、そこまで言うかの下ネタ話。またそれに、クソまじめに「ほほう」と唸る大人たちが実におかしい。

長々と続く下ネタ合戦がかったるいなあ~と思ったところで、回想シーンが入ったり、幽霊が出てきたりと物語の締め具合もいい感じ。また、中井貴一のとっぽい落語家が案外イケる。この人は、すっとぼけた役の方が似合うと思う。ほとんどが関西出身の俳優陣の中に実にうまく溶け込んでました。そして、富士純子が実に美しいですなあ。彼女の撮り方には監督の意気込みを感じました。下ネタを共有できる人と一緒に見て大笑いしてください。ちなみにボリュームは隣人の苦情が出ないようあまり大きくしないことをオススメします。

ミネハハ 秘密の森の少女たち

2009-05-19 | 外国映画(ま行)
★★★☆ 2006年/イタリア・イギリス・チェコ 監督/ジョン・アーヴィン
「血の香り」

<story>閉ざされた森の学校に集められた少女たち。学園の謎に気付き始めた3人の少女は秘密の部屋に忍び込むが、ヴェラが閉じ込められ翌日学園から消えてしまう…。


問題作「エコール」と同じ原作ということで興味が湧き鑑賞。

「エコール」が暗喩に満ちた映画だったのに対して、こちらは実にわかりやすく通俗的。結末から見れば、これは「花嫁学校」。将軍様に差し出す前に女共を屋敷に閉じこめて、競争意識をあおりながら教育する。そんな日本バージョンでも作れそうだ。全体の印象から言うと、「エコール」がアートだとすれば(それが純粋アートかどうかという論議はさておき)、「ミネハハ」はカルトムーヴィーだろうか。

両者の印象をきっぱりと断絶するものはひとえに少女たちの年齢設定の違いだ。本作の少女たちは、16、17歳くらいだろうか。欧米の少女は見た目にも大人びているので、私の目から見れば20歳過ぎにすら感じられる。そんな肉体的にも熟した彼女たちの踊るバレエには、「エコール」のような痛々しさは微塵もない。また、同性同士による性の発露がしっかりと描かれており、性的に抑制された存在、神秘的で聖なる存在としての少女性はほとんど表現されていないのだ。変わって浮かび上がるのは、教師と生徒を取り巻く不安や嫉妬、愛憎。

少女たちの年齢設定を考えるに、冒頭の血に染まるバレエシューズはもしかしたら初潮のイメージなのかも知れない。そして、処女喪失による出血で終わる。性に目覚める前の少女を描くのが「エコール」ならば、性に目覚めた後の少女を描くのが「ミネハハ」。両作続けてみれば、ちょっとした少女考察ができるのかも知れない。作品としては、本質に斬り込もうとしている「エコール」に軍配。不快感は変わらないが。