OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

疑似ステ・ソウルトレーン

2008-10-29 12:04:57 | Jazz

Soultrane / John Coltrane (Prestige)

ジャズに限らずレコード蒐集を重ねていくうちに気がつくのは、アメリカ盤の音の強さ、そして失礼ながら日本盤の音のネボケとショボさです。これはアナログ盤特有の現象でしょうが、アメリカでプレスされたレコード盤は一般にカッティングのレベルが高く、つまり音圧の高い音が再生されるようです。

そしてもちろん、ファーストプレスのオリジナル盤は、その音の存在感が格別ですから、廃盤となって後はそれなりの高値も当然でしょう。実際、これほど資本主義の原則に忠実な世界もないもんです。

しかしそれを欲望の赴くままに入手出来るのは至極限られた人達ということで、私はなんとか「音」だけでも日本盤よりは「強い」ものを求めて、アメリカ盤に魅せられていた時期がありました。

ところが当時のアメリカ盤は、当然ながら古い作品ほど再発時に疑似ステレオ化されるのが常でした。これは本来、モノラルミックスしか無いオリジナル音源にステレオ効果を与えるために、電気的処理を施したものです。

例えば極端なエコーを用いることでステレオの片チャンネルに高音域を集中させ、実際に再生すると一方のスピーカーからは低音域、もう一方のスピーカーからは高音域が聞こえるという、非常に不自然なものです。

しかしこれが1960年代中頃のアメリカでは、LPがステレオバージョン主流となったこともあり、臆面もなく行われていたのです。おそらく売れ行きもそれなりに良かったのでしょうが……。

もちろん我が国のジャズ者は、それに納得していたとは言い難いでしょう。例に出して悪いとは思いますが、コロムビア原盤のマイルス・デイビスの某アルバムなんか、エコーが強過ぎてボワンボワンでツンツンツンの再生音しか出てきません。しかもレコードそのものの音圧が高く、逆に盤が薄くなっていますから、なおさらに始末が悪いのです。

しかしそれがブレスティッジ盤になると、何故かエコーもほどほどに効果的というか、明らかに音圧が高いので日本盤よりも「音」が強く、しかもスタジオ録音でありながら、ライブ会場で聴いているような味わいが感じられます。

と、前置きが長くなりましたが、それに私が目覚めたのが、本日ご紹介の「Soultrane」再発盤です。

その内容については、ハードバップ期のジョン・コルトレーンを代表する名盤として、ガイド本にも掲載されることが多いアルバムです。録音は1958年2月7日、メンバーはジョン・コルトレーン(ts)、レッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・テイラー(ds) というお馴染みのカルテット――

A-1 Good Bait
 ミディアムテンポで悠々とテーマを吹奏し、あの音符過多のアドリブに突入するジョン・コルトーンの名演とされていますが、正直、私にはイマイチ……。
 それは告白すると、既にこの演奏を聴く前にアトランティックやインパルスの過激トレーンに馴染んでいたからでしょう。確かにジョン・コルトレーンは熱演なんですが、リズム隊のテンションが低い気が……。というか、余裕がありすぎる感じなんですねぇ。それは些かトボケたテーマメロディの所為もあるかもしれません。
 お叱りは覚悟していますが、主役のコルトレーンも含めて、もう少し緊張感のある演奏が出来なかったのかなぁ……と、これが正直な気持ちです。

A-2 I Want To Talk About You
 これは活動最終期までライブの現場でも十八番にしていた歌物曲の公式初演バージョンでしょう。もちろんジョン・コルトレーンはいきなり、あの、バラード演奏になると独特の「泣き」が入った音色でテナーサックスを鳴らし、真摯にメロディを吹いてくれます。
 しかしもちろん、1960年代以降に聞かせていた、例の最終の無伴奏アドリブソロはありませんし、バックのリズム隊も淡々としすぎている感じが……。
 まあ、これも先にニューポートやバードランドでのライブバージョンに馴染んでいた私ですから、ここでも10分を超える熱演ですが、あまり感じ入るところはないというバチアタリです……。
 う~ん、これって本当に名盤なのか……???

B-1 You Say You Care
 と不遜な気持ちを抱いていた私を一気にコルトレーン狂熱地獄へ誘うのが、この演奏です。
 曲はあまり有名ではないスタンダードですが、なんともいえない素敵な「節」が大いに魅力で、それをアップテンポで痛快にフェイクし、白熱のアドリブへ繋げていくバンドの勢いにはゾクゾクさせられますねぇ~~♪
 ジョン・コルトーンは、とにかく猛烈な音符の詰め込みフレーズを乱れ打ち! リズム隊のグルーヴも快適そのもので、特にチェンバース&テイラーのジャイアント・ステップス組がハイテンションです。
 つまり明らかにアトランティック期の萌芽が感じられる、私の大好きな演奏というわけです。レッド・ガーランドもスイングしまくりで感度良好♪

B-2 Theme For Ernie
 この曲の「Ernie」とは、前年末に他界した黒人アルトサックス奏者のアーニー・ヘンリーの事です。そしてジョン・コルトレーンは故人と親しかったそうですから、胸に去来する様々な思いをこめて、この惜別のテーマメロディを吹いているのでしょう。
 シンプルながら、実に哀感が滲み出た名演だと思います。しっとりとした伴奏をつけるレッド・ガーランド、グッと重心の低いポール・チェンバースも流石の存在感です。

B-3 Russian Lullaby
 さて、オーラスは、これぞ万人がイメージするジョン・コルトレーンでしょう。レッド・ガーランドが作る思わせぶりなイントロから一転、猛スピードで疾走する演奏はアート・テイラーのシンバルワークも痛快ですが、やはりジョン・コルトレーンが看板のシーツ・オブ・サウンドを全開させた激演! 全くたまらん世界なんですねぇ~~♪ これは私の世代の「パブロフの犬」みたいなもんでしょうか。
 まあ、それゆえにレッド・ガーランドが些か縺れ気味で、これがオスカー・ピーターソンだったら、スタジオは火事にでもなりそうな雰囲気でしょうね。
 ラストのテーマブレイクでは、まさにコルトレーンという猛スピードの無伴奏フレーズも、強烈ですねぇ~♪

ということで、A面よりはB面ばっかり聴いているのが私です。ところが何故か、ジャズ喫茶ではA面が多いような……。

既に述べたように、このアルバムはガイド本でも名盤、ジョン・コルトレーンの代表作とされているのですが、個人的にはA面だけでは、とてもそうは思えません。しかしB面の雰囲気は決定的に素晴らしく、ハードバップからモードへの突破口的な熱演ばかり!

そして前置きの話に戻れば、この疑似ステレオ仕様のアメリカ盤は、その音圧の高さからジョン・コルトレーンの硬質なテナーサックスの音色が、日本盤よりはずっとハードエッジに鳴っている! というのが私の感想です。

これは私の貧弱な再生装置でもそうなんですから、この体験以降の私は疑似ステレオでもプレスティッジ盤に関しては、それほど嫌悪感を抱かなくなりました。

とはいえ、やはりオリジナル盤が欲しいのが本音です。たぶん叶わぬ夢ですから、本日の1枚は、やはり負け惜しみになるのでしょうか。

コメント (2)
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