■Jimmy Raney Live In Tokyo 1976 (Xanadu / Jazz Collectors = CD)
1970年代のハードバップリバイバルを牽引したレーベルとして、アメリカの「ザナドゥ」は頑なにビバップ~ハードバップに拘ったところが魅力でしたから、ジャズ喫茶では欧州の「スティープルチェイス」と並んで安心印の人気を集めました。
それは安定した売り上げがあったのでしょう、ついには「ザナドゥ・オールスタアズ」とも言うべきメンバーによる来日公演もあったのです。そして当然ながらライブレコーディングも敢行され、数枚のアルバムが作られています。
さて、本日ご紹介のCDは、その中からジミー・レイニーが主役の演奏を纏めた再発物ですが、これは今まで「Live In Tokyo」「Tokyo 1976」「Xanadu Anniversary」という3枚のLPに分散収録されていた音源の集大成ということで、なかなか復刻が進まない同レーベルの厳しい状況下では嬉しいプレゼントでしょう。
録音は1976年4月12&14日、メンバーはジミー・レイニー(g)、サム・ジョーンズ(b)、リロイ・ウィリアムス(ds) というトリオが中心♪ そして最後にはチャールス・マクファーソン(as) とバリー・ハリス(p) が加わったクインテットの演奏が楽しめます――
01 Just Friends (1976年4月12日録音)
これはアナログ盤ではオムニバスの「Xanadu Anniversary」に収録されていた演奏で、正直言えば没テイクっぽい感じがしないでもありません。ギターが真ん中、ベースが左、そしてドラムスが右に定位したステレオミッスクは基本に忠実だと思いますが、ジミー・レイニー以下、トリオの面々が些か力みすぎという雰囲気で、時折、何かが歪んだような音が入ります。
しかし演奏はそれゆえに熱演で、意外に荒々しいところは日頃からクールな歌心が特徴的なジミー・レイニーの別の顔を見た気分です。これも、「あり」でしょうね。
02 How About You (1976年4月12日録音)
03 Darn That Dream (1976年4月12日録音)
04 Anthropology (1976年4月14日録音)
05 Watch What Happens (1976年4月12日録音)
06 Autmn Leaves (1976年4月14日録音)
07 Stella By Starlight (1976年4月12日録音)
08 Here's That Rainy Day (1976年4月12日録音)
09 Cherokee (1976年4月14日録音)
以上の演目はジミー・レイニーのリーダー盤「Live In Tokyo」として、この関連音源では最初に発売されたものですが、左にギター、真ん中にベース、そして右にドラムスというステレオミックの定位がド頭の「Just Friends」と違うのは違和感が……。ちなみに音質も異なっていて、こちらのパートの方に迫力とキレがある感じです。う~ん、このあたりの統一感の無さが勿体ない感じですね。
と最初から文句タラタラですが、しかし演奏内容は流石に選びぬかれたトラックばかりですから、素晴らしい♪ 歌物スタンダード中心というプログラムも嬉しく、スローな「Darn That Dream」でのハートウォームなメロディフェイク、また軽快な「How About You」やお目当ての「Autmn Leaves」での流麗なフレーズと歌心のバランスの良さは、まさにジミー・レイニーの世界です。ライブということで、適度にラフなところもサム・ジョーンズの黒いペースとリロイ・ウィリアムスのパワフルで歯切れの良いドラミングが冴えていますから、結果オーライでしょう。
そしてボサロックにアレンジされた「Watch What Happens」とソフトパップな「Here's That Rainy Day」の雰囲気の良さ♪ あぁ、何度聴いてもホンワカと和みますねぇ~~♪ 時折聞かせてくれる疑似オクターヴ奏法や早弾きフレーズも流石ですから、ジミー・レイニーには、こんな路線のイージーリスニング系アルバムを作って欲しかったと心底、思ってしまいます。
しかし真正ビバップを演じた「Anthropology」も凄いです! 青白い炎のようなジミー・レイニーのアドリブ魂の純粋さ、それを煽るリロイ・ウィリアムスのドラミングがイノセントなジャズ者をエキサイトさせること必定です。もちろんサム・ジョーンズは基本に忠実なハードバップのウォーキング♪ このあたりの情熱は「Cherokee」でも堪能出来ますが、こちらは些か散漫な感じがしないでもありません。
あと「Stella By Starlight」は完全なソロギターの世界♪ ジミー・レイニーのギターテクニックと歌心の秘密が解き明かされる好演で、当日の会場にはギター名人の運指やピッキングを研究せんとする熱心なファンが双眼鏡やオペラグラスを持参していたという伝説も残されているほどですが、元々のテイクが左チャネルだけのミックスなので、CD化された事により真中と右チャンネルに残るテープヒスが、より鮮明に聞こえるようになったのは残念! このあたりのリマスターをもっと丁寧にやって欲しかったですねぇ……。
10 Groovin' High (1976年4月14日録音)
11 Blue‘N’Boogie (1976年4月14日録音)
そしてこれがクライマックス♪ ジミー・レイニーのトリオにバリー・ハリスとチャールス・マクファーソンが加わったビバップ大会として、定番の2曲が熱演されます。ちなみにこれはアナログ時代はLP「Tokyo 1976」に収録されていたのですが、ミックスは団子状のモノラルという雰囲気が相当に強く、それはそれで良いとしても、今回のCD化では、またまたリマスターの無神経さが露呈した感じです。
しかし演奏の密度は極めて高く、ハードバップというよりもビバップど真ん中のエキセントリックな味わいが楽しめます。特にチャールス・マクファーソンはチャーリー・パーカーへの畏敬の念が表出した熱演ですし、バリー・ハリスはパド・パウエルへ最敬礼♪ もちろんジミー・レイニーも負けじとハッスルして丁々発止のソロチェンジとか、熱くさせられますよ。
ということで、なかなかに充実した演奏と好企画だったんですが、既に述べたようにリマスターの統一感の無さは減点です。しかし、それでも私が満足してしまうのは、ビバップへの愛情というよりも、1970年代ジャズ喫茶への郷愁でしょうか。
まあ、そのあたりをお含み願って、お楽しみ下さいませ。