OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

オリバー・ネルソンの大風呂敷

2008-10-15 12:04:30 | Jazz

The Blues And The Abstract Truth / Oliver Nelson (impulse!)

邦題「ブルースの真実」とは大風呂敷ですが、決してサイケおやじは大風呂敷が嫌いではありません。いや、むしろそういう姿勢は妙に潔くて好きかもしれません。

このアルバムも、実はそのタイトルに惹かれて大いに気になっていた1枚で、ジャズ喫茶に通い始めた頃、最初にリクエストした記念すべきものです。

もちろんこの作品は、モダンジャズ名盤の中の大名盤!

録音は1961年2月23日、メンバーはオリバー・ネルソン(as,ts,arr)、フレディ・ハバード(tp)、エリック・ドルフィ(as,fl)、ジョージ・バロウ(bs)、ビル・エバンス(p)、ポール・チェンバース(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という超豪華な面々です――

A-1 Stolen Moments
 おそらくオリバー・ネルソンの諸作中では最も有名な曲でしょう。
 この静謐にしてグルーヴィな雰囲気の良さは、ジャズを本格的に聴き始めた私を完全に虜にするミステリアスな魅力に溢れていましたが、それは何時までも変わらぬものと確信しています。
 曲そのものは16小節の繰り返しによる変則ブルースという感じですが、クールで黒っぽいフレディ・ハバードのトランペット、アグレッシブにブッ飛びながら違和感の無いエリック・ドルフィのフルート、ミディアムテンポで強靭なビートを作り出すリズム隊の存在感!
 そしてまるで書き譜のようなオリバー・ネルソンのアドリブは、その硬質なテナーサックスの音色も同様にウェイン・ショーターを連想させられますが、実際に同じ手法を目指しているのかもしれません。
 これは後になって気がついたのですが、この演奏のムードはマイルス・デイビスが畢生の名演・名盤とされる「Kind Of Blue (Columbia)」の色合いに近く、それはビル・エバンスのピアノがアドリブを始めて尚更に強くなります。ポール・チェンバースの柔軟にしてグイノリのベースウォーキングも、その雰囲気を強く醸し出していますね。

A-2 Hoe-Down
 冒頭の「ホウダウンッ、ワン・ツー」なんていう掛け声も気分良くスタートするゴスペル調の楽しい演奏です。アップテンポでキメまくりというロイ・ヘインズのドラムスが、まず最高ですねっ♪
 もちろんアップテンポで溌剌としたフレディ・ハバード、グリグリにエグイ感性のエリック・ドルフィーはアルトサックスで激しく飛翔しています。そしてオリバー・ネルソンの執拗な反復フレーズ! 正直に告白すれば、これを最初に聞いた私は、全くイモとしか思えなかったのですが、今はなんとなく分かったような気分にさせられる妙な説得力!。
 それにしてもロイ・ヘインズのドラミングが凄いすぎます!

A-3 Cascades
 これもロイ・ヘインズの刺激的なドラムスに導かれ、タイトルどおりに「そうめん流し」のようなテーマメロディが素敵です。妙に昭和歌謡曲のような味わいは好き嫌いがあるかもしれませんが、なんか憎めないんですよねぇ。そして右チャネルからの主メロディに対抗する左チャンネルのホーンアンサンブルが、全く別なテーマを演じているところが、実にカッコ良いです♪
 さらにアドリブパートが猛烈なフレディ・ハバード! 新感覚のブルースというビル・エバンスのハードなジャズ魂も不滅でしょう。
 しかしやっぱりここではオリバー・ネルソンのシンプルで分かり易く、カッコイイ曲作りやアレンジが流石だと思います。 

