OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

最高に‘BAD’なベンソン

2008-10-13 12:04:32 | Soul Jazz

Bad Benson / Georog Benson (CTI)

クロスオーバーでのギター名人からブラコンで大衆的なスタアとなったジョージ・ベンソンは、もちろん正統派ジャズギターの達人でもありますから、その腕前を存分に発揮したアルバムも作っていました。本日の1枚は、まさにそうした代表作だと思います。

録音は1974年5月、メンバーはジョージ・ベンソン(g)、フィル・アップチャーチ(g,el-b,per)、ケニー・バロン(el-p,key)、ロン・カーター(b)、スティーヴ・ガッド(ds) を中心にプラス&ストリングスが加わり、そのアレンジはドン・セベスキー、そしてプロデュースはもちろんクリード・テイラーという、CTIが黄金期の名作です――

A-1 Take Five
 デイブ・ブルーベック、そしてポール・デスモンドの代表作にしてモダンジャズを超えた有名曲ですから、お馴染みのメロディと快楽的な変拍子が、本当に素敵な演奏です。
 ここではフィル・アップチャートの強靭なリズムギターと思わず腰が浮くスティーヴ・ガッドのヘヴィなドラミングに支えられたジョージ・ベンソンのハードなギターワークが圧巻です。上手すぎる運指と硬質なピッキングの完全融合は驚異的ですし、アドリブ構成のインスピレーションも冴えわたり♪
 しかも、ここぞっで入ってくるオーケストラの上手いアレンジ、ケニー・バロンのエレピのアドリブも歌心が最高で、さらにアグレッシブな新主流派の趣も強く、これが1970年代ジャズの最先端という確かな響きが楽しめます。
 そしてこの演奏によって、これが当時のジョージ・ベンソンには十八番となり、ライブバージョンも幾つか残されていますが、まずはこのスタジオバージョンをぜひともお楽しみ下さいませ。

A-2 Summer Wishes, Winter Dreams
 いきなりソフトロック調のオーケストラ、そして甘いジョージ・ベンソンのギターが鳴り出せば、あたりは完全にムードミュージックの世界なんですが……。まあ、こういう「品の良さ」がCTIというレーベルの特色のひとつでもありますから、笑って許しての世界かも……。
 次曲につながる「箸やすめ」としては絶品かもしれません。

A-3 My Latin Brothers
 そして始まるのがタイトルどおりにラテンビートを取り込んだジャズフュージョンの名演ですが、個人的にはシカゴソウルっぽいノリやメロディを強く感じます。そういえば初期の山下達郎が、ステージではこんな演奏もやっていましたですね。
 閑話休題。
 ジョージ・ベンソンは抜群のテクニックと強靭なジャズ魂で凄いアドリブを聞かせてくれますよ♪ ケニー・バロンのエレピもジャズ的な快楽としか言えない素晴らしさですし、ドン・セベスキーのアレンジもイヤミなく、そのうえにフィル・アップチャーチのパーカッションが楽しさを倍加させていますから、思わず小皿で「チャンキおけさ」の世界です。もちろんスティーヴ・ガッドのヘヴィなドラミングは最高!
 ちなみにジョージ・ベンソンのギターワークは「Take Five」もそうでしたが、滑るようなフレーズの連続から激しいコード弾きで山場を作るという独自のものが完成された時期にあたると思いますので、やる気の凄さにも圧倒されるのでした。 

B-1 No Sooner Said Than Dane
 これがまたソウルフルにメロウな旋律が心地良すぎます♪ しかも強いビートと妥協しないアドリブの充実がありますから、決して後年の事なかれフュージョンにはなっていません。
 あぁ、ワウワウを使いまくったフィル・アップチャーチのリズムギターとスティーヴ・ガッドのドラムスのコンビネーションが快感ですねぇ~♪ ケニー・バロンの甘いメロディに満ちたエレピも、根底ではジャズっぽさを忘れていませんから、グッときます。
 そしてもちろん、ジョージ・ベンソンのギターは歌いまくってクールに熱いカッコ良さ! ドン・セベスキーのヤバいムードのアレンジも、控え目なのが結果オーライだと思います。

B-2 Full Compass
 ドン・セベスキーが怖さを出したアレンジで挑めば、ジョージ・ベンソン以下、バンドの面々が本性ムキ出しで応戦した熱い演奏です。アグレッシブなエレキベースはフィル・アップチャーチによるもので、またドカドカに重いスティーヴ・ガッドのドラムスが抜群の存在感です。
 ジョージ・ベンソンもガチンコにハードなフレーズ、難解なまでにジャズ本流の凄さを聞かせてくれますし、ケニー・バロンの嬉々としてモード節に浸りきったエレピのアドリブ、そこに激しいツッコミを入れるスティーヴ・ガッドという展開は、もう完全に本物のジャズそのものでしょう。

B-3 The Changing World
 オーラスは華麗なドン・セベスキーのアレンジの中で浮遊するジョージ・ベンソンのギターが、泣きのメロディを思うさま聞かせた胸キュン演奏です。
 そしスローな展開の中では、ケニー・バロンのエレピとロン・カーターが寄り添いながら実に上手い伴奏で雰囲気も良く、ここまでくれば、後はもう……。

ということで、本来はジャズ喫茶でも十分に耐えうるアルバムのはずなんですが、実際はそれほど鳴っていたという記憶がありません。世はまさにフュージョンブーム前夜! その中ではジョージ・ベンソンと言えども、今ひとつ中途半端な存在だったような気がしています。

思えば当時はハードバップのリバイバルもあって、ケニー・ドリューあたりの欧州録音盤がジャズ喫茶の花形でしたし、そういうベテラン勢力の復活とクロスオーバーと呼ばれたプレフュージョンの微妙な対立、そしてバリバリの最先端だったチック・コリアやハービー・ハンコック、またはウェザー・リポートあたりの新譜が常に注目されていた混濁期でした。

その中からジョージ・ベンソンが例の「Breezin'(Warner Bro.)」という神がかり的な大ヒット盤を出し、時代は一気にフュージョンへ! しかしそうなっても、このアルバムが評価されたとか、売れたという話も聞きません。まあ、これは私の認識不足かもしれませんが……。

それはそれとして、ジョージ・ベンソンが正統派ギタリストの実力を存分に発揮した忘れ難いアルバムです。何時聴いても、気分は最高!

コメント (2)
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