Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

カールじいさんの空飛ぶ家

2010-09-10 | 外国映画(か行)
★★★★ 2009年/アメリカ 監督/ピート・ドクター
<ブルーレイにて観賞>

「色彩の洪水にうっとり」

小さい頃、画材店に並ぶ色鉛筆を眺めているのが好きでした。心斎橋の「KAWACHI」って店。黄から赤へ、緑から青へ。そのグラデーションの美しさに見とれて、何時間も過ごしていた。お誕生日に欲しいのは当然色鉛筆で、当時は最先端だった24色のクーピーペンシルを持っている私はクラスのみんなに随分羨ましがられたよなあ。時を経て、出版社に勤めることになった私。グラデーション好きは相も変わらずで、DICのカラーチャートをパラパラとめくってはニヤニヤしてました。

と、前置きが長くなりましたが、ついに我が家もブルーレイを購入したので、チョイスしたのがこの作品。カラフルなもの、グラデショーン好きの私には、溜まりませんでした。色とりどりの風船が青い空の下、スクリーンいっぱいに広がる。それを見ているだけで、ドーパミンがどわ~っと出て、何ともいい気持ちです。さらにブルーレイの高画質が拍車をかけて、その色彩のビビッドなことと言ったら!ブルーレイ観賞記念すべき第1回にこの作品を選んで本当に良かったです。

さてピクサーと言えば、映像はもちろんのこと、大人も楽しめる奥行きのあるストーリーを作ることで定評があります。セリフなしでエリーとの出会い、結婚、死別を一気に見せる最初の15分には唸りました。思い出が消えた後、一転して頑固オヤジが登場、という緩急の付け方もすばらしい。ところが、いざ冒険が始まってからの物語においては、多くの方がご指摘するようにどうも乗り切れない部分が大きい。途中参加する少年とカールじいさんの交流が弱いんですよね。

憧れだった冒険家が執着心を持ち続けることによって醜い姿になっている、という皮肉はいかにもピクサーらしい提示です。人間の心の奥底に潜む悪意に対して常にピクサーは警鐘を鳴らし続けます。エリーとの思い出にしがみついているカールもまた執着の権化なのかも知れず、最終的にはその執着を捨て去る存在として、冒険家と対比的に描かれているのです。よく考えられた脚本だなあとは思います。しかし、先にも述べたように少年との交流が子供ができなかったカールの疑似親子体験なのだとしたら、「カールと冒険家」、「カールと少年」という大きなテーマが2つ流れることによって、どうも物語の軸がしっかり回っていない印象を残してしまう。ピクサー的な教訓はいっそのこと捨て去って、このあまりに圧倒的な色彩の旅を存分に楽しめる冒険劇に徹してくれても良かったんではないか、私はその方が楽しめたように思います。