落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

My Only Shining Sun

2008年06月29日 | movie
『シークレット・サンシャイン』

幼い息子(ソン・ジョンヨプ)を連れて亡夫の故郷・密陽に引越して来たシネ(全度妍チョン・ドヨン)。自動車修理工場を営むキム(宋康昊ソン・ガンホ)が何かと親切にしてくれる以外なかなか環境に馴染めないソウル育ちの彼女だが、ある日息子が何者かに誘拐され・・・。
ぐりはこの映画どういうプロモーションやってたかまったく覚えがないのだが(爆)、途中からいきなりキリスト教一色の話になって来てビックリしましたです。ハイ。そんな話って聞いてないわー。みたいな。

アジア映画とハリウッド映画とのハイブリッドといわれる韓国映画だけど、他のどの地域の映画にもない特色がひとつある。
とりあえずとにかく、しつこい。クドい。観客さえちょくちょくほったらかしになってしまうくらい、クドい。
この特色は良い方向に働くこともあれば、悪い方向に働くこともある。この映画に関しては、すごく良い。なにしろモチーフがウルトラ・へヴィー級ですから。ちょっとやそっとのしつこさでは話まとめられません。これくらいクドくやってもらわないと却って困ります。
まずヒロインの不幸ぶりがしょっぱなからハンパない。夫を亡くしただけでも気の毒なのに、そこまでの過去さえ幸せとはいいがたいものだったらしいことがちょこちょこほのめかされる。そのうえ愛する息子も全財産も失ってしまう。誰だって、前後不覚に陥って当り前の状況である。そこで彼女は宗教にすがるようになる。ズタズタに引き裂かれた心をかきあつめるために、祈りがうってつけの触媒の役目を果たす。
ハイ、ここでぐり、置いてかれました。クリスチャンじゃないから。全然ついてけない。えー、マジでー、待ってー。みたいな。
ところがさすがクドさ全開の韓国映画、観客置いてきぼりにしただけじゃ終わりません。最終的にはキッチリ回収するぶん回収してくれる。すばらしー。ブラボー。
これだけの悲劇と信仰を描くからには、わかりやすくこざっぱりとまとめるワケにはなかなかいかない。クドさにも必然性がある。よっしゃ。

去年のカンヌで主演女優賞を獲った全度妍の壊れっぷりが凄い。すさまじい。ぐりは彼女の出演作は『スキャンダル』しか観てないんだけど、こんなに凄い女優だとは知りませんでしたです。ずびばぜん。
宋康昊はねえー・・・実をいうとこの人、ぐりのタイプなんだよね(笑)。キャラといい見た目といい、思いっきりストライクど真ん中なんだわ。頭頂部結構ヤヴァいけど無問題よ。だから彼が画面に映ってるだけで嬉しい(爆)。演技とか観てない(爆)。ずびばぜん。
このふたりは映画が始まってすぐに出会い、何の理屈もなく男は女に惚れる。女には次から次へと不幸が押し寄せるから男はつけこみ放題のハズなのに、男が不器用すぎるのかなぜか女はオチない。でも結局、信じるから救われるという神の愛よりも、何の理由も必要ない人の愛の方がむしろ人の役に立つときもある。
けどそーゆーことも、描けるだけのものを描ききってあるからこそ、説得力がでてくる。クドさ、万歳。

Summer Time

2008年06月29日 | movie
『ハブと拳骨』

1960年代後半、ベトナム戦争下の返還前の沖縄を舞台に、ヤクザ者の兄弟と家族の絆を描く。
撮って3年も経っちゃって、宮崎あおいが大河に出てビッグネームになったおかげでやっと公開出来たとしか思えない作品だし(爆)、まあ全然期待もなんにもしてなかったです。
しょーじき、映画始まって15分くらいは、あ〜やっちゃった・・・的なサブイボで相当カユい映画ではある。もーーー演出が無理!この監督はどーもこれが長篇初監督らしーんだけど、まったく!さっぱり!芝居が撮れてない。役者はすっごい頑張ってるし、題材もシナリオも悪くない。ところがそれを客観的に、文字通り観客へ橋渡しするべき監督の作業がいっさい用を為してない。無理。

ところがそれでもこの映画、おもしろい。映画はよくできてさえいればおもしろくなるわけじゃなくて、うまくできてなくてもどーかしておもしろくなっちゃうことも多々あるわけだけど、その典型みたいな映画です。
国民の支持を得られないベトナム戦争に疲弊するアメリカ軍兵士たち。故郷を遠く離れた沖縄でも孤立している彼らと、そんなアメリカ軍と日本との間で揺れ動く沖縄の人々の、えもいわれぬ焦燥と孤独。戦争の記憶はまだ生々しく、人々の心と身体は未だに傷ついている。
そんな独特の感情の空気が、ほんとうに60年代に撮影したような古びた映像いっぱいにあふれている。タイで撮影したという60年代のコザの風景なんかリアル過ぎて圧巻の一言である。

キャスティングがとにかくよくて、三線弾きのチンピラ・良を演じた尚玄のキャラがすばらしい。エキゾチックな甘さたっぷりな風貌と、沖縄の太陽のように明るい愛嬌いっぱいの笑顔に惹きつけられる。その義兄・銀役の虎牙光揮も役そのものにしか見えないハマりっぷりで、この作品のおもしろさの半分以上はこの兄弟役の魅力によるといっても過言ではない。逆に、妹・杏役の宮崎あおいや母親役の石田えりは役の人物造形が薄っぺらなせいもあってかなりもったいなかったです。ホモ臭むんむんな日本人ヤクザ役の辰巳蒼生も健闘はしてたけど、やっぱり頑張ったわりには報われてない感があって可哀想だったかも。
まず他の邦画では観られない個性たっぷりな作品であることは間違いないし、そういう意味では観てよかったとは思います。
でもやっぱり、いろいろともったいないなと感じる部分も大量にあったことも確か。