■Art Blakey & Jazz Messengers Live In '58 (Jazz Icons / TDK)
「I Remeber Clifford」を吹くリー・モーガンが見たい! という夢が叶ったDVDが、これです。
内容はジャズメッセンジャーズが1958年に敢行した欧州巡業から、モノクロ映像で約55分間のライブを収録していますが、結論から言うと画質もAランクだと思います。
そのステージは1958年11月30日のベルギー、メンバーはリー・モーガン(tp)、ベニー・ゴルソン(ts)、ボビー・ティモンズ(p)、ジミー・メリット(b)、そして親分のアート・ブレイキー(ds) という黄金のラインナップです――
01 Just By My Self
如何にもベニー・ゴルソン節のメロディが魅力のオリジナル曲で、リー・モーガンも自身のリーダー盤「City Lights (Blue Note)」で前年夏に録音していますから、ベルギーのファンには嬉しい演目だったと思われます。
もちろんメッセンジャーズの面々も大ハッスル! ちょっと空回りしたような激しいツッコミのリー・モーガンは、アドリブ全体を上手く纏めようなんて姑息な思惑は微塵も無い若気の至りで好感が持てます。それを上手くサポートしていくボビー・ティモンズ、ボンボンビンビンに跳ねるジモー・メリットの剛球べース、さらにリズム的興奮を煽るアート・ブレイキー! やっぱり全盛期のメッセンジャーズは凄いです。
そしてヒステリックな泣き叫びからモゴモゴとした口ごもりまで、一気に聞かせてしまうベニー・ゴルソン、硬質のスイングに徹するボビー・ティモンズは唸り声までもがハードバップしていますよ♪
02 Moanin'
今となってはメッセンジャーズの大ヒット曲も、当時はレコーディングしたばかりのピカピカの新演目でしたから、未だレコードも発売されていなかったと思います。
そんな事情からか否か、演奏前にはアート・ブレイキーのお喋りが黒人芸能の本質として興味深いところでもありますが、こうして始まる演奏は、テーマ部分からゴスペルファンキーな緊張感が最高です。
そしてリー・モーガンが初っ端から「お約束」のフレーズでキメを入れ、グイノリのリズム隊に後押しされながら、思わせぶりと熱血を出し惜しみせずに山場を作っていくのですから、たまりません♪ 映像で観られる真摯な演奏姿勢、ジャズの情熱に満ちた表情もカッコ良いですねぇ~~♪
また逆に余裕を漂わせるベニー・ゴルソンの佇まいも潔く、リー・モーガンの映像は幾つか出回っていますが、やはりゴルソン&モーガンが並び立つ場面は格別のものがあります。あぁ、これがハードバップ黄金期の良い時代!
さらにお待ちかね、ボビー・ティモンズのゴスペル大会が動く映像で観られるという感動は、実際、この巡業中に録音された名演ライブアルバム「Au Club Saint Germain (RCA)」があるだけに、一層強い印象を残すのでした。ジミー・メリットの重量級ベースソロも凄いですよっ♪
03 I Remember Clifford
そしてこれがお目当ての名場面! 動くリー・モーガンが自身の当たり曲をやってくれるのですから、歓喜悶絶です。現地のファンも曲が紹介されただけで大喜びなんですねぇ。
もちろん演奏は、あの哀切の美メロがゴルソンハーモニーに彩られ、リー・モーガンの溢れる想いに満ちたトランペットに感動させられます。まあ、正直言えば、スタジオ録音バージョンの「Lee Morgan Vol.3 (Blue Note)」や、同じ巡業中に残されたライブ盤「Olympia Concert (Fontana)」のバージョンには若干及びませんが、それでも動く映像という魅力は絶大! 万雷の拍手喝采という観客と一緒になって、私も拍手をしてしまうのでした。
04 It's You, Or No One
有名スタンダード曲をハードバップ化した演奏で、「アレンジはハンク・モブレー」と演奏前に親分のブレイキーがMCを入れています。ちなみにそのオリジナルバージョンはホレス・シルバーが在団していた時期の名盤「The Jazz Messengers (Columbia)」に収録されていますが、ここでのライブバージョンも凄い勢いで最高です。
特にリー・モーガンは前曲「I Remember Clifford」が大ウケしたことから尚更にハッスルしているようで、激しいツッコミから十八番のフレーズを連発して猪突猛進すれば、煽りまくるアート・ブレイキーも怒涛のドラミング! もちろん観客は大熱狂です。
ベニー・ゴルソンも直線的な狂熱を聞かせてくれますし、ボビー・ティモンズのアドリブソロからジミー・メリットのウォーキングベースを経て、親分ブレイキーのドラムソロに繋がっていく展開は唯一無二の素晴らしさで、まさにハードバップ最良の瞬間が存分に楽しめること請け合いです!
