落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

虹の彼方に

2008年08月30日 | movie
『この自由な世界で』

突然のリストラに遭ったシングルマザーのアンジー(カーストン・ウェアリング)は、ルームメイトのローズ(ジュリエット・エリス)とふたりで職業斡旋所を開設。主に外国人労働者を相手に日雇いの仕事を斡旋して大儲けするのだが・・・。
『ファーストフード・ネイション』でも描かれた外国人労働者問題をロンドンを舞台に描いたケン・ローチの新作。

非常にハードな映画でした。ハイ。観ててけっこーキツかったす。しかしそれにしてもこんなハードな映画がよくつくれたもんです。さすが巨匠。巨匠じゃなきゃこんなの商業映画で成立しませんよ。それくらいハードです。
ヒロイン・アンジーは巨乳のブロンド美女とはいえもう33歳で貯金はなし、カードローンに追われてて両親に預けっぱなしの息子とはいつまで経ってもいっしょに暮せそうもない。つまりガケップチ。それもいつ転落してもおかしくないくらい超ギリギリ待ったナシのガケップチ。
いろんな人が彼女にいう。もっと安定した生活を築きなさい、あなたはおかあさんでしょう、こんな大仕事あなたの手に負えるわけがないと。でも彼女は耳を貸さない。なぜならそれが彼女の性格だから。無計画、無鉄砲、むこうみず。それでいて自分は要領良くてアタマも良いと勝手に思いこんでいる。いちばん周りが迷惑するタイプの女である。

けどぐり、この人嫌いじゃないです。ぐりも彼女に似たところあるから。だから周りの人が彼女に何か忠告するたび、自分が忠告されてるみたいで耳が痛かった。相手のいってることがいちいち全部正しいことはわかってる。ただ彼女はそもそも誰かに何かいわれてその通りにすることができない性格なのだ。説教なんてされればされるほど、痛い目にあえばあうほど、間違った方向に突き進みたくなってしまう人なのだ。
こういう人が職業斡旋所なんか開いちゃったらそりゃたまりません。巻き込まれるのが家族や友人だけじゃなくて不特定多数の大人数になっちゃうし、その大人数にはまたそれぞれ家庭があったりする。まったく困ったもんです。困ったくらいで済みゃあいいけど、仕事が仕事だけにタダじゃ済まない。だんだんオソロシーことになって来て、ヒロインからは味方がひとりふたりと去って行く。

彼女のいちばんイタイとこは、おそらく、自分以外のどんな人間も決してリスペクトできないという、病的な傲慢さなのだろう。おそらく本人はそのことにまったく気づいていない。だからどんなに他人を踏みつけにしても結局平気でいられるし、やり返されても次の瞬間にはケロリとしていられる。自分が悪いなんて露ほども反省しないから。する必要がない。いつも自分は正しくて、いけないのは全部他人。都合の悪いことは全部周りのせい。
しかし彼女のような身勝手さは現代人なら誰にでも多かれ少なかれ備わっている。そのことを自覚していられるか否かに人間性の価値がかかっているともいえるだろう。
とくにこの数年で日本国内でもうなぎのぼりに増加した外国人労働者(とゆーのは日本独特の表現だそーで、本来“移民”と呼ぶべきらしい)の問題はまだ表面化していないけど、いずれ欧米諸国のように深刻な意識改革を求められるようになることだけはわかっている。
その日はおそらくそう遠くない。もしかしたら来週あたり来るかもしれない。
もしかしたらね。

家のない子と子のない男

2008年08月30日 | book
『私の男』 桜庭一樹著
<iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=htsmknm-22&o=9&p=8&l=as1&asins=4163264302&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=000000&bg1=FFFFFF&f=ifr" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe>

1993年の北海道南西沖地震で家族を失った9歳の花は遠戚の淳悟にひきとられ、以来ふたりきりでずっと暮して来た。あれから15年、花は理想の伴侶に巡り会い、淳悟から離れて新たな人生を歩みだそうとしていたが・・・。

今年の始めに直木賞を穫ってすぐ図書館に予約をしたけど700件以上先約があって、だから今読んだのは偶然ですが。
うーん。これ、おもろいのかな・・・?あのー、ぐり的には、とっても、イマイチ・・・。
よく描けてるとは思うけどねー。究極の官能に漂う腐臭というか、腐臭に漂う究極の官能といいますか。その美学はわからんこともないし、共感するところもあるんだけどね。ぐりもけっこー重度のファザコンですし。
けどね、時制を前後逆回転にしたのはロジックとしてアリなんだけど、その禁じ手を使ったばっかりに物語全体に全然奥行きが感じられないとゆーか。先に結末がわかってるのに、そこからふたりの過去が暴かれてどーの、ってほどの意外性もないし。かといって紋別という土地の特殊性の描写ももうひとつ鮮明さに欠けてる気もするし。
まーよーするに、読んでても、「だから、何?」って感じなワケ。なんか期待しすぎたのかなー?

ストーリー展開にも、物語の世界観にも、人物描写にもさっぱりと立体感がなくって、なんだかとってもうすっぺらな小説のよーに感じました。
読んでても読んでるって手ごたえがまったくなくって。直木賞ってこんなもんでしたっけね?
それとも、ぐりの読み方が浅いのかしらん?
まあしかし、こーゆー題材の小説は書けば間違いなく売れるわね。そーゆー意味では本屋さんにとってはいい本なのかもね?
装丁は好きです。そのものズバリって感じで、良い絵だと思います。けどそれだけなり・・・。