★★★★☆ 2008年/アメリカ 監督/ガス・ヴァン・サント
<京都シネマにて鑑賞>
「ジェームズ・フランコに助演男優賞を」
ドキュメンタリー「ハーヴェイ・ミルク」を見ているので、もうひとひねり欲しかったというのが率直なところ。確かにそのタイトルが表すように、ひとりの人間としてのハーヴィー・ミルクに迫っている部分で、ドキュメンタリーにはない色合いもある。それは、ミルクの恋愛事情だ。特に冒頭いきなり地下鉄の階段でスコットをナンパするシーンが印象的。その後、ほとんど押しかけ婚のように居座るジャックとの関係も含め、ゲイカップルの赤裸々な日常がかいま見えて、その分ミルクの人間臭さが迫る。
実際のニュース映像と、現在のミルクと、昔のミルク。 時系列が前後しながら物語は進むが、さすがガス・ヴァン・サント。構成が絶妙。反ゲイの右翼活動家、アニタ・ブライアントの映像もあちこちで挟み込まれるが、全く違和感がない。ミルクの政治家遍歴というのは、途中で選挙制度が変わったこともあり、かなり複雑だ。市議や下院など何度も立候補しては落選する。そこをミルクのプライベートな事情を含めながら駆け足で追っていくわけで、やや性急な進行に置いてけぼり感を感ずるものの、全体的にはミルクのことを全く知らない人たちに彼の苦難と功績がしっかりと伝わる作品に仕上がっていると思う。
さて、ダン・ホワイトを演じるジョシュ・ブローリン。助演男優賞にノミネートされている割には出番が少ない。個人的には、このダンという男の存在をもっとスパイスを効かせて欲しかった。というのも、彼の凶行の理由は、激しいゲイへの憎悪、いわゆるヘイト・クライムではないからだ。ドキュメンタリーと本作で見た印象からしか推測できないのだが、おそらく彼は常に運動の先頭に立ち脚光を浴びるミルクへの激しい嫉妬心があった。また地盤の揺らぎや議会における孤立状態から、精神的な不安に陥っている。映画の図式として「ゲイVS反ゲイ」という成り立ちがあるのに、少し違う視点からダン・ホワイトの凶行が入ってくるのは、作品の流れとして居心地の悪さがある。ただ、近作のガス・ヴァン・サント作品を見るに、犯罪または犯罪者を個人的な解釈で必要以上に肉付けしないという彼なりの方法論かも知れない、とも思う。
ジェームズ・フランコが常にミルクの良き理解者であり、ずいぶん年下ながら母性的な包容力で支え続けるスコットを好演。愛する人がもはや自分だけのものではなくなっていく哀しみを見事に演じていたと思う。地下鉄の出会いから、ヒゲをたくわえた物静かな中年になるまで、なかなかいい年の取り方をしてゆく。ジョシュ・ブローリンよりも、ジェームズ・フランコの方がアカデミーノミネートにふさわしいと感じるのは私だけだろうか。
<京都シネマにて鑑賞>
「ジェームズ・フランコに助演男優賞を」
ドキュメンタリー「ハーヴェイ・ミルク」を見ているので、もうひとひねり欲しかったというのが率直なところ。確かにそのタイトルが表すように、ひとりの人間としてのハーヴィー・ミルクに迫っている部分で、ドキュメンタリーにはない色合いもある。それは、ミルクの恋愛事情だ。特に冒頭いきなり地下鉄の階段でスコットをナンパするシーンが印象的。その後、ほとんど押しかけ婚のように居座るジャックとの関係も含め、ゲイカップルの赤裸々な日常がかいま見えて、その分ミルクの人間臭さが迫る。
実際のニュース映像と、現在のミルクと、昔のミルク。 時系列が前後しながら物語は進むが、さすがガス・ヴァン・サント。構成が絶妙。反ゲイの右翼活動家、アニタ・ブライアントの映像もあちこちで挟み込まれるが、全く違和感がない。ミルクの政治家遍歴というのは、途中で選挙制度が変わったこともあり、かなり複雑だ。市議や下院など何度も立候補しては落選する。そこをミルクのプライベートな事情を含めながら駆け足で追っていくわけで、やや性急な進行に置いてけぼり感を感ずるものの、全体的にはミルクのことを全く知らない人たちに彼の苦難と功績がしっかりと伝わる作品に仕上がっていると思う。
さて、ダン・ホワイトを演じるジョシュ・ブローリン。助演男優賞にノミネートされている割には出番が少ない。個人的には、このダンという男の存在をもっとスパイスを効かせて欲しかった。というのも、彼の凶行の理由は、激しいゲイへの憎悪、いわゆるヘイト・クライムではないからだ。ドキュメンタリーと本作で見た印象からしか推測できないのだが、おそらく彼は常に運動の先頭に立ち脚光を浴びるミルクへの激しい嫉妬心があった。また地盤の揺らぎや議会における孤立状態から、精神的な不安に陥っている。映画の図式として「ゲイVS反ゲイ」という成り立ちがあるのに、少し違う視点からダン・ホワイトの凶行が入ってくるのは、作品の流れとして居心地の悪さがある。ただ、近作のガス・ヴァン・サント作品を見るに、犯罪または犯罪者を個人的な解釈で必要以上に肉付けしないという彼なりの方法論かも知れない、とも思う。
ジェームズ・フランコが常にミルクの良き理解者であり、ずいぶん年下ながら母性的な包容力で支え続けるスコットを好演。愛する人がもはや自分だけのものではなくなっていく哀しみを見事に演じていたと思う。地下鉄の出会いから、ヒゲをたくわえた物静かな中年になるまで、なかなかいい年の取り方をしてゆく。ジョシュ・ブローリンよりも、ジェームズ・フランコの方がアカデミーノミネートにふさわしいと感じるのは私だけだろうか。