『地球でいちばん幸せな場所』
両親を亡くして叔父が経営するすだれ工場で働いていた10歳のトゥイ(ファム・ティ・ハン)は家出してホーチミンの街で花売りを始め、屋台街で26歳の客室乗務員ラン(カット・リー)に親切にしてもらうようになる。同時に動物園で25歳の飼育員ハイ(レー・テー・ルー)とも仲良くなった彼女は、どこか淋しげなふたりを引き合わせようと画策する。
ぐりが10歳のころといえば毎朝学校に行って放課後はお稽古事に通い、それ以外の時間は家の手伝いをするか、あるいは本を読むか絵を描くか宿題をするかアニメを観るか、とにかく明日食べるものとか今夜寝る場所の心配なんかしたことがなかった。まあ現代日本においてはごく一般的な子ども時代である。
だが今、世界中では2億5千万人の子ども(5〜14歳)が働かされている(国際労働機関)。それだけの数の子どもが、家計を支えるため、家族を養うため、明日の食べ物のために働いている。ちなみにこの数はこの年齢層の24.7%にあたる。
この映画の主人公トゥイは初め、食べるものも寝るところも与えられていたが、自らそれを捨ててストリートチルドレンの道を選ぶ。彼女の行為を浅はかだと判断することは容易い。だが現実には、家出をする子にはそれ相応の理由がある。食事や寝場所よりも大切なものが子どもにもある。それを強いて我慢せよと要求することも、子どもの人権侵害である。昔気質な人は我慢も美徳だというけれど、美徳となる我慢も質を選ぶ。なんでも我慢しさえすればよいという考え方もまた浅はかだろう。
ステディカムを多用したカメラワークと極力台詞を廃した静かな演出はかなりドキュメンタリータッチだが、ストーリーそのものは完全におとぎ話である。現実にはこういうことはまず起こり得ない。
それでも観ていて胸があたたまるのは、監督ステファン・ゴーガーの子どもを見つめる眼差しがとにかく優しいからだろう。彼はすべての子どもたちに、トゥイのように自ら幸せをつかみとる勇気と幸運をプレゼントできたらと、心から願っているのだろう。
とくによくできているなと思ったのは、叔父(グエン・ハウ)が家出したトゥイを必死で捜しまわるくだり。冒頭にも登場してトゥイを厳しく叱りつける彼が、バイクを走らせ写真を街の人に見せてまわるたび、この人はほんとうはトゥイを姪として大切に思ってくれているのではないか、いや単に安い労働力として逃がすまいとしているだけなのではないかと、あれこれ考えさせられる。ここが単なるチャイルド・ライフ映画で終わらない、この物語の核の部分を担っているような気がする。
トゥイを演じたファム・ティ・ハンが非常に愛らしく魅力的で、将来の活躍が今から楽しみな女優魂を発揮している。日本でいうと中嶋朋子の幼いころによく似ている。いつも唇をとんがらかして突っ張っていた螢ちゃん。たまたまだが彼女はこの映画の予告編のナレーションを担当している。
手持ちで撮影されたパートが多い上にフィルムの管理に行き届かない部分があったのか、かなりのカットが妙に赤っぽい色に染まってしまっていて目につらかったのが惜しい。
でも予告編で予想したようななまぬるい癒し系映画ではなく、なかなかリアルに厳しい現実をきちんと描写してもいて、意外な見どころのある作品でした。
両親を亡くして叔父が経営するすだれ工場で働いていた10歳のトゥイ(ファム・ティ・ハン)は家出してホーチミンの街で花売りを始め、屋台街で26歳の客室乗務員ラン(カット・リー)に親切にしてもらうようになる。同時に動物園で25歳の飼育員ハイ(レー・テー・ルー)とも仲良くなった彼女は、どこか淋しげなふたりを引き合わせようと画策する。
ぐりが10歳のころといえば毎朝学校に行って放課後はお稽古事に通い、それ以外の時間は家の手伝いをするか、あるいは本を読むか絵を描くか宿題をするかアニメを観るか、とにかく明日食べるものとか今夜寝る場所の心配なんかしたことがなかった。まあ現代日本においてはごく一般的な子ども時代である。
だが今、世界中では2億5千万人の子ども(5〜14歳)が働かされている(国際労働機関)。それだけの数の子どもが、家計を支えるため、家族を養うため、明日の食べ物のために働いている。ちなみにこの数はこの年齢層の24.7%にあたる。
この映画の主人公トゥイは初め、食べるものも寝るところも与えられていたが、自らそれを捨ててストリートチルドレンの道を選ぶ。彼女の行為を浅はかだと判断することは容易い。だが現実には、家出をする子にはそれ相応の理由がある。食事や寝場所よりも大切なものが子どもにもある。それを強いて我慢せよと要求することも、子どもの人権侵害である。昔気質な人は我慢も美徳だというけれど、美徳となる我慢も質を選ぶ。なんでも我慢しさえすればよいという考え方もまた浅はかだろう。
ステディカムを多用したカメラワークと極力台詞を廃した静かな演出はかなりドキュメンタリータッチだが、ストーリーそのものは完全におとぎ話である。現実にはこういうことはまず起こり得ない。
それでも観ていて胸があたたまるのは、監督ステファン・ゴーガーの子どもを見つめる眼差しがとにかく優しいからだろう。彼はすべての子どもたちに、トゥイのように自ら幸せをつかみとる勇気と幸運をプレゼントできたらと、心から願っているのだろう。
とくによくできているなと思ったのは、叔父(グエン・ハウ)が家出したトゥイを必死で捜しまわるくだり。冒頭にも登場してトゥイを厳しく叱りつける彼が、バイクを走らせ写真を街の人に見せてまわるたび、この人はほんとうはトゥイを姪として大切に思ってくれているのではないか、いや単に安い労働力として逃がすまいとしているだけなのではないかと、あれこれ考えさせられる。ここが単なるチャイルド・ライフ映画で終わらない、この物語の核の部分を担っているような気がする。
トゥイを演じたファム・ティ・ハンが非常に愛らしく魅力的で、将来の活躍が今から楽しみな女優魂を発揮している。日本でいうと中嶋朋子の幼いころによく似ている。いつも唇をとんがらかして突っ張っていた螢ちゃん。たまたまだが彼女はこの映画の予告編のナレーションを担当している。
手持ちで撮影されたパートが多い上にフィルムの管理に行き届かない部分があったのか、かなりのカットが妙に赤っぽい色に染まってしまっていて目につらかったのが惜しい。
でも予告編で予想したようななまぬるい癒し系映画ではなく、なかなかリアルに厳しい現実をきちんと描写してもいて、意外な見どころのある作品でした。