身体を支えていた壁が、ふっと消える。そんな感じとも似ている。もたれかかろうとしても何も無くて、そのまま後ろに転んでしまいそうな・・・。
ドラマでも何度でも見た。小説でも読んだ。だから、想像はしていた。大体こんなもんだろうと思っていた。涙が溢れて、号泣して、身体に取りすがって・・・。
その何れもが違っていた。
喪失感、後悔、そして少しの安堵感。
何かで聞いたことがある。葬式と言うものは、亡くなった人を弔う為だけじゃなく、直後の悲しみを癒すために、遺族のためにある物なのだと。その煩雑な儀式を執り行う事によって、何をどうすればいいのかわからなくなっている自分を取り戻すためにあるのだと。
失ったと言う虚無感に浸ることも出来ず、諸事滞りなく行う為に、事務的に淡々と雑務をこなす。思い出話をしつつ、手には訪れた人たちのための茶菓子。時折は冗談めいた話を織り交ぜて笑う。
父が骨になった日は雨だった。前後は春の初めの暖かな日だったのに。誰かが言った。
「天も泣いとるよ。」
笑い出したかった。そんなくさい台詞を好きな人じゃなかった。私は思っていた。これは父のイタズラなんだと。みんなが来てくれて嬉しいから、余計に意地悪したくなったんだと。そんな人だった。
しかし、今、その日の詳細は思い出せない。覚えていないと言った方が正解かもしれない。
覚えているのは、さっきの台詞と冷たい雨。お昼に用意したウドン。白い父の顔。
そして私は逃げるように実家を後にした。案外平気なもんだと、その時は思っていた。
後で来るもんなんだな、これが。じわじわと、しんしんと胸の中に落ちてくるもんなんだな。何の前触れも無く、突然降り注いで来るもんなんだな。
食事をしながら、友人が不意に言った。
「親無し子になっちゃった・・・。」
突然胸が痛くなった。初めて、この思いを共有できる人が居たと思った。
泣けた。
ドラマでも何度でも見た。小説でも読んだ。だから、想像はしていた。大体こんなもんだろうと思っていた。涙が溢れて、号泣して、身体に取りすがって・・・。
その何れもが違っていた。
喪失感、後悔、そして少しの安堵感。
何かで聞いたことがある。葬式と言うものは、亡くなった人を弔う為だけじゃなく、直後の悲しみを癒すために、遺族のためにある物なのだと。その煩雑な儀式を執り行う事によって、何をどうすればいいのかわからなくなっている自分を取り戻すためにあるのだと。
失ったと言う虚無感に浸ることも出来ず、諸事滞りなく行う為に、事務的に淡々と雑務をこなす。思い出話をしつつ、手には訪れた人たちのための茶菓子。時折は冗談めいた話を織り交ぜて笑う。
父が骨になった日は雨だった。前後は春の初めの暖かな日だったのに。誰かが言った。
「天も泣いとるよ。」
笑い出したかった。そんなくさい台詞を好きな人じゃなかった。私は思っていた。これは父のイタズラなんだと。みんなが来てくれて嬉しいから、余計に意地悪したくなったんだと。そんな人だった。
しかし、今、その日の詳細は思い出せない。覚えていないと言った方が正解かもしれない。
覚えているのは、さっきの台詞と冷たい雨。お昼に用意したウドン。白い父の顔。
そして私は逃げるように実家を後にした。案外平気なもんだと、その時は思っていた。
後で来るもんなんだな、これが。じわじわと、しんしんと胸の中に落ちてくるもんなんだな。何の前触れも無く、突然降り注いで来るもんなんだな。
食事をしながら、友人が不意に言った。
「親無し子になっちゃった・・・。」
突然胸が痛くなった。初めて、この思いを共有できる人が居たと思った。
泣けた。