B-1 Yearnin'
 そのあたりの雰囲気が濃厚に表出したのが、このゴスペルっぽい名演・名曲です。まさにグルーヴィなベースとドラムス、そして真っ黒なフィーリングをソフトな情感に置き換えて素晴らしいイントロから全体の雰囲気を決めるビル・エバンス♪
 あぁ、ここだけで充分に満足させられてしまいますが、いよいよ出てくるホーンアンサンブルによるテーマメロディの高揚感! 適度な混濁と粘っこい感触、しかしクールで熱いところが凡百のハードバップとは一線を隔しています。
 さらにアドリブ先発のエリック・ドルフィが激ヤバのアルトサックス! ブルースというよりは天空の魔術師の独り言です。実はテーマ部分は良く聴くと28小節構成なんですが、そんな複雑を感じさせないアドリブパートの潔さか、さらなる自由度を高めているようです。
 もちろんフレディ・ハバードも好演ですが、その背後で蠢き、キメまくるビル・エバンスやロイ・ヘインズも快演で、特にビル・エバンスは全く「らしくない」事を聞かせてくれますが、それが実に「ビル・エバンス」していると思います。ズバリ、名演でしょうねっ♪

B-2 Butch And Butch
 ハードバップというよりもビバップという感じの幾何学的なテーマ、そして重厚で分かり易いアレンジ、しかしアドリブに入ると意味不明という演奏です。特にオリバー・ネルソンは空の徳利のように浮き上がった感じが!?
 そしてフレディ・ハバードがそれを軌道修正するのも一瞬の事で、続くエリック・ドルフィがまたまたの激ヤバ節です。おまけにビル・エバンスがクールに構えたカッコマンを演じてしまいます。
 う~ん、それなのにこの分かり易い熱さはなんだっ!?
 チキショーって思うほどにキメまくりのロイ・ヘインズのドラミング!
 全てが最高です♪
 
B-3 Teenie's Blues
 オーラスに至って初めて出てくる正統派の12小節ブルースは、ポール・チェンバースの強靭なペースウォーキングからシャープなロイ・ヘインズのドラミングという、このアルバムの土台が再確認されるスタートです。
 しかしテーマメロディは決して一筋縄ではいかないアブナサで、見事に常軌を逸したエリック・ドルフィのアルトサックスを呼び込んでいます。あぁ、この一瞬が実に快感ですねぇ~~~♪ バックのビル・エバンスも、ハッとするほどに刺激的な伴奏ですよっ♪
 また続くオリバー・ネルソンの煮え切らなさには逆に凄味が漂い、ここではロイ・ヘインズが怒りのオカズを連発! そしてビル・エバンスがクールなアドリブを披露して、演奏は大団円を迎えるのでした。

ということで、一聴、ハナからケツまでシビレまくった傑作盤でした。

なによりも過激なアドリブがいっぱいなのに、テーマのカッコ良さと雰囲気の素晴らしさ、全体の分かり易さが最高です。そしてそれでいて、何時聴いても新鮮なんですねぇ~~♪ これぞっ、名盤だと思います。

そして聴くほどに凄味を感じるリズム隊は驚異です。シャープで過激なロイ・ヘインズ、グルーヴィなポール・チェンバース、一般的なイメージとは逆の演奏をしながら、全く「らしい」ビル・エバンス! 実は告白すると私は最初、ここでのビル・エバンスがビンっとこなくて、ウイントン・ケリーあたりだったらなぁ……、なんて事も思っていましたが、今ではビル・エバンスでなければ、絶対にダメです。というよりも、ビル・エバンスが弾いたからこその「ブルースの真実」だとも思えるのです。

もちろんフレディ・ハバードやエリック・ドルフィというスタアプレイヤーも個性的な魅力を存分に発揮していますが、その彼等にしても協調性が表裏一体となった実力を証明して感が強いようです。

肝心のオリバー・ネルソンもアドリブでの変態性とキマり過ぎのアレンジの妙が最高のコントラストですし、決して全曲でアドリブソロを演じない潔さも流石だと思います。また表ジャケットには参加したスタアプレイヤーの名前が特別に出ていますが、ここに載らなかったバリトンサックスのジョージ・バロウが、実はホーンアンサンブルでは絶妙のスパイスになっていると確信するサイケおやじは、判官贔屓ではないつもりです。

そのあたりは皆様が実際に聴いて感じることではありますが、これは絶対の名盤ですし、もちろんジャズの入門用にも最適かもしれません。

ちなみにジャズ喫茶では、こういう分かりきった名盤が鳴り出すと席を立つお客さんも散見されるのですが、このアルバムに限っては、あまりそんな事もなかったというのは、私の言い訳でしょうか……。

コメント (2)
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