セカンドリフからラストテーマに入っていく終盤のバンドアンサンブルもビシッとキマって、ステージは一気に熱くなっていきますが、う~ん、それにしてもハンク・モブレーのアレンジは如何にも「らしい」モプレーフレーズがいっぱいでニンマリ♪
05 Whisper Not
そしてもうひとつのお目当てが、この演目でしょうねっ♪ 説明不要というベニー・ゴルソンが畢生の名曲ですから、リー・モーガンのミュートトランペットが哀愁のメロディをリードし、ベニー・ゴルソンがハスキーな音色のテナーサックスで寄り添う最初からの展開だけで、涙がボロボロこぼれます。
もちろんリー・モーガンはアドリブパートでも極めてメロディを大切にしたソロを聞かせてくれますし、ペニー・ゴルソンはサブトーンの魅力がいっぱいのテナーサックスで、最高の大名演! あぁ、心底シビレの涙がとまりません。
おまけにボビー・ティモンズのピアノが「泣き」のフレーズばっかり弾くんですからっ♪♪~♪ ラストテーマのアンサンブルの入りが早すぎるというバチあたりな気分が去来するほどです。
ちなみにこの曲はリー・モーガン、あるいはベニー・ゴルソン、当然ながらメッセンジャーズも含めて数多のバージョンが残されていますが、やはりこのメンバーで演じられ、それを映像で堪能出来るという喜びは掛け値なしに素晴らしいと思います。
06 A Night In Tunisia
こうして迎えるクライマックスは、リー・モーガンのMCどおり「ブレイキー親分の大活躍」が見事な熱演となります。演奏のパターンもテーマリフの前にメンバー全員による打楽器の乱れ打ちが最高で、アート・ブレイキーの土人のリズムも絶好調! こういう部分は絶対に当時の白人プレイヤーには出せなかったグルーヴでしょうし、それはバンドメンバーが自然体で放出する本物のジャズの熱気に他なりません。そうした雰囲気の凄味が、この映像でも存分に堪能出来ます。興奮しながらも真剣に演奏を聴き入る観客の姿からも、圧倒されているのが窺い知れると思います。
もちろんリー・モーガンは血管プレキレ寸前という強烈なアドリブを聞かせてくれますし、ベニー・ゴルソンの露払いも見事です。しかし何といっても、ここではアート・ブレイキーの全身全霊をリズムとビートに傾注した熱演が物凄いです!
07 NY Theme
私はこのメッセンジャーズのラストテーマが、実は大好きで、ここでも短いながら気持ち良い幕切れに快感を覚えるのでした。
ということで、かなり以前に出たブツなんですが、なんとなく最近、廃盤の噂があるので取り上げました。こういうアイテムは権利関係が複雑なのかもしれませんね。
気になるカメラワークは普通というか、基本に忠実で凝ったところもありませんが、なにしろこのメンツの映像ですから、観飽きるなんて心配もないでしょう。音質も部分的なダメージはありますが、概ね良好です。
また映像中の発見として、やはり現場監督はベニー・ゴルソンらしく、演奏開始の合図や背後に控える親分ブレイキーへの気遣い、そしてメンバーに打楽器を配ったりする姿は貴重です。
そして細身のスーツでビシッとキメたメンバーのカッコイイ勇姿! 如何に当時のモダンジャズがヒップな最先端だったかがわかりますねぇ~♪
ちなみにこうしたハードバップ全盛期の映像は、本場アメリカではほとんど残されず、それは人種差別という事象を抜きには語れないわけですが、それゆえに当時の素晴らしいドキュメントとして感謝感激! そして何時かはハンク・モブレーやジャズテットの映像発掘を決死的に熱望しています。