Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

太陽

2012-04-27 | 外国映画(た行)
★★★★☆ 2005年/ロシア 監督/アレクサンドル・ソクーロフ
(DVDにて鑑賞)


「イッセー尾形が創り上げた天皇」



映画なら何でも見ると豪語していながら、やっぱロシア映画って苦手だ。
ソクーロフ監督が巨匠であるのは重々承知なんだけど、これまで手が出ず。
日本の天皇が題材であるこの映画が存在しなかったら、たぶんソクーロフ作品を見るのはもっと先になったと思う。

終戦間近の日本で、いったいどのようなことが進行していたのか私には全くわからない。
もちろん、ソクーロフは確かな資料や証言をもとに作っているんだろうけど、
私は天皇を取り巻く人たちがどのような表情で、どのような心情であの頃を過ごしていたのか、
想像することが全くできない。
だから、これはもう、ひとつのファンタジー作品としてとらえるしかありません、私には。

映像は暗いのですが、どんよりした色調ではなく重厚感があります。
まるで銀の粒子が散りばめられたようなざらつき感が美しい。
クリムトの金粉を散らした絵画のような手触りを感じます。

そして、天皇を演じるイッセー尾形。
これはもう、彼のひとり芝居そのものです。
実に個性的な演技で独壇場ですね。
「あ、そう」と答えて、口をもぐもぐ。
昭和天皇が本当にこういう人だったのかどうかは関係なく、
ここにはイッセー尾形が創り出した昭和天皇があるのみです。
日本が製作したらここまで自由には演じられなかったでしょう。

人間と神の間で揺れ動くつかみどころのない人間性。
ハリウッドスターたちのポートレートを眺める様子は
アメリカに憧れるごく普通の日本人のようにも見えます。
しかし、その後取り出されるヒトラーの写真。
敗戦を決めた彼の脳裏に何がよぎっているのか。

そして、常に人々から敬われ、腫れ物に触るように接して来られた天皇。
そんな彼が新しいモノや人に出会うシーンはどれも非常にコミカルです。
人々は常に天皇と距離を取ろうとするのですが、
それがふとしたことで近づいたり、急に離れたりする。
こんなに不安定な人間関係の中で生きるのは相当にストレスが溜まることでしょう。

空襲下の街並みを魚たちが泳ぎまわる天皇の夢など幻想的な映像がとても印象的。
そして、桃井かおり演ずる皇后のラストショットから浮かび上がる焼け野原の東京の街。
ソクーロフの創り出す映像世界は、唯一無二のものですね。
他の作品も見たいと思わせられました。