■Destination Out! / Jackie McLean (Blue Note)
ジャッキー・マクリーンは説明不要というモダンジャズの人気スタアで、名演&人気盤も多数残していますが、反面、ほとんど聴かれていないリーダー盤も多いんじゃないでしょうか?
例えば、本日の1枚なんて、結論から言えば陰鬱な雰囲気に支配された、ある意味では昭和40年代のジャズ喫茶にはジャストミートしている内容だと思うのですが、否、やっぱりねぇ……。
しかしジャッキー・マクリーンに対する一般的なイメージの「青春の情熱」は、ここでも絶対の存在感! そしてそれゆえに聴きとおさずにはいられない「何か」を秘めた作品だと思います。
録音は1963年9月20日、メンバーはジャッキー・マクリーン(as)、グラチャン・モンカー三世(tb)、ボビー・ハッチャーソン(vib)、ラリー・リドレー(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という新旧入り乱れの過激な面々です――
A-1 Love And Hate
非常に重苦しい、淀んだ空気が支配する陰鬱なスロー曲です。作曲はグラチャン・モンカー三世という、当時は新進気鋭の若手トロンボーン奏者で、この人はジャッキー・マクリーンに見出されたかのようにバンドレギュラーとなって頭角を現しました。
ちなみに一緒にジャッキー・マクリーンに引き立てられたのは、あの天才ドラマーのトニー・ウィリアムスでしたが、ジャッキー・マクリーンのバンドではアルバム1枚に参加した直後、マイルス・デイビスに引き抜かれ、グラチャン・モンカー三世だけが取り残されたような雰囲気ですが……。実はそんなこんなで、この作品ではオリジナルを3曲も提供するという厚遇を受けています。
名前の読み方にしても、「Grachan」という綴りなので、私の世代ではおそらく「グラチャン」と呼んでいるのが普通だと思われますが、実際には「グレィシャン」と発音するらしいですね。
まあ、それはそれとして、ここでは「グラチャン」で統一しておきますが、その名前同様に些か保守本流から外れたようなトロンボーンの響きには、明らかに当時台頭してきた「新主流派」としての主張が込められているようです。
しかしアドリブパートに入っては、やっぱりジャッキー・マクリーンの変わらぬ「青春の情熱」が迸ります。演奏全体を覆う不気味な雰囲気に臆することのない真っ向勝負! 太めの音色でギスギスとしたフレーズはジャズ喫茶のような暗い空間で、じっとスピーカーと対峙している時こそが最高に魅力的という瞬間を、それこそ何度も作りだしています。。
さらに豪放なひねくれという感じのグラチャン・モンカー三世、クールに甘いメロディをひけらかすボビー・ハッチャーソン、地味でもヤバいロイ・ヘインズのブラシ、我儘なラリー・リドレーという自己主張の強さも、流石はブルーノートという響きが楽しめるのでした。
A-2 Esoteric
変態的なテンションの高さが楽しめる、これぞ新主流派という演奏で、随所に施された厳しい仕掛けをすり抜けながら熱血のプローを聞かせるジャッキー・マクリーン! 緊張感を煽るロイ・ヘインズのシャープなドラミング、全く新しいボビー・ハッチャーソンの伴奏と合の手もエグイと思います。
それにしても全く聴かせるためだけにあるようなジャズですねぇ~。グラチャン・モンカー三世も自作曲だけあって、爆裂のアドリブが内側に向かって沈澱していくような自虐の展開! 今となっては些か時代錯誤の雰囲気ですが、実はこういう部分こそがリアルタイムでは求められていたのかもしれません。
しかしロイ・ヘインズのドラミングだけは、今でも実に新鮮で刺激的です。特にボビー・ハッチャーソンのアドリブの背後で刻まれるシンバル&ハイハットの潔さ!
B-1 Kahlil The Prophet
このアルバムで唯一というジャッキー・マクリーンの自作曲も、その実態はドロドロしてスパイスが効いた、まさにリアルな新主流派がモロ出しのテーマが怖い感じです。
しかしアドリブパートではスピード感満点に突進するジャッキー・マクリーンの激情節が堪能できますよっ♪ まさにA面の憂さを晴らすような快演だと思います。フレーズの息継ぎで思わず出してしまう、あの唸り声も良い感じ♪
もちろん共演者も熱演で、些かスピードに乗り遅れ気味のグラチャン・モンカー三世は怒ったような音色で対抗していますが、ボビー・ハッチャーソンは新鮮なハーモニーの伴奏と痛快無比なアドリブソロで圧巻の存在感を示します。
そして何よりも凄いのが若々しいロイ・ヘインズのドラミングで、オカズが多くてメシが無いような独特のビート感が冴えまくり! シンバルワークの物凄さはトニー・ウィリアムスも真っ青でしょう。それをがっちりと受け止めて逃げないラリー・リドレーのウォーキングも流石だと思います。
ですからラストテーマのテンションの高さも強烈!
B-2 Riff Raff
こうして迎えるオーラスも、変態メロディと熱いグルーヴが蠢いたブルース! まずビシバシにキメまくるロイ・ヘインズのドラミングが強烈ですし、ボビー・ハッチャーソンの伴奏と合の手も、実にたまりません。
もちろんジャッキー・マクリーンは期待を裏切らない号泣ですし、グラチャン・モンカー三世も野太い咆哮を聞かせてくれますが、サイケおやじはどうしてもリズム隊中心に聴いてしまうほど、ここでのグルーヴは強烈です。
う~ん、ロイ・ヘインズ恐るべし!
ですからボビー・ハッチャーソンのクールなカッコ良さが尚更に目立つという好結果が、さもありなん♪ 思わず腰が浮いてしまいます。
ということで、微妙な先入観もあったりして、あまり人気が無いアルバムかもしれませんが、個人的には愛聴盤のひとつになっています。テンションが低い時に聴くA面、逆に「ここは一番」という景気付けにはB面という使い分けが、その実態です。
その全篇を支配するのは、「ずぶとい」としか言いようのない音の魅力で、モノラル盤では団子状に凝縮された迫力が、ステレオ盤では個々の楽器の鳴りがエッジ鋭く聞かれますから、両ミックス共にジャズの基本的な魅力がいっぱい♪ ついついボリュームを上げてしまいます。
そしてその中では、ロイ・ヘインズの若々しいドラミングが本当に圧巻です。皆様が良くご存じのとおり、この人はモダンジャズ創成期から活躍していた、この時点では中堅のドラマーなんですが、そのシャープな感性はジャズの中ではひとつのジャンルに押し込めることが出来ないスタイルで、どのような演奏にも確固たる存在感を示すことが出来る証明が、ここでも存分に楽しめます。
あっ、ジャッキー・マクリーンは、もちろん最高ですよっ♪