落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

両国の雨

2008年08月22日 | diary
玉三郎も出演 下町の極小劇場、23年で幕

へヴィーなレビューばっかし続いたし今日は小休止ってことでちょっと前のニュース。
来年閉鎖になる小劇場ベニサンピットにはぐりも90年代によく通った。92年の『蜘蛛女のキス』に始まって『テレーズ・ラカン』『あわれ彼女は娼婦』『双頭の鷲』『ピアノ』など、豪華なキャストでかつ実験的な演出で上演される古典演劇を何本か観た。映画は好きだったがもともと演劇にはほとんど興味がなかったぐりに、シェイクスピア以外の古典のおもしろさを教えてくれた劇場だった。なくなってしまうのはとても淋しい。なくなる前に久しぶりにもう一度行ってみたいと思う。

今でも強烈に覚えているのは93年の『あわれ彼女は娼婦』。
客席の頭上のキャットウォークにパーカッションが設置され、ミュージシャンが生で現代音楽を演奏しながらの上演だった。狭い劇場なのでその震動が場内全体にびりびりと響いて、へヴィーかつハードな物語がいやが上にも緊迫した。
行ったことがある人はご存知かと思うが、当時ベニサンピットの壁は黒いペンキで塗られていた。物語の終盤、クライマックスの宴のシーンで煌煌と照明がつくと同時に、その真っ黒な壁一面に純白の幕が一斉に下ろされる。客席の後ろまで壁全部が瞬時に真っ白に“ホワイトアウト”する。そこであの凄まじい惨劇が始まるのだ。
終演後、外に出ると雨が降っていた。興奮のあまり電車に乗る気になれず、雨の中、まったく土地勘のない両国の街をふた駅ぶんほど走って帰った。

『蜘蛛女のキス』のときは一列前の席が木村拓哉氏だった。まだ10代で“キムタク”なんて呼び方もなくて、TVに出始めてやっと注目され出したころだった。ドラマ「あすなろ白書」でブレイクするのはもっと後のことだが、この日間近で見た彼には既にオーラのようなものがあった。この『蜘蛛女〜』は演劇関係者の間でも評判だったらしく、客席には他にも見覚えのある演出家や舞台俳優が何人も来ていた。
『テレーズ・ラカン』の壁も天井も大きく傾斜した不思議なデザインの舞台装置は無茶苦茶にオシャレで、空間も設備も限定された場所でこういうことができるデザイナーのセンスに心底感動した。ココほんっとに狭いから。毎回舞台の形を変えていて客席数も流動的だったけど、MAXでも100人程度しか入らなかったんじゃないかと思う。
他にもたくさん観たかったのに、小劇場で席数が限られていることもありチケットがなかなかとれず、日程の自由がきかなくなってだんだん足が遠のいて行った。悔しい。

来月も他の劇場での観劇の予定が入っているが、あのころこの劇場に行くことがなかったら、あるいはぐりには演劇を観る習慣はつかなかったかもしれない。
田舎から出て来てすべての情報が嵐のようにあふれた東京で、演劇の楽しさを教えてくれたベニサンピットには心から感謝している。
お疲れさま。ありがとうございました。


蜘蛛の抜け殻。

7館公開から一挙100館超え…映画「闇の子供たち」
観たいのに近くで上映してない、という声がほうぼうで聞かれてましたが、これで少しはカバーできるようになるのかな?
ブログ検索をかけるとけっこうな数の国会議員が一般上映で観ている(議員向けの試写もあったみたいだけど)。現在上映中の劇場は平日でもどこも大盛況らしいしもっと話題になっても良さそうなもんなのに、マスコミの反応はサビシーもんです。
タイ側でも公開のためにいろんな人が動いてて、映画祭でどうも上映できそうということになっているそーだ。