落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

週末のおさらい其の弐

2008年08月05日 | lecture
AIDS文化フォーラムin横浜 8月2日
「エイズ診療の最新事情」 横浜市立市民病院感染症部立川夏夫医師(初出

*コロンブスの新大陸発見は1492年。フランス・マルセイユで梅毒が大流行したのは1495〜1500年ごろ、1530〜40年には大阪に上陸している。鉄砲の伝来よりも速かった。
人類と性病は切り離せない関係だが、HIV治療に不可欠と考えられるワクチンは未だにない。ワクチン研究そのものがうまくいっていない。

*HIVウィルスってどんなもの?
CD4陽性リンパ球に吸着、RNAをDNAに変換し、インテグラーゼ酵素によってヒトの遺伝子と一体化するレトロウィルスの一種。
ヒトの遺伝子に溶け込んでタンパク質を生成し増殖する。その数は1日100億個。コピーミスが多いため感染後に体内で激しく変化し続けるのが特色。
ヒトのDNAは30億個の塩基対で形成され、うち32000個が遺伝子であるといわれる。
HIVのDNAは1万個の塩基対で形成され、うち遺伝子とされるのはわずか9個
実はヒトのDNAには10000ヶ所ほどレトロウィルスに感染したらしき痕跡が確認されている。

*免疫とは?
免疫は「構造(皮膚・粘膜・腸管・尿路など)」「細胞成分(白血球、リンパ球など)」「抗体」「補体(血中タンパク質)」「基礎代謝」の要素からなる。
HIVが攻撃するのはこのうちCD4を表面に発現したTリンパ球。つまりHIVに感染したからといってすべての免疫機能が破壊されるわけではない。
通常Tリンパ球は体内に侵入したウィルスが増殖するのを抑制する働きを担うため、これが減ると過去に感染して抑制されたままになっていたウィルスが増殖し始める。
たとえばインフルエンザは水鳥の腸管に棲みながら水鳥の健康を脅かさずに共生しているが、他の動物に感染すると環境の変化に適応せず激しく攻撃し始める。
HIVはもともとアフリカのサルの体内で共生していたのが、これを補食するブッシュミートという習慣から1950年代までにヒトに感染し、バスの運行網によって拡散したといわれる。

*HIVの疫学
全世界の15〜49歳の1.1%が感染者
日本の感染者の男女比は9:1。
女性の感染源は多くが外国人。
男性感染者のうち9割が同性間の性交渉によって感染している。これは日本のゲイコミュニティに匿名性が高いことも原因のひとつと思われる。
性病にかかったらHIV抗体検査を必ず受けるべき。
(個人的にはゲイコミュニティの方が検査を受けやすい環境だから感染が発覚しやすいのでは?と思うし、ここのパートは聞いてて「それはどーか?」と感じる箇所が他にも多かった)

*HIVの自然経過
CD4陽性リンパ球の数を計測して進行を調べる。
これは普通の血液検査では調べない。HIVの検査を受けましょう。
200個/マイクロメートルをきるとAIDSを発症し、2年以内に死亡する。
早く治療を始めればウィルスの増殖を抑えることができ、感染時の年齢にもよるが35年は生きられるといわれている。
立川医師の患者の中には80歳代の陽性者もいる。

*HIV治療の現状
1981年 米国CDC発行の疫学週報MMWRに「AIDS」が掲載される
1987年 AZT(アジドチミジン、ジドブジン) 認可
      もともと抗がん剤だったAZTがHIVに効くことを発見したのは熊本大学の満屋裕明教授
      九州の風土病・成人T細胞白血病に感染しガン化して不死状態になったCD4細胞を使った実験が役立った
      この頃HIV感染=死を題材にした映画が多くつくられた
1992年 ddI(ジダノシン) 認可
1996年 ddc(ザルシタビン) 認可
1997年 3TC(ラミブジン) d4T(サニルブジン) SQV(サキナビル) IDV(インジナビル) 認可
      抗レトロウィルス療法が確立される 
1998年 NVP(ネビラピン) NFV(ネルフィナビル) RTV(リトナビル) 認可
1999年 EFV(エファビレンツ) APV(アンプレナビル) ABC(アバカビル) 認可
2000年 DLV(デラビルジン) LPVrtv(ロピナビル/リトナビル) 認可
2003年 T20(エンフュヴィルタイド) 認可
2004年 TDF(テノホビル) ATV(アタザナビル) 認可
2005年 FPV(ホスアンプレナビル) 認可
2007年 DRV(ダルナビル) 認可
2008年 RAL 認可
2009年 ETV MRV 認可
・現在では感染発覚後200〜1000日で半数が治療を開始
・早く発覚すれば早く治療がスタートできる
・ウィルスを減らし1日50コピー未満に抑制できれば治療は成功していると判断される
・立川医師の調査では発症前に感染が発覚した場合の死亡率は1%(自殺)、発症後発覚の場合は20%が死亡している(何年間の調査か失念)
・結論としては、HIVは慢性疾患だが、AIDSは死ぬ病気、といえる。

開始時間を間違えていて危うく遅刻しそうになった立川医師。
「のんびり『王様のブランチ』なんか見ちゃってた」なんてヘラヘラ悪びれないナイスキャラです。
立川夏夫なんて名前もまるでエアポートノベル作家みたいだし、若いしハンサムだしみるからに軽薄そうで「わー遊んでそう」とか思ってしまいましたが、講義は非常にわかりやすくておもしろかったです。遊んでそうとか思ってごめんなさい。いや遊んでてもまったく構わないのだが。
HIVウィルスの構造について「9個しか遺伝子ないのに、こんなややこしいことできるなんてよくできてる」「すごい考えてます。いや考えてないけど。9個だから」とか勝手にひとりボケひとりツッコミ。会場もドッカンドッカンうけまくり。専門的な話なのに聞いてて全然飽きないです。すばらしい。講義後も出席者にとり囲まれて質問攻めにあってました。

ノートをもとにネットでおさらいはしたけど、いかんせん素人なので間違ってるとこもあるかと思われます。気づいた方がおられましたらつっこんでください。


道端の花。